星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第29話 近くて遠い、2人の距離。

 音羽(おとは)の本音をかのん達が聞き入れて暫く経った後、練習着に着替えたかのん達と、必要な物一式を持った音羽は屋上でいつも通り練習をする流れとなった。体を動かす前の準備運動とストレッチの合間に、学園祭や恋が言っていたことについての話題が出された。

 

「じゃあ、音楽科だけで学園祭を行うっていうのも?」

 

「多分、入学希望者が少なかったんじゃないかな?」

 

 千砂都(ちさと)は腕を十字に交差させて伸ばしながら結ヶ丘の現状を考察した。入学希望の人が少なければ、それだけ学校側に入る利益は比例して少なくなる。学校の運営費と実際に支払われる学費やその他の費用と釣り合わなければ、廃校という元の神宮音楽学校と同じ末路を辿ってしまう。それをなんとしても阻止する為に恋は決断に出たのだろう。たとえ自分に非難の声があろうとも。

 

「優秀な音楽科ダケの方が注目を集めラレル……」

 

「苦肉の策ってこと!」

 

「痛いデスぅ!」

 

「そんなだから普通科がナメられるのよ!」

 

「うるさいデスぅ!!」

 

 可可(クゥクゥ)の柔軟を補助するすみれが『苦肉の策』という言い得て妙な表現を使用し、音羽は唇を噛む。苦肉の策や苦渋の決断だとも捉えられる恋の計画は、きっと恋が考える最善の方法だというのは彼女の言葉から理解できている。音羽もまた、恋と離れるという自らが最善だと思った行動をした過去があるが故に、恋の行動を否定したり、責める気持ちは音羽には微塵も無い。結ヶ丘の現状を聞かされて何が正解なのかも定かではない状態故に、彼の思考は嵌まれば抜け出せない底なし沼のように只管に堕ちる一方であった。

 

「事情を聞けば理解できるけど……皆はそのこと、知らないもんね」

 

「そうだね……」

 

「デスが……今のママでは葉月(はづき)サンハ……」

 

「ずっと誤解されたままになるんじゃない?」

 

 恋や学校関係者のみが知るこれらの真実を聞かされて納得しない、もしくは同情しない人間は稀有だろう。聞けば誰しもが理解し得る事柄だ。しかし、生徒を不安にさせたくないという恋の意向から、今事情を知っているのはスクールアイドル同好会の5人のみ。恋から他言しないように言われている為に他の生徒には話せない。このままでは事情を知らない人間から恋が非難され、糾弾を受け続けることになってしまう。

 

「誤解されたままだなんてそんなの……僕は絶対に嫌だ」

 

「まぁ、あんたはそうだろうけど。でもどうやら他の人は……違うみたいね」

 

 音羽の言葉を聞きながら、外から耳に入る声の方角をすみれが指差す。するとそこには、恋を複数で取り囲み、学園祭の意向に反対の意を唱える女子生徒達の姿が在った。それに恋は何も怖気付く様子はなく、足早に女子生徒から離れていった。

 

「やっぱり普通科の人はそうなるよねぇ……」

 

 様子を目にした千砂都がそう呟き、皆も普通科と音楽科に出来始めた軋轢に危機感を覚える。それを見て黙ってはいられないと、かのんが状況を良くする術を提案した。

 

「私、どうにかできないか皆に話してみる!」

 

「僕も行くよ。このままじゃ葉月さんがっ……」

 

 かのんと音羽の2人で生徒達と話すという作戦。双方の事情を聞いた上で、なんとかして納得や合意を得られないか対話を試みる為の手段だ。だがそれに間髪入れずにすみれの突っ込みが入る。

 

「かのんは良いけど音羽。あんたは待ちなさい」

 

「えっ、どうして!?」

 

「音楽科のあんたが普通科の生徒に話しに行ったところで余計角が立つだけよ。むしろ逆効果だわ」

 

「たしかにそうだね。おとくんは音楽科だし、行くなら普通科の私達だけの方が良いかも」

 

 同好会の中で1人だけ音羽が音楽科に所属しており、いくら2つの学科間の関係を取り持つにしても音羽ではどうしても不都合が生じる可能性がある。普通科の生徒達から余計な反感を買い、事態が更に悪化するのが容易に想像がついてしまう。

 

「じゃあ、僕にできることって……」

 

「おとくんは葉月さんと直接、話をしに行こう。おとくんにしか……できない事だよ」

 

 千砂都の提案にかのん達は頷き、音羽は驚いたように目を大きくする。自分が直接幼馴染と話す。果たして自分にそれが出来るのだろうか。自らの意志で距離を置いた筈の相手に話をしに行く。一抹の不安と息苦しさが音羽を襲う。

 

「私達じゃなくて、おとちゃんが葉月さんと話すことに意味があるんだよ。幼馴染なら、私達には言えない何かを言ってくれるかもしれないし」

 

「葉月サンと仲直り出来るチャンスデスよ!」

 

「向き合うったら、向き合うんでしょ?」

 

「決めたんだもんね。おとくん?」

 

 皆からそう促され、音羽は自身の中にある弱気な心を掻き消し、改めて気を引き締める。どの道迷っている暇は無いし、先延ばしにしていても事態は何も変わらない。ならば、向き合う以外に選択肢は存在しない。

 

「うん。僕が……葉月さんを説得してみせるよ」

 

 恋に面と向かって、且つ1対1で対話をする。それはきっと、音羽にしか出来ない役回りであるのは間違いない。かのんでさえなし得なかった恋の説得。幾度となく自分に出来るか出来ないかを想像した。だが、出来るかではなく、やる。皆に背中を押されて覚悟を決められた音羽は、以前よりも据わった眼で生徒達から離れる恋を見送った。

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。改めて部室内で作戦会議をした後、かのん達普通科の4人と、音羽は別行動でそれぞれ動く形となった。4人が音楽科や普通科の各教室へ向かう中、音羽は目当ての人物……恋の姿を探した。外に出て敷地内を駆け回りながら彼女を見つける為に息を切らす。探し続けること十数分。彼はようやく、結ヶ丘の敷地を歩いている幼馴染の後ろ姿を確認できた。

 

 恋を見つけた音羽の心臓の鼓動は途端に速度を増していき、緊張で口内の水分が一気に枯渇する。それでも。幼馴染と話す為に、一瞬グッと踏み止まった足を前へ突き出し、彼女の元へ近付いた。

 

「……葉月さんっ!」

 

 自分を呼ぶ声がしたのを認知し、恋が振り返ったその先に居たのはネクタイを緩めて息を切らし、普段あまり見ることのない、風にあおられて幾分か乱れた明るい茶髪の少年。彼女がその姿を見紛う筈がない。

 

「音羽、くん……?」

 

「君と……話がしたいんだ」

 

 離れていてもずっと想い続けていた幼馴染の名を呼ぶと、彼は直球に恋に対して自分の目的を伝える。風が一筋吹き、対面し合った彼等の髪をゆらりと揺らした。

 

 

 

 

 




今、対話の時。



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