仮面ライダーACT [アクト]   作:ヨッツ

1 / 40
──まるで物語のようだった。
平和な日常だったはずの時間に突如現れた
人ならざる怪物、迫りくる死。
現実離れした多くの光景の最後に俺は──。
ヒーロー(仮面ライダー)を、見たんだ。

『仮面ライダー アクト』



本編
第1章 ~私は仮面ライダー~


古ぼけたアパートの1室で眠る青年が一人。

ベッドの周りには

『五色戦隊 ゴニンジャー オーディション開催』

と書かれた書類と

書き損じた履歴書の用紙が散らばっている。

 

『都市伝説「仮面ライダー」。

 この名前は古くは50年以上前から

 民間で語り継がれてきました。

 それは、人々にあだなす悪の組織と戦った

 虫の力を宿した戦士達。

 ──というどこから聞いても

 唯の作り話のようなお話です。

 しかし、かつて日本で1年という期間に渡って

 連続的に起こった猟奇的な殺人事件の数々、

 その裏で事件に巻き込まれながら

 生還した人々の話の中には

 必ずこのような言葉が残っています。

 「仮面ライダーが助けてくれた。」

 今日は、そんな現実離れしたにも関わらず、

 存在が信じ続けられている

 そんなヒーロー達の姿を迫ってみましょう──。』

 

つけっぱなしになっていたテレビから

そんなテレビ番組の音声が聞こえる。

 

「・・・やっぱりこの先は見れないんだな。」

 

夢から覚めた青年はそう言うと体を起こした。

 

「でも・・・仮面ライダーの夢が見れたから

 きっと今日はいい日になりそうだ!」

「さて──今日は大事なオーディションの日だし、

 遅刻しないように・・・。」

 

時計を見れば時刻は午前9時過ぎ。

 

「ね」

 

10時からのオーディション開始には

既に1時間を切っていた。

 

「寝過ごしたーーーー!?」

 

ベッドから飛び出した青年は

すぐさま身支度を整えバイクを発進させた。

青年の名前は彩羽雄飛(いろはゆうひ)(22) 

俳優志願のどこにでもいる青年である。

 

──会場までは精々30分だ

全力で走らせればまだ間に合う。

 

「 ぇぇん」

 

そう思いながら道を曲がった青年の耳に

ある声が聞こえた。

 

「うぇぇぇぇん」

 

─泣き声だ。

ふと目を向けると3歳くらいだろうか

小さな女の子が泣いているのが見えた。

近くに親らしき姿はない

迷子だろうか、

それともどこかケガでもしたのだろうか

なんにせよ、その子は声を上げて泣いていた。

 

「うぇぇぇぇん」

 

そんな少女の姿を見て雄飛は──

急いでいたことも忘れて少女に駆け寄っていた

 

「大丈夫?どうかしたの?」

 

「おかーさん・・・・どこぉ?…ヒック」

「お母さんとはぐれちゃったんだ?」

 

少女はコクリと頷く

 

「そっか、でも大丈夫。

 お兄ちゃんに任せなさい!」

 

そういって雄飛は少女の手を引く。

なんてことはない、目指すは交番である。

 

「本当にありがとうございました!

 ──ほら、あんたもお礼言いなさい。」

「ありがとー」

「いえいえ、よかったです。」

 

少女はこの付近に住んでいる子らしく

交番からすぐに親へ連絡がついた。

すぐに母親がやってきて

今は少女の手をしっかりと握っている。

 

「それじゃ、俺はこれで。

 もう一人で勝手に遊びに行っちゃ駄目だよ?」

「はーい」

 

手を振る少女と

もう一度礼をする母親に見送られながら

雄飛はその場を後にした。

 

バイクを停めた場所にまで戻ってから、

ある違和感に気づく

──何かを忘れている気がする。

 

「・・・オーディション!?」

 

急いで時計を確認。

時刻は午前10時15分、

今からバイクを走らせても

10時30分は過ぎるだろう。

つまり30分もの遅刻であり、

どこからどう考えても自分は選考対象外である。

 

「やらかしたぁ・・・。」

 

ガックシとうなだれながら呟く。

 

この男、こんなことばかりである。

前回のオーディションの日には

足を悪くした老人を担ぎ、

そしてそのまた前には

産気づいた妊婦のために救急車を呼んだ。

そんな人助けばかりして

毎度毎度遅刻を繰り返していた。

 

「まぁ仕方ない。人助けはいいことだし!」

「次のチャンスがあるさ!」

 

強がりである。

そういって前を向いた目線の隅に何かが映った

 

「ん?」

 

地面に落ちていたそれを手に取る

 

「なんだこれ?・・・カード?

 いやチケットか・・・?」

 

手に取ったそれは

手のひらサイズの薄い長方形型の道具だった。

表面にはタイトルらしきある言葉が記されている。

 

「・・・・・MASKED(マスクド)REIDER(ライダー)?」

 

「MASKED RIDERって

 ──仮面ライダー題材の作品の小道具か!?

 俺の知らない作品が!?

 いやでもそんな情報何も聞いてないし・・・・」

 

雄飛は興奮して拾い上げたものを隅々まで眺める。

 

「ファンメイドのグッズにしては

 出来が良すぎるし・・・

 まさか情報解禁前の超レアものとか!?」

 

実はこの男、重度のヒーローオタクである。

それが5人組のカラフルな集団でも、

光と共に現れる巨人でも

ヒーロー番組となればグッズは集める、

新商品の情報はすぐに耳に入れる。

そんなことに思いを燃やし続ける、

そんな男だった。

俳優志願もヒーロー役をやりたいがためである。

 

「いやしかし、これは落とし物。

 それを持ち帰るなんてことはしてはいけない。

 ・・・でも気になる・・・。すごく気になる!」

 

悪心と良心がせめぎあう。

 

「──よし!落とし主を見つけて詳細を聞こう!

 それぐらいならOK・・・のはず」

 

そういって一旦自分のポケットに

チケットをしまい込んでバイクにまたがる。

どちらにせよここまで出来のいいものだ、

ファンメイド(偽物)でも情報解禁前の小道具(本物)でも

きっと探し回っているはずである。

そう思って雄飛はバイクを走らせ始めた。

 

その背後に彼がポケットにチケットを詰め込む所を

見ていた何者かがいたことに気づかずに──。

 

「見つからないなあ」

 

もうすぐ日が沈む程度には時間がたっていた。

近くの公園に立ち寄り、独り言ちる。

一日中聞き回ったが落とし主は見つからなかった。

 

さすがに持ったまま家に帰るのはまずい、

それをしてしまうと行き着く先は窃盗である。

仕方がない、大変、・・・大変!惜しいが

このチケットとは縁がなかったということにして

交番にでも預けよう。

そう考えた雄飛は、朝に少女を届けた

交番へ向かうためバイクに跨ろうとしたその時

 

「やっと見つけた!泥棒男!」

「え?」

 

背後からそんな声が聞こえてきた。

振り返ってみると自分より少し年下くらいだろうか、

綺麗な女の子が自分を指さしていた。

 

「泥棒って・・・えぇ?」

「とぼけないで!盗んだチケットを早く出しなさい!」

「ちょっと待ってくれ!チケットって、・・・これ?」

 

ポケットから拾ったチケットを取り出す。

 

「やっぱり持ってた!早く返しなさいこの泥棒!」

「泥棒って・・・誤解だ!俺はこれを拾っただけd」

「問答無用!」

 

そういうと女の子は掴みかかってきた。

ぎりぎりで回避する

 

「待って!話を聞いてくれって!

 俺は拾っただけなの!届けようとしたの!」

「ならなんで朝から今まで持ってんのよ!

 届け出もせずに持ち逃げする気満々じゃない!」

「うっ・・・それは」

 

言い淀む、下心がなかったのは嘘になる。

 

「そらみろ!やっぱりどろb・・・・危ない!」

「え?」

 

そんな口論をしていると突如女の子が

自分の腕を掴んで引っ張った。

突然腕を引かれて女の子ごと倒れる。

 

その瞬間、先程まで自分達が立っていた場所にゴウと

かまいたちのような何かが飛んできた。

 

ズバンと俺のバイクが切断される。

 

その轟音も、綺麗すぎる切断面も

とても現実の物には思えなかった。

飛んできたその先を見ると──

 

テレビで見たような、あの日見たような、

人間じゃあ断じてない怪物が立っていた。

まるでそれは童話から出てきたみたいな

二足歩行で歩く、黒い体毛に

白く大きな爪を輝かせた狼のような化け物だった。

 

『獲物みーっけ。』

 

そういってこちらに近づいてくる狼

余りの出来事に

ただ茫然としていた俺の手がまた引っ張られる。

 

気づけば女の子は切羽詰まった顔をして

俺の手を引いていた。

 

「何ボーとしてるの!逃げるわよ!」

「えっ」

「早く!」

『逃げる気かぁ?無駄だぜぇ!』

 

女の子に手を引かれ訳も分からず走る。

そして近くにあった建物の物陰に隠れた。

 

『どこいったぁ?』

 

狼は見失ったようだが、

見つかるのは時間の問題だろう。

 

「な、なんだよあれ!」

 

半ばパニックになりかけた頭を落ち着かせながら、

それでもこんな言葉が出てしまう。

 

「静かに!・・・あの怪人の名前はテラーよ。

 人間の敵。見ての通り怪人。」

 

女の子は冷静にそう言い放つ。

そうだ、怪物なのは見るからに明らかだ。

でもそれがここ(現実)にいることがおかしいことだった。

怪人、怪物。それが馴染み深いのは──

あくまでもフィクションの中のはずだ。

 

「怪人って・・・現実だぞ!?」

「じゃあこれが幻だと思う!?

 現実逃避は逃げ切ってからにして!

 ・・・それよりも、早くチケット出して!」

「チケットって・・・これがどうしたんだよ。」

 

頭を冷静にしようと努めながら、

恐る恐るポケットから

MASKED RIDERと書かれたチケットを引っ張り出す。

女の子は引っ手繰るようにチケットを奪いながら、

自分のカバンから何かを取り出した。

それは、前面に四角い機械部分があり

その左側から長い帯が伸びている、

まるでヒーローがつける

ベルトのような見た目をしていた。

 

「・・・何・・・それ・・・?」

「見たことない?変身ベルト。これでイチかバチか・・・」

 

そういって女の子は立ち上がり自分の腰にベルトを巻いた。

 

あの日見たヒーローのように

 

そして叫ぶ

 

あの日見たヒーローのように

 

「変身!」

 

そしてベルトめがけて

チケットを差し込もうとしたところで──

 

「・・・違う。」

 

バチィッ!

ベルトからチケットが弾かれた

入れる場所の目測を誤って手をぶつけた

・・・というわけではない。

何か超常的な力で弾かれたようだった。

 

「いったぁ・・・」

 

女の子が手を抑えながら苦悶の表情を見せる

 

『そこかぁ!』

 

そしてその音で狼怪人に気づかれてしまった。

 

そんな光景を傍目に見ながら俺は、こう叫んでいた

 

「違う!」

「えっ?」

 

「“チケットを入れる時のポーズはそうじゃない!!!”」

 

・・・・・・・・・・。

 

「・・・はぁ?」

 

自分でも厄介ないちゃもんだと思う。

それでも今のは耐えられない

──まるでファンでもなんでもない奴が

見様見真似でやってるみたいじゃないか!

無手で見様見真似のポージングなら許せた・・・、

だがこんな小道具(ベルトや小物)まで用意して

そのクオリティは見過ごせなかった!

 

「左手と右手の動作はバラバラ!

 腰も全然入ってない!

 そんなんで変身できるか!」

「な、なにいきなり!?」

 

気が付けば、狼のことなど頭になく

女の子からベルトとチケットを引っ手繰っていた

 

「ああもう貸せ!手本見せてやる」

「ちょ、・・・ああもう!こうなりゃヤケよ!

 いい?あんたはライダー!

 仮面ライダーなの!そのつもりで変身して!」

「いわれるまでもない!これ(ライダーの演技)に関しちゃ俺は、

 私は(・・)いつでも真剣だ!」

 

『見つけたぜぇ!もう逃がさねぇからなぁ!』

 

そういってベルトを巻く、気持ちが締まる。

チケットを持ち、側面に備え付けられたボタンを押す

 

『MASKED RIDER』

 

チケットからそんな音声が発され、

横に開くように展開される。

 

「起動した!?」

『死ねやぁ!』

 

女の子が驚愕する。

狼がとびかかってくる。

しかしそれを気にも留めずに構え、こう叫んだ

あの日見たヒーローが叫んでいたように

 

「変身!!」

 

展開したチケットをベルトに差し込む

あの日見たヒーローがやっていたように

ガシャリと

女の子がやった時と同じものと思えないほどすんなりと

ベルトにチケットが挿入された。

 

『Start』

風は、戦士を呼んだ(Wind called the Warrior)

 

『MASKED RIDER!!』

 

瞬間、変化が起こる。

 

『ガァ!?』

 

とびかかってきた狼が拳を叩き込まれ吹き飛んだ

 

『なんだぁ・・・?てめえ・・・?』

 

起き上がった狼怪人がそう叫ぶ

 

そこに先ほどまでたっていた男の姿はなかった。

そこに立っていたのは──

 

「私は・・・・・」

 

第1章[ 私は仮面ライダー ]

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

「なにこれ!?
 なんで俺こんなことになってんの!?」

「もうあなたを巻き込むつもりはないわ。」

「やらせてくれ!
 ・・・今度は最後までやりきって見せる!」

第2章[ 仮面ライダー・オーディション ]

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。