星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第35話 輝く笑顔に、想いを馳せて。

 資料室に戻り、音羽(おとは)は周囲に散らばったファイルと机上に出しっぱなしの書物等を1人でせっせと片付けていた。その間に恐らくかのん達が全校集会の場を借りて(れん)と話をしているのだろうと考えながら、自分もその場に合流する為に片付ける速度を速めた。

 

 上に重ねられている本を棚に戻した音羽の視線の先にちょうど位置していた物がふと彼の目に留まる。まさかと思いそれを棚から抜いて確認すると、それは自身の父親である湊人(みなと)の代……謂わば神宮音楽学校最後の生徒達が記録されている卒業アルバムだった。年数が経っている為か、所々に色褪せや劣化が散見された。

 

 資料室という場所にこのアルバムが有ったのは彼等が最後の卒業生として名を残したからなのか、それとも亡き葉月花が意図的に資料室で保管をしようと決めたのか。理由は分からないが、音羽は手に取ったアルバムをそっと開いて中身を見る。音羽自身早く全校集会に行かなくてはいけないと理解はしているが、父親の名前や写真が載っているかもしれないアルバムが見られる状況とあらば好奇心が勝るのも無理はないだろう。彼はページを捲りながら湊人の姿を探すと、その目当ての人物はすぐに見つけ出すことができた。

 

 学級紹介のページに音羽と同じく茶色の髪を持ち、微笑を浮かべている少年の写真。そのすぐ下には『(あずま) 湊人(みなと)』と記載されており、どんどんページの下の方に視線を移していくと、恋とよく似た黒髪の少女の写真も載せられていた。『葉月(はづき) (はな)』と、スクールアイドルの礎を築いた人物が生前と変わらない、朗らかな笑顔でそこに居た。

 

 1枚1枚ページを捲っていく度に、音羽の脳内に神宮音楽学校の思い出や記憶が焼き付いていく。アルバムに残されている写真の生徒達は皆笑顔で、楽しそうで。神宮音楽学校での生活が充実していたものであったと彼は一目で理解した。これが、湊人や花達が守りたかったもの。学校アイドル活動で、音楽で人と人とを繋ぎ、その上で廃校を阻止しようとした。湊人が大切にしていたその全てが、このアルバムに記されていた。

 

 音羽が今『過去』として想いを馳せている思い出は、湊人達にとっては『今』であり、この卒業アルバムこそ、今を必死に生きて生きて生き抜き、そして最後の卒業生として皆の名が刻まれた。当たり前に流れている『今』という瞬間を必死に生きた証なのだ。その証に触れた音羽は、自分は何ひとつ分かっていなかったのだと悟る。湊人が背負っていたものを。恋が背負おうとしている、神宮が生まれ変わって出来た結ヶ丘という学校の歴史の重さを。

 

『半端な覚悟で介入しようとしないでください』

 

 恋と2人で話した際に言い放たれたあの言葉。それは一切間違っていなかった。音羽は無意識に学校のことを理解したつもりになっていたが、先人達の想いを分かっていたようで分かっていなかったのである。『半端な気持ちで言ってない』とあの時の音羽はそう恋に返したが、それが恋からすればどれ程軽く、矮小な覚悟に捉えられていたのか。それを想像して音羽は自分の愚かさや不甲斐のなさを恥じ、自身の軽はずみな言動を今一度悔いた。だが、あの時の音羽と現状の音羽とではまるっきり違う。音羽には明確に道筋が見えてきたのである。未だ霧がかかってぼんやりとしか見えなかったものが、今ははっきりと見える。そんな気がしていた。

 

「僕も……行かなきゃ!」

 

 卒業アルバムを棚に収め、これにて片付けが完全に終了。資料室の戸をかのんから預けられた鍵で施錠し、走って体育館へと向かう。自分も皆と同じく結ヶ丘高校の生徒で、花達学校アイドルの意志を継ぐスクールアイドルの手助けをも担っている。湊人とは違うやり方で現状を変える。自分を取り巻くもの達を救う。もう彼の意志は揺らがない。揺らぐ筈はない。過去を知り、刻まれた歴史を知り、過去ではなく今、この瞬間を生きると心に決められたのだから。

 

 

 

 

 体育館の戸を開けて静かに中へ入ると、結ヶ丘の生徒達の拍手が耳に入る。壇上を見るとかのん、可可、千砂都、すみれが立っており、生徒会長である恋が先程箱の中に入っていた衣装を抱いて涙を流す姿が見えた。この状況を見て、何が起こっていたのか音羽は直ぐに察することができた。

 

「……良かった。届いた。届いたんだ……!」

 

 かのん達が恋に学校アイドルの真相を伝えられたのだと。母の想いを伝えることができたのだと。泣きたくなる衝動を堪えて頬を緩ませながら、音羽は心から安堵したのだった。

 

 

 

 

 

 




過去があるから、前に進める。




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