色々なトラブルもあったが、なんとか祐希と隼人は最寄りの総合病院に向かった。
二人は高校生であり、当然車などは使えないため自転車で、というのが自然の流れであったのだがやはり祐希には色々と違うことがあったのか、出発する前に自転車のサドルの高さを軽くイジりもしたし、自転車をこいでいる最中も長く伸びた髪の毛を鬱陶しそうにしていた。
「なんか大変そうだな」
「当たり前だろ、体が色々変わってんだ。ただ歩くだけで違和感感じるってのに、自転車ならなおさらだ」
「ははは」
どのような違和感なのだろうか、と隼人は気になったが同時に、一生共感することのない違和感だろうな、とも考えていた。
そうして、祐希の愚痴を聞きながら自転車をこぐこと15分。
二人は病院にたどり着いた。
とはいえ隼人はただの付添で、受付には祐希が一人で行ったのだが。
「なんかさ、すっごいスムーズに受付終わったんだけど。あれ?俺精神科医に連れて行かれないよね」
「大丈夫だろ」
その後少しして祐希は呼ばれ、診察室に入っていく。
隼人は適当にスマホをいじりながら待っていると、そう時間は経たずに祐希が戻ってきた。
「お、どうだった?」
「…なあ、人間って生まれつきの性別が変わってもおかしくない生物だっけ」
「は?」
「少し前から稀に見る症例だとさ」
「え、マジ?初耳なんだけど」
「あ、ちょっと待ってて、色々手続き終わらせてくる」
「お、おう」
近年稀に見る、というが隼人は生まれてこの方一度もそんな話は聞いたことがない。
祐希の反応を見るに、おそらく祐希もそうなのだろう。
納得できないような気持ち悪さを隼人は持っていたがまた、安堵の感情も持っていた。
これが新発見の病気だとか未発見の病気だなんだとなると、祐希の今後の身分の保証がとんでもなく難しいものになるからだ。
ところがこれが既に世界中でごく小規模ながらも発生しているとなると、病院としてもある程度のマニュアルは作られているだろうし、身分の証明などもスムーズに進むだろう。
「お待たせ、あんまりいても迷惑だし外で話すぞ」
─◇─◇─◇─◇─◇─
祐希と隼人は外にあったベンチに座る。
「なんか12、3年前ほど前に発見されたらしいぞ。ただあんまり話題にはならなかったらしいけど」
「なんで話題に…って、12、3年前ってなんかあったな」
「そうそう、リーマンショック。あれの陰に隠れたらしいぞ」
「そんな理由で…」
少し無理矢理な気もするが、どうして今日に至るまで隼人と祐希がこんな病気を知らなかったのか、その理由は分かった。
さらに祐希が言うところによると、もともと珍しい症例だが、祐希の年齢になって発症するのは更に稀だそうだ。
移る病気ではなく、それと本人確認の一環として高校生は保護者が一人、必要なようで今月中に母親が帰ってくるとのこと。
「よかったじゃねえか。学校に余裕で間に合うぞ」
「よくなんかねえよ。せっかく夏休み中親無しフリーダムができると思ったのに、早ければ来週にでも帰ってるって」
「ははは、そいつは…」
たしかに、気の毒なことだ。
一つの病気によって夏休みのほとんどが予定通りにいかなくなったのだ、それも初日から。
それどころか、慣れない体になって、これから新しく慣れていくのも大変だろう。
同じ人類という枠組みの中では、幼児と成人した大人の次に離れている、男と女という中での変化なのだから。
「そういや親父さんは?」
「まだ忙しいけど出来るだけ早めに帰るっつってた。もちろん別にいいと返事したけど」
「それはそれは」
親父さんが気の毒でならない。
一人息子、いやもう娘か。
突然性別が変わり戸惑っているであろう子供の元に駆けつけようにも本人に拒否されたのだ。
隼人の記憶によると、祐希の親父さんは基本的に優しい感じで、家族愛が深そうな人でもあった。
その思いは本人に伝わってないようだが…。
「なんだよ」
「いや、それにしても随分と変わったなって。言っちゃなんだがこっちのほうが色々と楽なんじゃないか?」
「ん?ああ、外見か?」
「ああ」
以前の祐希の容姿は特に変哲もなく、どう転んでも相対的イケメン以上の評価は貰えなかっただろう。
それに対して今の容姿はどうだ。
以前の容姿とは随分変わったが(性別そのものが変わっているが)確実に誰にとっても最低限、ポジティブなイメージを持たれるだろう。
「つかさ、なんで髪の毛伸びてんだろうな」
「さあ?お前の体のことなんざ知らねえよ」
「ま、だろうな。長いのは慣れないから明日にでも床屋に行くかな」
「えー、もったいねえな」
「なに言ってんだお前」
「ははは、冗談冗談」
「で、このあとどうするよ。まだ結構時間あるけど」
現在時刻15:48。
いつもならまだなにかしている時間だが。
「いや、今日はもう疲れた。帰るわ」
「そっか」
隼人はベンチから立ち、自転車置き場に向かう。
「じゃあな」
「おう、細かい診断結果もらったら連絡入れるわ」
ああ、自分の文章力の無さが露呈していく…