さて、どうしてこうなってしまったのか……?
竜生から急に頭を下げられた紗夜もポカーンとしている。
「い……一体なんなんですか!?」
「お、俺は、豊崎高校一年生の田村竜生であります! この間のライブで、紗夜さんの演奏に感動しまして、どうかそのテクニックをご教授頂けないかと……」
どうやら、今の話から察するに、憧れていた紗夜に会えてこうなったのだろう。例えると会いたいと思っていた芸能人に会えた時の心情か。ただ口調が……。お前は軍隊か何かか。一優はそんなツッコミが頭に浮かびつつも、どうしたものかと悩んでいた。
「……演奏を褒めていただけるのは嬉しいですが、私は今忙しいんです。あなたのような馬の骨にギターを教える義理はありません!」
「グホッ」
あーあ。馬の骨って言われてるよ。紗夜の言葉の前に竜生が轟沈するのを見ながら、一優はそのように憐れんでいた。
「行きましょう湊さん。練習時間を無駄にしてしまいます」
そう言って紗夜はRoseliaの面々とスタジオに向かった。友希那は興味なさげだったが、リサやあこは気の毒に思ったのかこちらをチラチラ見ながら去っていった。
「……まぁ彼女達、ライブ近くて忙しいっぽいから諦めろよ」
「ヤダ」
「ガキかよ……なんでそこまで……」
「もっと、もっと、上手くなりたいんだ。ギター」
そう語る竜生の目は、真剣だった。一優は思わず目を逸らした。
「というか、それより面接だろ」
「そうだな……もしココでバイトできるようになったら、また紗夜さんと会えるもんな……うん」
諦めの悪いやつだ。そう思いながら、スタッフルームの奥へと案内しようとしたが……
「アイタタタ……」
何事かと思って後ろを見ると、右膝を竜生が押さえている。
「ここまで来るのに、全力疾走したからな……ハハッ」
「大丈夫なのか?」
「しばらくの間、激しく動かさなきゃいいだけさ。それより、面接するとこに連れてってくれよ」
「あ、あぁ。肩貸そうか?」
「そこまでじゃないから」
竜生をスタッフルームの奥の部屋の扉の前まで案内した。
「それじゃ。俺戻るし」
「おう。ありがとな」
「ヘマすんなよ」
「大丈夫だ!」
竜生がサムズアップをしながら、扉の向こうに消えていくのを見送って一優はカウンターに戻った。
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今日の一優のカウンター業務は、特にトラブル無く時間が経っていった。そもそも、受付に来たのが一組だけだったからだ。驚いたことと言っても、その一組のうちの一人が黒髪の一部を赤く染めていて……尖ってるなぁと思ったぐらいである。
ガチャッ
スタッフルームの奥のドアが開く音がした。
「お疲れ」
一優はそう声をかける。竜生は嬉しそうな顔で一優のところに来た。
「明日からよろしくだってさ!」
「……は?」
「おう、びっくりしたか?」
一優は驚いた。面接した後、数日間は結果待ちがあるものだと思っていたからだ。ただ、一優は自分の時を思い出した。まりなに「バイトしてみない? 体験来る?」と言われて試しに行ってみたら、「明日からよろしく!」と笑顔で言われたのだ。……部員不足で廃部寸前の部の勧誘並に強引である。まさか自分以外にもやっていたとは……。
「カズくんお疲れー」
まりなが奥から出てきた。
「今から竜生くんに、バイト内容とかを詳しく教えて来るつもりだから。引き続きカウンター業務よろしく!」
「了解です」
「それじゃあ行こうか!」
「はい!」
二人は再びスタッフルームの奥の方に入っていった。
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「お疲れー」
「ヘトヘトー」
どうやら練習が終わって、Roseliaの皆が出てきたようだ。先程、一優もバイトを上がったところで、さらに、ちょうど説明を受け終わった竜生と一緒に帰ろうとしていたところだった。そこにリサが声をかけてきた。後ろにあこもいる。
「あっ、一優も今帰り?」
「ええ」
「なら、また一緒に帰ろう!」
「はい。ただ、今日はこいつがいますけど」
そう言って、一優は隣の竜生に目を向けた。
「あっ、どーも。田村竜生でーす! よろしく!」
「アタシは、今井リサ。よろしく〜☆」
やはり、明るい者同士だからか、はじめましてがスムーズだ。
「うーんと……後ろの人たちは……?」
「我が名は! 闇の波動が……ええっと……あれする……その~……」
「……宇田川あこ!」
ちょうどいい言葉が浮かんでこないのか、うーんと唸っていたあこは、最終的に名前を言って勢いでゴリ押すことにしたらしい。一優は、その変わった自己紹介に面食らったが……。
「我が名は……龍神の啓示を受け、人間界に降誕せし神人類……田村竜生だ。よろしく!」
お前もか……。まさか竜生がそれに合わせていくとは思わず、さらに面食らった。
「すごいすごい! カッコイイ! ねぇねぇ竜兄って呼んでもいい?」
「ふっふっふ……同志の頼みなら大歓迎さ」
「わーい!」
あこと竜生の自己紹介が終わったところで、リサがまた話し始める。
「竜生って、豊崎なんだね〜♪ 一優と一緒だ」
「そうそう! なんならクラスも一緒」
「へぇ〜そうなんだ〜」
リサと竜生の二人が談笑しているのを見ていると、カウンターの方から、友希那と紗夜が歩いてきた。
「あなたは……さっきの……」
友希那はそう言って、竜生をキッと睨んで言った。
「紗夜を引き抜くのは許さないわ」
「別に俺は引き抜くつもりなんて……」
竜生は友希那の目線に気圧されている。
「あなたの言う通り、そのつもりでなかったとしても……私は、あなたのお遊びの相手をしている暇はありません!」
さらに、紗夜からキツく言われる。流石に諦めただろうかと一優は竜生の様子を窺う。すると、竜生は普段の馬鹿っぽい姿からは想像もつかないほどの鋭い目付きで、紗夜のことを睨んでいた。
「お遊びじゃありません」
そして竜生は、低くドスの効いた声でそう言った。みるみるうちに雰囲気が悪くなった。
「あー……えっとー……ごめんね竜生。紗夜にも悪気は無いから……。それと、アタシたち、ライブが近いからホントに忙しいんだ……」
リサがフォローに入った。
「……ごめん。大変な時に」
竜生がそう謝ってこの場は収まる。ただ、紗夜と竜生の間には、緊張が残った。
「竜生、Roseliaのライブ行けば?」
一優はそう言ってみる。さっき、リサからもらった紙を竜生に見せる。
「行く」
即答だった。やはり、紗夜のギターは聴きたいらしい。
「カズは行くのか?」
「俺は……」
さっき、リサに誘われた時は返事を濁してしまった。ライブには今まで一度も行ったことがない。だから、躊躇してしまった。
「俺も行くよ」
一優は、竜生について行くことにした。Roseliaの演奏はやはり気になる。それに……何か得られるものがあるかもしれない、何故かそう思ったのだ。
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数日後、一優と竜生は、同じ時刻でCiRCLEのシフトに入っていた。この日、一優はまりなからのお達しで、竜生にカウンター周りの説明をすることになっていた。
「こんにちは」
「あっ、いらっしゃいませ」
一優がいらっしゃいませと言うと、竜生も遅れていらっしゃいませと合わせる。今日も今日とて変わらずRoselia皆が練習にやって来た。……しかし、いつもと違う点が一つある。いつもの四人の他に、一人、黒髪ロングヘアの女の子があこの横にいた。その子は、一優と目が合うと、目線をサッと逸らした。どうやら、人見知りのようだ。
「今日はどこを使えばいいかしら?」
友希那が一優と竜生に尋ねる。
「えっと……」
今日応対するのは、主に竜生。竜生は、パソコンの予約表を確認する。それを一優は補助する。
「はい。Aスタジオにお願いします」
「ありがとう」
いつも通り受付を済ませた友希那は、カウンター横のドアへと歩いていく。そして、残りの四人もそれについて行った。
「あの子、誰だろ?」
一優がさっきから頭に浮かぶ疑問を、横の竜生に投げる。
「……さぁ? でも、新メンバーじゃないか?」
竜生は意外と落ち着いた様子でそう返した。
「新メンバー?」
なんで? という顔で一優がまた聞き返した。
「いや、ギターの紗夜さん、ボーカルの友希那さん、ベースのリサさん、ドラムのあこちゃんで、四人だっただろ? そこに、キーボードとかが入ってくれた方がリズム隊が安定するし、演奏の幅も広がるんだ」
「へぇ……そうなんだ」
一優は、竜生の説明を聞いて感心していた。竜生にしては珍しく筋の通った真面目な回答だったからだ。
「竜生でもマトモに推測できるんだな」
「お前ひどくね……?」
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その日の帰り、いつも通りに一優は、竜生とRoseliaの皆と一緒に帰っていた。どうやら竜生の見立て通り、黒髪の女の子は新メンバーで、キーボード担当だったらしい。名前は
「これで全員揃ったよ〜」
「キーボードの人、探してたんですね」
一優は、今日もリサと話していた。リサとなら話しやすいのだ。
「いや〜よかったぁ〜……これで友希那の目標に近づいた感じ」
「
「そうそう」
「やっぱり四人と五人だと違うんですか?」
「……うん。全然違う。今日初めて合わせたんだけど……四人の時より、更によかった……」
リサは、一優への返答に目を細め、嬉しそうにしながら答えていた。そして……
「でもFWFの前に、CiRCLEでのライブをしっかり成功させないとね。楽しみにしててよ〜☆」
リサは決意に輝く目を一優に向け、そう言った。
「はい!」
そして、一優もそれに笑顔で元気に応えた。
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※2022/9/22(木)加筆修正しました