初めて戦場に出てから四年と一ヶ月。
再編成による配置転換はもう何度しただろうか。
戦死した仲間はもう何人見てきただろうか。
あとどれほど戦えば終わるのだろうか。
答えは頭の中にある。
配置転換は十九回。
戦死した仲間は四百五十一人。
あと十一ヶ月戦えば任期満了。
こうして考えてみると、四年間もの間、兵器の一部として戦場で戦い続け、四百五十一人の死者を見送り、ただの一度も死んでいないことが、自分でも信じられなくなる。
実際のところ、自分は既に死んでいて、そのことに気がつけない哀れな亡霊が、地獄で戦場の夢を見ているのかもしれない。
『おい、起きろ。全員揃ってるぞ』
見知った声と共に視界に影が差す。
今から二度寝をしようとしていたというのに、邪魔が入ってしまった。
「ああ、言われなくても見えてる」
渋々と重い身体を起こし、脱ぎ捨てられた戦闘服の上衣に袖を通す。
鏡に己の姿を映して見れば、そこに立っているのはエイティーシックスと称される、
鋭利という言葉が似合いそうな端整な顔には、常に仏頂面が張り付いている。程よく鍛えられた身体を包む戦闘服は、森林と草原、湿地帯が大部分を占める東部戦線の地勢とは真逆の砂色と茶灰の砂漠迷彩。
鏡に映った姿は、見ていて自分でも悲しくなる程、共和国軍の兵隊そのものだった。
待機状態の<ジャガーノート>が並ぶ格納庫には、哨戒中の者を除いた戦隊の全プロセッサーが集められており、それぞれが自機の元で待機していた。
キャノピーを開放した自機のコックピットで、作戦図と睨めっこをしていた副戦隊長のヘルガが、こちらに気付いて立ち上がる。
「各小隊ごと整列!」
よく通るハスキーボイスで下された号令に、戦隊員達は素早く小隊ごとに縦隊を組み、姿勢を正す。
「総員傾注。最新の予報を伝える」
副戦隊長の手によって、第二十二戦区の地図の上から
雨を示す傘マークは侵攻の予兆あり、曇りを示す雲マークは威力偵察、晴れを示す太陽マークは侵攻の予兆なし。
この戦隊では、前任者たちの遺した膨大な情報と哨戒で得られた情報、その他のいくつかの要因が組み合わさることで、独自に<レギオン予報>というシステムを構築、運用している。
着任してから今までの予報的中率は十割であり、戦隊の全員が予報を信用していた。
「第三小隊が地点211にて威力偵察と接触。これを殲滅した。以降の予報は明日1930まで晴れに更新。戦隊は警戒状態を解除し、明日1600まで自由行動とする。何か質問」
「シリル、白豚の上官殿が新しくなったって本当なのか?」
黒髪に黒目、小柄な体躯と象牙の肌の
「ああ、今日着任のはずだ」
「どんな奴か情報ないの?男とか女とか、前はどこの部隊に居たのかとか」
「前任は第三十三戦区第一防衛戦隊、性別は女性、階級は大尉」
三日前に送られてきた事前通告の書類にはそう書いてあった。
他の戦隊であれば誰も興味を示さない上に、そもそも書類は読まれもせずに焚火の火種にされるだろう。
「女ハンドラーは初めてだな」
「あたし、そいつ知ってる~」
「俺も知ってるぜ?変わったコールサインを使う女ハンドラー」
「確か......<オラクル>だったかな~?」
「
「はっ!信心深い
「いいねそれ、当たってたら最高」
新しいハンドラーについて、各々の知っている噂を話し、統合し、人物像を予測する。今回は<信心深い奴>というので決まりだろう。
それにしても、ここの戦隊員達は変わっている。数少ない娯楽の一つとして興味を持った、程度ではあるのだが、自分たちを家畜と蔑む
「気をつけ!」
副戦隊長によって掛けられた号令に、それまで自由に話していた戦隊員達が口を閉じ、直立不動の姿勢をとる。
「休め。戦隊長どうぞ」
「ありがとうヘルガ。通達事項は以上だ。解散」
隊列と敬礼を交わし、残った仕事を片付けるべく格納庫を後にした。
エイティーシックスのアニメを見ていて気が付いたことなんですが、フェルドレスって《自走対戦車砲》なんですね。
劇中で用いられてる兵科記号がAPP-6C(MIL-STD-2525A)準拠だったおかげで気づけました。