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「失礼しました!」
一頻り話し終えた
「おとちゃんっ! 大丈夫だった!?」
「あぁ、うん。今回は誰も処分しないって。……厳重注意で済んだよ」
「良かったぁ……」
理事長室で話した内容を半分本当、半分嘘の比率でかのん達に伝えると皆安心したように脱力し、すみれが申し訳なさそうに音羽に近付いた。
「ごめんなさい。あんたにこんな役回りさせて」
「良いよ。僕らは処分されないことになったんだし。気にしないで!」
「……ありがと」
そう言って音羽はすみれに笑いかける。すみれは音羽1人だけが呼び出されることは流石に想定外だったようで、今回は音羽に対して素直に謝罪し、それを受け入れた音羽に感謝を述べた。彼の性格から恐らくそう言うだろうというのは薄々予想できていて、それに違わぬ反応を見せた音羽の態度にすみれは安心したように肩の力を抜いた。
「選挙、どうなるんだろう?」
「アノ作戦がソコまで役に立ったとは思えマセンから……あとは神頼みデス!」
「おとくん、理事長先生から選挙について何か聞いてたりしてない?」
「あ、あー……んーと、一応まだ言わないでおくよ……」
皆から目を逸らしながら音羽はお茶を濁す。理事長と話した内容の中心は、自身の幼馴染である
「何よ? この際ハッキリ言えば良いじゃない」
「……さっき
「「「あっ」」」
音羽が最後まで言い終える前に一同は何かを察する。この口ぶりは明日、何かよからぬことが起こるだろうと。
翌日の放課後。学校に生徒会長選挙の結果が貼り出され、同好会の部室では立候補者2人の支持率をグラフに表した紙を見ながらすみれがあまりの大差にこの世の終わりかのような形相を見せる。
「ざ……ざ……惨敗っ……何でったら何でぇっ〜!?」
「当然デスねー」
「じゃかましいっ!! うぇぇぇぇぇん!!」
机を叩きながら暴れるすみれを横目に、かのん達は彼女のポスターや当選祈願のだるまを黙々と片付けていた。音羽はすみれの隣に座った状態で、なんとも言えない表情でこの散々な結果が表された紙を覗き込んでいる。早い段階から勝ち目が薄いと知っていながらも出来る事をやった音羽であったが、結果として恋が生徒会長に就任することとなり、彼の胸中には様々な思いが入り混じっている。果たしてそれは喜びなのか恐怖なのか。形容し難い感情が音羽の心を染め上げていた。
「っていうか、何でマイナス……?」
「それはたこ焼きの件のペナルティがあるから……」
「あぁー。昨日おとちゃんが言ってたのってそのことだったんだね……」
「そうだよ。すっごい言い辛かったけど……すみれちゃん、元気出してぇ〜!」
グラフで表されている支持率は恋が8、9割、対するすみれは3〜4割……なのだが、先のたこ焼き頒布のペナルティで一部の票が無効となり、すみれの支持率がマイナス表記となっている。音羽が昨日口籠っていたのは、自分達への処分は無いものの、投票についてはペナルティがあることを既に告知されていたからであり、故に皆に言い出すのを躊躇っていたのだ。言えばきっとすみれが落ち込むと思ったが為に、音羽はあのような態度しかとれなかったのである。
「まぁ、ソレがあっても結果は変わりマセンけどね。だからククは最初からかのんが良いと言っていたのデス!」
「でも……やっぱり
「私も……」
「あんた達ィッ!!」
恋が生徒会長になることに賛成派の3人をすみれは怨念を込めて睨みつける。顔面を机に打ち付けたからか、彼女の額はほんのり赤く腫れ上がっていた。
「いや、すみれちゃんがダメって訳じゃないんだよ? ただ……学校のことを考えたり、色々決めていったりしなきゃいけないことを考えると……」
「デスが……スクールアイドルは……」
「そこだよねぇ……」
ただ上に立って生徒を先導するのであれば、創立者の娘である恋がその立場になるのは然るべき事柄であり、それに反対する者は少ないだろう。だが、スクールアイドルに未だ懐疑的な姿勢を見せる彼女が、『生徒会長になってその活動を正式に認めるか』と考えると確実に首を縦に振らないだろうということは明確であり、この投票の結果を見て今後どのようにしていくか、問題は山のようにある。可可の言葉に、音羽の表情はどんどん曇っていく。
「どうにか、ならないのかな。この活動や、この居場所が無くなるの……僕は嫌だ。皆が輝ける機会を、失わせたくないよ……」
「うん、分かってるよ。おとちゃんも私達もその気持ちは同じ。だから……話してみる」
かのんは音羽の言い分を肯定しつつ、恋と掛け合ってみることを今一度決意する。元々かのんは夏休みの段階からそう決めており、話すのは恋が生徒会長となった今がその時だと判断してのことであった。無論、かのんも気持ちは同じ。そしてせっかく芽生えた音羽のスクールアイドル同好会への気持ちを無下にさせない為に。恋と直接話をするとかのんが名乗り出た。
「聞いてくれるデショウか……?」
「分からないけど……でもきっと何か理由がある気がするんだ!」
恋の態度に何か理由があってのことだとは音羽も同じく感じており、その理由を解明する為に動こうとするかのんを音羽は信じ、椅子から立って彼女に目線を合わせる。
「かのんちゃん……任せたよ」
「オッケー! 任されたっ!」
音羽の念押しにかのんは親指を立てて応じ、部室を後にした。音羽達は一抹の不安を抱えながらも良い結果になるのを期待し、彼女の帰りを静かに待つことにしたのだった。
数日後、恋が生徒会長になってから初の全校集会が行われ、結ヶ丘の生徒達が体育館に一同に介している。この場で皆が注目しているのは生徒会長である恋の挨拶。教師から全体に向けての話が終わった後、いよいよその時がやってきた。
『ではここで、初代生徒会長、
アナウンスが入り、恋は壇上で一礼してマイクの前に立つ。音羽は物憂げにその所作を見つめ、掌に汗が滲むのを感じ取る。数日前にかのんが恋に直接掛け合ってみたものの、部室に戻った彼女から『何も言ってはくれなかった』と伝えられ、ただ『学校の為』だからと、スクールアイドルに対しての対応を変えるつもりが無いことを告げられたと音羽はそう聞かされた。幼馴染がここまで頑なにスクールアイドルを嫌う理由が分からず、尚且つ幼い頃は恋がこんなにも強情な人柄ではないのを音羽はよく理解している。なればこそ彼女に対し不安な気持ちが強まる。恋にそこまで強い嫌悪感を抱かせるものは何か。彼女と旧知の間柄である音羽でも、腑に落ちる答えは導き出せていなかった。
『改めまして、この学校の初代生徒会長に任命された葉月恋です。この名誉ある仕事に就く事が出来、光栄であると同時に身の引き締まる思いです』
緊張した様子はなく、淡々と生徒会長に選ばれた自身の気持ちを凛とした声で生徒達に伝え、館内の空気が一気に変わったのを音羽は肌で理解する。恋の言葉と声音に、彼の肩により力が入る。
『私は、この結ヶ丘高校を地域に根差し、途切れることなく続いていく学校にする為に……誠心誠意、努力する所存です。その為に……』
スラスラとスムーズに読まれていた挨拶だったが、何故か恋の言葉が詰まる。その様子に館内がざわつき始め、音羽もどうしたのかと瞬きしながら彼女をじっと見つめる。数秒のインターバルがあった後に、彼女の口が開かれた。
『その為に……最初の学園祭は、
「えっ……!?」
全校集会の最中であるのに音羽は余りに突飛な彼女の言動に驚愕の声を漏らす。周りを見ると殆どが音羽と同じような反応を示していた。心配で再度彼は恋の方を見ると、微塵も動揺せずにその場に立っている幼馴染の姿がそこには在った。
「葉月さん……どう、して……?」
公約違反である方針を堂々と生徒達に発表した彼女に対し、音羽は疑念の言葉を口にすることしか出来なかった。