夏休み初日に始まる人生(性)転換点   作:292941

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第3話

「ん〜ん」

「おーい、そろそろ起きろ」

 

隼人の頬を、ペシペシと何かが叩く。

 

「う〜ん」

「時間見ろ、12時だぞ。カップ麺用意してやったから起きろ」

「ん〜?ここどこ?」

 

なんだこいつ、めんどくさいやつだな。

そう思った祐希は冷蔵庫から小さめの氷を持ってきて、隼人の服の中に突っ込む。

 

「冷たっ!」

「ようやく起きたか」

「なんだよ急に…って、誰?」

「その反応さっきやったから」

 

隼人は眠りに就く前のことを思い出す。

そうして、5秒ほど熟考に入ってから目の前の服の女を見て「…祐希?」という反応を示す。

もちろんその女性は自身が祐希であると主張するのだが、それを信じる証拠が隼人には何一つないため、どうしても疑いの目は向けてしまう。

 

「ん?どうした」

 

だがその仕草の癖はたしかに、どことなく既視感のあるものであるため、視覚は女性が知らない人物であると主張する一方で、感覚は女性が祐希本人であると訴えてくる。

 

「なあ、本当に祐希なのか?」

「当たり前だろ、よく見ろよ」

「どう見ても知らない女なんだが」

 

隼人がそう言うと、その途端に祐希の顔は暗くなり「…そっか、やっぱりそうなんだよな」と呟く。

祐希の現実逃避を真っ向から否定した、という事実を知らなくとも、流石に悪いことを言ってしまった、という自覚がある隼人は咄嗟に「いや、信じる、信じるけど!」と言うが、祐希に。

 

「いや、無理しなくていいから。どうやったら信じてもらえるか考えてみるわ」

 

と言われる。

だがその言葉を聞いて隼人は感覚的ではあるが、女性=祐希であるという言葉を少しだけ信じる気になる。

 

「なるほど、たしかに祐希だな」

「は?」

「いや、ここで無理矢理感情に訴えかけずどう説明するかを考え出すあたりが」

 

祐希は少し笑い。

 

「なんだよその理由」

「いやいや、お前って前から妙に理屈っぽかったし」

 

それを聞いて祐希はさらに笑う。

隼人の言葉がおもしろかったからではない。

意識的か無意識的か、おそらくは後者だろうが、隼人は今、今までの疑いを含んで言葉とは違い女性=祐希であるとの前提を組み込んだ言葉を言ったのだ。

おかしな話だが、自分が自分であるとの前提を他人が持ってくれたということからの、なんだかんだ言いながらも結局は信じてくれる親友でよかったとの、心の底からの笑いだったのだ。

 

「ん?どうした」

「いや、なんでもない。お前が将来詐欺にあわないか不安になっただけだよ」

 

人をあまりにも信用するものだから、とは言わない。

 

「まあ、信じてくれたようでなにより。とりあえずカップ麺、お前のもあるから食うぞ」

「了解…って、これ激辛のやつじゃん、俺これ食えないんだけど」

「食え、俺のやつ以外にはそれしかなかった。家主の命令だ」

「お前は家主じゃなくて家主の息子だろ…って悪い」

「いや別にいいよ。お前は信じたんだろ?じゃあ父さんたちも信じてくれるって」

「…だよな」

 

隼人は言わない、「祐希、声震えてるぞ」とは。

 

─◇─◇─◇─◇─◇─

 

「で、どうするんだ?」

「どうするって?」

 

カップ麺を食べ終えた二人は話し合う。

 

「いや、とりあえず病院行くべきだろ」

「ああ、そういう。でも病院行ってなんとかなるもんなのか?」

「さあ」

 

なんとも曖昧な理由すら提示できない隼人に呆れながら、病院に行ったほうがいいよなとも祐希は考える。

このままだと様々な問題があるが、なにより身分を証明できるものがない。

ところが病院に行って、自分が一条祐希その人であり、なんらかの理由で女になったとの診断をもらうことができれば親や学校に説明する手間が省ける。

そもそも、親はともかく学校に病院の保証なしでどう説明するんだというツッコミはひとまず置いておこう。

 

「ん、そうだな、病院行くか」

 

祐希は立ち上がり、保険証を探しに棚を漁る。

 

「あ、でも服どうしよう」

「ん?着替えればいいんじゃ?」

「身長、たぶん縮んでんだよ。お前より目線下だし」

 

そう言う祐希の服は、着替えていなのかまだパジャマだが、パジャマという楽な格好であるということを踏まえても大きい。

ダボダボというほどでもないが、人によっては彼シャツと称するだろう。

 

「まあ、どうにもしようなくね?」

「いやまあ、たしかにそうなんだが。まあどうでもいいか」

 

そうして隼人は少し待つこと約3分。

着替えてきた祐希は、先程のパジャマよりかはマシなものの、ブカブカの服を着ていた。

 

「やっぱ少し歩きづらいな」

「まあ、見るからにそうだな」

 

そうしていざ病院を目指して出発しようとしたその時、一つのトラブルが起きた。

 

「あ、ちょっとトイレ行ってくる」

「おう」

 

祐希がトイレに行くといい、隼人は適当な返事を返す。

友人同士の会話としてはごく普通の会話。

日常の一コマと言ってもいいだろう。

では何がトラブルなのか、それは祐希がトイレに向かい、間もない時のことだった。

 

「あっ!」

「どうした祐希!」

 

祐希の叫び声に、隼人はトイレに向かう。

トイレの扉は閉まっており、中からは「やらかした」や「そうか、そうだよな」などの、祐希の落ち込んだ声が聞こえてくる。

 

「どうした」

「いや、なんでもない。本当にくだらないこと。少し考えたら分かったんだよな」

「?」

「ヒント、男性と女性の下半身の違い」

「あ…」

「おっけ、察したぽいな。ちなみに太ももにかかった」

 

男性器は小をする際、その棒のような形状から方向を定めやすい。

では女性器は?さらに言うならそのことを一切理解せず、元男が今までと同じように小を足そうとしたら?

つまりは、そういうことだ。




ああ、エアコンのある部屋から出られねえ
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