終末世界の英雄譚   作:?がらくた

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キャラ紹介文その2

アイク・シュミット

19歳 163cm 56㎏ MBTI ISTP

クロードに攻撃的な態度を取る、仮面姿の青年剣士。
だがノーラやバルドリック、ルイーザなどの年上には礼儀正しい。
火の魔法を究めることを目指しており、炎を戦闘に生かした戦いぶりから、仲間からは鉄火の剣士と呼ばれている。
仮面の下には包帯を巻いていて、素顔を見られるのを嫌っている。
また炎剣クヴァンデルには特別な思い入れがあるようで、丁寧に扱わないと、二度と触らせてもらえない。
気性の激しい性格のせいか、小さな種火の仲間たちとは馴染めておらず、同性の年下テオやヴィントとも、どこか距離がある。
異性に対しては一定の距離を置く、年相応に可愛らしい面も。



リズベット・アンドロシュ

20歳 158cm 50kg MBTI ENFJ

デンメルンク王国の大通りの外れにある魔法雑貨屋、魔女館の看板娘。
クロードとは過去に冒険を共にしていたが、とある理由で離脱した。
その後しばらくは王国民として生活を営んでいたが、ルッツたちの無念を晴らすべく、再会したクロードとの冒険を決意。
クロードを異性として意識しているものの、アプローチはほとんど空回りして、失敗に終わっている。
恋愛方面では夢見がちな面があるものの、根は真面目な努力家で、他人を思いやれる心優しい少女。
魔法学校では成績優秀で親しみやすい、美少女生徒として名が知られていた。
ある教師からもらった、鷹の杖が愛用武器。


第11話 人攫いとゾフィーの決意

王国の広場からさほど離れていない、煉瓦の家が建ち並ぶ住宅地に、グントラムの暮らす住居がある。

一見しただけでは似たり寄ったりで、どれが誰の家なのかわかりづらい。

ただグントラムの家と周囲の民家は、簡単に見分けられる。

彼の住む家にある郵便受けの下には、夫婦のカラスの置物があるのだ。

冒険者は半分引退しているというのに、未だに彼の家のポストには、依頼の手紙がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。

その手紙は王国の英雄にして四明星の彼が長年人々との間に築いた、信頼の証そのものだった。

 

「この時間帯には、いないかも」

「扉はクロードが叩いて。知り合いのあなたが説明してくれた方が、余計な手間もはぶけるし」

「わかったよ。ごめんください」

 

ノーラの指示に従って扉を数回ノックすると、慌ただしい足音が扉越しから聞こえてきた。

 

「クロードさん、リズちゃん、お久しぶりです。後ろの方々は?」

 

短く切り揃えた黒髪の少女ゾフィーは、そういって一行を出迎えた。

持ち前の勘の良さで、何故ここに来たのか察しているのだろう。

黒目を左右に動かして、周囲一帯を警戒していた。

最近は外出も控えているのか、血色も優れず、彼女の肌は雪のように白かった。

服の上から毛皮の鎧を着込み、背中には大きな弓を背負っている。

すぐにでも冒険に出掛けられそうな出で立ちだ。

 

「初めまして、ゾフィーさん。私は彼の仲間の、ノーラというものです」

「……俺はアイク。おい、ある件について話を聞きにきたって訊ねろよ」

「うるせぇ、わかってるっつうの。ゾフィーちゃんに用があってきたんだ。家に上がらせてもらっていいかな?」

「もしかして例の件についてですか。たいしたおもてなしはできませんが、くつろいでください」

 

ゾフィーが笑顔を作るも、普段は屈託のない朗らかな表情が、クロードにはどこか堅苦しく見えた。

友達が急に失踪すれば、元気がないのも無理はない。

 

「話が早くて助かるよ。友達がいなくなったみたいで大変だね。俺たちでよければ協力するから」

「助かります。私の手に負えない問題なので、人の力が借りたかったんです」

「ずいぶんしっかりしたお嬢さんだこと」

「本当にグントラムのおっちゃんと、血ぃ繋がってんのが信じられねぇよ。あのおっさん、めっちゃ適当だし」

「そうですね~。おじいちゃんは適当なので」

「身内からも適当って言われるなんて、グントラム様はどんな人なのかしら」

 

世間話をしている傍で、アイクは相も変わらず毒を吐く。

 

「お前も、この子を見習った方がいいんじゃねーのか。少しはバカと粗暴さが治るだろ」

「んだと、いちいち癇に障るヤツだな!」

「あなたたち、人の家の前で喧嘩しないの!」

「ねぇっ。アイクはなんでクロに突っかかるの!? いい加減にして!」

 

思わぬ反撃だったのか、仮面でくぐもった彼の声は、いつもより小さく聞こえた。

 

「……別に俺が誰を嫌いだろうが、勝手じゃねぇか。女って面倒くせぇな」

「それはそうだけど、思った通りに言葉を口にしたら傷つく人がいるって、少しは考えないの?!」

「ま、まぁ、落ち着けって。俺もこいつのこと、おちょくったりしてるからさ」

「あまり責めないであげて。度が過ぎていたら、私からもキツく注意するから」

「お二人がそこまでおっしゃるなら……」

 

二人の仲裁が入ると、その場は何とか丸く収まる。

 

「ちぇ、めんどくせぇな……」

「クロ、悪口なんて気にしたらダメだよ」

「ごめんなさい、ご迷惑おかけして。年長者として彼らの分まで謝罪します」

「いえいえ。クロードさんに喧嘩する元気があるみたいでよかったです。おじいちゃん、クロードさんとお連れの人たちが来たよ」

 

ゾフィーは階段に向かって、かつて四明星の一角として名を馳せた伝説的な男の名を叫んだ。

 

「なんだよ、騒々しいな……」

 

白髪交じりの黒髪が特徴の中肉中背の初老の男は、寝間着姿で降りてくるや否や、やる気のない返事をした。

喋る最中にあくびをしており、とても眠たそうだ。

昼行灯な男は一見、数多の伝説を残したようには見えない。

だが仰々しい肩書があっても家庭に収まれば、市井の人々と何ら変わりなかった。

 

「なんか用事でもあんのか。言っておくが、ゾフィーはやらんぞ」

「いやいや。この子とはそういう関係じゃないし、そもそも結婚なんてまだ考えてねーから」

「すいません。うちのおじいちゃん、耄碌(もうろく)してて」

 

グントラムの代わりにゾフィーが頭を下げる素振りは様になっていて、相当慣れているようだった。

自由人の彼に、だいぶ苦労させられているらしい。

 

「俺の孫娘に手ぇ出したくなるような魅力がないとでも言いたいのか。見る目のない奴め、恥を知れ!」

「さっきと言ってることが違うぞ?! めんどくせぇおっさんだな! 将来を共にする気もない子に、軽々しく手ぇ出せるか!」

 

自分の孫娘を、何だと思っているのか。

たまらずクロードは、グントラムに感情の赴くまま怒鳴り散らす。

 

「あなたって意外と一途なのね」

「ただ女慣れしてないだけですよ、たぶん」

「貞操観念がしっかりしてて素敵。やっぱりクロは白馬の王子様だね。ふひ、ふひひ……」

「クロードさん、案外ウブですねぇ」

 

先ほどまで暗かったゾフィーが、けらけら笑っている。

もっと彼女を明るい気持ちにしたいと考え、クロードは適当に思いついたことを口走る。

 

「ちなみにゾフィーちゃんから見て、俺ってどう?」

「ええっと、クロードさんは頼りになる先輩ですね。まぁ、嫌いではない……ですよ」

「にょほぉおおおおおおっ、ゾフィーさん、ダメだよ!」

 

ゾフィーが頬を紅く染めて答えると、リズは半狂乱になりながら叫びだす。

 

「ぎゃっ! なんですか、リズちゃん?」

「クロは絶対ダメ! ゾフィーさんなら、他に素敵な人が見つかるから! だから、クロとは付き合わないでぇっ!」

「わ、わかりましたから。クロードさんは、リズちゃんのですから」

 

(俺は女の子と付き合う資格すらないっての?)

 

二人の一連のやりとりを眺めたクロードは、意気消沈してしまう。

 

「……俺ってリズに嫌われてんのかな」

「どうして、そうなるのよ。なんで話がややこしくこじれていくのかしらね……」

「鈍感難聴チンピラバカヘビ」

「私がクロのこと、嫌いになる訳ないのに……」

「リズちゃんの魅力、クロ―ドさんはよく知ってるから大丈夫だよ」

 

浮ついた気分の一行を、グントラムが一喝した。

 

「とにかくゾフィーと仲良くするな。粗暴な男に大事な孫娘はやれん。お前みたいなバカヘビといたら、不幸になるからな」

「失礼でしょ、おじいちゃん!」

「俺が粗暴だって!? 違うよなぁ、ノーラ、リズ!」

 

クロードは顔を向けて二人に訊ねると、忖度してほしいと懇願するように、しつこく瞬きした。

 

「エエ、粗暴ジャナイト思ウワヨ」

「クロはすっごく優しくて、とってもかっこいい理想の男性です」

「グントラムさんの言う通りだろ、難聴クソヘビ」

 

まるで心のこもっていない片言のノーラの空返事とは対照的に、リズは満面の笑みで告げる。

辛辣なアイクの発言に、心の中でお前には言われたくないと返すと、クロードは会話を続けた。

 

「俺の味方してくれんのは、リズしかいないっ! リズは俺の女神さまだ~っ!」

「私の瞳にもクロしか映ってないよ」

「ダメよ、リズちゃん。その男は甘やかすとつけあがるから」

「……そいつは止めたほうがいいと思うがな。将来苦労しそうだ」

 

二人が問いかけるも、リズからの返事はない。

二人きりの世界に入った彼女にとって、周囲の声など雑音に過ぎないのだろう。

 

「……聞こえてなさそう。リズちゃんは彼のことになると、冷静でいられなくなるのが玉に瑕ね」

「まぁ、いろんな意味でお似合いじゃないですか。好きにさせておきましょう」

「余計な邪魔が入らない内に、彼女に質問しましょうか。失踪の件について、知っている情報を聞かせてくださいませんか」

 

ゾフィーの方に向き直ると、ノーラは彼女に問いかける。

 

「事件についてですか。私は現場にいなかったので人伝(ひとづて)の話になりますが、それでよければ……」

「どんな情報でも構いません、事件の解決に繋がるなら」 

「わかりました。少しの間、時間を下さい」

 

そういうと、彼女は席を立つ。

しばらくして戻ってきたゾフィーの右手には、小さな日記があった。

 

「行方不明の冒険者について、記録していたんです。私の友達も消息が途絶えたので、誰かの手掛かりになればと。よければ見てくれませんか」

「ありがとうございます、どれどれ……」

「それ、俺にも見せて。ルッツとリズの故郷で、好き放題されてたまるかってんだよ」

 

パラパラとぺージをめくっていくノーラの肩口から、クロードは日記を眺める。

彼女は時折鬱陶しそうに振り返るも、彼は気にせず読み進めていく。

 

 

 

〇月3日

 

私の知る限り、最初の失踪事件と思しき事件がこれだ。

冒険者は常に死と隣り合わせ故か話題にはならず、彼自身が迷宮に入れるようになったばかりの新米で知名度がないのもあってか、騒がれなかった。

この時に真摯に対処していれば、ここまで被害は広がらなかっただろうに。

冒険者組合の怠慢と、冒険者らの勘の鈍さが招いた悲劇だ。

仲間の傷の治療に献身的な男性だったらしく、最近k級に昇格したらしい。

 

 

 

〇月16日

 

昨晩、友人のウルゼルが失踪した。

ウルゼルの所属する夜明けの冒険隊の方々と、失踪現場をくまなく調べたが、遺品はおろか魔法を使用した痕跡すら残っていなかった。

持ち物すら見つからず、自発的な失踪として捜査は打ち切られた。

その後も彼女の友達と知人で探索したが、進展はなし。

魔物にやられるなら、彼女の死も納得できる。

でも、こんな別れはあんまりだ。

友達がいなくなっても、何もできない無力な自分が歯痒い。

……ダメだ。

よく知ってる子がいなくなると、思考がまとまらないや。

彼女について書くのは、ここまでにしておこう。

 

 

 

 

〇月25日

 

迷宮内を探索していると、一枚の名刺入れが落ちていた。

辺りに冒険者の亡骸はなく、人攫いに抵抗した被害者の所有物と考えるのが妥当だろう。

持ち主は、王国直属の冒険者集団、“暁の海”に所属するアスプリアン氏。

迷宮の竜狩りに参戦した、王国でも指折りの実力者と知られている。

そして暁の海の団長、ディートマール・ギュンター氏の右腕だ。

家族や友人との仲も良好らしく、失踪するような理由も特になさそうに思える。

彼を攫うなんて、犯人は相当な手練れだろう。

私ごときに、その犯人に勝てるのだろうか……。

だが、やらねば。

卑劣な蛮行に屈して逃げるなど、英雄グントラムの―――ミュル家の名がすたる。

 

 

 

被害者数 計62名 

 

S級 1人(アスプリアン氏)

A級 11人

B級 18人(ウルゼルと他17名)

E級 27人

k級 5人(最初に攫われた男性と他4人)

W級 0人

 

 

 

その後は似たような被害の報告と現場の状況、彼女の無念が余すことなく記録されていた。

日記にあらかた目を通したクロード一行は感謝を述べ、日記を持ち主に返すと、思い思いに感想を告げた。

 

「これだけの被害がでてたのか。俺たちが想像する以上に、大きな陰謀が絡んでいそうだね」

「過不足がなく平易な文章で、俺たちとしては助かるがな。等級の高い人物が狙われてるようだが」

「失踪された方々の共通点や特徴って、あるかしら。そこから推理をしていけば、犠牲者を減らせるかも」

「気が利かず、すいません。被害者の内訳と簡潔な説明を書けば、もっと皆さんに有益な情報になりますしね」

 

ノーラに促されると、クララは日記の空白の部分に必要な情報を書き加えて、再び三人に手帳を渡す。

 

「皆さん、見て下さい」

「魔法使いと魔法戦士の被害者が突出してるな。迷宮の中での被害者を見てみると、ずいぶん偏りがあるのがわかるよ」

「それと気になった点が一つ。ウルゼルとアスプリアンさんがいなくなったのは、複数人で迷宮を訪れた時らしいんです」

 

目撃証拠すらない犯行と聞いて驚愕したクロードは、ぽかんと口を開いた。

狐につままれたような気持ちとは、まさにこのことだ。

 

「大人数での冒険中にも関わらず、周囲に気づかれない大胆さ。迷宮内の構造を熟知してるか、土地勘のある人間がやったとみて間違いなさそうだな」

「疑いたくはないですが、王国内の冒険者が関与している可能性はありますね。クロードさん、ずいぶん鋭い観察眼をお持ちなんですね。冒険者として見習わないと」

 

ゾフィーに褒められ、クロードは口角を吊り上げて微笑む。

 

「ゾフィーちゃん、本当に優しい子だよな~」

「女の子がちょっと親身にしてくれただけで、鼻の下を伸ばしちゃって。あなたって、ああいう子が好きなの?」

「なんだよ、ノーラ。褒めてくれたり、優しい子を好きにならない男なんていないだろ~」

「……単純ねぇ。だって、リズちゃん」

「クロって面白いのに、こういう時は冷静でかっこいいよね。だいだいだーいすきっ!」

 

華麗なパスを受け取ったリズが、ここぞとばかりに彼に称賛を浴びせた途端、家の中が静まりかえる。

 

「リズ、急にどうした? 真面目な話の最中だから、ちょっと静かにな」

「ご、ごめんね。クロ」

「リズちゃん、ごめんなさい。深刻な状況でないなら、彼も素直に喜んでくれると思うわ」

 

クロードが戒めると、注意されたリズはがっくりとうなだれる。

彼女なりに、場を和ませようとした結果なのかもしれない。

 

「褒めてくれてありがとな。リズみたいな良い子から言われると、すげぇ嬉しいよ」

 

謝罪の意味を込めてはにかむと

 

「く、くりょ、しょのえはおは、はんそくにゃの……しゅき……らいしゅき」

 

彼女の鼻から、鮮血が蛇口をひねったように流れ落ちる。

体調でも悪いのかと背中をさすると、血は更に勢いよく溢れ出した。

 

「具合でも悪いのか? 何を言ってるんだか全然わからないぞ。リズはたまに変な反応するよな」

「ある意味、すごいわかりやすいわよ? リズちゃん」

「……ですよね」

「俺のが付き合い長いんだぞ。どうしてお前らに、リズのことがわかるんだ?」

「ここまで鈍いと、ある意味才能ね。あなたってすごいわ」

「すごいですよね、鈍さだけは」

「バカにしやがって、こいつら。 いつか実力で黙らせてやっからな」

 

ギリギリと嚙み合わせ、クロードは二人をねめつけた。

 

「魔力、魔法使い、魔法戦士……」

 

真っ赤に染まったハンカチ片手に、リズはぶつぶつと何かを呟いている。

彼女には物事を熟考するのに、そうなる癖があった。

思考の邪魔にならぬよう、鼻血が収めるのと沈黙するタイミングを、クロードは見計らう。

 

「気がついたことでもあるのか。俺なんかより数十倍賢いし、学もあるんだ。遠慮せず意見はどしどし言っていいんだぜ」

「もしかしたら魔力が関係してるんじゃないかもって思って」

「魔力? 魔法を使う際に必要な?」

「うん」

 

リズの発言に、一同は首を傾げる。

魔力は術者本人や魔法道具に込められており、それらと大気中やありとあらゆる命に満ちるエネルギーのマナを用いて、魔法を行使する。

魔力を効率よく伝導する杖などの武器なども、実戦ではかかせない。

マナ、魔力、そして自分に合った武器。

これら三つの要素で、魔法は成り立っている。

 

「どういうことだ? 長くなってもいいから、俺にもわかるよう順を追って説明してくれ」

「冒険者になるような人だと、体内の魔力の総量が庶民の方々と比較して多いの。魔力が強ければ強いほど、冒険者として大成できるから。それが失踪に関係してるのかもって」

「失踪した62人の内、魔法使いの男女が18人。魔法戦士の男女が12人。約6割だな。確かに魔法の扱いに長けた人間が攫われてるとも考えられるな」

「偶然には思えないわね。他の被害は本当の目的を隠すため?」

「過去にも魔力に関わる犯罪の事例はあったよな。首刎ねドラウプニールが有名か」

 

性別、人種、国籍。

どれもバラバラだが、唯一冒険者という点は、被害者に共通している。

それ以上の共通点がない以上、彼女の突飛な発言が、全くの無関係だとは思えない。

魔力の高い人間を集めていると考えれば、話に筋は通っている。

何故、魔力の高い人間を集めているのか。

仮に彼女の話が正しければ、新しい疑問が生まれてしまうが、今それを考えてもしょうがないだろう。

 

「魔法の使える人間目当てってんなら、魔法学校に襲撃でも仕掛けた方が効率的だけど、なんでそうしないんだ」

「大事になるのを怖れる理由があるのかも。それにアルムガルト師匠が、いざとなれば生徒を守ってくれるもん」

「お手柄だよ、リズ。何の手掛かりもないより、やるべきことがハッキリしてきた」

「なんとなく事件の概要はわかったわね。あとは足で調べましょう。現場に赴いてこそ、見えてくるものがあるはずよ」

 

ノーラの鶴の一声で、その場にいた全員が表情を引き締めた。

 

「俺たちは探偵じゃなくて冒険者なんだ。力で解決できるなら、そっちのが性にあってるしな」

「相変わらず野蛮な人。ま、有事なら頼もしいけど」

「でもクロの力に助けられた人たちは、たくさんいますよ。頼りにしてるね」

「おう、任せとけ。すぐ平和を取り戻してみせらぁ」

 

クロードが力こぶを作り、筋骨隆々な二の腕をさすると

 

「あの、クロードさん。一つ頼みがあるんですけど……」

 

瞳を潤ませて、ゾフィーが問う。

何も言わずとも、彼女の悲痛な思いと決意が伝わってきて、つられて涙を流しそうになる。

 

「クロードさん、お願いします。友達の敵討ちをするのに、協力していただけないでしょうか」

「ダメって言っても、ついてくるよね。君くらいの実力があれば大丈夫だとは思うけど、相手が相手だ。細心の注意を払ってほしい」

「ありがとうございます。おじいちゃん。私、あの子たちの敵を討つね」

 

グントラムに止められるのを気にしてか、ゾフィーの言葉は心なしか震えているように聞こえた。

彼はそんな孫娘の胸中を慮(おもんばか)ってか、彼女にゆっくりと歩み寄ると

 

「ゾフィーは自由を尊ぶ冒険者なんだ。人の道に反さない限り、誰からも指図される筋合いはないぞ。たとえそれが血の繋がったおじいちゃんから、でもな」

 

と、彼女の進む道を後押しした。

突き放すようでいて、誰よりも彼女の選んだ生き方を尊重している。

子供を見守るとは、こういうことなのかもしれない。

クロードは長年の冒険で培った彼の哲学から、過保護にも放任にも偏らない親心を感じた。

 

「ただ一言だけ伝えとく。おじいちゃんは、ゾフィーをどんな時でも応援してるって」

「……うん、ありがとう」

「素敵なおじいさまね、ゾフィーちゃん」

「はい。だらしないけど、世界で一番のおじいちゃんです」

 

会話を終えると、、グントラムはにんまりと微笑む。

だが彼の視線は孫娘ではなく、ノーラの方を向いている。

何事だろうかと

 

「あの、どうしたんですか」

 

彼女が訊ねると

 

「すまないな、ノーラちゃん。俺には愛する妻がいる。いくら素敵と褒められても、君の気持ちに応えることはできない。せめて俺が30歳若ければ、な」

 

グントラムは自分の額に手を当てて、キザったらしくポーズを決める。

ノーラは青筋を浮かべて、込み上げる苛立ちを堪えていた。

 

「……告白してもいないのに振られたんだけど。屈辱的」

「ノーラ、あんまり気にすんなよ。いつもこんな感じの軽薄なおっさんだから。真面目に相手するだけ損だぜ」

「若くて綺麗なお姉さんに色目使って。おばあちゃんに言いつけるよ」

「シュヴァルツェは怒るとおっかねぇんだ。勘弁してくれ、ゾフィー!」

 

グントラムは、頭を抱えて泣き喚いた。

緊張感がまるでないが、彼の発言のお陰で、いい具合に体の力が抜けていく。

 

「もうおじいちゃんたら。いつもとぼけてるんだから」

 

その様子を見て、ゾフィーが吹き出す。

 

「ま、おっちゃんの底なしに明るいところは美点だな。ゾフィーちゃんには、やっぱり笑顔が一番よく似合うよ」

「お前みたいな小僧にも グントラム様の魅力がわかってきたか。ま、お前は一生俺の足元に届かないだろうがな」

「ヘッ、大して大きい背中じゃねぇよ」

「言うじゃねぇか、小童が」

「……似た者同士」

「似てないっ!!!」

「似てねーっ!」

 

二人はほぼ同時に、ノーラの一言を否定した。

そりが合わないとはいえ、彼の実力は超がつくほどの一流だ。

 

「おっちゃん。失踪者と犯人確保、協力してくれないかな。下手したら迷宮が封鎖されて、冒険者のみんなが路頭に迷うぜ」

「嫌だよ、めんどくせぇもん。俺はもう冒険者じゃねぇし、あとは若い連中に任せるわ~。後進の育成ってやつだな」

「後進の育成って、ただ怠けてるだけじゃねぇか! やっぱダメ親父だわ。いこうぜ、ゾフィーちゃん」

「ゾフィーとならいいが、俺もお前と一緒に冒険したくないしな」

 

嫌味を言われた彼が扉を勢いよく閉めると、扉越しからグントラムの声が響いた。

 

「達者でな、ゾフィー。身近な蛇に襲われないよう気をつけろよ」

「やらねーよ、そんなこと! 他人事だと思って呑気なもんだ」

「気を引き締めていきましょう、皆さん」

 

これから命懸けの冒険が始まる。

ゾフィーの言葉に一行が頷くと、石畳を勇ましく歩むのだった。




キャラ紹介その3


グントラム・ミュル

55歳 163cm 56㎏ MBTI ENFP

様々な種族で結成された四明星と呼ばれる、凄腕の冒険者集団の元一人。
数多くの伝説や逸話を残しており、まだまだ元気だが、今は冒険者稼業を半分引退中。
だが人の生死に関わるものに関しては、身を粉にして解決に尽力する模様。
貴金属や光るものには目がなく、ゴミを拾ってきてはゾフィーや妻シュヴァルツェを困らせている。その悪癖は昔から変わらず、冒険者として名を馳せる前は、ゴミ漁りのグントラムと周囲からバカにされていた。
おちゃらけているが一途な愛妻家で、夫婦仲は良好。
長年冒険者としても苦楽を共にしてきた妻の誕生日には、毎年旅行に出掛けている模様。



ゾフィー・S・ミュル

17歳 161cm 53㎏ MBTI ESFJ

英雄グントラムの孫娘。
黒髪に黒の瞳孔が特徴的。
四明星の女傑ベルナに師事している弓使いで、冒険者としての素養はクロード含め様々な人物が認めるほど。
礼節正しく愛嬌のある賢い女の子で、英雄グントラムとの血の繋がりを疑う人物が後を絶たない。
口癖は

「おじいちゃんみたいになりたくない」

口ではグントラムの文句を言うものの、本心から嫌っているわけではない。
Sは父方の祖母、シュヴァルツェ(schwarze)から貰ったミドルネーム。
冒険者ではない両親の代わりに、祖父母からは猫かわいがりされている。

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