とある住宅街の一軒家。
そこには現在、1人の男子高校生が住んでいた。
その男子高校生は現在、テレビの前に座り込み、
時刻は深夜の12時を既に超え、それでも彼はなお、コントローラーを離すことはなかった。
《なあ祐希、そろそろやめにしないか?もう眠いんだが》
VC越しに、祐希の親友とも呼べる男がゲームの止めを提案する。
だがそれを彼は断った。
「馬鹿言ってんじゃねぇ隼人。夜はこれからだぞ」
《いやもう日付が変わってんだが、今から朝に向かっていくんだが》
祐希はスマホで現在時刻と日付を確認する。
時刻は12時48分、日付は7月21日水曜日。
だがそれを見てもやはり祐希は意見を変えず、それどころか、全然余裕じゃねえか、とすら言った。
もう1度言うが、祐希は高校生である。
その親友である隼人もだ。
そして水曜日となれば当然、明日…いや、もはや今日か、今日にも学校があるはずだ。
本来ならば、既に眠っていた方が健全である。
だが…。
「せっかく夏休みが始まったんだ、それも昨日から。だったらゲームしなきゃ夏休みに失礼だろ」
《いつからお前は夏休みという概念に対して失礼の感情を持つようになった》
そう、学生達の最も貴重な長期休暇。
夏休みである。
その貴重さは言うまでもなく、そして祐希は夏休みをプロテスタントにとっての聖書の如く、大切に扱おうと決めていた。
その結果のこれである。
とはいえ、巻き込まれただけの隼人にはそんな事情、知ったことではないが。
《そもそも、お前、両親はどうしたよ。あの人ら深夜までのゲームを許す性格じゃなかっただろ》
「2人なら仲良く海外赴任中。夏休みと被るとかいう神タイミング」
《お前に神の加護があると言うよりも俺に悪魔の呪いがある気がする》
それとも神は1人を救うためには1人の犠牲が必要とでも言うのか。
はたまた祐希が隼人を生贄に悪魔召喚でも行ったか。
幸福と不幸のバランスが自然と取られただけかもしれない。
《はあ、分かったよ。とっておきのスポドリ飲んでやるよ》
「さすが、お前なら分かってくれると思ってた」
そうして、隼人は眠気を吹き飛ばすためにスポーツドリンクを缶1つ、摂取する。
だが神は隼人に新たな試練を与えた。
「あ、ごめん、眠いわ」
《はぁ!?》
祐希の耳に、隼人の魂の叫びが響く。
そう、祐希は今の今まで隼人にゲームを催促しておきながら、いざ隼人がやる気を出した途端に睡魔に襲われたのだ。
これはやはり、神というよりも悪魔の手によるものかもしれない。
《いや、俺今…》
「ごめん、寝るわ」
ゲームやVCなどの各種電源を切断した祐希は、ベッドに向かう間もなくその場に転がり込んだ。
そうして彼は、程なくして眠ることになる。
─◇─◇─◇─◇─◇─
けたましい音が部屋になり響く。
スマホのアラームだ。
「んぁ?」
その音に反応した祐希は目を覚ます。
現在時刻6時30分、日付は変わらない。
いつもなら学校に向かうため、この時刻にアラームわ設定していたが、夏休みに入った今、このままにしておく必要はない。
「あっ、学校仕様のままにしてた」
ふと、甲高い、女性の声が部屋に響く。
それは呟き声程度のものであったが、このアラーム鳴り響く部屋の中でもたしかに、祐希の耳に聞こえてきた。
もっとも、内容はしっかりと聞き取れなかったが。
えっなに?申し訳ないけどホラー展開はNGだよ。
そんな事を考えながら、祐希は足音を潜めて歩き出す。
泥棒とかがいた場合のことを考えてのことである。
そこで祐希はふと、違和感を覚える。
少し視線が低くないか?と。
そうして違和感を覚えながらも1歩目を歩み出した瞬間、祐希の頬になにかが当たる。
おそるおそるそちらの方を見てみると、それは髪の毛であった。
だが祐希の髪の毛は頬に当たるほど長くはない。
そこで祐希はふと、嫌な予感が頭をよぎった。
そのまま彼は、洗面所へと駆け出し、洗面台のガラスにて自分自身の姿を確認する。
「…なんこれ」
鏡の反射に映っていたのは祐希ではなく、見知らぬ女のものだった。
いや、そう思えたらどれだけ祐希にとって楽なことか。
今、祐希が発したはずの「…なんこれ」。
祐希が発したはずだと言うのに鏡面の女性の口はたしかに「なんこれ」という風に動いており、またその発せられた「なんこれ」も先程の甲高い声だった。
つまるところこれが意味するものは…。
「きゅ〜〜」
祐希は気を失った。
─◇─◇─◇─◇─◇─
次に祐希が目を覚ましたのは8時13分。
天井がなぜかリビングのものではなく洗面所のものである理由を考えた彼は、次に鏡を覗き、そしてスマホを取り出した。
《ちょっと家来てみ、洗面所の鏡が呪われた》
メールを送り、スマホを切る。
そう、あくまでも彼は、おかしいのは自分ではなく鏡だという形で現実逃避を成功させたのだ。
ちなみに、メールの相手は隼人。
祐希が原因で眠れず、今の今までスポーツドリンクを何度も開きながらゲームを継続していた、悲しき男である。