ガイが目標を定めてから1日が経過した。すでに、オルクスの隠れ家から出発するための準備は整っており、後は3階にある魔法陣を起動し地上に出るだけ、欠片というこの世界にとっては災い以外呼び込まない物を見つけてしまっては、ゆっくりなどしてはいられないのだが、ガイは魔法陣を起動する前にある細工を施した。
「ここは何かと便利そうだからな、あの日記に書かれていたエヒトとやらに見つかっていないならば、何かあった時用の緊急避難所になるだろ」
そう言いながらガイは迷宮攻略の証である指輪と魔法陣間でいつでもこの場所に跳べるように繋げる。これで何かしらのことが起こっても瞬時にこの場所へ跳び、体勢を立て直せるといった感じだ。
逆に探知されたら終わりだが、長いことこの場所がエヒトとか言うやつにバレていないのであれば心配はないだろう。
「さて、久々の地上だ…何があるかわからないが、なるようになれだな」
魔法陣を起動すると、ゆっくりと光に包まれていき、やがて光が視界を満たす。それと同時に空気が変わったことを実感した。あの迷宮の纏わりつくような澱んだものとは違う、新鮮さを感じる。
光が収まり目を開けたガイの視界に写ったものは明るい地上…ではなく。
洞窟であった。
「隠された場所だ、魔法陣通ったら即地上なんてことはないか」
魔法陣を通ればすぐに地上ではないと言うことはある程度予想していたらしく、それ程落胆はしていない様子。そもそも、秘密の隠れ家を野晒しにしておく馬鹿など、どの世界を探しても存在などしないだろう。
出た場所はどうやら、何かしらの光源もなく、真っ暗な洞窟のようではあるが、暗闇程度ガイにとっては何も問題もないため道なりに進むことにした。
進んで行く途中、幾つか封印された扉やトラップがあったが、攻略の証であるオルクスの指輪がその尽くを勝手に解除していった。それ程警戒はしていなかったが、勝手にしてくれるのであれば楽なことこの上ない。
暫く洞窟内を進むと、遂に光を見つける。おそらく外の光だろう。ガイにとっては数ヶ月ぶりの地上の光、他の者であれば数ヶ月もあんな場所にいたら、光を見た瞬間大喜びで光に向かって駆け出したであろうが、ガイに至っては内心やっとか…と無駄に長い洞窟内の通路にうんざりした様子で光へと向かっていった。そして、ガイは遂に地上へと出たのだ。
洞窟を出るとそこは、何処かしらの峡谷、その谷底であった。おそらくここが日記にも記されてあった、【ライセン大峡谷】だとガイは予測する。ならば、この場所には実質二つもの迷宮が存在することになる。
そうなればこのまま迷宮を探すのもいいだろう…と言いたいところだが、探すにしても物資が心許ない。本格的に探すのであればやはり、まずは何処かしらの街へ赴き、物資の補充をしてからである。
そんなこんなを考えていると、ふと思い出す。日記に書いてあったライセン大峡谷の特性。
「確か、魔法が使えないんだっけか…試してみるか」
そう呟くと、いつの間にかガイを取り囲んでいた魔物の一体を視認もせず、いつもと同じ感じで雷撃を放つ。
放たれた雷撃はこの峡谷の魔力を分解する特性により分解…されることはなく、一撃で取り囲んでいた魔物の一体の生命活動を停止させた。どうやら、取り囲んでいた魔物達もこの場所がどういう特性を持っているか理解していたのか、何故分解されずに?と魔物達は困惑している様子だった。
「なるほど、魔力の質の違いか、それとも単純に分解できない量だったのかわからないが、俺にとっては何も問題がないってことだな…なら」
先に喧嘩を売ってきたのはそっちだからなと言わんばかりに、ガイは残った魔物達に殺意を叩きつける。それを感じ取った魔物達は一歩後退る…のではなく踵を返し、我先にと散り散りに逃げ去っていった。
「なんだ、やらんのか…まぁ、魔物にしてはいい判断だな」
ガイは逃げ去る魔物達に追撃などはせず、そのまま逃げるのを見送った。殺してしまった魔物に関しては丁寧に素材を剥ぎ取らせてもらい、後は燃やして大地の肥やしにした。
「さて、西…は確か砂漠だったか?流石に論外だな、だとすると東…ハルツィナ樹海、とか言ったかそっち方面に向かうのが一番だな」
砂漠横断をしてもいいが、流石のガイでも腹が減るしでまともな用意がない今、自殺行為にも程がある。だとすればまだ町なども近くにありそうな樹海側に向かうのが賢明だろう。
「こんな時、アマツの奴がいてくれれば空から楽に行けたんだがな…光に包まれた時あいつも近くに居たよな?何処行ったんだか…」
そんなことをブツクサと垂れながらガイは東側、ハルツィナ樹海目指して歩を進めるのだった。
歩いてればそのうち町に着くでしょ、知らんけど。