ウマ娘 ワールドダービー RTA 称号「沈黙も栄光も超えた先」取得 DLC使用チャート   作:星ノ瀬 竜牙

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先駆者様の凱旋門賞が終わったので初投稿です。
僕の小説見るより面白いので先駆者様のブルボン凱旋門賞RTAを読んで、どうぞ。


ちなみに僕は小説の書き方を忘れたので難産です。


向き合う為に

分からなかった。分かるはずなどなかった。

あの世界はなんだったのか、理解すらできなかった。

 

暗い暗い、何処までも深く沈んで溺れてしまうような。おぞましい世界。

 

「あれは…………何?」

 

神戸新聞杯が終わったあとの、私を見つめるエアグルーヴの痛ましいような視線が、スペちゃんの不安そうな顔がいやに頭にこびりつく。

 

トレーナーさんの、深刻そうな表情を思い出す。

あの人は、きっと何かを知っている。

 

「直接……聞くべきなのかしら」

 

あの人が知るもの。見たもの。それはきっと、私が見たあの世界の事。

知るべきなのか、私は少し。いや、凄く怖いのだろう。

 

───────

 

「私は、教えてもらうべきだと思います!

トレーナーさんはきっと、聞いて欲しいと思いますから!

スズカさんが困ってるなら、助けてくれます!

トレーナーさんはそういう人ですよ!」

 

スペちゃんはそんな風に私の背中を押してくれた。

我ながら情けない話。後輩で自分を慕ってくれる友達。そんな彼女に励まされてしまった。

 

───────

 

「そうだな。私よりも、トレーナー自身に聞いた方がいいだろう。

私は結局、お前に見せることしかできない。言葉で語るのは容易い。

だが……お前はそれで納得はしないだろう。スズカ?」

 

エアグルーヴはそんな風に苦笑いを浮かべた。

私の事を本当によく理解してくれる友人だった。1つ上の先輩だからなのか。

或いはライバルだからこそなのか。励ますのではなく、彼女は単刀直入に、簡潔に。ならばトレーナーに聞けと事実だけを言い切った。

そういうヒトだ。エアグルーヴは。

 

「本当に、トレーナーさんを信頼してるのね。エアグルーヴは」

 

「ま、待て。スズカ、それは今関係……いや関係はあるが!関係はあるが!そういう話ではないだろう!?」

 

そしてちょっと素直になれない所とか。

そういう所でトレーナーさんが気付けなくなるんじゃないかしら?

 

「スズカ!?」

 

───────

 

そうして結局、二人に背を押されて私はトレーナーさんに話を聞こうと思い至った。

 

「君が見た、景色……か……」

 

なんと言ったらいいのか。と

困ったようにトレーナーさんは私に本を渡して苦笑する。

ちょうどトレーナーさんも、本を渡したかったらしく都合があったのだ。

 

「本当なら、天皇賞・秋で実際に肌で感じてもらって……そのまま教えるつもりだったんだ。でも、うん。そうだね。これは僕のミスだ。

あの時、予め教えておくべきだった。

そうであれば君は動揺しなかったしモノにしていたと僕は思う」

 

「それって、エアグルーヴが言っていた……?」

 

「そう。エアグルーヴが見せたかったもので、僕が教えたかったものだ。

サイレンススズカ、君は……『領域(ゾーン)』というものを、知っているかな?」

 

領域。聞いたことはある。アスリートが時折目覚めるというそれ。

動くものが止まって見えたり。スローモーションで見えたり。雑念とかそういうものが一切なくなったりするらしい。

 

「概ねその解釈であってる。けど、ウマ娘の領域はちょっと他のゾーンとは形が違うんだ。性質が違うと言うべきかな」

 

「性質?」

 

「そう、性質。早い話、ウマ娘の領域とは己の体現。

ある種の心境。心の奥底にある本能的な部分を掘り起こすものでもあるんだよ」

 

それってつまり……私は……

 

「なにもない世界を望んでいた?って思ったでしょ。

それは違う。多分スズカ、君が視たのは……過程、或いは上澄みの部分だけだと思う。簡潔に言うなら 極論そのもの。かな」

 

「極論そのもの……ですか……?」

 

「そう。君が本質的に望んでいるのは、僕の予想通りなら

先頭に居る時に見える静かな景色だ。

何処までも先頭で走り抜けること。先頭で居るって事はつまり他のウマ娘の走る音とか、駆け引きとか、そういうのを求めない。って事にも繋がるんだ。

つまり音もいらない視界にはなにもない。本当に真っ暗な世界って君が望む静かな景色そのものだろう。みたいなそういう極論だよ」

 

「……凄く横暴じゃないですか?」

 

「領域は常に横暴なものだよ。無茶苦茶な事を通すのがウマ娘の領域だ。

エアグルーヴの札幌記念とか。本当に無茶苦茶やってたでしょ?」

 

「ああ……」

 

我が物顔で、ターフの全てを支配し制圧したエアグルーヴの走り。

確かに横暴というか。天上天下唯我独尊というか。女帝らしい、支配の力だったなとは思う。

 

「蒼い炎はその現れだよ。他の領域を焼き尽くして

己のみがそこに立つ。理想を体現するためならそうなる事も病むなし。そういう考えと、己の走り抜けた後に道ができる。そしてその道を後に続くウマ娘が走れるように火を灯す。道標として。そういう思いが重なって目覚めたのがエアグルーヴの領域だ。

……うん、まあもう1個の方は僕じゃ推し量れないというか……それをそうと決めつけるのは流石にトレーナーとしてどうかと思うから言えないんだけどね。

まあ強いて言うなら、彼女の誇りを体現してるといえる領域がもう1つあるんだよね。エアグルーヴは」

 

トレーナーさんは本当にエアグルーヴの事をよく理解してる。

確かにこれはエアグルーヴが慕うだけの事はあるんだなと感心してしまうほどに。

ただ彼の話を聞いていると疑問も思い浮かぶ。

 

「あの、領域って二つも目覚めたりするんですか……?」

 

「……うーん、そこはなんとも。

ただ、今まで使っていた領域を結論ではなく過程にして、次の段階へと進めて二つ目の領域を作り上げる。っていうのを視ることはあるかな。

だから、エアグルーヴみたいに今まで使っていた領域を地盤にせずに二つ目を持つ事って珍しいんだよね……そこら辺は僕もなんとも言えないかな……

そうかなぁ。みたいな予想はあるけど確証じゃないからね」

 

「そうなんですね……

あの……そういえば、視てきた。と言ってますけど……

トレーナーさんってその領域が見える……んですよね?」

 

「ああ、うん。物心ついた頃からね。

それ以外にもまあ……視えるものはあるけど、領域は視えるんだ。はっきりとね」

 

だからこそ、神に讃えられるような領域も見たし、掟破りの大地が弾むような領域も見たことがあるよ。と苦笑いを浮かべていた。

 

「凄いですね……」

 

改めて彼の才能というか、凄さを認識させられる。

なるべくしてトレーナーになったような。そんな何かを感じさせる人だった。

 

「……そうでもないさ。寧ろ、これは呪いだと思う。自論だけどね」

 

「呪い……ですか?」

 

「うん、まあ……日本のウマ娘は凱旋門賞には勝てない。

みたいなそう言う眉唾ものみたいな話だけどね」

 

そういう目を持ったトレーナーは、新人の頃から天才のレッテルを貼られやすく。そのせいで期待に押し潰されることもある。だから呪いなんだ。と肩を竦めてトレーナーさんは笑った。

 

「話が逸れたね。さて、改めて……スズカが望む回答に関して話そうか。

結論から言ってしまうと君の領域は暗い世界(そこ)じゃない。

更に深く、潜ったその先に本当の領域があるはずだよ。

君が望む、本当の景色だ。だけどそれを見るのが難しいのも事実だ。

けど、君なら成せると僕は信じるつもりだ。

天皇賞・秋で、君はモノにできると僕は思ってる。

まあ、うん。あれだよ。何も見えない真っ暗な世界なら、

灯りを見つけてしまえばいい。灯りの先に道はあるはずだ。

それに……その灯りは、既に心当たりがあるんじゃないかな?」

 

「……エアグルーヴ」

 

「正解。彼女の炎を糧にするんだ。トリプルティアラの女帝を踏み台にしろ。

無理をして勝てとは言わない。ただ彼女の領域は君にとって灯火になるはずだよ。

それから、これは……僕の自論だけど、領域とは心の在り方だと思ってる」

 

「心の……?」

 

「そう、心の在り方。心持ちが変われば世界も変わる。

……スズカ、今君は……君自身を信じられるか?」

 

「それは……」

 

はい。とは答えれなかった。

神戸新聞杯の前日に私はトレーナーさんに言った。

私らしく走る(にげる)と。

でもその結果私は暗い世界に沈んで、フクキタルに負けたのだ。

だから、自分を信じて走るのが怖いのだ。……だからこそ、あの世界は真っ暗だったのかもしれない。

 

「……なら、改めて言うね。スズカ。

僕は、君に楽しく走って欲しい。君らしく走って欲しいんだ。

その先に、君の望む景色がある。僕はそう思ってる。

辿り着きたい場所があるなら、その先へと進めってね」

 

Winning the soul(勝つための心意気)……」

 

「そういう事。自分の心に向き合って、君が君らしく走れたその時

きっと領域は君の望む形で目覚めてくれる。領域は君の心そのものなんだから。

難しく考えなくていいんだ。クリークやエアグルーヴがそうだったように。

君の心が望むままに走ればいいんだ」

 

「私の心……」

 

……私の頭を撫でながらトレーナーさんは笑う。

信じてくれる。この人はきっといつだって、ウマ娘を信じているんだ。

君ならできる、君ならやれるって。誰よりもウマ娘を理解して愛しているから。

少しだけ心が晴れた気がした。

 

「トレーナーさん……今日は、ありがとうございました」

 

「どういたしまして。こっちも渡し忘れてたからね。それ」

 

私が抱える本を指差して苦笑いをする。

本当ならこの前本を渡してくれた時に纏めて渡すつもりだったらしい。

こういう少し抜けてる所がエアグルーヴは放っておけないのだろう。

 

「スズカ、エアグルーヴは君との全力での対決を楽しみにしてる」

 

「はい」

 

分かっていた。彼女が私と戦う事を楽しみにしていること。

気付いていた。けれど、今の私が彼女と全力で戦えるか怖かった。

 

「トレーナーさん。今は多分……自分を信じて走るのは難しいと思います。

だから……天皇賞・秋までゆっくりと自分自身と向き合うつもりです。

……エアグルーヴと全力で走るためによろしくお願いしますね」

 

「任せて。その為のトレーナーだ。

君が君自身を信じれるようになるまで、全力でサポートするよ」

 

私の思いを受け止めるように、トレーナーさんは笑った。

 

「ふふ……ありがとうございます。でも、あまりそういう事を

エアグルーヴ以外に言わないようにしてあげてくださいね?

エアグルーヴが嫉妬しますよ?」

 

「それはちょっと困るかなぁ……」

 

スペちゃんやエアグルーヴに背中を押されて

トレーナーさんに相談して、本当に良かったと思えた。

ここから先は私が向き合わなきゃいけないことだ。

トレーナーさんは全力で手を貸してくれる。けれど、それに甘えてはいけない。

……私が私らしく、そしてエアグルーヴに全力でぶつかる為に。

 

うん、頑張ろう。

信じてくれるトレーナーさんやスペちゃん、エアグルーヴの為にも。




オオカワ兄貴
一升生水兄貴

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