星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第4話 出会い、それは突然に。

 

 音羽がスクールアイドル勧誘のチラシを拾ってから数日が経った。今日も音羽は学校へ向かい、それらしい人物を探すことにしている。持ち主の元へ返すと決めたものの、彼は未だチラシの持ち主を見つけられていなかった。そのチラシの束は音羽のリュックに綺麗に納められている。それらをぞんざいに扱ったりはせず、チラシに皺が付いてないか念入りにクリアファイルの中を確認する等、良好な状態を保つように気を配っていた。元々音羽は丁寧で几帳面なきらいがある為、他人の持ち物であるならば細心の注意を払って扱う性分であった。習い事をしていた時に楽譜等の紙を扱う機会が多かった故の行動であろう。

 

 

 結ヶ丘の校門に着き、校舎へ入ろうと足を踏み入れようとすると、普段とはまた違う喧騒が聞こえて音羽は足を止める。その喧騒の理由は、音羽の目の前で為されている衝撃的な光景ですぐに把握することができた。

 

『我々に自由ヲ! 自由に部活動がデキナイなんて、間違っていマス!』

 

 デモ活動である。ピンク色を基調とした台車の上に女子生徒が立って言葉を発していた。彼女の独特な日本語の発音がメガホンでより一層大きく響いていた。

 

『部活動はツネに、皆に平等であるべきデス! そう思いマスよね? さぁ皆サン! 共に戦おうデハありマセンか!!』

 

「こんな朝から何してるのあの人達……」

 

 音羽の口から呆れに近い声が漏れる。『こんなに堂々とデモ活動を行って怒られないだろうか……』などと考えはしたが、音羽は部活動に入るつもりは更々無い為、自分には無関係だと確信。これ以上周りに人が増える前に教室の中に入ろうと、急いで歩き始める。早歩きでピンク色の台車を通り過ぎたところでもう1度ちらりとデモ活動の様子を伺ってみると、音羽の視線は台車に釘付けとなった。

 

 後ろからは見えていなかったが、台車の前方部分に見覚えのある文字、イラストが描かれていたのである。台車を引っ張っているもう1人の女子生徒の真後ろに、『Let's スクールアイドル』と非常に大きく書かれていた。

 

「もしかして……あの人達がスクールアイドル?」

 

 付けている眼鏡を上に上げながらそう呟く。制服の色からして、2人の女子生徒は普通科であるということが分かった。あの文字とイラストがチラシの物と完全に一致する為、音羽は彼女達が落とした物に違いないと悟り、後で声を掛けてみることを決意した。流石に今の状況で声を掛ける勇気は音羽には無く、『やっと落とし物を返してあげられる』という小さな喜びにほっと胸を撫で下ろしながら、音楽科の教室がある校舎へと向かった。

 

 

 

 

 

 そして迎えた放課後。音羽はチラシが入ったクリアファイルを抱え、結ヶ丘の敷地内を見回して2人の女子生徒を探した。普通科の校舎に行っても姿が見えなかった為、次は外に出て探すことに。

 

 しばらく歩くと、木の下のベンチ付近に朝に見た2人の生徒ともう1人、音羽のクラスメイトである女子生徒が居た。どうやら3人で何か話している様子だが、2人が固まっている今が返すチャンスだと思い、音羽は深呼吸をした後、彼女達の方へ近付いた。

 

「あ、あの……」

 

「ん? 君、どうしたの?」

 

 オレンジ色の髪の女子生徒が音羽の存在に気付き、声を掛けた。

 

「あ、(あずま)君じゃん! 私達に何か用かな?」

 

「えっと、これ……こないだ道に落ちてて……君達のかなって思って」

 

 そう言いながら音羽はクリアファイルを彼女達に差し出すも、普段喋る声が初対面の人と話す緊張で余計に小声となってしまい、オレンジ髪の女子生徒が首を傾げる。

 

「ごめん、よく聞こえなくて……もう1回言ってくれる?」

 

「あっ、ごめんなさ……」

 

「これ……ククが作ったチラシデス! もしかして……スクールアイドルに興味があるデスか!?」

 

「いや、違っ……! 僕は……」

 

 先程台車の上に立っていた女子生徒にそう問われ、音羽は思わず大きな声でそれを否定した。咄嗟に出た声なので普段の物とは違う、音羽本来の声が女子生徒3人の耳に入る。その声を聞いた生徒の1人が目を大きく見開いて息を呑む。

 

「え? 今の声……」

 

「き……キレイな声デスぅ〜!」

 

「へっ?」

 

 彼から発せられたその声。それは女性と見紛う程に高く、そして思春期を迎えた男性とは思えない程の綺麗な声質であった。

 

「すっごく綺麗な声! こんなに声が綺麗な男の子、今まで会ったことないよ!」

 

「え……あの、その……」

 

(あずま)君、ホントはこんな声なんだ! ボソボソ喋らないでそのままの声で喋れば良いのにー!」

 

「あ、あのっ!」

 

 自分の声のことを他人に言われてみるみる気恥ずかしくなり、音羽はクリアファイルをボブカットの女子生徒に差し出した。

 

「僕はこれを持ち主に返したかっただけで……その、スクールアイドルに興味がある訳では無いんです。ごめんなさい。それじゃ、これで失礼します!」

 

「あっ、ちょっと待っ……!」

 

 オレンジ髪の生徒が引き止めようとするも、音羽はやや早口気味で言いたいことを全て伝えた後、校舎の出口がある方角へと走って行ってしまった。

 

「あらら……行っちゃったかぁ」

 

「ちぃちゃん、あの人のこと知ってるの?」

 

「うん。同じ音楽科の東音羽(おとは)君。普段はおとなしくてあまり喋らないんだよね。喋ったとしてもボソボソちっちゃい声で喋るから、ちょっとだけ浮いてるかな。クラスの中で1人だけマスク着けてるしね」

 

「そうなんだ……綺麗な声なのに、どうして小声で話すんだろう……」

 

「キレイな声のヒト……」

 

 3人の女子生徒は音羽についての話題を出した。音楽科の女子生徒の言う通り、音羽はクラス内で若干浮いており、マスクを着用していることも相まって、近寄り難いオーラを発している。

 

「明日、東君と話してみるよ。わざわざ落ちてたチラシを届けに来てくれたんだし、きっと優しい人なんだと思う!」

 

「うん。お願いちぃちゃん」

 

 普通科の女子生徒は頷いて、彼と話すと言う音羽のクラスメイトの意見に賛同した。彼女にとって音羽は数秒顔を合わせたに過ぎない赤の他人であるが、彼女は音羽に何か抱えている物があるのではないかと感じた。マスクに眼鏡。そしてあの喋り方。それらがどうも彼女の心に引っ掛かっていた。

 

 

 今起こった出来事の一部始終を後ろからずっと見ていた女子生徒が1人、走り去る音羽を見ながら不安そうに目を細めた。

 

音羽(おとは)くん……何故、あの人達と……」

 

 

 

 

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