第5話 来訪、乗るか乗らないか。
「はぁ……」
授業が終わるなり、
「あーずーまくんっ!」
教科書とノートを机の中に入れていた音羽の前に、昨日の女子生徒の輪の中に居た、白い髪を団子状に結んだ少女が明るい声と共にやってきた。
「君は……嵐さん、だよね?」
「そう! 嵐千砂都! 覚えてくれてて嬉しいよ!」
「まぁ流石にクラスメイトだし。名字くらいなら覚えるよ」
音羽は突如目の前に現れた千砂都に対して小さな声で受け答えをする。千砂都のような快活な者と会話をするのが慣れていないのか、千砂都と頑なに目を合わせずに言葉を発する。
「それで、僕に何か用かな?」
「昨日のお礼が言いたくて! チラシ、返しに来てくれてありがとね! 私の友達も喜んでたし、直接お礼言いたがってたよ?」
「いやそんな……僕は大したことしてないよ。あのチラシを道端に落ちてたまま放置するのが嫌だっただけ。本当に、それだけなんだ」
両手を胸の前で振りながら音羽は昨日の出来事について千砂都に補足する。あくまで音羽がチラシを返したのは人としての良心が働いただけのことであって、自らがスクールアイドルに興味があるという訳では決して無いのだ。それを聞いた千砂都は変わらず笑顔のまま音羽のマスクで隠れた顔を見つめる。
「でも返してくれたことには変わりないじゃん? 優しいんだね、
「や、優しい……? それとはちょっと違う気がするけど……」
「あ、前から気になってたんだけど、何でそんなちっちゃい声で喋るの? もっと普通に喋ってみてよ! 絶対普通の喋り声の方が良いと思うんだ! だから……」
「ちょ、ちょっと待って……」
矢継ぎ早に喋りかけられて対応に困った音羽は一旦千砂都に声を掛けた。千砂都が音羽に話しかけたからか、クラスメイトからの視線が音羽に集中して向けられてもいた為、音羽は千砂都の言葉を止めずにはいられなかった。
「嵐さんはその、昨日のお礼を言いにきただけ……なんだよね?」
「んー……だけというか、単純に
「は、はぁ……?」
イマイチ意味がわからない、といった面持ちで音羽は目を白黒させる。結ヶ丘に入学して初めて幼馴染以外の人から話しかけられた嬉しい出来事の筈ではあるが、音羽にとっては嬉しさよりも困惑の方が勝っているようであった。
「せっかく同じ学科なんだし、仲良くしよう? 気軽に話しかけてくれると嬉しいな!」
「よ、よろしくお願いしま……す?」
「そうだ! これ渡そうと思ってたんだった! はい! お近付きの印に!」
千砂都は何かを思い出したかのように制服のポケットから1枚の小さな紙を取り出し、音羽の机上に置いた。
「これは?」
「私がバイトしてるたこ焼き屋の割引き券! 気が向いたら来てみて! サービスするから!」
「そうなんだ……ありがとう。受け取っておくね」
またしても音羽の脳内にハテナが浮かんでくる。この数分で、彼女は自分とは正反対の、コミュニケーション能力が非常に高い人物なのだと悟った。
「チャイム鳴るし、そろそろ席に戻ろうかな。あっ! それとあと1個、東君にお願いがあるの!」
「えっ。何、かな?」
席に戻る直前に、もう1つ言いたいことがあったようで、音羽の机に軽く両手をついて話し始める。
「昨日私達と一緒にいた、『かのんちゃん』っていう幼馴染の子が普通科にいるんだけどね、その人とも話してほしいな。きっと仲良くなれると思うから! じゃあまたねっ!」
「あっ……」
音羽が返事を返すよりも先に千砂都は席に戻り、次の授業の開始を告げるチャイムが鳴った。失礼であることは承知の上ではあるが、音羽は彼女に対し『文字通り嵐のような人』という印象を抱いた。嵐のようにいきなり現れては、いつのまに去る。千砂都が元々社交的で誰とでも親しく接することはクラス内の様子を見て分かってはいたが、それが自分の所へも来るとは想定外の出来事であった。
「話してほしい……か」
先程千砂都の口から出た『かのんちゃん』という名の女子生徒。おそらくあの時デモ活動をしていた2人の中のどちらかが彼女だと音羽は考えた。だが、自分が会いに行ったとして、一体何を話せば良いのか。音楽科と普通科という学科の違いから、音楽科である自分に悪い印象を抱いている可能性も0ではない。
それにもう1つ。自分はまた、