星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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第83話 勝つか負けるか、枷か風か。

 

「「「リモートライブ!?」」」

 

 始業前の朝。かのんは普通科の教室で、ラブライブ東京大会の詳細をクラスメイトのナナミ達に話すと、3人は意気揚々とした様子で盛り上がり、声を弾ませた。

 

「ステージはどこに作るのっ?」

 

「やっぱ外苑球場!?」

 

「もちろんおっきい会場借りるんだよねっ!?」

 

 ナナミも、ヤエもココノも、結ヶ丘を背負うグループである『Liella!』は勿論相応に大きな場所を借りてライブを行うのだろうと考えており、期待を膨らませながらかのんと、彼女の前方の席に座っている千砂都(ちさと)に視線を向ける。

 

「そ、そうしたいのは山々なんだけど……今、現実的なのは……体育館かなぁって……」

 

 変に期待させてしまう事を避ける為に、かのんは正直に現状で自分が考えている場所を答えると、3人は如何にも不服そうな表情でかのんを見つめた。

 

「ど、どうしたの……? 3人共、顔怖いよ……?」

 

「どうしたもこうしたもないよっ! 東京大会でしょ!?」

 

「うん……」

 

「決勝進出がかかってるんでしょ!?」

 

「……うん」

 

「「「なのに体育館っ!?」」」

 

「ヒィッ!?」

 

 ナナミとヤエが順番にかのんに改めて、今回は大事な大会なのだろうと確認すると、3人は声を揃えて先程かのんが言っていた、現実的に自分達が利用できそうな会場である体育館を挙げた事に苦言を呈する。

 

「それはさすがに……欲がなさすぎる!」

 

「かのんちゃんさぁ! 本気で勝つ気あるの!?」

 

「決勝進出がかかってるなら尚更だよ! そこんとこ、ちゃんと考えてる!?」

 

「あはは……ごもっともです……」

 

 3人から浴びせられた、直球に自身の考えを否定される言葉の応酬にかのんは苦笑を漏らし、ナナミ達から目線を逸らす。体育館を使用する事をはっきりと却下されたかのんなのだが、逆に考えると、ナナミ達はそんなにも『Liella!』に対して期待し、もっと大きな場所でライブをしてほしいと思ってくれているのだろうと想像が出来て、不思議とそんなに悪い気はしなかった。

 

「まぁまぁ。今は可可ちゃんとおとくんが、借りれそうな会場を探しに行ってくれてるから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ!」

 

「そうなんだ! っていうか、(あずま)君……最近ちょっと頑張りすぎじゃない?」

 

「そうそう。生徒会の仕事もあって疲れてるはずなのに……毎日皆をサポートして、おまけに会場探しまで……」

 

「大丈夫かなって、私達で話してたんだよね……ちょっと、心配で……」

 

 かのんが問い詰められているところに、千砂都が可可と音羽(おとは)が今会場を探してくれていることを補足し、少し落ち着くように宥めると、3人は最近の音羽の様子を憂い、不安気に彼のことを心配した。かのんは普段からメンバーのことを仲の良いナナミ達3人に話しており、そのメンバーには言わずもがな音羽も含まれる。確かにかのんは3人に直近の音羽のことを話し、練習が休みの日にまで音羽が部室に来ていたのを目撃したというココノの話もあり、明らかに無理をしているのではないか、と、スクールアイドル部に無関係の生徒達でもそう思えるくらいには、今の音羽はとにかく余裕が無さそうで、何かに取り憑かれているのではないかと錯覚する程に『Liella!』の為に尽力している。その姿は頼もしいと思えると同時に、不安な要素も周囲に感じさせてしまっている。

 

「んー……おとちゃんは『全然大丈夫!』って言ってるし、体調崩したりとかはしてないんだけど……私も心配なんだ。昨日も、いきなり部室でおっきい声出したりしてて……」

 

「あ、それ私も聞いたかも。私達が部室に入る前におとくんが居て、その時おとくんしか部室に居なかったのに、『うるさい!』って怒鳴ってて……」

 

「えっ……それ、ちょっとヤバくない……?」

 

「おとちゃんに、そのことについて聞こうと思ったんだけど……なんか、聞けなくて……」

 

 昨日、かのんと千砂都が初めて聞いた、音羽が発した不可解な言動の数々。音羽以外に誰も居ない部室で、彼は誰もが驚くような気迫で怒鳴ったり、小さな声で何かぶつぶつと呟いていたり、明らかに以前の音羽には見られなかったような言動が相次ぎ、2人も彼に対して心配な面持ちで居る。そんな状態でも、音羽は皆と話す時は明るく、普段通り笑顔も見せる。しかし、かのんは最近、その笑顔に違和感を覚え始めている。言語化するにはあまりに抽象的で、漠然としているのだが、今までの彼とは何かが『違う』という事だけは分かるのだ。その違和感を上手く言い表せないもどかしさは、同時に胸の痛みとしてかのんに刺さって行く。

 

「私達も東君の力になりたいな。放っておけないし!」

 

「ありがとう……」

 

 ナナミの言葉に、ヤエとココノも強く頷く。音羽とは学科が異なり、そこまで深く関わる間柄という訳ではないのだが、かのん達の良き友人、そして生徒会副会長という立場である彼の助けになりたいという気持ちは本物である。かのんはナナミに感謝しながら、ラブライブ東京大会のステージのこと、そして音羽のことをどうすべきか。彼女は真剣に考え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「どーーしよーーっ……?」

 

「だから言ったのよ。地味すぎだって」

 

 放課後。今日はスクールアイドル部の練習は無く、各々自由に行動出来る日ではあるが、かのんはすみれと共に結ヶ丘敷地内のベンチに腰掛けながら、東京大会の今後について考えていた。だが、考えがなかなか纏まらず、かのんが疲労を滲ませたような声を漏らしながら上を向いた。

 

「でも、皆冬休みだし……外だと色々大変だと思って……」

 

「あんたは気を遣いすぎなのよ。もはや『Liella!』は、この学校の代表よ? ワガママ言うくらいで良いんじゃないの?」

 

 すみれは勢いよくベンチから立ち上がり、かのんに堂々とそう言った。確かに自分達は今では結ヶ丘を背負うグループになれているのはなんとなく感じてはいたが、かのんはすみれの言うようにまだ我儘を言える程の自信を持ち合わせている訳ではないし、それで皆に苦労をかけてしまうと思うと、尚更そのようなことは言えない。何も悪びれる様子の無いすみれに目をやりながら、かのんは溜息混じりに口を開いた。

 

「すみれちゃんは良いよね~、そういう性格で」

 

「はぁ? それ、どういう意味?」

 

 どこか皮肉られたように感じたすみれは、ムッと顔を顰めてかのんを睨む。考えが纏まらなかったのもあってか、彼女の表情は浮かないものだった。

 

「私は……本当は、歌えるだけで……」

 

 周りの皆は、『勝てる』だとか、『絶対に優勝できる』等と励ましてくれており、嬉しい気持ちは確かにある。だが、かのんはどうにも、音楽で勝敗を決めたり、競い合うような、そのような遣り取りをすることに疑問を抱いているのも事実であった。気分が晴れない様子のかのんを見つめながら、すみれが言葉を発しようとしたところで、背後から小さく呻き声が聞こえた。振り返ってみると、こちらに近付いてくる人影が2つ。学校から配布されているコートを着用している、茶髪の少年と灰色の髪を持つ少女。同じスクールアイドル部の仲間である、東音羽と(タン)可可(クゥクゥ)であると、2人はすぐに分かった。

 

 2人は重い足取りでこちらに歩いて来ており、可可は如何にも疲弊し切った様子で、そんな彼女に音羽は肩を貸して歩いていた。彼も息が上がっており、2人がかのん達の元へ合流すると同時に可可がかのんの胸元へ身体を預ける。

 

「……ダメだったデスぅ……パタリ……」

 

「可可ちゃん!?」

 

「あんた達、どこまで行ってきたの……?」

 

 2人のあまりの疲労ぶりに、すみれは些か心配そうに問う。

 

「音羽とイッショに、アリとアラユルライブ施設をあたりマシタが……スクールアイドルには不向きダロウと、皆サン申し訳なさそうニ……」

 

「行けるところ全部行ってみたけど、どこも断られちゃって……ごめんね……」

 

「良いわよ。元々、急に頼んでステージを貸してもらえるとは正直思ってなかったから。あんたも休んでなさい?」

 

「わっ……ありがと……」

 

 昨日に引き続き、今日も可可と音羽は学校が放課となってから、早急に自分達に貸してくれる会場を探していた。しかし、昨日と同じくどこの会場にも許可を貰う事が出来ず、昨日と今日合わせて足を運べる場所は全て当たったが、何の成果も得る事が出来なかった。音羽はかのんとすみれに謝罪するが、仕方の無い事だと伝え、すみれは音羽をベンチに座らせる。

 

「たしかに、この周辺は元々スクールアイドルに馴染みは薄いし……」

 

「でも、そろそろ決めないとじゃない?」

 

「うん。家に帰って、一晩考えてみるよ!」

 

 疲労で動けない可可を介抱しながら、かのんは自分も東京大会のステージをどうするか考える為に、1度家に帰宅することを伝える。それを聞いたすみれは彼女から可可を預かり、今日は解散することにした。かのんは音羽にゆっくり休むように伝え、ゆっくりと帰路を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 自宅に到着したかのんは、普段通りに帰ってきたことを母や妹に伝えると、入口付近の席に、とある人物達が座っていた。

 

「「おかえりー!」」

 

「……ふぇっ!? 摩央(まお)さんに……悠奈(ゆうな)さんっ!?」

 

 明るい声で、帰宅したかのんに声を掛けた2人の女性。『Sunny Passion』のメンバーである聖沢(ひじりさわ)悠奈と、(ひいらぎ)摩央が訪れていた。店内にこの2人が居る事に驚きを隠せないかのんを見ながら、2人はサプライズが成功したかのように、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「パァ! お茶しに来ちゃった!」

 

「久しぶり。東京大会に向けて、買い出しに来てたんだ。ちょうど近くを通りかかったから、ここで一休みしてたの」

 

「そうだったんですね……わぁっ、こんなに……」

 

 2人の対面の位置にある椅子には、沢山の紙袋に入った荷物が置かれており、今回行われる東京大会の為に気合いを入れて準備に臨んでいるであろうことが伺えた。かのんは摩央に視線を移すと、彼女は優しく微笑んだ。

 

「ふふっ。せっかくだし、少しお話しない?」

 

「は、はいっ! ぜひ……!」

 

『Sunny passion』の2人からなら、何か良いヒントを得られるかもしれないと思ったかのんは、摩央の誘いに応じ、話をしてみることにした。悠奈と摩央はすぐに荷物を自分達が座っている席に移し、かのんを対面の席に座らせたた。席に着いた彼女は、『Liella!』の近況を2人に話し、自分達の現状を摩央達に理解してもらうに至った。かのんの言葉を聞いた悠奈が、頷きながら言葉を返す。

 

「……さすが。本番も近いから、練習にも熱が入ってるみたいね!」

 

「はい! 入学希望者も増えたみたいで、今……とても楽しいです!」

 

「パァッ! それがいっちばん!」

 

「お互い正々堂々、最高のステージにしましょう」

 

「はいっ! もちろん、そのつもりです!」

 

「でも……」

 

『Liella!』と結ヶ丘高校の現状を聞き、上手く行っている事を喜ぶ悠奈と摩央。だが、2人は真剣な表情でかのんを見据え、悠奈が少し身を乗り出して、かのんに幾分か距離を詰めて口を開く。

 

「勝つのは私達、『Sunny Passion』だよ!」

 

「君達に、負けるつもりは無い」

 

「……っ! 私達も、負けません!」

 

 悠奈と摩央の宣戦布告とも取れる言葉に、かのんは一瞬気圧されるが、彼女も負けじと2人に強い気持ちを持って返す。2人は先日会った音羽とはまた違うレスポンスを受け、驚きながら硬直する。悠奈達の様子を見て、自身の発言が身の程知らずだったのかと感じたかのんは、慌てて姿勢を正す。

 

「あ……すみませんっ! 偉そうに言ってしまって……」

 

「ううん! むしろそれくらい言ってくれないと、こっちとしても張り合いがないからね!」

 

「そう……ですか。……あの、場所を移しませんか? ここだと、ちょっと話しづらいので……」

 

 かのんは自分が今抱いている悩みや思うことを2人に話してみることを決め、一般の客も来ているこの喫茶店では少々話すのが憚られる為、ここではなく別の場所で話をしないか提案した。悠奈と摩央はそれを了承し、一旦3人は店から出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 暫く歩き、3人は表参道にある、草木が繁茂している広場に着いた。人通りも少なく、ここが話をするのに良いと判断したかのん達は、そこに配置されているオブジェに腰を下ろし、喫茶店での話の続きを始める。かのんの話に静かに耳を傾け、彼女が自分達に何を伝えようとしているのかをしっかりと読み解く。かのんが話し終えたところで、確認の為に摩央が彼女の口から出た単語を復唱した。

 

「ラブライブで勝つ、意味?」

 

「はい。皆は、『優勝だ!』、『勝ったら全国だ!』とか言うんですけど……私は、歌で勝ったり負けたりって、あんまり……」

 

 それと同じようなニュアンスの言葉を、音羽からも聞いた覚えがある。勝ち負けではなく、『大好き』という気持ちや、歌に乗せられた想いを伝えることが出来るのならそれで良いのではないか、と。彼とかのんはやはり、考え方が共通している面があると気付いた2人は、先日音羽に投げかけた同じ質問を、彼女にもしてみることにした。

 

「じゃあ、キミは私達に負けても平気……ってこと?」

 

「い、いえっ! 良い歌を歌いたいという気持ちはあるんです! 皆とたくさん練習して、最高のライブを目指したいって……そう思ってます!」

 

 音羽とは違い、『Sunny Passion』に負けるのは嫌だと、かのんは悠奈の問いに首を横に振った。敗北する事に嫌だという感情を抱いている時点で、音羽とは異なる考え方なのだと分かった2人は、密かにほっと胸を撫で下ろす。負けるのは嫌だが、かのんにはかのんの考え方がある。皆と共に最高のライブを目指したい。それが彼女の本音であり、目標の1つでもある。だが、それとは別に、自身が思う本当の気持ちを2人の前で言葉に表す。

 

「でも私……『ずっと歌えないかも』って不安があったから……自分の中にある気持ちを、歌で自由に表現できるだけでもう、本当は……それだけで幸せで……」

 

 今年の春先までの彼女は、自分はもう二度と歌う事が出来ないのだと思っていた。音楽とは無縁で、ただ流されるままに変わり映えの無い、何の色も無い生活をしていくのだろうという、漠然とした不安を抱いていた。それを克服し、今ではいつ如何なる時でも普段通りに歌える心の強さを手に入れた。それでも、かのんにとっての歌とは、勝ち負けを決めるようなものではなく、楽しいものだと今でも思っている。その気持ちはきっと、生涯揺らぐ事は無いだろう。しかし、そこに明確な勝敗という概念が介在して、『楽しい』という気持ちが薄れたり、失われるのが怖い。故にこそ、『ラブライブ』という、音楽に勝利と敗北の概念がある大会に、最近になって疑問を抱くようになったのだ。かのんが自分達に言いたいことを理解した悠奈と摩央は、無言で首を縦に振った。

 

「……なるほどね。歌に勝ち負けが必要なのか、疑問に思ってるんだね」

 

「キミの言うことは分かるよ。歌は、本質的には競うものじゃないかもしれない。自分1人でも、楽しめるしね!」

 

「ですよね! お2人もそう……」

 

「……だとしても」

 

 自分の意見に2人も同意してくれたのだと思い、明るく言葉を返そうとしたかのんを遮り、悠奈が率直に自身の考えを彼女に告げる。

 

「競い合うことで、より高め合うことができる。実際、ラブライブが行われることによって、スクールアイドルのレベルは格段に上がったと言われてるんだ!」

 

 悠奈にそう言われ、かのんは以前可可が言っていた言葉を思い出す。近年のスクールアイドル人気は、留まる所を知らない領域にまで達していて、毎年新たなスクールアイドルが生まれ続けているのだと。そうなっている要因の1つに、昨今のスクールアイドルの歌やダンスのレベルの高さが挙げられる。日々の練習や努力に裏打ちされた、高い技術で為されるパフォーマンスに魅了され、『スクールアイドルになりたい』と願う若者が後を絶たない。男女問わず、スクールアイドルを目指す者は数多く存在する。その現状を作り出しているのはやはり、ラブライブという大会の存在が大きい。

 

 自分達と近い年代の少年少女が、ライバルとして他のグループを意識し、『追い付きたい』、『追い越したい』と強く思うからこそ、その意志が日々の研鑽に繋がり、互いに競い合う構図が生まれる。それにより、ラブライブで敗退しない為の努力をグループの皆で重ねる。競い合う事でしか生み出されない、高度な技術が身に付く事だってある。音楽で勝ち負けを決める事は、一概に悪い事ではないのだと、悠奈と摩央はそう感じている。かのんは悲しげに目線を下に向け、そういう意見もあるのだと、悠奈の言葉を飲み込んだ。

 

「そう……ですか……」

 

「納得いかない?」

 

 かのんの表情を見て、悠奈がそっと問い掛ける。

 

「いえっ……まだ、そこまで気持ちが追い付いてないというか……」

 

「大丈夫。ラブライブで歌えば、すぐ気付くはずよ。何故皆勝ちたいか。いや……『勝たなきゃ』って思うのか」

 

 摩央がかのんの瞳を真っ直ぐに捉え、はっきりとそう口にした。『ラブライブ』という場で歌えば、何故他のグループが勝利を求めるのか。何故『勝たなければいけない』という使命感を抱いて、ライブを行うのか。その真意が見えてくるのだと。今のかのんには、摩央の言い分が半分も理解が出来なかった。2人の言葉を、現状の自分では咀嚼する事しかままならない。かのんにも、先日会った音羽にも共通して言えることは、ラブライブに出場するに当たって、勝利を渇望する気持ちが薄いこと。そもそも、音楽で勝ち負けを決めるというのがあまり見えていないという印象を、悠奈と摩央は2人に抱いていた。今後の『Liella!』の為に、言わなくてはならないと決意し、摩央は走る胸や腹の痛みに耐えながら、静かに口を開いた。

 

「……そういえばこの前、君達のサポーターである、音羽君に会ったの。SNSでやり取りをしたら、快く会ってくれてね」

 

「おとちゃんと……? ほ、ほんとですか!?」

 

「ええ。とても……良い子だった。私達が思ってた通り、真っ直ぐで……心優しくて、グループを支えるにあたって必要な技術も知識もある。1人の人間として、私達は彼を尊敬しているわ」

 

「はい……! おとちゃんは、私達の自慢のサポーターなんですっ! いつも私達の為に頑張ってくれて、曲も作れて、アドバイスも的確で……とても、優しくて。皆……おとちゃんのことが大好きなんです!」

 

 あの『Sunny Passion』の2人から音羽のことを褒められ、認められたのだと思ったかのんは、心から嬉しそうに音羽のことを話した。先程までの俯いていた様子から一変し、音羽のことになると即座に笑顔を見せるようになったかのんを見て、またしても摩央の胸が痛んだ。

 

「……そう。信頼しているのね。音羽君のこと」

 

「はい! おとちゃんが居てくれれば、不思議と大丈夫だって思えるんです。私だけじゃなくて……他の皆も、そう思ってるはずです!」

 

「っ……」

 

 悠奈の表情が一瞬、歪んだ。辛そうに、それでいて苦しそうに。かのんの視線が主に摩央に向けられていた為、彼女に悟られなかったのは、ある種救いであった。かのんや、『Liella!』に所属するメンバー全員が音羽を信用し、頼りにしている事。それら全てを理解した上で、摩央はかのんにあることを告げる為に口を動かす。

 

「私達は、音羽君を好ましく思ってる。これからも、彼がどんどん成長していくのを願ってる。その上で……言わせてもらうわね」

 

「……? 摩央さん?」

 

「音羽君は、今後『Liella!』にとって()()になる」

 

「……え?」

 

 自分を凍り付かせるかのような冷たい風が、容赦なくかのんの身体にぶつかってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




冷たく、深く突き刺さる。その身を裂くかのように。




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