ギャルゲー転生~生き残るためには陰気な主人公をハーレムにしなくちゃいけない!?じゃあ私ヒロインの好感度教える親友役やります!ってなんでもう片思いしてるのさファックがよ~ 作:system.out.println
男性向け恋愛ゲーム【千なる風のステラ・バリシュ】を知っているだろうか。いや、知らなくても良い。今から私が一から十まで懇切丁寧に説明するので静かに傾聴するように。
このギャルゲー、通称千バリは異世界学園恋愛ものである。剣と魔法の世界にある学園で魔物とか倒しながら強くなりつつ、色んなイベントでヒロインと絆やら恋愛感情を育む、言っちゃえばちょっと時代遅れなコンセプトを持ったギャルゲーだ。平成前半で散々やりつくした設定を敢えて踏襲してきたのだ。ネットでもかなり否定派が多く、発売前から期待値は低かった。
しかしこのゲームが世に出ると、他のギャルゲーとは一線を画すギミックがネットで話題を呼んだ。良い意味でも、そして悪い意味でも。
その名もホールドシステム。
このシステムは主人公が二年生になった瞬間に初めて適用される。この主人公は非常に遊び人で、常に二人以上のヒロインと付き合っていないとテンションが下がって戦闘ステータスが大幅にダウンする。逆に四人以上のヒロインと付き合っていればステータスが最低でも平時の1.5倍ほど上昇する。
このシステムは実際に販売されるまでメーカーが隠しており、当時買ったプレイヤーは大体5時間ほどプレイした後に叫ぶことになった。なんだこのクソ主人公はと。
つまりこのゲーム、ギャルゲの癖にハーレム前提なのだ。道中の敵も四人以上のヒロインを囲うことで得られる、いわゆるハーレムステータス状態でないとかなり苦戦する数値が設定されており、ボス戦ともなると更にそれが露骨にHPに表れる。個別ルートを選んで攻略しようとした猛者もいたが、ついぞ攻略できたという話を聞いた覚えはない。
さらにラスボスとなればヒロイン全員と付き合う必要があり、仮に一人でも少なければそれだけで9割方敗戦になるような不利な戦いを強いられることになる。
ここだけ切り抜いてもクソゲーなのは間違いないが、より酷いのはこれと重なるように実装されているジェラシーシステムである。
ジェラシーシステムの概要はもう言葉のまんまだ。ストーリー攻略のために主人公は基本的に全員のヒロインと同時並行的に付き合う必要があるのだが、主人公はヒロインに何股もしているという事実を知られてはならない。もし知られてしまった場合、ヒロインが主人公を振るのは可愛い方で。心酔具合に酔っては主人公を殺したり、ヒロインを殺したり、或いは主人公がヒロインを殺すようなシチュエーションを仕組んだりすることもある。このゲームがクソゲーオブザイヤーを受賞するのは至極当然だったと言える。ストーリーを攻略するために全員と付き合わないといけないのに他のヒロインと付き合っていることは知られてはならないとか、どんな高難易度ゲーだ。フロムだって作らねえよコラ。
そんなわけで千バリはクソゲーという総括が出来る訳なのだが。
そんなゲームに私は転生していた。はいクソー。ログアウトします。さよならバイバイ〜。とか行かない辺りがマジのマジで現実であった。
幸いにも私はゲームのネームドキャラではない、所謂ただのモブ。だから主人公のハーレムに加わる必要はなければジェラシーシステムの犠牲にされることも無い。よっしゃ、これは勝つる! 社会的地位的には平民だけど家業もあるから就活もする必要ないし、これは人生勝ち組ルートっしょ!
と、転生当初は思っていたが。
往々にして物事がそう単純に行かないものである。前世でも幾度となく経験したけど、それを私はこの世界でも経験することになる。
二度目になるがこれは
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この世界は異世界ファンタジーだけど、私の街にはちゃんと学校がある。平民が通える学校だ。
恐らくは中世ヨーロッパを何となくで踏襲した世界観なのが原因だろう。千バルと言うゲームは言わずもがなクソゲーで、時代背景なんて考慮していないのは1プレイヤーとしても容易に推測できた。まあ原作でも普通にアイスだとかカルビだとかを主要人物が食べてるのを始め、異世界としては作りこみが甘い点も多々あったしなあ。
まあ今はそれに感謝しようと思う。
おかげでこうして私は家業であるクレープ屋を手伝わず、学校というモラトリアム期間を謳歌できているわけなんだから。寧ろこれは冷静に考えて感謝すべきじゃないだろうか。ありがとう制作会社。設定が雑で助かってます。
授業が終わった帰り道。
私の横にはもう一人の姿があった。
「マヤカ……オレ、無理だよ。マヤカ以外の女の子と話すとか無理……というか好きな相手はいるから積極的に話しかける必要性皆無だし……もし駄目だったら生涯独身で良いし……」
目の前で落ち込む金髪碧眼の如何にも優男なイケメン少年、サバル・バイエル。突然だが彼がこのゲームの主人公だ。突然だが運が悪いことに、私と同じ街に生まれ育ったせいでこうしてやんごとなき幼馴染としてこの15年間の苦楽を共にしている。突然多すぎだろ私。
しかも何故か分からないがこのサバルの野郎、ゲームと違って全然ナンパ気質じゃないのだ。寧ろその逆。気弱でうじうじしていて、両親や私以外とは視線すら合わせられない。ぶっちゃければコミュ障。
そんなサバルを私は色恋好きのチャラ男に仕立て上げようとしていた。
「駄目だよ! 駄目だからね! サバルは絶対に彼女を沢山作らないと! おじさん達に複数の孫の顔を見せてあげないと可哀想だよ!」
「ええと、聞き間違いかな……今俺二股を唆された気がするんだけど……?」
「出来れば9股してほしいの! どうかな!?」
「え……無理」
私は必死に励ますがサバルはその気持ちを踏みにじって爽やかな声でブツブツとそんな根暗な事を宣いやがる。
正直に言ってしまえば主人公であるサバルがこの町で、しかも家屋二つ挟んでご近所さんだと知った当初はあまり関わりたくなかった。サバルがジェラシーシステムによってヒロインのホールドに失敗するとサバルのみならず、時には他の好感度の高いヒロインを刺したり爆破したり洗脳したりと死亡フラグをまき散らすからだ。私は死にたくないし、そうでなくともサバルと仲良くなって女子のねちっこい嫉妬に晒されながら学園生活を送るのは死んでも嫌だ。この主人公の周りにいたら否が応でも痴話喧嘩に巻き込まれるのが確定してるから尚更距離を取りたいのが本音。
でもサバルが異性に話しかけられない陰キャとなると話が変わってくる。
このまま学園に進学して彼女を一人も作らなかったら非常に困ったことになるのだ。
具体的には確実に世界が滅ぶ。
ヒロイン九人同時攻略してもらわないと高確で人類が滅亡する。
は? と思うかもしれないがしょうがないのだ。ここはゲームをベースにした現実なのだから。少なくとも私はそう考えて諦めている。
千バリのラスボスを倒すのはサバルの役目で、もし倒さなかった場合ラスボスの手により世界中の地中からマグマが吹き出し世界はマグマの海に飲み込まれる。そうしたら一般ピーポーでしかない私は普通に死ねる。おしまいだ。マヤカ・イーシアとしての人生は熱さで悶え苦しみながら幕を閉じるのだ。
ってそんなの我慢できるか!
前世だって私の死に様はそれはもう悲惨なものだったのだ。具体的には満員電車な通学時間帯の駅のホームで人混みに押し出され、プラットホームから落下して電車とごっつんこ。人身事故の完成だった。その節は電車を止めてしまい本当に申し訳ございませんでした。でもアレは私のせいじゃねえと思うの。クソがよ(高速手のひら返し)
私は二度と苦しみながら死にたくない。強くそう思ってる。だから主人公のサバルには遊び人にジョブチェンジしてもらわなければ困るし、ハーレムウハウハ状態になってもらわねば困る。困るのだ。ガチで。だからサバルの傍でヒロインの好感度を探る親友役になることを思いついて実行してるし、そのために原作の舞台でもある魔法学院にも進学するつもりだ。
「そもそもオレってさ……割と奥手だからマヤカ以外の女子と仲良く話すなんて、ちょっと筆舌に尽くし難いハードルがあるよ。マヤカだって分かってるだろ……分かってるよな?」
に、しても。
な〜んでお前はそこまで草食動物キャラになっちゃったのかなあ!? 原作と真反対よ真反対!?
サバル、お前がもし私以外の異性と一切縁が無いノンヒロイン√を選んだらどうなると思う!?
死ぬんだよ!? 私も! お前も!! ついでにその他大勢も!!
これまでだって私はそれとなくサバルを女子と二人きりにしてみたり、或いは女子の扱い方(教本は前世の恋愛ゲーム)をレクチャーしてみたりと粉骨砕身の思いで世界を救おうとしてきた。なのにこのザマ。加えて時間も残り少ない。どうすれば良いの本当に……!
「サバルはもっと男の夢を探求すべきだと思う私! ほら、爺ちゃんも「男ならハーレムを目指さなきゃな!」って言ってたでしょ! もういい加減男になろうよ、サバル」
「……ねえマヤカ。オレ間違ってる? ねえこれオレが間違ってんの? 何で俺女の子の幼馴染にハーレム作れとか諭されてんの? あと俺の爺さんはそんなこと言ってないからね」
「間違ってるよ! 何というか、ギミックとかシステムとか、そういうカテゴリ的な意味合いで間違ってるんだって!」
「何言ってんの?」
クソ……腐っても異世界ファンタジー(笑)
中途半端に現代日本チックな言葉は通じないか……!
「とにかくこれだけは言いたい! サバルがハーレムを作らないと世界がヤバイ! 私もヤバい! だからお願い! ハーレム作って!」
「……嫌だけど」
「一生に一度のお願いだから、ね? ハーレム作ろ? ね? ね? 簡単でしょ?」
「オレは難しいって言ってるだろ! 何なんだよもう……オレは別に……女子とかそういうの、本当に別にいいって……」
サバルは不貞腐れたように言い捨てた。
……少し、強引に事を進め過ぎたのかもしれない。遊び人という習性を除けば性格だけは優等生なサバルがここまで不満を言うのはゲームプレイヤーとしても幼馴染としても中々無いことだ。
「ごめんね……そうだよね。いつかはやらなくてはならない運命だとしても唐突に言われたら面食らうよね。ごめんね、私、サバルの気持ちを慮ってなかった……」
「え、オレ、いつかはハーレム作る運命なの? 何だよそれ。マヤカ、エセ占い師に騙されてたりしないよね? ちょっとさっきから突拍子が無さ過ぎるぞ」
「エセ占い師ってもー。私のことなんだと思ってるの?」
「天然。あと目が離せない幼馴染」
「即答でそれ? もっとあるよね普通?」
天然とか言う単語を人から言われるなんて相当だと思うんだけど……。寧ろ私は真反対だぞ? ほら、世界滅亡とか回避しようとこうして努力しているわけだが? だが?
「いいじゃんー。私のためだと思って作ってよハーレムハーレムサバルのハーレム野郎! 私も手伝うからーいいでしょー!」
「連呼するなよ!? オレがとんでもない不貞野郎と思われるだろ!?」
「……ぐすっ……ううっ。サバルが私の言うことを聞いてくれない……」
「頼むからウソ泣きもやめろ……そろそろ通りすがりの人からの視線が痛い」
てへ☆、と舌を出す古典的な仕草で誤魔化した。
泣き脅しも失敗……と。どうすればサバルを上手くハーレム野郎へと誘導できるのだろうかマジで。
「それより、マヤカ。マヤカもクライン魔法学院受けるんだよな?」
サバルは心配そうに顔を上げた。
クライン魔法学院。それは聞き馴染みのある学校名で、原作の舞台である。
これから一か月後。サバルはクライン魔法学院を受験し、そこでサバルは生徒会長のエレアと出会う。それがプロローグであり、ゲームの導入だった。私が焦ってるのもこれが関係してたりする。
そう、原作開始まで残り一か月。私がこうして直接的な言動に訴えているのも既に原作まで秒読み状態に入ってることに焦燥感を持っているからだった。
今の状態じゃサバルはハーレムを作らないだろう。何でも好きな子がいるらしい。その子に告白して、成功したら魔法学院を卒業したのちはその子と王都で暮らすのが今のサバルの目標らしい。はー。そんなお前には前世からこんな死語的慣用句を差し上げよう。───リア充爆発しろ。
で、なんだっけ?
あー私が魔法学院を受けるかどうかだっけ。
「うん、受けるよ。当たり前じゃん。サバルを放っといたらボッチ拗らせて中退しそうだし」
「オレの保護者の方ですか? てかさ、聞きたいんだけど。オレ……マヤカが入学試験の対策をしてるところみたことないんだけど……大丈夫なの?」
「ふふん、我自信アリ! 私の心配より自分の心配をしてた方が良いよ!」
といって私は胸を張る。因みに私の同年代より大きめの胸はこの剣と魔法の世界においてはかなり邪魔だったりする。
余談は置いておいて、入試に関しては本当に問題がない。
クライン魔法学院という学校の入学試験は基本的に筆記が重視される。その筆記も私の前世レベルで言えば簡単な計算や社会科学、自然科学の複合問題だ。合格率は平民なら大体1%という難関。町人、つまり平民としての私だけの知識なら危うかったが、前世で日本の万全たる義務教育課程及び高等教育を受けていた私にとっては何の障害にもならない。実技試験に関しても、私にも魔法の才能があることは既に判明している。多分大きく足を引っ張ることは無いだろうと思う。
因みにじゃあ何で純粋な平民であるサバルが魔法学院に入学できるのかといえば、単純に魔力量である。「こ、この魔力量はSS級……じゃと!?」というネット小説なら億回見たやり取りを経て筆記試験を加味されずに特別に入学が許可される予定だ。こんなベタな設定を色々な場所で使ってくるあたりも千バリがクソゲーという称号を冠する由縁の一つだったりする。
「確かにオレは勉強は苦手だし……でも実技なら……!」
「大丈夫、サバルなら出来るよ! だって……」
「だって?」
「……私の幼馴染なんだもん! サバルの可能性は一番私が信じてるし、一番の理解者って自信もあるよ!」
「そ、そうだよね。励ましてくれてありがとな」
あっぶね。だって主人公だから入学出来て当然じゃんとか言いかけるところだった。私ナイスフォロー。
ってなんだかサバル、照れてない? 顔を背けちゃってまーお年頃ですね。可愛いと思います。でも世界が滅ぶので早くピュアな部分は捨ててください。
念のために言い含めておく。
「サバルサバル、マヤカ√はないからね?」
「るーと……? また訳分かんないこと言うなよマヤカ。適当抜かして煙に撒くのも大概にしろよ」
またもや意味が理解されなかったらしい。言い換えようか……? でも私のこと好きだったらごめんだけどその愛は正ヒロインたちに取って置いてね、なんて言うのは流石の私でもあまりの自意識過剰さに躊躇っちゃうしなあ。
いや、冗談だし別に言わなくていいや。
「そんなんじゃないし。ま、いっか。ともかく魔法学院入ったらまずは一緒に人気の少ない場所を一杯調査しようね!」
「合格前提とは凄まじい前向きさ加減……ってちょっと? 何で人気の無い場所なんて知る必要が?」
「そりゃサバルがハーレム要員を連れ込む場所だよ! あ、でもちゃんと人数分用意しないとね。じゃないと内ゲバが起こっちゃうから」
「ホントに聞きたいけどマヤカはオレにどうなって欲しいの? 痴情の縺れから女子に刺されて死んでほしいの? オレ何か悪いことした?」
「え、何で? 私はただサバルにハーレム王になってほしいだけだよ?」
「うわ良い笑顔……くっそ……こんなに可愛いの腹立つな……」
ん~?と首を傾げてみる。
もちろんサバルがハーレムを作るのは手段でしかない。全ては世界を救うため。なんて言うと大層な目的に聞こえるけど、全ては私のためである。
これはただの自己保身だ。
世界のため。人類のため。そんな理由は私には一ミリもなくて、私がむごたらしく死にたくないから世界には存続してもらわなければならない。
「だからさ、サバル、頑張ろうね!」
「えっと……何を?」
「無論魔法学院での生活を、だよ!」
そして。私のためにラスボスを倒して世界を救ってね。サバル。
なんてやり取りをした二か月後。
私はクライン魔法学院の入学試験に落ちた。なんでよ。