今作品の三次創作のみを集めた、別冊星達のミュージアム 創刊号も同時によろしくお願い致します!
作品リンク
https://syosetu.org/novel/304420/
「ただいまー!」
スクールアイドル部でのミーティングを終え、すみれの為に新たな曲を作る事が決まった今日。活動が終了してすぐに
「おかえり音羽! 今日は早いのね」
「今日はちょっとね。お父さんいる?」
「うん? お父さんなら部屋で作業してるけど……何か用事?」
「もう1回、ラップについての本を借してもらおうと思ってさ」
音羽は以前に『Day1』の作曲をするにあたって
「そういうことね。でもあんまり邪魔しないであげてね? 今お父さん、
「わかった。手短に済ませるね」
詩穂の言葉に音羽は湊人の状態を察し、用件を手短に終わらせることを決める。詩穂が口にした湊人の『集中モード』。主に作詞や作曲の納期が近い時にそうなることを詩穂が名付け、音羽が幼い頃からこの単語が使われている。湊人がその状態になると、食事や入浴等、生活する上で必要最低限の事をする際にしか姿を現さず、それ以外の時間は作業部屋に篭りきりになる。そうなった際に音羽は昔から詩穂に湊人の部屋になるべく入ったり、うるさくしたりしないように言われていたこともあり、湊人が集中モードに入ると邪魔してはならないというのは以前から把握していた。
だが、今回の音羽の用件は急を要するもの。湊人が居る部屋を訪ね、本を借りることが出来ないかを聞いてみる。父の邪魔をしてしまうことは分かっているものの、湊人が部屋から出てくるのを待っている訳にはいかない。音羽はやや緊張しながら廊下に向かい、湊人の部屋の前に立った。集中している状態の湊人に話しかけるのは初めてであり、怒られたりしないか些か不安な面持ちで音羽は部屋のドアを3度ノックする。恐る恐るドア越しに部屋を訪ねて良いか聞くと、返ってきたのは彼の予想とは違う、柔らかな声音だった。それに従い、音羽は湊人の部屋の中へと入った。
「ごめんねお父さん。作業中に……」
「あぁ、大丈夫だよ。そろそろ息抜きしようと思っていた頃だったから丁度良かった。それで、どうしたんだ? 音羽」
湊人の机上には仕事用のパソコンや楽譜が置かれており、彼は自宅に居るのにも関わらずスーツを着用している。且つスーツのジャケットを肩に羽織るような形で纏っているのを初めて目にした音羽は、これが作業に集中している際の湊人の姿なのだとなんとなく理解するに至った。
「この前借りたラップの本、もう1回借してほしくて……部で新しく曲を作ることになったから、ラップを更に深く学びたくて。良い、かな?」
「勿論だ。ラブライブで使う曲か?」
「うん。もう既に1曲作ったんだけど、また新しく作ろうって僕から提案したんだ。すみれちゃんをもっと輝かせられるような、そんな曲を作りたいって」
「そうか。音羽なら作れるさ。皆を輝かせられる……そんな曲をな」
「あんまり時間は無いし、皆に苦労掛けちゃうけど……それでも、やる。妥協はしたくないんだ」
音羽は湊人に自身の気持ちを話した。彼の仲間想いな面は湊人もよく知っており、その仲間の為にやりたい事が出来たというのは喜ぶべきことであり、それを聞いた湊人は静かに口角を上げた。
「音羽がしたいと思う事をすれば良い。私で良ければ何でも協力するぞ。……そうだ。ラップだけでなく、一応ジャズやヒップホップ、R&Bに関する本もいくつか貸しておこう。きっと何かの役に立つ。持っていけ」
湊人は部屋の書斎から何冊か本を引き出し、それらを重ねて音羽に手渡す。少しでも彼の作曲の助けになれるように、湊人はラップに関するものだけでなく、各音楽ジャンルに特化した書籍も共に含めて音羽に渡した。音羽は湊人の書斎にある本の種類の多さに驚きつつ、束になった本を受け取った。
「ありがとう! ごめんね、何から何まで……」
「気にするな。困っているなら、助けになるのは当然だ。猶予があまり無いなら尚更な。お前は、もっと人を頼る事を覚えなくちゃな」
湊人は優しく微笑みながら音羽にそう伝える。日頃の彼の話を聞いていると、湊人には音羽が自分1人で何でも抱えてしまっているような気がしていた。心優しい彼の人間性から、誰かに頼る事に対して後ろめたさや申し訳なさを感じているのではないかと考えていた。故に、ラブライブの地区予選が近い今だからこそ、改めて音羽に活動する上で大切なことを教えようと言葉を紡ぐ。
「人1人が出来る事などたかが知れている。これから先、1人ではどうしても出来ない事も出てくるだろう。私は……1人ででもやらなくてはいけなかったから、全てを自分でやっていたが……失敗ばかりだった。だが……お前は、私とは違う」
音羽は、自分とは違う。姿も、性格も、能力も、人間関係も。何もかもが違う。自分には持ち得ないものだって沢山持っている。だからこそ、自分とは違うやり方で、違う道を歩んでほしいと願うのだ。
「お前には仲間が居る。いつだって、お前の側には仲間が居ることを忘れるな。望めば皆、必ずお前を助けてくれる。1人で作るものよりも、仲間と協力し合って作るものにこそ……強い想いが宿るものだからな」
「わかってる。僕には皆が居る。皆の為に、僕がやらなきゃいけないことなんだ」
「ああ。音羽ならやれる。大丈夫だ。……頑張るんだぞ」
「……! うんっ! 頑張る! お父さん、ありがとう!」
湊人から激励を受けた音羽は一層気を引き締め、全力を尽くして作曲する決意を固める。湊人から拝借した本を最大限に活用し、皆の為に最高の曲を作ることを誓うのだった。
翌日。部室に集まった一同は各々の役割分担を決め、実行に移す準備をしていた。作詞は主にかのんとセンターであるすみれが担当し、
「じゃあ、僕はしばらく音楽室にいるね。何かあったらいつでも呼んでね!」
「音羽くんも。困ったことがあれば、いつでも頼ってください。これは、私達全員で作っていく曲なのですから」
「おとちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「うん! ありがとう! じゃあ……行ってくるよ」
恋とかのんにそう言われた音羽は安心したように笑みを浮かべ、それがすぐさま真剣な表情に変わる。部室を出て行く途中で、音羽は右手の五指を内側に折り曲げる。パキ、と関節の内部から気泡が弾ける音が鳴った。部室から出て行く彼の後ろ姿を見送ると同時に、今まで目にしたことの無い音羽の仕草に一同は目を丸くする。だが、その仕草を既に知っている者がこの場に1人存在している。
「おとちゃん……?」
「音羽くんがあのようになさるのは、集中したい時や……
「そうなんだ。おとちゃんはそれだけ真剣に……地区予選と向き合ってくれてるんだね」
「ええ。音羽くんがそういう人なのは、かのんさんもよくご存知なのでしょう?」
恋はどこか誇らしげにかのんにそう問う。本気になった時や、一度やると決めた彼は本当に心強い。彼女は昔から音羽を見ているが故に、今も彼の中にある信念は変わっていないのだと、恋はスクールアイドル部に入って改めて知ることが出来た。幼馴染の変わらない心は、恋の心にも熱を灯している。スクールアイドルとして、母からうけついだ使命を全うすると誓ったあの日から、彼女にも音羽と同じ確固たる信念が宿っている。音羽が提案した事を無意味なものにさせない為にも、恋もまた全力で歌やダンス、作曲のサポートを行うと心に決めているのだ。
「うん。そうだったね。おとちゃんに負けないように、私達も頑張ろう!」
「そうだね! 曲ができてからすぐ練習に入れるように、振り付けも今やれる分はやっておこうか!」
「デスね! ラブライブにムケテの仕上げと、音羽のお手伝いデスっ!!」
千砂都と可可もかのんの言葉に賛同し、地区予選の為に出来る事を精一杯に頑張る気概を見せる。そんな中、すみれが先程から浮かない表情をしているのに可可は気付く。その理由は、彼女には大体見当が付いていた。
「……すみれ」
「……なに?」
「振り付けも練習も大事デスが……アナタには、他にしなくてはならナイコトがありマス」
すみれの表情が未だ明るくならない理由。音羽がすみれの為を思って曲を作ると言っているのに、何故だか嬉しそうではない理由。可可だけでなく、他のメンバーも何故すみれがそのような状態になっているのかを考え、そうなっている原因も薄々感じ取っている。可可にそう言われ、どうも訳の分からないすみれは脳内に疑問符を浮かべる。
「しなくちゃいけないことって、何よ?」
「決まっていマス。コレも、とっても大事なコトデス」
音羽が音楽室に向かい、彼が不在な状況だからこそ、可可はすみれに言おうと決意する。可可が、心から望む事象を。ラブライブ地区予選ですみれが最大限のパフォーマンスを出来るようにする為に。これは、地区予選前に必ずしておかなくてはいけない事だと彼女はそう考えている。その為に、すみれに勇気を出してもらわねばならないと。すみれが、音羽と向き合う勇気を。
「……音羽と、仲直りしてクダサイ」
「……!」
僅かに開けられた窓から吹く風が、すみれの黄金色の髪を揺らした。