「行ってきます」
家から出た一優は、駅へと向かう。自転車のタイヤチューブはネットで注文したので、それが来て交換を終えるまでは電車通学だ。
十分程歩くと駅に着く。すると、駅のホーム上に知っている顔が並んでいた。
(今井さんに湊さんだ)
一優は楽しそうに話をしている(リサが一方的に話している感じにも見えるが)彼女達に声を掛けようか迷う。
(知り合ったばかりだし気安く声をかけていいものか……)
「あっ、
「あっ……ぇ、お、おはようございます今井さん」
迷っていたら、振り返ったリサが声をかけて来た。友希那も振り返ってこちらを見ている。
「同学年なんだし、タメ口でもいいのに〜」
「 ……はぁ」
一優は生返事で返す。そういうものなのだろうか、と疑問符が頭の中を飛び交っている。
リサは会話を続ける。
「あの後、大丈夫だった?」
「ええ。なんか、チューブに穴が空いてたみたいで……。とりあえず、替えのチューブは注文したので明日直します」
「自分で直せるの?」
「はい。道具さえあればできるので……」
「へぇ〜すごいね!」
「そうですかね……」
リサが積極的に話しかけてくれるおかげで、一優としてはとても気が楽だった。自分から話しかけるのが苦手であるからだ。一方、友希那はその横で静かに話を聞いている。
「そうだよ〜☆
そういえば、一優って家ここら辺なの?」
ここでリサは話題を変える。
「……えぇ、一応」
「ここら辺から豊崎まで自転車で通ってるの?」
「はい。雨の日以外は」
「少し遠くない?」
一優の通う豊崎学園高校は、ここからだいたい七から八キロ離れている。確かに言われてみればそうかもしれない。
「まぁ、慣れたら大丈夫ですよ」
「CiRCLEからも距離あるよね……
昨日、帰るの大変だったんじゃ……」
「はい……ハハハ」
一優は苦笑いで答える。CiRCLEから家だと、おそらく八キロは余裕で超えている。実際、昨日帰った時はいつもの二倍程の時間がかかった。
「お疲れ……」
リサも同じく苦笑いでそう労った。
ピリリリリリン
列車の接近チャイムが流れる。三人は止まったそれに乗り込む。
乗り込んでからまたリサが話しかける。
「そういえば、雨の日は電車なんだよね?」
「はい」
さっきと変わらず、リサからの問いに一優は答えていく。
「去年は、一優と駅で会ったことないよね?」
そのリサの何気ない問いに、一優はドキリとする。
「……そうですね」
「今年、こっちに引っ越して来たとか?」
「……まぁ、そんな感じですかね」
「どうし「そういえばお二人は!」
ついに、一優はリサの質問を遮ってしまった。
「ぁ……えっ……と、あの……」
遮ったのにも関わらず、話すことを何も考えていない。言葉が出てこない。
「お、お二人は、どこの学校に通ってるんですか?」
二人の制服が同じであることに気づいて、なんとか当たり障りのない質問をする。
「あっ、アタシ達? 羽丘だよ」
「羽丘女子学園ね」
リサに続いて、友希那も答える。
「女子校なんですね」
「そうそう」
一優はなんとか話を逸らすことに成功し、また、他愛ない話へと持っていく。
その後はまたリサが話をリードする形となる。リサは、さっきまで会話に参加できていなかった友希那も巻き込んで話し始めた。学校内での友希那の様子を一優に話し始めたのだ。
恥ずかしがりながらリサを止めようとする友希那は、案外とても可愛らしい。リサの話で、クールなイメージがあっという間に崩れていった。リサは、友希那をそうやって弄りながらも、随所に友希那のことを大切にしているのが分かる。なんだか保護者のようだ。
あれこれ話しているうちに、羽丘女子学園の最寄り駅に到着する。
「じゃあ、一優! またね〜☆」
そう言って彼女達は降りていき、一優は一息ついた。
(やっぱり、逃げ続けてるなぁ)
思わずリサの話を遮ったことに後悔する。するとまもなく、豊崎高校の最寄り駅に到着する。彼女達が降りてからほんの一駅である。一優は電車から降り、豊崎高校に向かう。その頭の中には、さっきの後悔がぐるぐると回って居座っていた。
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「彼の前で、あんな話をしなくてもいいじゃない」
友希那とリサは学校へと歩いていた。歩きながら友希那は、まだ頬を薄赤く染めて、さっきの電車内での話についてリサに抗議していた。
「……うん」
「聞いているのかしら」
はっきりとしない返事をしたリサの方に、友希那が顔を向けると何か考えている様子だった。
(どうしたんだろ……?)
リサは、さっきの一優について考えていた。一優が今年こっちに引っ越して来たという話を聞いてから、一優の様子が変わった。さらに聞こうとすると、話を遮られてしまった。まるで、それ以上は話せない、というように。
こんなことを考えていたからか、友希那の抗議は、リサに響いていなかった。
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