星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第45話 ただいま、アイデア募集中。

 

「全っ然思いつかないよぉ〜!」

 

 ラブライブ地区予選エントリー開始日からちょうど1週間経ったある日。各々授業を終えた皆はかのん達が所属している普通科の教室に集まり、未だ決めていなかったスクールアイドル部のグループ名を一同は考えていた。

 

 美麗(みれい)から音羽(おとは)の持つ特殊技能に関しての事を聞いて数日経っている状況でもあるのだが、かのんが美麗に伝えた通りに皆音羽とは普段通りに接しており、その時席を外していた音羽は自分のことを話されていたというのを到底知る由もない。美麗が話した内容を、音羽にとっては知らない方が良いと判断している為に皆はそういった話題を一度も出していなかった。

 

 音羽だけが知らない事柄を5人全員は知っているというのは皆にとって心苦しく、些か後ろめたさを感じるものではあるが、そうすることで音羽が傷付かないのであれば、音羽に直接伝えないという選択を取ることが一番正しい。そう自身の心に言い聞かせて皆は音羽を最大限に気遣って活動している。現に今も共に自分達のグループ名を考えている音羽が教室に居る。グループ名が決まらない以上はラブライブにエントリーすることが不可能な為、音羽は精一杯に脳を回転させながら皆に適した名を考えていた。その真剣な様子を見てかのんがほっと安心したところで、すみれが彼女に話しかける。

 

「っていうか、決めてなかったの?」

 

「『結ヶ丘スクールアイドル』でどうにかなっちゃってたし、最初の頃は可可(クゥクゥ)ちゃんが『クーカー』とかつけてたんだけど……」

 

「クーカー……かわいい響きだねっ!」

 

 千砂都(ちさと)がすみれの問いに今までの活動を振り返って補足を入れる。最初はかのんと可可の2人のみの状態で始まった結ヶ丘スクールアイドル。その時のグループ名は可可とかのんの名からとった『クーカー』というものが使用されていた。その名を千砂都から聞き、音羽は顎に手を当てながら感心する。

 

「そうデス! デスから……6人になったイマ、その発展形として全員の頭文字をトッテみまショウ!」

 

 可可が小走りで黒板の前に立ち、白いチョークを手に持って皆の名前を書き出していく。彼女が立てているチョークと黒板が擦れる音を聞きながら、音羽達も可可が立っている黒板の前に立って彼女が字を書き終わるのを待つ。文字が黒板の下あたりに到達したところで可可は手を止め、皆に自信ありげにその文字を見せた。黒板にはスクールアイドル部の皆の名前がカタカナで書かれており、順番に『チサト』、『クゥクゥ』、『レン』、『カノン』、『オトハ』、『スミレ』と表記されていた。それらの頭文字をひとつに纏めると、ある単語が出来上がった。

 

「どうデスか!」

 

「『チクレカオス』。かのんちゃん、どう思う?」

 

「なんか……ネットスラングみたい……」

 

 強調された頭文字を縦読みするとそのような単語になっていて、千砂都に感想を問われたかのんは微妙な反応を示す。続いて千砂都も苦笑いを浮かべ、残りの皆もそれぞれ違った反応を見せる。

 

「カオス……」

 

「なんか……かっこいい!」

 

「あんたは相変わらずね……」

 

 すみれが口にした言葉に音羽は目を輝かせて黒板の文字を見る。響きが小気味良いからか、音羽のみがその名前に好印象を示していた。相も変わらず天然な様子の音羽を見ながらかのんは笑いつつ、次は彼女が千砂都に意見を求める。

 

「ちぃちゃんは、何か思いついた?」

 

「私はやっぱり……『まる』、かな!」

 

「まる……?」

 

 千砂都は自身の団子状に結ばれた髪を指で差し、置かれていたチョークを持って黒板に正円を描いた。

 

「たとえば……『まるまるサークル』! サークルっていうのは円でしょ? まるとまるが集まって、世界は『まる』で溢れてるんだよ! はぁ……幸せぇ……」

 

『まる』のことについて語りうっとりとした表情を見せる千砂都。彼女は幼い頃から円形の物が好きで、アスファルトに石を用いて円を描いていたり等、『まる』に対しての愛は千砂都の身近に居たかのんがよく知っている。彼女の好物が円形のものに集中しているのも、千砂都の嗜好の表れと言えよう。

 

「『まる』、ですか……」

 

「そうだよ! まるは全ての基本! 世界最大の謎であり、全てのはじまりなんだ!」

 

 千砂都の言葉を呑み込めずにそう呟く恋の両眼に彼女は両方の指で丸眼鏡を作って『まる』の解説を続ける。

 

「そうっ! マンホールも、ボールも、マンマルの眼も、水滴も、月も地球も太陽も! すべてっ! くるくるくるくる〜っ! 『まる』なんだYO!」

 

 チョークを用いて円形の物を次々と描き、気付けば『まる』で埋め尽くされた黒板に仕立て上げた後、千砂都は綺麗に回転しながら華麗なポーズをとって教室の入り口付近でピタリと停止する。皆彼女の『まる』への愛情に圧倒される中、音羽が千砂都へ拍手を送る。

 

「おぉ〜! お見事っ!」

 

「……あっ、恋ちゃんは何かないの?」

 

「えっ。おとくん以外……スルー……?」

 

 かのんは即座に『まる』の話題から恋が何か意見を持っていないかという問いに切り替える。音羽以外から何も感想を貰えなかった千砂都は珍しく落胆したような声音で体制を崩した。幼馴染のかのんからは反応を貰えると思いつつ説明していたのだが、その熱意は虚しく水泡に帰してしまった様子であった。

 

「わ、私は特には……その、あまり趣旨を理解していないもので……」

 

 そう言って恋は先程まで懸命に書いていたメモを素早く背に隠しながら誤魔化す。恋のすぐ側に居た音羽がメモ帳の紙に書かれた内容をそっと覗いてみると、達筆で様々な言葉が羅列されていた。その中には嘗て音羽と恋が通っていた教室である『きらぼし音楽教室』からとったのか、『綺羅星』という単語も書かれており、彼は嬉しさを感じると同時に『隠さなくてもいいのに』と心の中でそう思いながら優しく笑みを浮かべた。

 

「そうデスっ! このグループをイチバンに理解してイルのはかのんデス!」

 

「んー、それで言うと……ストレートに『結ヶ丘スクールアイドル』とか……?」

 

「つまらん」

 

 可可が勢いよくかのんに意見を求め、彼女が出した案はシンプルに今までと変わらない名前だった。すみれはそれを一言で一蹴し、かのんは不貞腐れた様子で頬を膨らませた。

 

「仕方ないでしょ!? 思いつかないんだもん! ……そうだっ! おとちゃんは? 何か! 何かないかな!?」

 

「うーん……シンプルで皆が覚えやすくて、意味の込められたものを考えてるんだけどなかなか浮かばなくてさ……これ、思った以上に難しいねぇ……」

 

「ほら! おとちゃんも浮かばないんだから難しいんだよ! そういうすみれちゃんはどうなの?」

 

 音羽も案を考えてはいるものの、自分の中で腑に落ちるグループ名は未だ浮かんでおらず、彼は申し訳なさそうにかのんを見つめる。かのんは音羽の味方に就きつつ、自分の意見を『つまらん』と称したすみれに思い切って聞いてみることにした。

 

「フッ。どいつもこいつもしょうがないわねぇ。じゃあショウビズ界でセンスを磨き続けてきたこの私が……」

 

「……思いつきマシタ!!」

 

「ギャラクシィッ!」

 

 自信満々に黄色いチョークを持って何かを書こうとしたその瞬間に可可が大きな声を出し、すみれがチョークで黒板に弧を描きながら転倒した。慌てて音羽がすみれに伸ばした手を彼女は不服そうに取りながら可可に怒りの視線を向ける。

 

「タシカ、『レジェンドスクールアイドル』はカツテ……」

 

 レジェンドスクールアイドル。その名の通りラブライブで伝説を残し、その学校の名を後世に刻んだ誇るべきスクールアイドル達をそのように表す。可可は勿論過去のスクールアイドルがどのような人達であったのかも造詣が深く、『どのようにしてラブライブに出場したのか』という過程も知識として頭に入れている。そんな彼女の提案を聞いた一同は部室へ向かい、可可の言葉に従って工作用の厚紙とテープを用いてとある物を作り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 数十分後。可可が作るように提案した物が完成し、音羽がそれを結ヶ丘の校舎内で最も生徒の目に留まりやすいであろう箇所へ設置した後にささっと皆が居る陰に共に隠れた。

 

「音羽、ナイスデス! レジェンドスクールアイドルの皆サンは、こうして名前を募集シタのデスっ!」

 

 可可の意見を基に作った物は、『おなまえ募集シマース!』とかのんを模した似顔絵と一緒に書かれた意見箱。彼女が例に挙げて話したレジェンドスクールアイドルは嘗てラブライブに初出場し、その大会で見事優勝を果たした、今では『神話』として語り継がれているグループが用いていた手段だった。生徒の皆から意見を募集し、そこに入っていた意見から自分達が良いと思った案を選出するというもの。仕組みは極めてシンプルだが、それでグループ名が決まった前例があることから可可もそのアイデアを利用しようとそれを実行したのである。

 

「本当に集まるかなぁ……?」

 

「入ってもまともなのは無さそうだけど……」

 

 かのんとすみれがこの作戦に不安を漏らす。生徒に意見を求めたとしても全員がそれを提供するとは限らないし、且つ現状の生徒の総数を考えても多数の意見が出される可能性というのは限りなく低い。2人の不安の声を可可は気に留めず、ポジティブシンキングでこの作戦の成功を祈る。

 

「大丈夫デスよ! コウしておけば週末にはタクサンの意見で溢れてイルハズ!」

 

「少し不安ではありますが……やってみないことには始まりません。音羽くん、生徒会で名前の募集を促す案内を作ってみましょうか」

 

「良いね! それで少しでも意見を出してくれる人を増やせれば……!」

 

「やっぱり生徒会が2人も居るのは心強いよねぇ。おとくん、恋ちゃん! 頼んだ!」

 

「うんっ! 任せて! 千砂都ちゃん!」

 

「まぁ、ちょっとくらい期待してみる価値はあるかもね。とりあえず週末まで待ってみましょ」

 

「おとちゃん達が動いてくれるならもしかしたら……どうかひとつでも入りますように……!」

 

 生徒に意見をこの箱に入れてもらう為に恋は音羽にそう提案し、彼もそれを快諾。スクールアイドル部に所属していると同時に生徒会でもある2人は学校の運営を担っている為に、生徒に直接行動を促せる立場にある。結ヶ丘スクールアイドル部のこれらの強みを活かしつつ、一同は設置された箱にアイデアが入れられることを半信半疑ではあるが発案者である可可と共に祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




名案を求めた、明暗は如何に。




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