カズとリサ   作:鳩ポッポ

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三話

 

 

 

 一優(かずと)が自転車で10分ほど漕ぐと、ライブハウスCiRCLEが見えてくる。裏に回って自転車を停める。

 

「こんにちはー」

 

「あっ、来たね! 着替えてきて〜」

 

 一優はまりなに挨拶を済ませると、スタッフルームへ。着替えると言っても、学校の制服の上に『CiRCLE』と印刷されたTシャツを着るだけだ。

 

「ラウンジの掃除をよろしく〜」

 

「はーい」

 

 一優は再びスタッフルームへ行き、その奥のロッカーを開く。中からモップとバケツ、そして雑巾を取り出す。そして、水道で水を汲んでカウンターの外に。カウンター横のドアを開く。このラウンジは、主にスタジオの利用者が休憩する時に使われる。大人数で座れそうなソファと大きな丸テーブルが中心に置いてあり、ちょっとしたパーティーが出来そうな広さがある。まず、一優は雑巾で丸テーブルを拭き始めた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「こんにちは」

 

「あっ、いらっしゃい!」

 

 今日も友希那達が練習にやってきた。それをまりなが応対する。

 

「そういえば、友希那さん。他のメンバーの名前って……」

 

 友希那はCiRCLEの常連だが、まりなはまだ他の三人の名前を聞けていなかった。

 

「氷川紗夜です」

 

「今井リサです☆」

 

「宇田川あこです!」

 

 それぞれ自己紹介をする。

 

「うんうん。ありがとう♪ Bスタジオにどうぞ! 練習頑張って!」

 

 四人はカウンター横のドアを通って行った。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 ガチャ

 

 ラウンジのドアが開く音がした。床のモップ掛けをしていた一優は顔を上げる。昨日の四人だった。

 

「い、いらっしゃいませ」

 

 やはりまだ声が上ずってしまう。自分の情けなさに唇を噛んだ。

 

「どうも」

 

 四人はスタジオに繋がるドアへと入って行った。一優はその様子を見届けてまた掃除に戻る。

 

 一優はバイトを始めて日が浅い上、引っ込み思案であるために、接客が得意ではない。そして、それ以上に……

 

(やっぱり怖いな)

 

 一切の妥協を許さず、ひたすら練習をする彼女達に畏敬の念を感じていた。しかし、それ以上に、()()()()()自分の情けなさを責められているようで……心が痛んでいた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「ぅぅ……もうクタクタ」

 

「クレープ……」

 

 練習後、あことリサは受付前の椅子にへたりこんでいた。

 

「そろそろ課題曲を増やしましょう」

 

「ええ。私も湊さんと同意見です。この選曲なら実力の底上げもできそうですし……」

 

「全員。来週までに練習して来て」

 

 しかし、友希那と紗夜はまだ元気そうだ。

 

「「はーい……」」

 

「お先に失礼します」

 

 練習でヘトヘトな彼女達の後ろから声が聞こえた。バイトを終えた一優だった。

 

「……お疲れ様です」

 

 そう言い会釈して、さっさと外に出ていった。

 

 リサは不思議に思った。普通に通ればいいのに、なぜか彼がビクビクして通り過ぎて行ったからだ。

 

「今井さん。帰りましょう」

 

「うん。わかった」

 

 紗夜に促されてリサも立ち上がり、家路に着く。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 一方その頃、一優は頭を抱えていた。何故なら、自転車の後輪がパンクしていたからだ。

 

「嘘だろ……来る時なんか踏んだか……?」

 

 残念ながら、パンク修理キットや替えのチューブなどは持っていない。

 

「……歩いて帰るか」

 

 パンクした自転車を押して、CiRCLEの裏の駐輪スペースから出ると、ちょうど少女四人も出てきていた。

 

「あれ? 乗らないの?」

 

 リサが思わず尋ねる。

 

「あ……ぇ……え、っと、パンクしちゃったみたいで」

 

 まさか話しかけられるとは思っていなかったのか、一優はしどろもどろな口調で答える。友希那と紗夜は家路を急ぐため、彼の横を素早く通り過ぎて行き、あこも遅れないように続く。リサは一優の横に付いてきた。

 

「家まで遠いの? 大丈夫?」

 

 リサは心配そうに一優に話しかける。

 

「えっと……自転車で二十分だから……歩きで……三十分くらいですかね」

 

 正直、いつも自転車で通っているあの道を、三十分で歩けるかどうかは如何せんやったことが無いので分からなかった。

 

「ええっ! 結構歩くね……」

 

 リサはそう聞いて驚く。

 

 一優は何か話したほうがいいかと言葉を探していた。しかし、見つからずに黙っておらざるを得なかった。

 

「あっ……そういえば! 自己紹介してなかったね♪」

 

 一優が何を話せばよいか迷っているのを知ってか知らずか、リサはそう切り出した。そういえば、昨日も会ったけれども、お互い名前を知らない。

 

「アタシは今井リサ! よろしく♪」

 

「えっと……月島一優です」

 

「一優ね♪ よろしく!」

 

 まさかいきなり下の名前で呼ばれるとは思っておらず、面食らった様子だったが、

 

「……よろしくお願いします。今井さん」

 

 少し笑いを見せてそう言った。

 

「そんなに堅苦しくなくてもいいのに〜」

 

 リサは笑顔で続ける。

 

「前を歩いている銀髪の子はアタシの幼なじみの湊友希那で、翡翠色の髪の子が氷川紗夜、紫色の髪の子が宇田川あこね」

 

 リサは、前の三人の紹介もまとめて分かりやすく説明した。

 

「えっと、皆さん駅に向かってるんですか?」

 

 ここでようやく一優が話しかけた。

 

「そうだよ〜……というか一優って何年生?」

 

「高二です」

 

「アタシと同学年なんだね〜!」

 

 そんな風に色々と話をしているうちに、T字の交差点に差し掛かった。

 

「僕、ここで右なので……」

 

「うん! 話に付き合ってくれてありがと! 気をつけて帰ってね♪」

 

 そこで二人は別れる。

 

 リサは前にいる友希那達を追いかけて行った。

 

(今井さんか……可愛かったな)

 

 そして、普通の男子高校生らしい感想を浮かべて、一優は自転車を押し続ける。

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました!
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