涼宮ハルヒの発情   作:りりぅむ

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チョコレートレイト(後編)※2021年7月連載再開

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(高校生だった自分からのバトンを受け継ぎ、

続きを執筆してみようと思います。2021年7月22日 りりぅむ)

 

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二人きり?あぁ、そういうことか。

こいつは閉鎖空間での出来事を見ていやがったわけだ。

全て知ってます、みたいな顔が癪に障る。

 

でもまぁ、俺も期待していなかったわけではない。

あくまでもそんなことあるはずがないというスタンスでいたかっただけなのだ。

 

なぜなら、それが叶わなかった時に

一人で勝手に辱め《はずかしめ》を受けることになるのは

この俺なのだから。

 

 

 

ーーだが結論から言うと、

ハルヒは、本当に持ってきやがった。

 

 

 

 

部室に夕日が差し込み始めた頃、

俺たちを二人きりにするためなのか

超常3人組がそそくさと帰り支度を始める。

それを見るやいなや、

さっきまで団長机に突っ伏していたハルヒが体を起こし

 

『ちょっと待って。』

 

そう呼び止めながら立ち上がり

自分のかばんをゴソゴソとあさり始めた。

 

『昨日バレンタインだったでしょ?でも渡しそびれてたから。

はいこれ。』

 

出口に集まっている3人の元に歩み寄りながら

かばんから取り出したのは、

小さめではあるが星やらハートやら、

かわいい模様が印刷されている茶色の紙袋だった。

それを古泉、朝比奈さん、長門の順番で渡していく。

 

『おや、これは嬉しいですねぇ。』

『わぁ…っ!涼宮さんありがとうございますぅ!』

『……』

 

3人の少し驚いた様子からするに、

いや長門は驚いてはなかったが…、

自分たちにチョコを作ってくることは

想定外だったのか…?

 

『ちょっと急ぎで作ったからできは保証しないけど、

せっかくのバレンタインなのに何も無しってのは味気ないでしょ?』

 

少し照れつつも自慢げに言う。

そんな様子をじっと眺めているとハルヒと目が合う。

 

『…何よ。』

 

『べ、別に』

 

俺のなんとも言えない様子を見てから少し考えたのち

 

『…まぁ、いっか。はい。』

 

そういってかばんからさっき見たのと同じ紙袋を取り出し、

俺に向かって突き出す。そのまま俺の座ってる机に置いてくれたらいいものを、

そこから動かないもんだから俺は立ち上がり受け取りに行く。

 

『ありがとよ。』

 

受け取る俺とは目線を合わせずに、

帰ろうとする3人のほうに向き直り

 

『帰り道で食べちゃダメよ。家に帰ってから食べなさい。』

 

などと小学生相手に向けた言葉かと思わせるような

ことを言いつつ見送る。

 

そしてドアが閉まる直前、古泉が

「頼みましたよ」と言わんばかりのアイコンタクトをしてきたことに

俺は少しの苛立ちを覚えた。

 

くそっ。それじゃまるで俺の一挙手一投足が

閉鎖空間を生み出さないために

仕方なくとった行動みたいになっちまうじゃねえか。

 

そうか、こいつの全てを見透かしたようなニヤケ面が

やけにムカつく理由はそこか。

 

言わせてもらうが、

俺はお前ら機関にとっての"ハルヒ落ち着かせ装置(ネーミングセンス皆無)"

じゃねえ。

 

俺の今までの行動は世界がどうだとか、

閉鎖空間がどうだとか、そんなことのためだけに取ってきたわけじゃない。

俺自身の意思でそうしてきただけだ。

 

…だから今だって

 

『なぁ。開けていいか。』

 

さっきまで座っていた席に腰を下ろしながら聞く。

せっかくなのでこの場で食べて感想を伝えてやりたいと、そう思っていた。

 

『別にいいけど。ちょっと一ついい?』

 

その場に立ったままのハルヒの逆質問に

俺は紙袋を閉じていたシールを剥がす手を止める。

 

『なんだ?』

 

『あんたさ、バレンタイン誰かにもらった?』

 

『もらってたとしたらどうなんだ?』

 

『別に、…どうもしないけど。』

 

明らかに不機嫌になるかと思いきや、

どことなく悲しそうな表情も入り混じっているように

見えたのは気のせいか?

まあ恐らく、閉鎖空間での俺の言動が本当かもしれないという

疑念を確信に変えようとしているんだろうな。

 

『安心しろ。誰からももらってねーよ。』

 

『何を安心するのか意味わかんないんだけど。』

 

ムスッと目線をそらしたかと思えば

少ししてからこっちに向き直り

 

『昨日、誰かにチョコもらってたわよね。』

 

きたか。

ここで閉鎖空間でのセリフをもう一度言うことは、

ハルヒにあれが現実に起きたことだと認識させてしまう

恐れがあることは重々わかっている。

 

しかしだな。

こんな勘違い、早く解消してやるべきだ。

 

それに、俺にだって伝えたいことがある。

世界がなんだ。そんなもんは知らん。

何か起こったら起こった時に考えればいい。

 

 

『あれはだな。谷口に渡して欲しいってお願いされたんだ』

 

そう伝えると何かを思い出そうとする素振りを見せたのち、

みるみるうちに驚きの表情に変わっていった。

 

『キョン…それって…ちょっと待って。でもあれは…』

 

ついでにもう一発かましとくか?

 

『だーかーらー、俺はまだ誰からもチョコを貰ってない。』

 

目の前でわかりやすくうろたえるハルヒ。

 

『何よそれ…。でも…こんなことってあるのね…。』

 

ハァとため息を一つつき、

 

『そんなことなら、昨日渡せば良かったわ。』

 

まったくだ。何を勘違いしてひよってるんだ、

この団長様は。

 

『俺はな、谷口みたいにチョコが楽しみで仕方ねぇ、

みたいな態度を出すのは憚られる《はばかられる》タイプなんだ。』

 

『何よいきなり。』

 

つまりだ。

『バレンタイン?そういえばそんな行事あったなぁと

斜に構えておくことでもらえなかったときのダメージを受けないよう

保険をかけてたってわけだ。』

 

『へぇー。それで?』

 

『その結果、お前一人に決断を背負わせちまった。』

 

『意味わかんない。』

 

『あー、だからだなぁ…』

 

腹を割って話そうと思ったが、

いざ現実世界で目の前にすると結論を言うのを遠回しにしてしまう。

そりゃそうか。閉鎖空間でのハルヒは俺の発言を現実だと思ってない

わけだから、何を言ってもあくまで夢の中の俺が喋ってたことにできる。

あの時の俺は「チョコ待ってるからな」などと

かっこよく想いを伝えた気になっていたが、

それはただズルい立場からを伝えただけにすぎない。

 

悪かったなハルヒ。始めからこう言ってやればよかったのだ。

 

 

 

 

『俺は、お前のチョコが食べたいんだ。』

 

 

 

 

ハルヒは目線のやり場に困りながら

『だだだったら昨日のうちにそう言いなさいよっ!!』

 

顔を赤らめながらそう言った。

これは…夕日に照らされてそうなっている…わけではないだろうな。

 

『…今、食べてもいいわよ。』

 

言われなくてもそうさせてもらうさ。

俺は茶色の紙袋を閉じているシールを剥がし、

中を確認する。

 

ボール紙製の小箱。薄桃色のプリントが施され、

鮮やかな紅色のリボンで十字に結ばれている。

間違いない。これは閉鎖空間でハルヒが俺に渡そうとしたものだ。

 

リボンを解き箱を開けると直径5cmほどの

ハート型チョコが3つ、逆三角の配置で入っていた。

表面にはホワイトチョコソースのようなもので

それぞれ「キ」「ョ」「ン」と書いてある。

チョコに文字を書くのはそれなりに難しそうだなと考えながら、

一生懸命文字を描こうとしているハルヒの姿を想像し、

 

『ふっ』

 

鼻で笑いつつも顔がニヤケるのを制御する。

全く団長さんよ。こういうギャップ萌え的なサムシングは反則だぜ。

 

『何がおかしいのよ!』

 

『いや、不意打ちを食らったもんでな。』

 

そんなことを言いながら「キ」のチョコをつまみ上げる。

意外と厚みがあったので一口でいかず半分かじることにした。

 

 

外側は割とパリッとしたチョコだが

中には生チョコが入っているのか、とろっと口の中で溶ける。

味は少しビターな感じだ。

食レポなんてものは今までの人生でやったことが無いもんで

こんな風にしか伝えられないのだが。

 

 

それから目を閉じながらチョコを味わっていると

対面のイスに腰掛ける音が聞こえた。

 

時間をかけて咀嚼し

二口目のチョコを飲み込んだあと

「ョ」のチョコをつまもうと目を開けると

 

 

頬杖をついてこちらをじっと見つめるハルヒと目が合った。

 

口角は少し上がっているもののニッコリ笑顔というわけでもなく、

かといって照れているわけでもなく、

まるで愛しい我が子を見つめるような、そんな表情をしていた。

 

何なんだよその表情。思わず目が泳いじまったじゃねぇか。

 

 

『なぁハルヒ。』

 

俺の呼びかけに対して声は出さず首だけ少し傾ける。

 

『チョコ、うまいぞ。』

 

『知ってる。』

 

なんだそりゃ。

俺の感想に大きな反応を示すわけでもなく、

さっきと変わらぬ表情で相変わらず見つめてきやがる。

 

 

聞こえてくる音といえば俺の咀嚼音と

ハルヒのゆっくりとした呼吸音だけのこの空間。

 

 

しばしの沈黙が流れたが、

正直全然いやじゃなかった。

 

 

顔の右半分だけが夕日に染まるハルヒを見ているだけで、

どこか別世界に来たんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。

こんな時間がもう少し続けばいいと願う俺だったが

 

 

『そろそろ帰りましょ。』

 

チョコが後一つというところで現実に引き戻された。

 

『後一つ残ってるんだが。』

 

『家に帰ってから食べなさい。もう下校時間だから。』

 

もうそんな時間なのか。

たしかに部屋に差し込んでいた夕日も

今では部屋全体をほんのりオレンジに照らすくらいに落ち着いていた。

 

『じゃあ帰るか。』

 

そういってチョコの箱を閉め

紙袋に戻そうとした時、

一つの疑問が浮かぶ。

 

まてよ、この紙袋、

閉鎖空間で見たものと違わないか?

 

たしかあの時は黒くて光沢のあるようなものだった。

あれに比べると少し安っぽいものになってるような…。

 

ここでさらに疑問が浮かび上がる。

昨日の時点で俺以外の団員のチョコも作っていたのか?

そもそも昨日は部室に誰も来なかったから

単純に渡すタイミングが無かっただけとも考えられるが。

 

『なぁハルヒ。』

 

『何よ。』

 

いつもの白いダウンジャケットを着ようとしているハルヒは

手を止めることなくこちらを向き返事をする。

 

『昨日、俺にチョコを渡すのを躊躇したみたいだが、

他の団員にも渡しそびれていたのか?』

 

『あー。』

 

プチプチとボタンを止める手が止まる。

 

『…この際だから言うわ。

みんなの分のチョコはね、昨日の夜作ったのよ。』

 

昨日の夜?

てことはだ。昨日の下校前、俺にチョコを渡そうとした時点では

俺にしか作ってきていなかったってことか。

じゃあなぜ他の団員全員分作ることにしたんだ…?

 

いろいろと思考を巡らせているとハルヒが自ら答えを教えてくれた。

 

『なんか…、そっちのほうが渡しやすいじゃない。』

 

…ほう。てことはなんだ?

俺一人には渡しづらいから全員に渡しちまおうってことか。

考えやがった。

考えやがったが…だ。

 

なんとも言えない気分になるのはなぜだ。

まぁおおかた理由はわかっているんだが。

 

 

つまりは紙袋もみんなと同じものに成り下がり、

みんなと同じものの一つをもらっただけに過ぎないということが

ちぃとばかし悔しかったんだろうな。

昨日の段階であれば世界にたった一つしかない

ハルヒのチョコを受け取ることができただろうに。

くそっ。

 

でもまぁ。

 

 

『渡してくれてありがとよ。』

 

『…ん。別にいいわよ。あたしが渡さなかったら

一つももらえなかったことになるんだから。

それじゃ可愛そうでしょ?』

 

いやいや。わかってねぇなお前は。

 

俺はただの一つでいい。

 

ただの一つ、欲しかったんだ。

 

 

お前からのチョコが。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日は沈み、下校の準備をする運動部たちを横目に

俺たちは校門を出た。

 

 

『あ、そういや俺、昨日チョコもらったんだった。』

 

『はぁ?誰からよ。』

 

『ん?そりゃもう、小柄な女性からだよ

『妹ちゃんね。』

 

はえーよ。

 

『じゃあ私からのチョコはいらなかったわね。

『いやいる。』

 

俺の即答返しにびくっとなってこっちを見る。

その後フフと少し笑い、

 

『これはホワイトデー期待しとかなきゃね。』

 

どこか楽しそうにつぶやく。

 

『じゃあ手作りチョコのお返しといくか』

 

『キョンが作ったら泥みたいなチョコしかできないでしょ。』

 

こいつ。

 

『レシピさえしっかり見りゃ俺にだって作れるさ。』

 

『何それ。チョコレート作りを馬鹿にしたような言い草ね。』

 

いや、誰でも作れるのは疑いようのない事実だろう。

がしかし、

 

『大事なのは誰が作って誰が受け取るかってとこだろ?』

 

『そりゃそうね。』

 

『俺がもしホワイトデーに泥みたいなチョコを作ったとしても、

それを受け取る人によっちゃあ

高級チョコ顔負けのかけがえのないものになるんだろうな。』

 

言い終わると同時に

「何を言ってるんだこいつは」と言わんばかりの

表情が目に入る。

 

『うーん。あ、それならもういっそ高級チョコ食べてみたいわね!

ホワイトデーはデパートとかに売ってる高いのでよろしくぅ!』

 

そうくるか…。

 

『どれがいいかわからんから、その時一緒に選びに行こうぜ。』

 

何気なく言ったつもりだったが

それを聞いたハルヒは一瞬驚いた表情を見せたかと思うと、

パッとニッコリ笑顔になり食いついてきた。

 

『ほんとに!?それは楽しみね!ちゃんと覚えときなさいよ!?

忘れたらそうね……本当にチョコレート作ってもらうから!』

 

やれやれ。高級チョコって果たしていくらくらいのものを

想像してやがるのやら。小遣い一ヶ月分で収まればいいが。

というか罰であるチョコ作りのほうが安上がりなのでは?

なんて考えながらどっちがマシか一応吟味してみたのだが…

 

 

正直どっちに転んでも楽しみだと思う自分がいた。

 

 

いつもの俺であればまた面倒なことに付き合わされるのかと

ダウナーな気分になっているんだろうが、

今日の俺は少し違うらしい。

 

それはチョコを無事もらうことができた

高揚感からなのか、はたまた

夕日の差し込む部室で見たハルヒの姿に思わず

釘付けになったからなのか。そこのところよくわからん。

 

でもきっとハルヒも同じように楽しみに思ってることだろう。

いや、そうであって欲しい。

 

なぜかって?

そりゃもう、

何ていうか…あれだ。

 

"そうなればホワイトデーまでの一ヶ月間、

閉鎖空間が出現することだってないだろう?"

 

ここはそういうことにしておいてくれ。

 

 

 

 

 

 

ハルヒとの会話もそこそこに交わしつつ

俺たちは各々帰路についた。

 

別れ際、ひらひらと手を振るハルヒの足取りは

ここ最近で一番軽いように見えた。

こちらもすぐに翻して《ひるがえして》

帰ってもよかったんだが、

今日はそのうしろ姿が見えなくなるまで

ぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 

 

翌日。

ハルヒは用があるとかで6限目の授業が終わると同時に

颯爽と帰っていった。

俺も帰ろうか迷ったが、特にすることもないので

なんとなしに部室へ足を運ぶ。

 

 

ハルヒがいないということは部室内で強制お着替えが

繰り広げられている心配はないだろうが、

一応ノックする。

 

『はぁ~い。』

 

天使の呼び声が聞こえる。

ドアを開けるとハルヒを除く団員全員が揃っていた。

 

『キョンくんこんにちは〜

『どうも。』

 

朝比奈さんの癒やしボイスをかき消すなニヤケ野郎。

にしても授業が終わった直後なのにもうみんな集まってるなんて、

なんだか俺を待っていたみたいじゃねぇか。

 

『昨日はいかがでしたか?』

 

なんだなんだ。昨日の反省会でもするつもりか?

どうせ何かのインチキパワーを使って俺たちのことを見ていたんだろうが。

 

『いえ、我々の力は別に遠隔で

何もかも見透かせるというわけではないんです。

観測できるのは涼宮さんが閉鎖空間を生み出したかどうか、

そして閉鎖空間内での出来事に限られる。

だからこそあなたの行動にかかっていたんですよ。』

 

そうかい。

 

『結局、普通に今日がやってきたわけだから、

これで問題はなかったんだろう?』

 

『ええ。さすがとしか言いようがありません。

一昨日の深夜以降、閉鎖空間は出現していませんからね。』

 

なんだかしらんが、俺は俺のやりたいように

やらせてもらっただけなんだがな。

 

『そういや、お前もチョコもらってたよな。』

 

『えぇ。非常に美味でしたね。』

 

まったく、何の苦労もせずにハルヒのチョコにありつきやがって。

 

『あ、涼宮さんのチョコとっても美味しかったですぅ。』

 

朝比奈さんはどうぞどうぞありついちゃってください。

 

『…。』

 

『長門は食べたのか?』

 

『……食べた。』

 

『おいしかったか?』

 

コクンと頷く。

確かにあれはうまかったからな。

宇宙人の舌をも唸らせるとは、

ハルヒのやつなかなかやるじゃあないか。

 

それから視線を古泉に戻し、

『ちなみにお前のにはなんて書いてあったんだ?』

 

なんとなく気になったから聞いてみる。

すると予想外の言葉が返ってきた。

 

『おや、何のことでしょう。

何かメッセージカードでも入っていたのですか?』

 

しらばっくれているのか?こいつは。

 

『チョコに名前か何か書いてあったんじゃないのか?』

 

俺がよりわかりやすく説明してやっても

いまいちピンと来てないような表情を見せる古泉。

 

『はて。僕がもらったものには何も書かれていませんでしたが。

朝比奈さんはどうでしたか?』

 

『わ、私のも何も書かれてませんでしたっ。

涼宮さんからのチョコレートって、

丸いトリュフでしたよね?』

 

 

丸いトリュフ???

 

 

『ええ、まさにそれです。

そもそも丸いチョコに文字を書くのは難しいと思われますが。』

 

 

そうか。

 

 

 

みんなと同じものの一つ、じゃなかったんだな。

 

 

 

『どうかされましたか?』

 

『いや、なんでもない。』

 

俺は平静を装いつつ、

続いてわざとらしくこう言ってやった。

 

 

 

『うまかったよな、トリュフ。』

 

 

 

不自然に答える俺に

怪訝《けげん》な表情を浮かべる古泉と、

不思議そうに首をかしげる朝比奈さん。

別に本当のことを言っても良かったのだが、

どうせまた「おやおや」などと言いながら

ニヤけ顔を見せつけられるだけだろうし?

ここは俺の胸の内に秘めておくことにしよう。

 

 

にしても、

ハルヒのやつ、やってくれるぜ。

時間差で真実が分かるようにしたのが意図的だとしたら、

俺はそれにまんまとしてやられたことになる。

まあ恐らくそんなことまで考えてはいなかっただろうが。

 

ひょっとしてお前は人を振り回すだけが取り柄じゃなく、

人を喜ばせる才能もあるんじゃないか?

それならそっちにシフトチェンジしたほうが世のため人のため、

そして何よりお前自身のためになると、俺は思うがね。

 

 

 

 

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1日遅れのバレンタイン。

遅れてやってきたのは

チョコと、それから

 

 

 

 

 

 

 

ハルヒの想いだった。

 

 


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