星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第68話 輝く友情、眩しい表情。

 

 冷たい風が吹く屋上。普段練習している時にはただ『寒い』と悪態をつく状況で、現に先程準備運動をしている際にもそう感じた。だが、その風が今は捉え方がまるで違った。緊張で熱くなる身体、手を冷ましてくれているとすみれはそう感じた。背中に吹く冷気を纏った風でさえ、自分を後押ししているようにも感じられた。ひとつ認識を変えるだけで、物事の捉え方にこんなにも変化が生じる。それを最初に教えてくれたのは、今自分の目の前に立っている少年、(あずま)音羽(おとは)だった。

 

 自分では良くないと思っていたことでも、音羽はそれをポジティブに捉え、前向きな言葉に変換してきた。いつも、いつでも、馬鹿正直なくらいに。その前向きさに些か呆れることはあっても、不快だと思ったことは無かった。むしろ自分はそこまで真っ直ぐで前向きでいられないが為に、そんな音羽の性格が羨ましく、同時に眩しくもあった。遠い存在だと認識し、一方的に距離を置こうとした。それを可可から『逃げているだけ』と称され、目が覚めた。向き合わずにただ逃げるだけなら誰でも出来よう。他者や物事と向き合うことの方が余程大変で、傷付く要素を孕む事象である。それなのに音羽は他者と、物事と、自分とも向き合う。彼は決して頭の悪い人物ではない。そうすれば自身が傷付く可能性があることをきっと分かっている。けれど、音羽は決して歩みを止めない。只管皆の……すみれの為に様々なものと向き合い続ける。そんな彼に何も言わず、言いたいことを伝えずに終わるのは、嫌だと思った。音羽を裏切ってしまうと、気付いた。そうしたくないから、すみれはこの場に立っているのだ。

 

 ゆっくりと、音羽の方へ近付いていく。こんなにも動作が遅くなる事は今まであっただろうか。自分でもそれが初めてだと確信する程に、様々な感情を抱えながら恐る恐る歩を進める。そうして音羽と距離が縮まり、互いの声が届く距離になった。音羽は強く手を握っており、彼も緊張しているのだと距離を詰めてから理解するに至った。すみれは息を吸い、話を切り出す為に口を開く。

 

「……音羽っ。あの……」

 

「……ごめんなさいっ!」

 

 すみれが話を切り出すより先に、音羽が物凄い勢いで彼女に向かって頭を下げた。一瞬、何が起きたか理解が出来なかったすみれは、頭が自分の腰くらいまで下げられている音羽を見て、自分に対して謝罪が為されているのに気が付いた。

 

「えっ……ちょっ……」

 

「曲作りが終わってから、すみれちゃんに謝りたくて……今まで、無意識にすみれちゃんを傷付けてた……自分のこと、何もわかってなくて……本当に、ごめんっ……!」

 

「いや、音羽……」

 

「許してとは言わないから……ただ、謝りたかったんだ。そうしなきゃ、僕は……僕はっ……」

 

「わかった! わかったから! いい加減顔上げなさいよ! まったく、何であんたが謝るのよ……」

 

 頭を下げたまま音羽はこれまですみれを傷付けた事への謝罪の言葉を紡ぎ、すみれのことを想って言葉が詰まる彼を見て彼女は急いで頭を上げるように伝える。想定外の事態にすみれは困惑しつつ、何故自分が謝罪されているのかと本音を漏らす。本来そうすべきなのは、自分なのだから。

 

「すみれちゃん……」

 

「あんたが謝る理由なんて無い。謝るのは私の方よ。あの時……あんたに色々酷い言葉浴びせて、傷付けた。何も悪くないあんたに……本当に、ごめんなさい」

 

 すみれは音羽に向かって深々と頭を下げ、普段絶対に見せないような彼女の動作を見て彼はあたふたとたじろぎ始める。音羽もすみれから謝罪されるとは思っていなかったようで、分かりやすく混乱を露わにする。

 

「い、いやっ! すみれちゃんは悪くない! 悪いのは僕だけで……」

 

「何言ってんのよ。音羽が悪い訳ないじゃない。悪いのは私。私ったら私よ」

 

「そんなことないよっ! すみれちゃんが謝る必要なんてないんだよ……」

 

「そっちこそ! 私が謝られる理由なんて無いわよ! ……って、何よこのイタチごっこ……埒が開かないじゃないこれ……」

 

 すみれが音羽を『悪くない』と言えば、次は音羽がすみれに『悪くない』と返すという半ばループのような状況に陥り、これ以上言い合うのが面倒になったのか、1つ音羽に提案を持ち掛ける。

 

「……わかった。じゃあこうしましょう。今回は……お互い様ってことで。これで良いでしょ?」

 

「う、うん。わかった……そうしようか……」

 

 すみれの意図を汲んだ音羽はそれを了承。お互いに悪くないと思っているのなら、いっそお互いに悪い面はあったとして話に片を付けた方が早いというすみれの判断が的確にこの状況を収拾させる。音羽が納得したのを確認したすみれはベンチに腰を下ろし、手でベンチを軽く叩く。

 

「ほら、あんたも座んなさいよ」

 

「え……良いの?」

 

「良いから。あんたがそうやって立ってたら、話しづらいじゃない。早く座って」

 

「し、失礼します……」

 

 促されるまま、音羽は緊張している様子ですみれの左隣に座り、速る鼓動を抑える為に両の手を絡ませて、リラックスするよう務めた。かのん達がランニングで不在となり、すみれとこうして2人で話せる状態にはなったものの、まずは自分が落ち着かなければ始まらない。深呼吸をして息を整え、音羽はすみれに伝えたいことを伝えることに決めた。

 

「……すみれちゃん」

 

「……なに」

 

「すみれちゃんが僕をどう思ってるかわからないけど……僕はすみれちゃんのこと、『友達』って思ってるよ。これからも……すみれちゃんと友達でいたい。……すみれちゃんは、どうなの?」

 

 音羽は単刀直入にすみれにそう言い、彼女は音羽の顔を見ずに言葉を返す。

 

「嫌よ。私は、あんたと友達には戻らない」

 

「ど……どうして? 僕が……すみれちゃんを傷付けたから……?」

 

「違う。これは私の問題。友達に戻って、今までと何も変わらないなら……今の私はそれに満足できない。あんたが私を大切に思ってくれてるのはわかる。でも……それは皆にだって同じでしょ」

 

「すみれちゃん……?」

 

「あんたに優しくされて、でもその優しさは皆にもあげられてるものだって思って……あんたに『ひどい』とか思ったり、勝手に傷付いてんのが私なのよ? そんな面倒な奴でも、あんたは変わらず私を友達だって思えるの?」

 

 すみれもまた、包み隠さずに音羽に本心を伝える。こんなにも面倒で、醜い感情を持った自分に対して『友達』だと言えるのかと。こんな自分が、音羽の側に居て良いのかと。無論、音羽が出した答えは1つだった。

 

「……思えるよ。すみれちゃんは、僕の友達。それは絶対に、揺るがないよ」

 

「っ……何でよ。私が……あんたにどれだけ酷いこと言ったと思ってんのよ……なのに自分が責任感じて……なんなのよあんたは! どうして私とそこまで友達でいたいのよっ……!?」

 

「そんなの決まってるじゃん」

 

 音羽の言葉に声を荒げるすみれとは逆に、音羽の声音は落ち着いており、諭すように小さく笑みを浮かべる。自分にとってすみれは何なのか。その答えはとうに出ている。

 

「……()()()()だから」

 

「……!?」

 

『特別』。確かに音羽はすみれにそう言った。彼の口から放たれた言葉に、すみれは息を呑んだ。大切だとは言われたことがあるが、特別だと言われたことは今まで1度も無かった筈なのに。唐突に出されたその単語に、彼女は何も言い返せなかった。

 

「僕、さ。小学校でも中学校でも、(れん)ちゃんとしか仲良くなくて。恋ちゃん以外に……友達居なかったんだ」

 

「……何よ、急に」

 

「話せるようになってもいつの間にか距離を置かれてたり、自分は友達だと思ってたけど、相手はそう思ってなかったりとか……そういうのけっこうあってさ。『友達』は……僕から見れば遠い存在だったって、最近思った」

 

 音羽は苦笑まじりに自身の過去を語る。恋以外に親しい人が居らず、恋と距離を置いていた時期は、ずっと孤独だった。そのうち、『友達』という存在が自分にとってどんなものなのか分からなくなっていた。だが、今は違う。かのんや可可(クゥクゥ)千砂都(ちさと)と出会い、恋と和解し……そしてすみれと出会って叱咤された。その出来事が、間違いなく音羽を変えていた。

 

「でも、かのんちゃんと出会って、すみれちゃんに出会って……生まれ変われたんだ。こんな自分に、友達ができた。それは……すみれちゃんのお陰なんだよ?」

 

「私は何もしてないわよ。全部かのんのお陰でしょ」

 

「ううん。……すみれちゃんはもう覚えてないだろうけど、『自分の意志は無いのか』って、僕に怒ってくれたことがあって……」

 

「さすがにそれは覚えてるわよ……悪かったわね。今思えば、あの時からあんたを傷付けてた。そんなつもりで言いたい訳ではなかったんだけどね」

 

「わかってる。すみれちゃんのその言葉で目が覚めたんだ。自分の意志で、今を変えたいって思った。それで、変われた。すみれちゃんとも……友達になれた。僕にとってのすみれちゃんは……眩しくて、それでいて、特別な人だって……そう思うんだ」

 

 あの時すみれに喝を入れられたことで、音羽は自分の意志を持つことが出来た。自分を変える決意をするに至った要因は、間違いなくすみれのあの言葉だった。そうして出来た皆との関係は、音羽にとって『特別』なものだと言わざるを得ない。

 

「かのんちゃん、くぅちゃん。千砂都ちゃんと恋ちゃん。……すみれちゃん。皆、僕にとって特別な人達で……僕の心の真ん中に、いつも皆が居るんだ。自分の身体よりも大切にしたいって……そう思えるのが、僕にとっての『友達』なんだよ」

 

「音羽……」

 

 音羽にとっての『友達』の価値観は、普通の人が持つ価値観とは大きく異なる。彼にとって友達とは、皆が考えているそれよりも存在が大きく、大切な存在である。自分と友達になってくれたすみれも例に漏れず『特別』な人だった。

 

「だから……すみれちゃんは特別な人。たとえすみれちゃんがそう思えなくても、僕がそう思ってるから特別なの! これだけは、変わらないよっ!」

 

「無茶苦茶ね……あんたらしくないじゃない、そんな無茶苦茶な理論」

 

「そ、そうかな? ほんとのことだし……」

 

「でも、私はあんたに酷いこと言ったのよ? なのに、どうして?」

 

「どうして……んー、なんだろ。何でかなぁ……」

 

 すみれにそう問われ、音羽は暫し顎に手を当てて考える。数秒考えてもすぐに明確な答えは出せなかったが、音羽は自分の気持ちを率直に述べる。

 

「たまにちょっぴり傷付くこともあったけど、それが全然気にならなくなるくらい……一緒に居て楽しかったから」

 

「っ……!」

 

「たとえ傷付いても、嫌えないよ。そもそもすみれちゃんは、僕を傷付けたくて言ってる訳じゃないのはなんとなくわかってたし……酷いこと言ったっていうだけで、友達でいられない理由にはならないよ」

 

 音羽の言葉に、すみれの心が徐々に解かされていく。暖かく、真っ直ぐに心に響いてくる。純真な彼の瞳が、眩しく刺さる。

 

「すみれちゃん、前に言ってたよね。僕を見てると、自分が惨めになるって」

 

「……ええ。言ったわ」

 

「僕を見て、そんな気持ちになってほしくないんだ。すみれちゃんは……すごい人なんだから」

 

 すみれが音羽にとって『すごい人』なのは変わらないし、すみれに出来ない事が音羽に出来るとしても、逆もまた然り。音羽が出来ない事が、すみれには出来たりする。故に音羽は、すみれに惨めさなど感じてほしくなかった。いつものように堂々と胸を張っていてほしかったのだ。

 

「私は、あんたみたいに尖ったものが無いの。あんたみたいには、やれないから……」

 

「……僕がすみれちゃんになれないみたいに、すみれちゃんだって僕にはなれない。だからこそ……すみれちゃんはすみれちゃんのままでいてほしい」

 

「……! あんた……」

 

 今までとは何か違う音羽の発言にすみれは驚きながら音羽を見つめる。彼はそこまでこのようなことをはっきり口にする人物ではなかったように思えたのに。ラブライブ地区予選の練習期間にも、音羽の心に変化が生じており、彼の更なる成長をすみれは感じ取った。

 

「誰がなんて言っても、すみれちゃんはすごいんだ。自信を持ってほしい」

 

「音羽こそ。私は……あんたにわかってほしかったんでしょうね。あんたが凄いって。あの時はカッとなって、そんなこと思う余裕も無かったけど……」

 

「すみれちゃんが言わなかったら、きっと知らないままだったよ。今は、『ありがとう』って思う」

 

「はぁ……? どんだけお人好しなのよあんたは……」

 

 すみれは音羽のポジティブな捉え方に呆れつつも、あの時彼に『すごい人』と言われた時の嫌悪感は無くなっていた。ただ、音羽との対話が足りなかっただけだった。自分が勝手に音羽にとって特別じゃないと思い込み、それが原因で音羽に酷い言葉を浴びせた。彼を普通じゃないと形容したくせに、その先まで考えが回らなかった。音羽は、『友達』に関する価値観も他者とは違うのだと。少し考えれば分かる筈のことが、分からなかった。つくづく自分が情けなくなる。ただ、自分が意地を張っていただけだった。やはり、音羽は音羽だということに違いは無かったのである。

 

「やっぱり、あんたは眩しいわ」

 

「えっ?」

 

「あんたは、私を照らしてくれる光よ。間違いなくね。今日だって、新曲を完成させたじゃない。周りから無理だって思われてた事を現実にした。……ありがと。音羽」

 

「すみれちゃん……」

 

 すみれは素直に新曲を作ってくれたことに対しての礼を述べる。学生が1週間足らずで曲を作るという夢物語を実現した音羽は、称賛されるべき人物だとすみれは感じていて、尊敬もしている。他者の為にそこまでの事を出来る人は、すみれは音羽以外に知り得ない。自分にとって唯一無二の存在であることは確かだ。

 

「僕はすみれちゃんとこれからも友達でいたい。この気持ちは変わらない。でも、すみれちゃんが友達でいたくないなら……無理にとは言わない。すみれちゃんの気持ちを、聞かせてほしい」

 

 自分の気持ちは伝えた。あとはすみれがどうしたいかが知りたい。音羽は緊張で手を震わせながら、彼女からの返答を待つ。数十秒経ってようやく、すみれが静かに話し始める。

 

「……言ったでしょ。友達には戻らないって」

 

「っ……」

 

 そう言いながらすみれはベンチからゆっくり立ち上がる。それを見た音羽は悲しそうに視線を落とす。やはり、すみれの気持ちは変わらなかった。友達には戻れないのだと彼は諦めかけていた。けれどすみれは、その場から立ち去らずに背中を向けたまま音羽の目の前に移動する。確かに友達に戻るのは本意ではない。しかし、音羽と関わりたくないという訳でもない。むしろ、その逆だ。本当は、音羽や皆と様々な景色を見たい。音羽とも、仲良くしたい。それがすみれの本当の気持ちで、嘘偽りは無い。そうするには、自身の感情が邪魔だった。今の関係で、音羽に釣り合うものが無い。且つ単なる友達という関係性では満足しない。ならば……友達以上の関係を結べば良い。色々な葛藤の中ですみれの出した結論は、揺るがないものとして心の中に表層化していた。

 

「……()()()()

 

「……? まぶだち……?」

 

「由来はあんまり良いものじゃないから、私なりに変えるわ。『眩しい友達』だから、マブダチ。意味は……()()()()()な、友達」

 

「え……えっ!?」

 

「私は……あんたをマブダチって認める! だから……これからも私のマブでいなさいよっ!!」

 

 マブダチ。この単語の起源は反社会的組織の人間が主に『本物』の言葉の隠語として『まぶ』を使っており、それが『マブい』という言葉で世間的に流行し、現在では『本当に親密な友達』という意味で広く使われるようになった単語である。2人は互いを眩しい人と認識していて、尊敬し合っている。すみれ自身も音羽に心を許していて、音羽もまたすみれを大切な人だと思っている。その関係は最早、『友達』という枠組みを超え、そこから更に上の関係性へと発展していると言っても過言ではなかった。故にすみれは、友達に戻るのではなく、マブダチとして音羽と関わり続ける選択を取った。自分の為に、皆の為に、音羽の為に。自身が取れる最良の選択がこれだった。

 

「じゃ、じゃあ……すみれちゃんと友達でいられる、ってこと……?」

 

「友達以上よ。要は、親友って言っといた方が分かりやすいかしら?」

 

「……! 良かった……良かったぁっ……」

 

 すみれからそう聞いた音羽の身体から力が抜け、心底嬉しそうに笑う。その直後に音羽は電池の切れたロボットのように項垂れ、ベンチから落ちそうになる音羽の身体をすみれが瞬時に受け止めた。

 

「音羽っ!? 大丈夫!? おと……寝てる……?」

 

 音羽は微かに寝息を立てながら、深い眠りについていた。脳に負担を与え続ける作曲を連日に渡って行っていたが故に、この一瞬のうちにピクリとも動かずに眠ってしまっていた。余程疲れが溜まっていたのだろうとすみれは悟り、音羽の身体を持ち上げて自身の太腿に頭を下ろす。

 

「無茶ばっかりして……ホント、しょうがないったらしょうがないわね」

 

 そう言いながらすみれは、音羽の髪をそっと撫でる。女性のような顔立ちに、触り心地の良い髪。眠っている姿もまた、彼女の心拍を上げていく。『一方だけが特別だと思う感情に意味は無い』。そう思っていた。今もすみれはそう思っている。すみれが思う特別と、音羽の思う特別とは、意味が異なる。すみれが抱いている『特別』は、きっと音羽が思っているものよりも大きなものだ。それを、音羽が受け入れる保証などどこにも無い。その感情を、『くだらない』、『何の意味も無い』と決め付けて、捨ててしまうのは簡単だ。だが……自身の中に芽生えた気持ちを、捨てる事など出来やしなかった。捨てるには、どうしても眩しい。捨てようにも、あの眩しい表情が脳裏を過る。無意味なものになど、出来る筈が無かった。そして、すみれは確信した。自分の中に在る、この気持ちの正体を。

 

「……()()()。音羽」

 

 眠っている彼に対して一言、明確に言葉に表した。自分は、人として音羽のことを好ましく思っている。そう自覚した。だからこそ……自分の力で、音羽を振り向かせてみせる。『振り向いてほしい』などと受動的だった自分とは別れを告げ、すみれは運を天に任せる事も無く、自らの手で道を切り拓く事を誓ったのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んっ……?」

 

 意識が徐々に覚醒し始めた際に初めに感じたのは暖かな感触と、鼻腔を擽る甘い匂いだった。そして、一定のペースを保って自身の身体が上下に揺れていることに一拍遅れて気が付いた。音羽の声を聞いた彼女は、背負っている彼の方へ首を動かした。

 

「目、覚めた?」

 

「すみれちゃん……? あ……僕、寝ちゃってて……」

 

「練習終わっても起きないから、私が音羽をおんぶして家まで送ってたとこ。あんた、相当無茶してたんじゃない?」

 

「うぅ……ごめん……夜中まで作業してたからかなぁ……」

 

「やっぱりね……風邪引くんじゃないわよ? あんたに倒れられたら、皆困るわ」

 

「すみれ、ちゃん……」

 

 すみれに背負われたまま、音羽は彼女と会話を続ける。自分の背中にはリュックが背負われており、それもすみれがそうしてくれたのだと思い、音羽の心に暖かな感情が募る。

 

「ありがとう……すみれちゃん。もう歩けるから大丈夫だよ」

 

「良いわよそのままで。もうすぐ着くから」

 

「えっ……もうそこまで来たの!?」

 

「ええ。あんたがすやすやおねんねしてるうちにね」

 

「すごい寝ちゃった……明日皆に謝らなくちゃ……ごめんね、迷惑掛けて。家まで送ってもらったりして……」

 

「別に。これくらい当然でしょ? ……マブダチ、なんだから」

 

「……!」

 

 すみれが再度マブダチという単語を口にし、屋上で交わした会話が夢ではなかったことを確認した音羽は、万感の想いで笑みを浮かべた。

 

「マブダチ……良い、響きだね」

 

「どっちの方の良いなのそれ。語呂感? それとも音感?」

 

「んー……どっちもかな?」

 

「へぇ……ま、たしかに響きは良いかもね」

 

「親しい友達って、意味だよね?」

 

「ええ。そうよ。私も、あんたとマブダチでいたいって気持ち、揺るがなくなったから」

 

「っ……ありがとう。ありがとうっ! すみれちゃん!」

 

「……ふふっ」

 

 音羽は目に涙を溜めながらすみれに礼を言い、彼女は音羽に表情を見られないように前を向き、満面の笑みを浮かべた。擦れ違いを起こしていた音羽とすみれの関係は、今日から『友達』から『マブダチ』へと変化し、和解を果たした。新曲が生まれ、音羽とすみれの絆が深まった今、ラブライブ地区予選への準備が完全に整えられた。

 

 風に煽られた二片の銀杏の葉が、すみれと音羽の頭上で回転しながら舞い、遥か上空へと昇って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




眩しいあんた、眩しい君。


挿絵協力:ぱでぃにき様

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