星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第76話 それぞれの想い、あの頃の私。

 

「事情は分かりました。もし澁谷(しぶや)さんから何か聞かれることがあれば、『小学校側もそれを望んでいる』とお答えしましょう」

 

 スクールアイドル部一同が青山南小学校へ歌を披露するまであと2日に迫ったその日の朝、千砂都(ちさと)達は廊下を歩いていた理事長に声を掛け、先日自分達が考案したかのんを1人でも歌えるようになってもらう為の作戦を共有する。その作戦を用意するに至った経緯を一通り聞き終えた理事長は、千砂都達の想定に反してあっさりと話を飲み込み、その上で一同が行おうとしている事に許可を下した。

 

「理事長先生……良いんですか?」

 

「ええ。貴方達のやり方に私から口出しするつもりはありません。何か思うところがあっての事なんでしょうし。どうするかは、貴方達に任せます」

 

「……! ありがとうございます!」

 

 恐る恐る千砂都が本当に良いのか確認すると、理事長は特に彼等がしようとしている事を咎めたりはせず、どうするのかは本人達に任せる意向であった。理事長はスクールアイドル部の顧問を務めている訳ではなく、スクールアイドル達や、それを支えるサポーターの自主性を重んじ、自らの意志と考えで壁を乗り越える力を身に付けてほしい、且つそれを身に付けられる可能性を秘めているのを彼女は信じている為、敢えて顧問を就けずに今までの活動を許容してきた。現状でも皆は自分達の頭で様々なことを考え、時に試行錯誤した。その結果、ラブライブ地区予選という第一の関門を突破した。故に、今回もスクールアイドル部の部員達だけで問題を解決出来る事を信じ、小学校での件も特に口を出すつもりは無い。というのが理事長が出した結論だった。その上で、仲間の為に自分達が出来ることを探し、行動に移そうとする一同を見つめ、彼女は優しく笑みを浮かべる。

 

「……良い方向に進むと良いわね」

 

「「「はい!」」」

 

 理事長から励まされ、一同は声を揃えて返事をする。今日で青山南小学校に出向くまで残り2日。かのんに伝えるには今日だと千砂都は考えており、放課後の練習の際に一同はかのんにこのことを話すと決めている。不安が過る中、音羽はすみれと話し合って決めた偽りの用事を思い出しながら、それを嘘だと悟られない為の言い回しを脳内で必死に考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ? ちぃちゃんが!?」

 

「うん……その日だけは、どうしても行かなきゃダメだって家で言われちゃって……」

 

 放課後。いつも通り屋上に集まったスクールアイドル部一同。皆で準備運動をしている最中に千砂都が話を切り出し、かのんに自分が小学校で歌う当日に行けなくなってしまったと伝える。勿論それは千砂都の作り話で、小学校へ行けないというのは真っ赤な嘘であるのだが、嘘だと微塵も感じさせない、自然な演技だった。千砂都の事情を聞いたかのんは視線を落としながらも、それに納得した様子で言葉を返す。

 

「そうなんだ……」

 

「ジツはククも、ヤンゴトナキ事情がありマシテ……」

 

「じ、実は私も……」

 

「私も……どうしても家族が神社を手伝えって……」

 

「え……えっ? いやいやいや! 皆揃って急すぎるよっ!?」

 

 千砂都に続いて可可(クゥクゥ)もすみれと共に考えた嘘をかのんに伝える。『やんごとなき事情』というのは、急な予定が入った際、もしくは予定があると偽る際に適している言葉であり、どうしても外せない用事、とても重要で特別な事柄という意味を持つ為、それを聞いた相手は、その人に対して無理にその用事を蹴ってまで来てほしいとは言いづらくなる。人間の心理や良心を逆手に取る方式ですみれが考案したのが、可可と音羽(おとは)に『やんごとなき事情がある』と言わせ、それを(れん)に便乗させることでかのんに納得してもらう、という誤魔化し方である。千砂都から順番に用事で行けないと伝えると、かのんは焦りながら皆の顔を順に見やる。千砂都が当日に来れないというだけでも痛手な中、可可達も来れないとなるといよいよ話が変わってくる。

 

「しょ……しょうがないデスよ! 皆サン用事がアルのデスし!」

 

「えぇ……で、でもっ! おとちゃんは来てくれるもんね! それなら……」

 

「か、かのんちゃんっ……あの……僕もその……やんごとなき事情があって……」

 

「ええっ!? ……ちょっと待って」

 

 かのんは最後の希望と言わんばかりに音羽に視線を向け、当日小学校に来てくれるのだろうと確認を取る。すると音羽は目を泳がせながらかのんに可可が先程言っていた『やんごとなき事情』を持ち出し、彼女に自分も行けないことを断腸の思いで伝えた。これもすみれの指示通りで、散々脳内でデモンストレーションをしていたにも関わらず肝心なところで目が泳いでしまっている音羽を見て、すみれは後ろを向きながら眉間を指で摘んだ。音羽は本当に、何かを誤魔化したり嘘を吐く事に向いていない。それを改めて痛感するすみれだったが、音羽と一緒に違和感が出ないように話す練習を繰り返していたが故に、音羽の口調に先日のようなぎこちなさは無かった。それだけですみれは音羽に及第点をあげたい面持ちであるが、音羽の言葉に違和感を覚えたかのんがついに彼に矛先を向けた。

 

「おとちゃんもそうだけど、何で皆『やんごとなき事情』としか言わないの? それって、本当にその日じゃなきゃいけないことなの?」

 

「う、うんっ! どうしてもその日じゃなくちゃいけなくて……あはは……」

 

「じゃあ、おとちゃん。その『やんごとなき事情』が何なのか……教えてくれる? おとちゃんがその日行けない理由をちゃんと話してくれないと、こっちだって納得できないよ!」

 

「それは……えっと……」

 

 千砂都やすみれが想定していなかった事態が、音羽が矛先となる形で起きてしまった。かのんの他にステージに立って歌う4人が何らかの用事で行けないというのは100歩譲って承知するとしても、皆のサポーターである音羽も『やんごとなき事情』とやらで来れないとなると、流石にその言葉では拭い切れない怪しさが出てくる。かのんは先日も音羽と約束があったものの、音羽は『急用ができたから』と咄嗟に嘘を吐いてそれを反故にしている。その時にかのんは特に理由を聞いたりはしなかったが、今回も音羽から用事の詳細が語られないまま、当日不在にするという事実だけ伝えられるのはかのんとしても納得がいかない。

 

 音羽に用事があると言われたのはこれで2度目。彼の口からちゃんと理由が語られないと、どこか自分が避けられているような気がして釈然としない。音羽に悪気は無いと分かっていても、理解する事と納得する事はまったくの別問題。故に、単刀直入に音羽に理由を聞いたのだが、音羽は千砂都達の方を向いており、運動した訳でもないのに額から汗を流している。何も言えずに口を閉ざしている彼を勘繰るような視線で見つめるかのんと、音羽の辛そうな表情を見兼ねたすみれが、両者の仲裁に入る。

 

「ちょっとかのん、音羽にも事情があるんだから、あんまり詮索しちゃダメよ。来れないんなら仕方ないじゃない」

 

「でも……」

 

「おとくん、その日はお父さんの事務所が主催するイベントのお手伝いに行くんだもんね? 『人手が足りないからどうしても』ってことで。そうでしょ? おとくん!」

 

「あ……う、うん! そうなんだよね!」

 

 すみれが音羽のフォローに回ったと共に、千砂都が即座に音羽が当日に小学校へ行けなくなった架空の理由を考えて言葉にし、千砂都はアイコンタクトでそれに同調するように彼に訴えかける。それを受け取った音羽は、違和感が出ないように細心の注意を払いつつ、彼女の言葉に同意する。音羽の父親である湊人(みなと)からの頼まれ事という体にすれば疑われにくいかと思い、考えた嘘だが、それを聞いてかのんは表情を和らげる。

 

「そうなんだ……もうっ、それなら最初からそう言ってよ!」

 

「ごめん……かのんちゃん……」

 

「ううん。大丈夫。おとちゃんも来れないとなると、小学校に行けるのは私だけ……でも、1人しか居ないなんて……それじゃもう『Liella!』じゃないよ! 小学校に連絡して、今回は中止にしてもらった方が……」

 

「そうなんだよね。だから、小学校に連絡してみたんだけど……」

 

 音羽が小学校に来れない事に納得したかのんは、自分以外の5人が来れないのならそれは『Liella!』ではないと考え、千砂都に今回は中止にしてもらうように学校側に掛け合った方が良いのではないかと提案する。だが、かのんに自分達が不在とするのを納得させ、6人で来られないなら行かないという考えを彼女に持たせる。ここまで話を持ってこれれば、あとは千砂都の思うまま。更なる誤魔化しの方法でかのんを納得させる為、千砂都はかのんに対して言葉を続ける。

 

「そしたら、『かのんちゃん1人でもお願いできないか』って……」

 

「えっ……!?」

 

「むしろ、学校の子達は……『かのんちゃん1人の歌が聞きたい』って言ってるみたいで……」

 

「えぇっ!? そんな……」

 

 千砂都が言ったこの内容に関しては、半分本当で半分嘘といった具合である。確かに千砂都は学校側に連絡を取り、当日にステージで歌う人数が5人から1人になると既に伝え、学校側からそれを了承されている。けれど小学校の児童達がかのん1人の歌を聞きたがっているというのは千砂都が事実の中に入れ込んだ嘘。学校側がかのんを必要としている事を認識させる為に、ステージに立って歌ってもらう為に混ぜた嘘なのである。学校の人達がそのように言っていると千砂都から聞かされたかのんは困惑を露わにして彼女を見つめる。急な事で話が上手く飲み込めていない中、千砂都はかのんにそっと眼差しを向ける。

 

「ダメ……かな?」

 

「うぅ……」

 

 千砂都だけでなく、音羽達もかのんに懇願するように視線を向け、1人ででも小学校に出向いてもらえるように祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ、私はここで……」

 

 練習を終え、帰り道を歩いていた『Liella!』一同。あれから十数分の説得と相談の末、かのんには小学校で1人で歌う事を承諾してもらい、そこから皆で練習に励んでいた。練習中も、練習が終わった後も、かのんの表情は暗く、不安気であった。皆と別れる際も、浮かない表情をしていた。

 

「何か困ったことがあったら連絡して! 相談に乗るから!」

 

「ククも24ジカン体制でマッテおりマスので!」

 

「ありがとう……とりあえず、家に帰って練習してみる! うぃっすー!」

 

「「「うぃっすー!」」」

 

 家で1人で歌う事を想定した練習をすると告げ、駆け足で帰って行ったかのんの後ろ姿を皆で見送り、彼女の姿が遠くなったところで、皆は振っていた手を降ろす。かのんの寂しそうな表情を目にした可可が、沈黙を破る。

 

「……ヤッパリ、ひどいデス。可哀想デス、コンナノ……」

 

「かのんちゃん……!」

 

「ダメだよおとくんっ! 信じて任せるって……決めたでしょっ!?」

 

「っ……!」

 

 先程のかのんの表情が見るに堪えなかった音羽は、走ってかのんを追いかけようとするが、千砂都が即座に彼の手を掴んでそれを止める。かのんを信じると頭ではそう決めていても、かのんのあんな顔を見るのは本意では無い。彼女の側で力になりたいと、音羽はどうしてもそう思ってしまう。

 

「音羽、気持ちはわかるけど……今は耐えて」

 

「苦しいですが……かのんさんを信じましょう」

 

「……うん。そう……する」

 

 すみれと恋が優しく音羽を宥め、彼も心を落ち着かせたようで、冷静になって自身に言い聞かせる。自分は、かのんを信じて任せるのだと。かのんを絶対に、信じ抜くのだと。

 

「幼馴染、なのでしょう? それなのに……こんなに苦しい思いをしてまで、どうして……」

 

「千砂都の言うことはたしかに理想だけど……」

 

 2人の言葉を聞いて、千砂都は今一度思いを巡らせる。自分が言っていることは理想論で、自分達がそうすることでかのんが歌えるようになる確証はどこにも無い。だが、確証は無くても、かのんを1人で歌えるようにする為に動く勇気を、千砂都はかのんからとっくの昔に貰っていた。彼女と出会って、間もない頃から。

 

「……私ね、小さい頃は何をしても上手く出来ないと思ってた。自分は、何をやってもダメで……すぐ諦めてた」

 

 千砂都は、嘗ての自分を思い出しながら皆にそう語る。幼い頃の自分は、すぐ泣いていた。何かを初めて、些細な壁にぶつかった時でさえ泣いて、その度に自分が嫌になった。出来ない自分を悔いても、恨んでも、自分が何かを出来るようになる未来が見えなかった。何をやっても上手く行かずに、その度に諦めて。ずっと、その繰り返し。そんな日々にも、自分自身にも嫌気が差していた。周りが当たり前に出来る事が、自分には出来ない。それは遊びでも同じで、何かの遊具を用いても上手く遊ぶことが出来なかった。学校の勉強とは関係の無い、友人同士で行う遊びでさえも、ひどく難しいものに感じていた。故に当時は1人で遊ぶ事が多かった。アスファルトの上に、自分が大好きな丸を書いていれば、それだけで良かったのだ。たったそれだけで、心が満ちていったから。澁谷かのんという存在に、出会う前までは。

 

 かのんと出会ってからは、2人で一緒に遊ぶことが増えた。かのんは自分に色んな遊びを教えてくれた。ある時、『2人で縄跳びをしよう』とかのんから誘ってくれた際に千砂都は『自分には無理』だと答えた。自分には出来っこないのだと。自分がやると、上手く行かないのだと。そうして縮こまっていた千砂都に、かのんはこう返した。『最初から出来ないなんて事は、ある筈が無い』と。自分も一緒にやるから、頑張って跳んでみようと促した。そして共に縄跳びをしてみると、不思議な事に上手く跳べたのだ。自分の目の前に居るかのんの笑顔を見ると、何故だか勇気が湧いて来た。こんな自分でも、出来るような気がすると、そう思えたのだ。

 

「……あの笑顔はね、元気になる笑顔。安心して、勇気が出て……見ている人が心から嬉しくなる笑顔。私の知ってるかのんちゃんは、そんな笑顔を持ってたんだ」

 

 かのんの笑顔に、千砂都は救われた。何度も何度も、挫けそうになった時でも勇気を貰った。その恩を返したいが為に、かのんが出来ない事を自分が出来るようになる為に彼女はダンスの道へと進んだ。努力に次ぐ努力を重ね、時に血のような涙を流してでも、かのんの隣に居られるような存在になる為に自分を奮い立たせた。そうして、現在の(あらし)千砂都が居る。かのんに勇気を貰ったからこそ、今の自分が在る。だから、今度は自分の番。次は自分がかのんに勇気を与える。かのんの自信や、笑顔を取り戻す。その為なら、出来る事はなんだってする。それがどんなに辛かろうとも。かのんの為ならば、その痛みさえ乗り越えてみせる。そう、心に誓っているから。彼女は強く居られるのである。

 

「だから今、あの時のかのんちゃんを取り戻すことが出来たら。辛いことや、上手く行かないことをいっぱい経験したかのんちゃんが……あの時の気持ちを取り戻せたら! 誰にも負けないって……そう思うんだ!」

 

「千砂都……!」

 

 可可が涙目で千砂都の名を呼ぶ。かのんを信じているからこそ、どんなに苦しくても耐えられる。1人にして、彼女を突き放してでも。あの笑顔を取り戻せるのなら、どんな事であっても耐える。耐え忍ぶ事が出来る。その強さも、かのんが自分にくれた物なのだから。

 

「ラブライブどころじゃない。飛び越えて世界一……いや、すみれちゃんが言うみたいに、銀河一にだってなれる! 私は……嵐千砂都は信じてる! 澁谷かのんを!」

 

 皆の前で、千砂都は力強くそう言ってみせた。かのんがあの頃の自分を取り戻す事が出来たなら、ラブライブを超えたその先の夢にも、手を伸ばせるのだと。世界に歌を響かせるという目標を、叶える力を宿せるようになると、信じて疑っていなかった。千砂都の言葉を聞いて、一同も静かに頷く。誰よりもかのんを信じ抜く覚悟を持っている彼女の姿を見て、音羽の心にも勇気が湧いてくる。自分も、かのんを信じる覚悟を決める。その為に必要な事を、音羽はこの瞬間、見つけられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。かのんは家に帰ってから歌の練習を行っていた。普段の発声練習から、今回歌う予定の曲を通しで歌ってみる等、自分に出来る事を全力でやっていた。休憩がてらにかのんは下の階へ降り、1階のカフェへと向かう。そこには、せっせと学校の宿題をしている妹のありあが居り、ふと気になったことがある為、ノートに問題の答えを書き込んでいるありあに話し掛けた。

 

「ねぇ、ありあー」

 

「んー?」

 

「私、小さい頃……どんなだった?」

 

「えぇ? なんなの急に?」

 

「なんか、急に知りたくなって……」

 

 姉から藪から棒に聞かれたその問いにありあは首を傾げて聞き返す。かのんはありあと向かい合う形で座り、ありあが昔の自分はどんな人物であったのかを言ってくれるのかと、少し緊張した面持ちで返答を待つ。

 

「うーん……熱かった、うるさかった、ウザかった! 何かと言えば『やればできる』とか『頑張れ』とか、熱血スポーツキャスターかっての!」

 

「あはは……って、そこまで言う!?」

 

 幼い頃の自分をうるさかった、ウザかったと評したありあの物言いにかのんは顔を顰めながら食ってかかる。確かにそのような言葉を口にしていた記憶はあるが、それを妹からそのように捉えられていたのは耳が痛い事柄であり、過去の自分の発言を省みてかのんは頭を抱える。そんな姉を見て、ありあは一言、付け加える。

 

「でも……嫌じゃなかったよ!」

 

「えっ?」

 

「熱苦しいとは思ってたけど……別に嫌な言葉ではないじゃん? 『やればできる』とかさ。むしろ、それが周りを明るくしてくれてたというか……だってほら、お姉ちゃんの周りに居る人、皆笑顔だったし!」

 

「そう……だったっけ」

 

 かのんの当時の明るい人柄を、ありあは嫌ではなかったと口にした。ありあにとって以前のかのんは、ポジティブな言葉で周りを勇気付けたり、活気を与えていた印象が強かった。常に笑顔で、周りで勇気が出ずに一歩引いてしまうような人が居れば真っ先に気付き、その人の手を引っ張っていくような人。ありあから見た澁谷かのんという人物は、そのように映っていた。自分はそんなに熱苦しいのはごめんだと感じていたが、自分には出来ないようなコミュニケーションをとれる姉のことが少し羨ましくはあった。今のかのんは幼い頃の時ほどポジティブな言葉を周囲に発信する訳ではない為、そんな彼女の様子に少しばかり寂しいという感情を抱いてしまったのも事実だ。

 

「まぁでも……あの頃のお姉ちゃんも、今のお姉ちゃんも、ずーっと変わらないものが1個だけあるよね。わかる?」

 

「えー? 何だろ……ん?」

 

 ありあにそう聞かれ、今も昔も自分にとって変わらないものが何か考えようとした瞬間に、ズボンのポケットに入れられていたスマホが振動した。すぐさまスマホを取り出し、画面を点灯させると、予想外の名前が画面に表示されていた。

 

「え……? おとちゃん……?」

 

 かのんは静かに、自分に電話を掛けてきた主の名を……とても大切な友人の名を呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




探りながら、丸付け。
考えながら、バツ付け。



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