星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第49話 青空の下、君と共に。

 かのんがスクールアイドル部の皆に作業を強いられてから一夜明け、今結ヶ丘校内は昼休みの時間帯となっていた。クラスの生徒達の喧騒で賑わう教室の一端で、かのんはひとつ溜息を零した。

 

 昨日家に帰って曲やグループ名を考えても一向に納得のいく答えが出せず、そのことを今日の朝に同じ普通科の友人である女子生徒のナナミ、ヤエ、ココノに相談した際に言われた言葉が今もかのんの脳内に何度も響いていた。『あなた達は始まったばかりでまだ真っ白』、『特徴が無いという訳ではないけれど、これといったイメージが湧かない』と。

 

 その3人の発言はまさしくその通りで、かのんがアイデアを出せなかった1番の要因は自分達に当てはまる固定概念が無いことであるのを彼女は今一度理解する。だがそれに対してかのんは反論する気も否定するつもりもなく、ただ真っ直ぐにその言葉達を受け取っていた。そしてそこから何か着想を得られないか考えている次第である。

 

 ようやくかのんの中で納得のいく答えが出せそうなところまで思考が固まりはしたものの、その答えが出かかる寸前で止まっているもどかしさにまた負のループに入ってしまいそうでかのんは頬杖をついた。このままではいけないと感じたかのんは、気分転換の為に外の空気を吸ってみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 なんとなく中庭に足を運んでみると、かのんの目線の先に1人の影が見えた。歩く度に距離が近付いていき、ある程度の所まで来ると、かのんはその人物が誰なのかすぐに気付くことができた。自分と同じくらいの身長で明るめの茶髪を持ち、女性の自分でもほんの少し妬いてしまうくらい綺麗な顔立ちをしている少年。且つかのんにとって大切な友人……(あずま)音羽(おとは)がそこに居た。

 

 音羽は中庭の芝生の上で仰向けになっており、音羽は近付いてくるかのんに気付かずに右腕を上空へと伸ばす。数秒腕を伸ばした状態が保たれた後、その腕はぱたり、と力無く芝生へと落とされた。その様子を見たかのんは歩く速度を速めて距離を詰めた。

 

「おーとちゃんっ!」

 

「わっ! かのんちゃん!」

 

 ぼんやりしていたからか、上から顔を覗き込んできたかのんに音羽は驚きながら急いで身体を起こした。

 

「何してたの?」

 

「あはは……日向ぼっこと、ちょっと考え事?」

 

 音羽の側でしゃがんでかのんがそう聞くと、音羽はにこっと笑ってかのんに中庭に来ていた目的を話す。彼女はいつもと変わらない音羽の笑顔に、安心したように笑みを浮かべた。

 

「そっか! じゃあ仲間に入れて!」

 

「かのんちゃんも?」

 

「うんっ! 私も、日向ぼっこと……考え事したい気分だったし!」

 

「もう、嘘ばっかり! 恥ずかしいから真似しないでよぉ……」

 

「あははっ! ほんとだって!」

 

 かのんは音羽の言葉を真似て、恥じらいで些か拗ねたような態度を見せる彼の隣で共に仰向けの姿勢をとる。彼女の行動を見て、音羽もまた力を抜いて再度芝生に身体を預けた。

 

「それで、かのんちゃんの考え事って?」

 

「新曲とか、グループ名とか色々。もう少しで答えが出せそうなのに、あと一歩のところで詰まってる感じなんだよねぇ……」

 

「僕もさっきまでそのことについて考えてた。でも、本当にこれで良いのかなって思って、結局振り出しに戻っちゃう。なんていうか……すごいもやもやする」

 

「ねー。っていうか、皆私にばっかり頼りすぎなんだよ。こっちだって色々考えてるのにさぁ、まだかまだかーって急かしてくるんだよ? ひどくない?」

 

「まぁねぇ……そんなにすぐできたら苦労しないよね……」

 

「そうそう! ……はぁ。どうすれば良いんだろ……」

 

 2人は雲混じりの青空を共に眺めながら言葉を交わす。他のメンバーは基本的にかのんに詞とグループ名を任せきりにしているが、音羽は積極的に案を出そうと考えてくれている為、ここ最近悩み続けて疲労気味だったかのんの心に暖かい感覚が広がる。音羽はいつだってそうだ。いつも親身になって自分達のことを、スクールアイドル部のことを考えてくれる。そんな彼の為にも早急に答えを出さなければ、安心させなければ。かのんは少しずつ形を変えていく雲を見据えながら自分にそう言い聞かせた。そうしてまた、今朝に言われた言葉を脳内で反芻する。

 

「……今日の朝にね、ナナミちゃん達から言われたんだ。私達は『真っ白』なんだって。始まったばかりだから、まだ何も見えないって。でも、それを聞いて腹が立った訳じゃないし、むしろその言葉から何かが生まれそうな気もするんだよね」

 

「真っ白……やっぱり皆そう見えてるのかな」

 

「おとちゃんもこの前、私達の曲を聴いても『色』が見えなかったって言ってたでしょ? それと似たようなものなのかも」

 

「あれから家で改めて何度も曲を聴いたり、弾いたりしてみても……やっぱり色はぼんやりしたままだった。正直、どういう色で表現したら良いかわからなくて……」

 

「やっぱそうだよね……」

 

 初めは恋にのみ伝えていた、かのん達が作った曲に明確な『色』を視認できないという事柄。音羽はそれを数日前にかのんにも改めて伝えていて、自ら曲を聴いたり等して毎日何かしらの行動を起こしてはいるが、未だ『色』は見えてこない。だが、音羽は自分達スクールアイドル部の『色』が見えないこの現状を、以前とは異なる見方で解釈が出来ていた。

 

「でもね、『色』がはっきりしてなかったり、『真っ白』なのは……そんなに悪いことなのかな? って、最近そう思ったんだ」

 

「え?」

 

「空は『青い』とか、雲は『白い』とか。普段から身近に在る物はその色だって認識があるからあんまり意識することはないけど……まだ『色』が無いものに『この色であるべき』とか、『この色じゃなきゃいけない』とか、そう言われる方が……僕にとってはなんだか息苦しくってさ」

 

 音羽は最近感じていたことを素直に言葉で表し、先程のように空に向かって真っ直ぐに手を伸ばす。音羽は思考を巡らせるうちに、色の無い真っ白な状態は言う程悪い事なのか、咎められる事であるのかという考えを持つに至った。そのように考えられるのは彼の持ち前の優しさと、共感覚を持つが故の感受性の高さが起因しているのだろう。

 

「逆に、真っ白な方が……これからどんな『色』にだって変わっていけるんじゃないかなって思う。悪い面だけじゃなくて、視点を変えればそういう見方もありかなぁって。正解かどうかは、わからないけど……」

 

「真っ白な方が……どんな『色』にも……」

 

 かのんは音羽の言葉を復唱してみて、自分なりに彼の解釈を咀嚼してみる。真っ白であることは、悪いことではない。むしろどんな『色』にも染まっていける。音羽のその解釈を飲み込んだその時。かのんの胸中に光が灯る。出てきそうで出てこなかった答えが、今導き出されようとしていた。

 

「……見えたっ! おとちゃん、見えたよ!」

 

「えっ? み、見えた……?」

 

「見えたの! 今なら、答えを出せそうな気がする! おとちゃん、ありがとう!」

 

 かのんは上空へと伸ばされていた音羽の右手を両手で握りながら身体を起こした。彼女に礼を言われた音羽は、照れ臭そうに笑うと同時に、彼も身体を起こしてかのんの目を真っ直ぐ見つめる。

 

「お礼を言うのは僕の方だよ。僕がそう思えるようになったのも、前向きに物事を考えられるようになったのも。全部……かのんちゃんのお陰だから!」

 

 もしも今までの自分だったら。かのん達と出逢えずに変わらないままであったなら。今のようなポジティブな見方は決して出来なかっただろうと音羽は確信を持っている。あの時のかのんの言葉が無ければ、こうして側で語り合う事も、無かった筈であるからだ。

 

「『何者でもないからこそ、これから何にだってなれる』。あの時かのんちゃんが言ってくれた言葉が、今も心に響いてる。かのんちゃんが居るから、僕は『僕』で居られるんだよ」

 

「おとちゃん……」

 

「いくらでも、かのんちゃんの力になるからね。一緒に居れば怖くない! でしょ?」

 

 音羽はかのんからの受け売りであるその言葉を改めて彼女に伝える。かのんの方も、音羽のお陰でスクールアイドル活動をより良くできていることを自覚している。音羽が居なければ出来なかった事もあり、かのんにとって彼の存在は無くてはならないものとなっている程に信頼し、尊敬している。音羽とかのん。互いに影響を与え合っている2人の思考や答えを共有した今、この瞬間。何かが生まれる予感が彼等の中に渦巻いた。

 

「ふふっ。ホント……いつもありがとう。おとちゃん!」

 

「僕からも、いつもありがとう。僕達らしい名前と曲、作ろうね!」

 

「うんっ! 真っ白なここから、私達の『色』を付けていこう!!」

 

 決意を新たに、彼等は一面に広がる青空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 




君が居るから、見つけられたもの。



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