星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第81話 問われる覚悟、揺らぐ信念。

 

 いつから、こんな風にしてなかったんだっけ。

 

 自室のベッドに寝そべりながら、音羽(おとは)はふとそのようなことを考えた。昨日、スクールアイドル部の皆から練習は出ずに休養をとるように言われた音羽は、皆に言われた通りに生徒会の仕事と、スクールアイドル部の練習を休んでそのまま自宅へと帰って来た。今日の分の課題を終わらせ、やる事が無くなった音羽はベッドに身体を預けて、スマホの画面を眺めていた。

 

 どんな人間であれ、ある程度の休養は必要不可欠。誰にでも、休みたい時があるのはごく自然な事で、特に咎められる事も無い筈なのだが、音羽は最近、休みと言える程の休養をとっていなかった。練習が終わって家に帰っても活動日誌の記入や、メンバーの歌やダンスで気が付いたことをノートに纏めたり等、スクールアイドル部に関する作業を日夜行っていた。最近はメンバーと遊びに出掛ける機会や時間もめっきりと減り、音羽は自身の殆どの時間をスクールアイドル部の為に使っていた。本人がそれを望んでおり、それが自分にとって嬉しい事だったが故に、苦しくも何ともなかった。『皆の為』と思えば、辛さなど欠片も感じなかった。

 

 だが、皆から休むように言われて初めて、自分がどれだけ休息を取っていなかったのか気付かされた。疲労も完全に除去出来ていない状態で朝を迎えていたことは、自分でも分かっていた。それでも、皆の為だと体に鞭を打って行動した。休む暇も、寝る間も惜しんで部活のことで頭をいっぱいにしていたのは、耳障りなあの『声』から逃避する為でもあったのだろうと、今更になって悟った。そうしてようやく、休む事の大事さを思い出した。自らが好きでやっていた事が、いつのまにか手段になってしまっていたのを経験しているが故に、自身が良くない方向に進んでいる可能性を考えた。そうなる前に、1度気持ちをリセットし、また皆の為にサポートを行えるように休暇を取ろうと決めたのだ。

 

 何もしない時間。ただ溶けていく時間に身を委ねる。久々に音羽は、何も無い幸せを噛み締める。彼はベッドに寝そべりながら、スマホで『Liella!』のSNSを眺める。いくつかの思い出が写真に残されているそれを見て、音羽は嬉しそうに笑う。今この瞬間も、『Liella!』のSNSのフォロワーが少しずつ増えていく。昨日見た時には52000だったフォロワー数が、今確認すると52826に増えていた。改めて見ても、物凄い数だ。それだけの人達が、自分達を応援してくれている。その事実が、より一層努力しなければならないと、彼の気持ちを奮い立たせる。その数字に恥じないよう、『Liella!』を完璧にサポートする。それが、自分がすべき役割。皆に任されている、果たさなくてはならない義務である。

 

 SNSのフォロワー数が1件増え、『52827』と表示が変わったその時。音羽自身のSNSアカウントにメッセージが送られてきた。送り主の名前を見て、驚きでベッドの上で身体を跳ねさせ、メッセージボックスに移動すると、その名前が見間違いでないことが確認出来た。

 

「この人……『Sunny Passion』さんの……」

 

 メッセージの送り主が所属しているグループを、音羽はよく知っている。いや、知る機会が増えたと言う方が正しい。『Sunny Passion』。神津島を拠点とした2人組のスクールアイドルグループで、自分達の故郷である島の発展の為に活動し、前年のラブライブ東京大会に進出する程の実力と人気を誇る。メディアからの注目度も高く、他のスクールアイドル達から今最も意識されているグループの1つである。以前、『Liella!』を神津島に招き、そこで合同ライブを行っていたことを音羽はかのんから聞かされており、今もメンバー間で交流があるとも伝えられている。そんな『Sunny Passion』のメンバーの1人、(ひいらぎ)摩央(まお)から、音羽宛にメッセージが届いていた。

 

『初めまして。『Sunny Passion』の柊摩央です。突然連絡してすみません』

 

『1度、(あずま)さんとお話がしたいと思い、ご連絡しました。今日、お時間空いてますか?』

 

 丁寧な言葉遣いで、このようなメッセージが送られていた。音羽もすみれからの指示で自分用のSNSを開設し、よく分からないまま日常の活動の様子や近況を投稿していたのだが、自分宛に直接メッセージが届くのは初めてで、彼は困惑しながらその文をじっくりと読み込む。どんな意図で自分にこのようなメッセージを送ってきたのだろうか。探りを入れる為か、それとも文言通りただ自分と話がしたいだけなのか。どちらにせよ、何か意図があって自分を誘っているということだけは、なんとなく察することが出来た。

 

 数分考えた後、音羽は摩央に返事を返す為にスマホのキーボードを表示させ、ゆっくりと文字を打つ。相手側の誘いに乗ることを決め、自分も同様に丁寧な文体で挨拶と、誘ってくれたことへの感謝を述べるその上で今日会えるという旨を伝えた。暫く待つと、摩央から連絡が入り、位置情報が送信された。『今送った場所で待っています』というメッセージも共に送られてきた。『行ける』と伝えた以上、もう後には引けない。待ってもらっている以上、ゆっくり向かう訳にはいかない。そう思った音羽はすぐに支度をし、飛び出すように家から出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 スマホを見ながら歩くこと数十分。音羽は周りを見渡しながら、目的地へと向かっていた。摩央が示した位置情報は、代々木公園と表示されている。その付近に到着し、歩きつつスマホを逐一確認して目的地を目指した。マップで現在地を示すマーカーが目的地近くを指した時、何者かに声を掛けられた。

 

「おーい! こっちこっちー!」

 

「あっ……!」

 

 音羽の目と鼻の先に、木製の椅子とテーブルに腰掛けて、こちらに向かって手を振る人物が居た。音羽は真っ直ぐに走り、『Sunny Passion』の2人が待っている場所へと辿り着くことが出来た。

 

「す、すみません……お待たせしてしまって……」

 

「ううん! こっちこそ、急に誘っちゃってごめんね! 来てくれて嬉しいよ! キミが……東音羽君?」

 

 金色の髪を後ろで結んだ少女から話しかけられ、音羽は直ぐに姿勢を正す。

 

「はっ、はい……! 東音羽と申します! 『Liella!』のサポーターを務めてます。よろしくお願いします!」

 

「私は聖澤(ひじりさわ)悠奈(ゆうな)! よろしくねっ! 音羽君! パァ!」

 

 悠奈と名乗った金髪の少女は、歯を見せてにっこりと笑い、両手を『ハ』の字を模して開き、いつも他の人達にも行っている挨拶を音羽に対してもやってみせた。

 

「改めまして、柊摩央です。お会いできて光栄だわ。私も、名前で呼んで大丈夫?」

 

「はいっ……それで、大丈夫です!」

 

「ふふっ。ありがとう。改めてよろしくね。音羽君」

 

「よろしく……お願いしますっ……」

 

 音羽は悠奈と摩央に向かって深々と頭を下げる。2人の情報はかのん達の言葉やメディアの情報でよく知ってはいたのだが、実際に会って初めて感じた、圧倒的なオーラ。本当に、前年度のラブライブで確かな結果を残したグループなのだと、音羽は2人を目にしてその事実を理解するに至った。

 

「もしかして音羽君……緊張してるのっ?」

 

「ごっ……ごめんなさい! まさか、お会いできるだなんて思ってなくて……緊張、してます……」

 

 悠奈からそう聞かれ、音羽は正直に彼女に緊張しているのを正直に伝える。スクールアイドルである皆がこの2人に会うのは自然な事だが、サポーターである自分が簡単に会えるとは毛頭思っている筈が無く、緊張を声に滲ませている。そんな彼の様子を見て、摩央は軽く笑みを溢す。

 

「そんなに緊張しなくて良いよ。私達はただ、音羽君とお話がしたくてここに呼んだ。それ以外の理由は何もないの。気を楽にしてもらえたら、嬉しいな」

 

「はい……」

 

「ほら、座って座って! 私、音羽君の飲み物買ってくるよ! 音羽君、甘いのと苦いの、どっちが好き?」

 

「えっと……甘い方が好きです……」

 

「わかった! じゃああったかいカフェラテ買ってくるね! ちょっと待ってて!」

 

「あっ……行っちゃった……」

 

 悠奈は音羽を対面の席に座らせ、近くにあるコーヒーショップのキッチンカーへ走って行った。椅子に座った音羽は、走り去っていった悠奈の背中を目で追う。

 

「ごめんね、騒がしくて。悠奈、きっと音羽君に会えて嬉しいんだと思う。許してあげて?」

 

「はい……でも、どうして僕と会いたいだなんて……」

 

「興味があったの。『Liella!』のサポーターである音羽君がどんな人で、どんな風に皆の力になっているのか……気になってね。悠奈がすごく会いたがってたから、私の方から音羽君に連絡してみたの。急に連絡したのに……来てくれて本当にありがとう」

 

「いえっ……こちらこそ……『Sunny Passion』のお2人と会えて……光栄です!」

 

 未だ緊張でやや声を上擦らせながらも、懸命に摩央に対して言葉を紡ぐ音羽を見て、彼女は口角を上げる。思っていた通り、音羽は真っ直ぐで人当たりの良い人物なのだと摩央はそう認識し、心の中で密かに安堵した。

 

「お待たせー! はい、音羽君!」

 

「あ……ありがとうございます……! 今、お金渡しますね!」

 

「あー良いよ良いよ! これは私の奢り! せっかくここに来てくれたんだしさ、そのお礼!」

 

「えっ……? そんなっ……お支払いしますよ!」

 

「良いって! 先輩の厚意は素直に受け取った方が、もっとステキな人になれると思うよっ?」

 

「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……いただきます……」

 

 音羽は恐る恐る悠奈から紙のカップに入ったカフェラテを受け取り、そっとテーブルの上に置く。いくら悠奈の方が年上とはいえ、飲み物を奢ってもらうというのは音羽にとって嬉しさよりも申し訳なさの方が勝る。遠慮するつもりであったが、悠奈の口ぶりや態度からお金は受け取らずに押し通すというのが目に見えた為、音羽は素直に彼女の厚意に甘えた。彼は熱いカフェラテが注がれたカップに手を添え、冬の寒空の下を歩いていた事で冷えた両手を温めた。幾許の沈黙があった後、音羽、そして『Sunny Passion』の悠奈と摩央。3人での会話が広げられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、どのくらいの時間が経っただろうか。

 

 音羽は時間を確認する事もせず、只管に悠奈と摩央と共に様々な話に花を咲かせた。対面に人が居る状況で時間を見るのは失礼に値すると日頃から思っている音羽は、極力2人が退屈しないよう、雑談や日々の部活動のこと、メンバーのことを話した。幸い、悠奈と摩央は音羽の話に楽しそうに耳を傾け、そこから話を膨らませたり、音羽に聞きたかったことを聞いたりして、途切れることなく話が続いて行った。そうしているうちにいつのまにか、音羽が2人に対して抱いていた緊張感や、恐れが、嘘のように消えていた。話している時に笑みを見せることも増え、だいぶ打ち解けられたようだった。それを見計らったように、悠奈はカップに口を付けた後に、別の話題に切り替えた。

 

「さて、と。アイスブレーキングが終わったところで、音羽君に聞いてみたいこと……もうひとつあるんだ!」

 

「……? はい。なんでしょうか。答えられることなら、なんでもお答えしますが……」

 

「じゃあ、単刀直入に聞くね。……キミは、『ラブライブ』について、どう思ってる?」

 

「『ラブライブ』に、ついて……?」

 

 悠奈は先程までの楽しそうな様子から一変し、真剣な表情で一言、音羽に対してそう聞いた。音羽はその問われ方だけでは質問の意図が掴めず、その質問を復唱する。

 

「そう。音羽君はサポーターだから、ラブライブのこと、日頃から色々考えてると思うんだけどさ、ラブライブは……どんな場所だと思う?」

 

「えっと……そうですね……」

 

 音羽は顎に手を当て、考えを纏める為に思考を始める。この質問を投げかけられ、1つだけ分かったことがある。恐らく、自分は2人に試されている。普段からラブライブに関してどのようなことを考え、その上でどう行動しているのか。自分のサポーターとしての器を見る為の質問。音羽はそのように考えた。であれば、普段から自分が思っていることを素直に、正直に言葉に表す。音羽は数秒考えて出した結論を、悠奈と摩央の前で言語化した。

 

「『大好き』を伝える場所だと、僕はそう考えています」

 

「……と、いうと?」

 

 音羽の言葉を聞き、摩央が詳しく説明してもらえるようにそう聞いた。

 

「音楽で必要なことは……まず第一に、音楽が好きでなくちゃいけないと思うんです。自分が楽しみながら、その上でクオリティの高いパフォーマンスを両立する。難しい事ですが……『Liella!』の皆は、それが出来る人達だって思ってます。『大好き』だって気持ちは、他の人達にも……しっかり伝わるものなんです」

 

 音羽は、かのんの歌声を聴いてそれをよく理解している。かのんが自身の根底に抱いている、歌が大好きだという気持ち。それは、実際に歌として、ダンスとして、観客や自分自身にも伝わった。音楽を用いて他者を動かす力……それは音楽が好きだという『心』なのだと、音羽はかのんから学んだのだ。だからこそ、ラブライブという場所はその『大好き』を十二分に表現することが出来る。そして、観客の心が動くパフォーマンスを見せられる。そういう場所なのだと、音羽は考えている。故に、自分が腑に落ちていない部分も、正直に2人に話すことに決めた。

 

「それで、思ったことがあるんです。()()()()って、そんなに大事なのかな……って」

 

「どういうこと?」

 

 眉を動かしながら、悠奈は音羽にそう問う。

 

「誰かの心に響く歌やダンスを届けるなら、必ずしも勝つ事が全てではないんじゃないかなって、思ったんです。勝った、負けた、とかではなくて……『大好き』って気持ちや、歌に乗せられた想い……それらを伝えることが出来るのなら、それで良いんじゃないかって。僕は思ってます」

 

 勝ち負けだけが全てではない。それが、今の音羽が導き出した結論であった。勝ったとしても、惜しくも負けたとしても、ステージに上がってパフォーマンスを行って、それで誰かの心に響く想いを生み出せたのなら、それで良い。音羽にとっては、勝つ事を必要以上に意識している訳ではない。確かにそれを目的としているグループもあるだろうし、否定するつもりは無い。しかし、勝つ事だけに囚われては、良いものを生み出せないのではないかと考えている。勝負に固執するのではなく、観客に想いを伝える事の方が大事なのだと。音羽にとってその気持ちは揺るがない。揺るがせたくない、大切な気持ちなのだ。音羽の考えを聞いた悠奈は、何故か目を細めながら、彼に更なる質問を投げる。

 

「じゃあさ……音羽君は最悪、自分達のグループが負けても良いってこと? 『大好き』って気持ちが伝わりさえすれば、それで満足ってことなのかな?」

 

「もちろん、勝つ事も大事だとは思ってますが……勝つ事よりも、誰かの心に残るものを生み出す方が大事だって……僕はそう考えてます」

 

 真剣な顔で、音羽は悠奈にそのように返した。すると、悠奈は摩央と顔を見合わせる。摩央は残念そうに目を閉じて、小さく頷く。悠奈は彼女のその反応を見て一瞬、悲しそうに顔を歪めた。その後……彼女の表情から、一切の明るさが消え失せた。

 

「キミの言い分はわかったよ。気持ちを伝えることができるなら、必ずしもラブライブに勝たなくて良い。勝つことよりも、誰かの心を動かす方が大事だって。そう思ってるんだよね?」

 

「はい。少なくとも……僕はそう思ってます」

 

 音羽は頷いて、力強く悠奈にそう言った。すると、悠奈は先程とはまるで別人のような、冷徹な表情で音羽を見据えた。

 

「……()()

 

「えっ……?」

 

「あの『Liella!』のサポーターを名乗ってるんだから、どんな子なのかなって気になって会ってみたけど……まさか、こんな()()()()だったなんて。ガッカリだよ」

 

「へ……? 僕……なっ、何か……間違ったこと言いました……!?」

 

 悠奈のあまりの変貌ぶりに音羽は恐怖で声を震わせ、何か彼女の逆鱗に触れるようなことを言ったのか、音羽は訳も分からず2人に問うた。

 

「……音羽君。たしかに、君の言うことは正しい。まずは自分達が楽しむこと、その上で、誰かの心を動かすパフォーマンスを生み出したい。素敵だと思うわ。けど……君はラブライブに出場する上で、決定的に足りないものがある」

 

「足りない、もの……?」

 

 自分に足りないものがあると摩央に言われ、音羽はそれが何なのか分からず押し黙る。数十秒待っても彼から答えが返ってこなかった為、摩央は自身が音羽に感じた足りないものを言葉にする。

 

「……()()()()()()()()()って覚悟。それが……今の君に最も欠けているものだと、私は思う」

 

「っ……!」

 

 音羽は大きく目を見開き、2人の顔を見る。両者共に、自分に対しての疑念や辟易とした感情が見受けられた。恐怖で彼の手が小刻みに震え始める。

 

「私達は、神津島の発展の為にラブライブに出場して優勝した。勝つ為ならなんだってできたし、苦しいことも、辛いことも全部飲み込んで、糧にして今までやってきた。『負けても良い』なんて妥協したこと、1度だってないっ! 他のグループだってそう。皆、ラブライブに勝つ為に一生懸命頑張ってる! なのに……どうしてあんなことが言えるのか、意味わかんないよ!!」

 

「悠奈、落ち着いて」

 

 椅子から立ち上がり、熱を込めて音羽にそう言った悠奈を摩央は窘め、静かに席に座らせる。

 

「悠奈の言う通り、私達は勝つ為に努力してきた。誰かの心を動かすパフォーマンスは、実力を付けた後に自然と出来るようになるものだと思ってたから。百歩譲って、ステージに立つ子達が、音羽君と同じことを言うならまだ理解できる。でも……君は『Liella!』のサポーター。ラブライブで勝つ為のサポートをする人。私は、そう思ってたけど……違ったんだね」

 

「勝つ……為の……」

 

「サポーターやってる人が、虚勢だとしても『勝ちたい』とすら言えないなんて、話にならないね。勝ち負けよりも気持ちを伝えることの方が大事って……冗談で言ったのか本気で言ったのかわかんないけど……正直ぬるいよ、キミ」

 

「……っ」

 

 2人がラブライブに掛ける覚悟。想いや、覚悟の違い。それらを思い知らされたような気がした。ラブライブに勝つ為、そして故郷である神津島を発展させ、盛り上がらせるという主目的の為に死に物狂いで努力した悠奈と摩央。自分は、この2人と肩を並べるどころか、比較の対象にさえなりはしない。2人と比較して、あまりにも自分が低い位置に居る事を自覚した。

 

「サポーターっていうのは、単なるお手伝いさんじゃないんだよ? ラブライブで勝つ為には何をすれば良いのか、どういうパフォーマンスを作っていけば良いのかを皆に共有して、その上でグループを勝たせる為に行動して、最終的には優勝に導く。そこまで考えて動いた上で、やっと『サポーター』って言えるんだよ。今のキミは、ただの『お手伝いさん』止まり。私達から見れば……キミはサポーターとは言えないかな」

 

「……僕、は……皆の為に……」

 

 音羽の口から弱々しく発せられた一言に、悠奈の胸が痛んだが、それでも彼女は、彼に対して言葉を続ける。

 

「たとえばだけど、プロのスポーツ選手に付いてくれるインストラクターとか、トレーナーを想像すればわかるよ。どっちも、選手を勝たせる為に適切な指導やアドバイスをする。少なくとも、最初から『負けても良い』って考えは絶対に持たない。勝負の世界っていうのは、そういうものだよ」

 

「私は……『Liella!』に特別な何かを感じた。間違いなく、私達と優勝争いができるグループだと思った。……他のメンバー達も皆、音羽君と同じ考えを持ってるの?」

 

「……わかり、ません」

 

 音羽は、そのように返すことしか出来なかった。かのん達がラブライブや、それに伴う勝ち負けについてどう思っているかは、まだ詳しく聞いたことが無かった。皆が自分と同じ気持ちでいるかなんて、知り得ない。

 

「それすらわかんないなんて……キミ、ホントに今まで何して……」

 

「悠奈」

 

 先程よりも語気を強くし、彼女を落ち着かせる為に摩央が悠奈に圧を掛ける口調で名を呼んだ。これ以上音羽を傷付けないように、摩央が悠奈の言葉を止めたのだ。俯く音羽に、摩央が優しい口調で声を掛ける。

 

「ごめんなさい。音羽君や、『Liella!』の皆さんに嫌がらせとか、説教がしたい訳ではないの。君と会えて、話せて嬉しかったのも、全部本当のこと。でも……君の考えを基にサポートを行うと……いずれ後悔する日が来るかもしれない。そうなりたくないなら……『Liella!』の皆さんとの向き合い方や、サポートの方針を見直した方が良いと思う。いつか、私達の言うことが分かる日が来るから」

 

「音羽君……キミは優しい。その優しさがあるから、皆に信用されてるんだと思う。でも優しいから……勝ち負けのことを考えるのが苦手で、目を背けたくなっちゃうんだと思う。でもそれは『優しさ』じゃなくて、『甘さ』なんだよ。『Liella!』の皆の為を思うなら……少しは頭に入れておいた方が良いよ。ラブライブで、勝つことをね」

 

 悠奈と摩央は初めて音羽と話して、彼の言動や、行動の中にある優しさを知った。ここまで誰かの為を想える人とはあまり会ったことが無いくらい、誰が見ても善人だと言える程の良心の塊。それが音羽へ抱いた印象であった。そんな人間性だからこそ、『Liella!』の皆から信頼され、かのんからよく話題にされ、彼女から彼を褒める言葉がよく出ていたのだろう。音羽と会う前から、悠奈と摩央は彼のことをかのんから聞かされていた。その時から、『Liella!』のサポーターはどれだけ優秀なんだろう、どんな人がサポーターを務めているのだろうかと、音羽に興味が湧いていた。会う前から、音羽への期待値が幾分か上がっていたのもあったのだろうが、音羽が口にしたラブライブの考え方で、2人が落胆のような感情を彼に抱いてしまったのは紛れもない事実だった。ラブライブに臨むには、覚悟が無さすぎる。『勝ちたい』という気概や、『絶対に負けられない』という必死さが、音羽から然程感じられなかった。悠奈が激昂したのも、恐らくその為だろう。それを、摩央は窘めはしたものの、その怒りを否定するつもりは無い。彼女も、程度は違えど同じことを思ったのは本当なのだから。

 

「音羽君……君は、もっともっと成長できる。これからたくさんのことを経験して、それをバネにして生きていける強さが、君にはあるはず。今よりもずっと、強くなれると思う。だからどうか……立ち止まらないでほしい。自分が『Liella!』のサポーターだって、胸を張って言える日が必ず来るって、私は信じてる」

 

「キミの考えが正しいって言いたいなら、私達に証明してみせてよ。勝って、証明して。それで……『Liella!』のサポーターなんだって、私達に認めさせてよ」

 

 2人の言葉は、ある種の宣戦布告であった。彼を、『Liella!』を奮い立たせる為の言葉。それを受け取った音羽は、俯いた顔を静かに上げる。

 

「摩央さん、悠奈さん。……ありがとう、ございます」

 

 今にも泣きそうな顔で、音羽は2人に礼を言う。自分と会ってくれたこと、自分の欠けているものを教えてくれたこと、自分を叱咤してくれたこと。その全てに対して、謝意を述べる。震える両の手を強く握り、『Sunny Passion』の2人に対して一言、告げる。

 

「……やってみせますよ」

 

「……!」

 

 虚勢を張っている、強がっている、粋がっている。そう言われれば否定出来ない言葉であろう。だが、その一言に乗せられた感情と、思い。どんな気持ちで音羽がその言葉を言ったのか、悠奈と摩央は理解出来た。きっと、悲しいだろう。悔しいだろう。今にも怒って、叫び出したいだろう。それらの感情を全て飲み込んだ上で放った言葉。揺らぐ彼の瞳を見つめて、2人は笑みを浮かべる。

 

「そうこなくっちゃね。キミがこれからどんな道を選ぶのか、楽しみにしてるよ。音羽君!」

 

「烏滸がましいかもしれないけれど……応援しているわ。次は、東京大会で会いましょう。……またね。音羽君」

 

「はい。お会いできて、本当に……嬉しかったです」

 

「私達もよ。とても、楽しかった。ありがとう」

 

 2人は席から立ち上がり、音羽と別れの挨拶を交わし、ゆっくりと歩いて行った。音羽は暫く2人の後ろ姿を見送った後、空を見上げる。

 

 今日は、星がまだ見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 音羽と別れた後、悠奈と摩央は引き続き街を歩いていた。同じく外に居たファンの対応をしつつ、人の多い通りから抜け出せたところで、摩央が悠奈に話しかけた。

 

「それにしても、悠奈。あなた、音羽君に言い過ぎよ。あんな言い方、しなくても良かったんじゃないの?」

 

「良くないよ。私だって、言いたくなかったけど……本気の『Liella!』と戦いたかったから。『負けても良い』なんて腑抜けた考えで、東京大会に出てほしくなかったから」

 

「……そうね。いつかは、誰かが言わないといけないことだったのかもしれない。『Liella!』が、私達にとってライバルなんだって、自信を持って言う為にもね」

 

 2人がふと見上げた空に、一筋の星が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここで、立ち止まってはいられない。




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