星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第52話 出される課題、超えるは君達次第。

 ラブライブ地区予選のエントリーが締め切られ、そこから1週間が経過した今日。この日はラブライブにエントリーした学校が一覧として発表される日であり、音羽(おとは)達は部室内でパソコンの画面をじっと見つめて定刻になるまで待機していた。発表1分前になったところで、可可(クゥクゥ)がマウスを持つ手を震わせながら口を開く。

 

「ツイニ発表デス……!」

 

「き、緊張するね……」

 

 音羽も可可と同様に緊張で少し声が震えていて、彼の隣に居る千砂都(ちさと)が緊張を解く為に優しく音羽の両肩に手を乗せる。音羽は千砂都の顔を見て笑みを見せると、彼女もまたそっと微笑んだ後、パソコンの画面を指差してそこに視線を移すように誘導した。

 

「コレが……コトシの地区予選エントリー校デス!!」

 

 一同で画面を凝視しているうちにあっという間に1分が経過し、時計の針が定刻を指した瞬間に可可がマウスのボタンを押す。数秒のロードがあった後、参加学校が一気に表示された。画面いっぱいに学校名とグループ名が映し出され、その数の多さに皆圧倒されている様子であった。

 

「なにこの数……これで地区予選?」

 

「こんなにたくさんの高校がエントリーしてるの?」

 

 すみれとかのんの問いに可可は画面を縦にスクロールしながら頷く。Webページを速いペースで下へ動かしているものの、ページ最下部へ行けるようになるまで果てしなく遠い程の出場校の多さに彼女は改めて理解する。今年のラブライブは、今まで以上に大きな大会になるということを。

 

「コトシは史上最多……過去最大の大会と言わレテいマシテ……」

 

「競争率が高いということですか?」

 

「アマリの数の多さカラ、地区大会のマエに()()()()()()があるというウワサも……」

 

「地区大会にすら出られないの……?」

 

 振るい落とし。謂わば地区大会に出られる学校の選別が行われる可能性があるという話を可可は耳にしており、もしそうなれば夢のステージに辿り着けるハードルが更に上がってしまう。不安気に質問した千砂都に可可は今の時点で分かっている情報を彼女に伝える。

 

「わかりマセンが、去年マデのカタチは難しいという話もありマシテ。たとえば……」

 

「ジャンケンで勝ったグループだけにする、とか?」

 

 可可の隣に座っているすみれが、頬杖をついた姿勢でなんとなく思い付いた振るい落としの方法を口にする。それを聞いた可可は椅子から立ち上がり、すみれの目の前で握り拳を作った。

 

「サイショはグー!」

 

「じゃ〜んけんっ!」

 

「さ、さすがにそれはないんじゃ……」

 

 すみれも可可が申し込んだじゃんけんに乗り、握り拳を作るのも束の間、千砂都が苦笑しながらそれを止めに入る。じゃんけんは正当な勝負法ではあるものの、勝敗がほぼ運に左右される面が大きい為、その方法が使われることはないだろうと千砂都は考えている。自分の意見がナシと判断されたすみれは若干苛立ちを露わにしながら顔を顰めた。

 

「じゃあ他に何があるっていうのよ?」

 

「うーん……エントリーしたグループの代表者同士でくじ引きとか?」

 

「私も一瞬考えたけど、それも結局は運任せってことになっちゃうしねぇ……」

 

「そうだった……さすがにちょっと不公平かなぁ……」

 

 音羽がくじ引きという案を出し、千砂都も同じくその方法もあると思いはしたのだが、これもやはりじゃんけんと同様に最終的には運任せになってしまう。運が絡まず、皆平等に正々堂々と地区大会出場校を決めるやり方は他に何があるか一同は頭を悩ませるものの、他に誰からもピンとくる意見が出されはしなかった。それにより、かのんは手っ取り早くそれを知る方法を皆に知らせる。

 

「確かなことはまだわからないし、やっぱり……行ってみるしかないよ」

 

「行ってみる……? かのんさん、一体どこに行くのです?」

 

「……地区予選の説明会に!」

 

 今週末の休日に開催される、ラブライブにエントリーした学校の生徒のみが参加できる説明会に行こうとかのんは提案し、一同は納得した様子で頷きを返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして迎えた今週末の休日、都内某所にて。ラブライブ地区予選説明会の会場へ周囲の生徒達と同様に制服姿で足を運んだ結ヶ丘高校スクールアイドル部、『Liella!』一同。会場の中へ入り、指定された席へ座った音羽は、予想を超える程の人で溢れている会場に思わず驚きの声を漏らす。きょろきょろと視線を動かす音羽を見て、偶然左隣の席に居たすみれがそれを諌め、彼の右隣に位置している(れん)は落ち着かない様子の音羽の姿が可愛らしく思え、彼に悟られないように小さく笑みを溢した。

 

 数分後、最低限の照明しか点いていなかった薄暗い会場から次々に光が灯り、ステージに上がっている1人の女性にスポットライトが当たる。派手な赤い丸眼鏡が特徴的な快活な女性が小走りでスクリーンの前に立ち、手に持っているマイクを口に近付けて喋り始める。

 

『じゃんっ! 今年もついにラブライブが始まりま〜す! 皆さん、気になっているのは……地区予選の方法かと思うのでっ! まぁずここで発表しちゃま〜〜すっ! イェェェェェェェェイ!!』

 

 妙にハイテンションな語り口で今日の説明会のメインである地区予選の方法を発表する彼女こそがラブライブのメインMCを務める女性であり、彼女の言葉に一同は姿勢を正す。

 

「来たね……」

 

「……うん」

 

 かのんが隣に居る千砂都に声を掛け、彼女は小さな声で反応を返す。

 

「これが……今話題のぱりぴ……」

 

「この方が……ぱりぴというものなのですね……」

 

「それとはちょっと違うでしょ……あと恋まで納得してんじゃないわよ……」

 

 かのん達の1段上の席に座っている音羽が一言呟き、それに恋も共に同調しかけた瞬間にすみれが2人の発言に突っ込みを入れる。よりによって他者と比較して少々世間知らず気味な音羽と恋と席が近くなったすみれは、『先が思いやられる』といった面持ちで眉間を指で抑えた。そうしている間にも、MCからの言葉が続く。

 

『さぁて毎年盛り上がるこの地区予選ですが! 今年は出場校が多く……全てのグループに歌ってもらうのは困難と判断した為、ここでジャンケンをして……』

 

 MCの発言にすみれがハッと顔を上げる。じゃんけん。まさに自分が挙げた地区大会の振るい落としの方法が一言一句違わずにMCの口から放たれた。それを耳にしたすみれは予想通りと言わんばかりに椅子から立ち上がって仲間の方を見る。

 

「それ見なさい! 見なさいったら見なさい! やっぱりジャンケンで決めるんじゃないの!」

 

「勝ちマス……勝ちマスよぉっ!!」

 

 可可が意気込みを新たに両手で拳を作って自分を奮起させるが、ここでMCから付け足すようにそのことについて言及が為される。

 

『……と思ったのですが、やっぱりそれだと『負けたグループが可哀想』という話になりましてぇ……』

 

「なんデスと!?」

 

「紛らわしいわね……」

 

 やはりラブライブ運営側も大事な地区予選をじゃんけんに頼るやり方を良しとしていなかったようで、実際にその方法が使われないと分かったすみれは不服そうに席に着いた。

 

『それでですねぇ、各地区ごとに歌に課題をつけることになりました!』

 

「「課題?」」

 

 かのんと音羽が席で同時にその単語を復唱する。

 

『出された課題を歌に盛り込んで、それを大会で披露してもらうことになりま〜すっ! ここ、東京南西地区は渋谷を含む流行の最先端地区! ということで課題はぁ〜〜っ!!』

 

 MCの溜めが始まり、会場内に居る生徒達が固唾を呑む。流行の最先端の街ならではの課題になるであろうことは大方予想がつくが、東京都の流行は多種多様でどのテーマが発表されるかは未知である。数秒の溜めがあった後、スクリーンの画面に大きくその課題の内容が発表された。

 

『こちらっ!! じゃじゃーん!!』

 

 スクリーンに映っている画面にはアルファベットで『RAP』と書かれており、マイクを持った手のイラストも共に映し出されている。

 

「ラップ……?」

 

「ラップってあの……こういう?」

 

 千砂都とかのんが今回のテーマをラップだと認識し、かのんはジェスチャーでそれを表してみる。ラップ。それは音楽手法の1つに分類され、韻律やストリートな言葉を組み込んでバックビート等の伴奏によって唱えられる歌唱のことを主にそう呼ぶ。似た言葉や語尾が同じ言葉を繰り返すのが特徴的で、それを上手くリズムに乗せて歌唱するのは相応の難易度を伴う代物である。かのんのジェスチャーに気付いたMCの女性は彼女に近付きながら勢いよく指を差しながら説明を続ける。

 

『そうですラップです! Hey YO! 各グループはラップを必ずソングに一投♪ 大会にチャレンジだYO! ソングがfinish! しない時は♪ その時点で〜♪ ()()だYO!』

 

 MCは即興のラップに合わせて地区予選の概要を説明する。地区予選の曲は新曲でなくてはならず、且つラップを必ず曲に組み込まなければならない。曲が完成しない、もしくは曲にラップが組み込まれていなければその時点で失格。そのグループは敗退という扱いになる。

 

 課題が発表されたことにより、一同はとある事実を確信する。これは、間違いなく『振るい落とし』なのだと。学生にとって曲作りはそう簡単に出来るものではなく、そこにラップを掛け合わせて自分達を表現するというのはグループによっては困難を極める。現状、スクールアイドルの中でラップを用いた曲を発表している者は居らず、皆不慣れな状態でこの地区予選に挑むことになる。皆、スタート地点は同じ。同じ中で、より魅力的なパフォーマンスをしたグループだけが勝ち残り、地区大会に出場する為の切符を獲得できるという事。『生半可な気持ちや曲では絶対に地区予選を突破することができない』と、音羽達はこの説明会で改めて理解させられた。

 

 内容が発表され、音羽は真剣な表情でスクリーンを見つめ続ける。『Liella!』のサポーター、そして作曲を恋と一緒に任されている為にラップという概念を詳しく知る必要があると彼は考える。自分達のグループを地区予選で敗退させる訳にはいかない。先程までの緊張で落ち着かない様子が突如鳴りを潜め、普段の彼の態度では想像できない程の真顔でMCの言葉に耳を傾ける音羽を、すみれは声を掛けたりはせずに、彼を案じるような表情で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




勝ち残れるか、苦汁を舐めるか。




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