「これでどうですかー」
「うーん、もうちょっと右かなー。カズ君の方はどう?」
「終わりましたー」
「ありがとう! じゃぁ次は……」
一優、竜生、まりなの三人は、ライブの設営を行っていた。時計の針が二回転ほどすれば、今日のライブが始まる。
「カズ君! 受付、
「はい!」
一優は、まりなから事前に言われていたことを思い出していた。おそらく、今から音響や照明のチェックをチェックするのだろう。ライブの行われる地下から、受付カウンターのある地上に上がる。
「新田さん! まりなさんが呼んでます」
カウンターにいる若い女性に声をかけた。
「分かった。じゃ、ここはよろしくね!」
そう言って、新田さんは地下に下って行った。事前にまりなから聞いていた話では、これから出演者と、音響や照明の調整に入るとのことだ。これは、CiRCLEの管理人のまりなと、専門知識のある新田さんが中心に行うらしい。竜生も楽器についての知識があるので、サブとして入っている。
外のカフェテリアを見てみる。すると、ライブまで二時間弱あるというのに意外と人が集まっている。当日券の準備や他の雑用をしながら、チラチラと見ていると、時間を追うごとに増えていく。もうこの時点でかなりの人が集まっている。
さらにしばらくして、新田さんが受付に戻ってきた。
「おー。集まってるねー。Roselia効果かな」
「え?」
「あれ? 知らない? Roseliaの友希那さんって、今までずっとソロで有名だったんだよ。だから、皆、あの友希那がバンドを組んだって驚いてるんだよ」
「へぇ、そうだったんですか……」
一優がここでバイトを始めて二週間ほど。その期間中に友希那にもう何度も会っている。そこで感じたのは、どこまでもストイックであること。練習後のRoseliaの会話で、他のメンバーについていけなければ抜けてもらうと、なかなか厳しいことも言っていた。確かにあれについていける人は少ないだろう。ソロと言われた方がしっくりくる。
「あっ、そろそろ入場開始しようか。皆待ってるし」
「はい!」
新田さんが、CiRCLEのドアを開放して呼びかける。
「お待たせ致しました! 開場します!」
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「フゥー。たくさんの人が来るとは思ってたけど、まさかこれほどとは……」
並んだ人達をさばき終えて、新田さんがそうこぼした。
「すごかったですね……ふぅ」
一優も新田さんと分担していたとはいえ、なかなかの人の多さに疲れていた。
「そろそろ行ってきなよ」
「もう大丈夫ですかね……」
「大丈夫、大丈夫。お客さんの大半はもう来てるはずだから。もう一人で捌ききれるよ。ここは任せて下に行ってきな!」
「ありがとうございます……!」
新田さんにお礼を告げて、地下のライブ会場へ。新田さんの言う通り、もうライブは始まって熱気に包まれていた。その熱気に気圧されるも、とりあえず竜生を探す。
会場の一番後ろの壁伝いに歩いていくと、竜生が、まりなが操作するPA卓のそばで、こちらに小さく手を振っていた。PAというのは、ライブ中の音声を調整するとかなんとか……それについて、一優はよく知らないがかなり重要な役らしい。それをするための機械が据え付けられた作業机をPA卓と言っているのだろうと思う。
一優は竜生に声をかけようと口を開こうとした。しかし、竜生は首を横に振り、ステージを指さした。とりあえず一緒に聞こうと言うことだろうか。一優はステージの方を向いて、演奏が終わるのをとりあえず待つことにした。
演奏が終わる。一組目のバンドが片付けて撤収している間に、竜生に話しかける。
「もう俺らの役割、最後の掃除だけか?」
「ここでライブを聴くのも大事な役割だぜ!」
サムズアップして竜生が答える。
二週間ほど前、一優と竜生はRoseliaの初ライブを聴きに行くとリサに返事をした。それを数日後にまりなに話すと、「Roseliaのライブ、ここでやるから、ステージの設営と入場案内を済ませれば、後はPA卓のそばで聴いててもいいよ。だからシフト入れよう!」とのことで、今日に一優と竜生の二人のシフトを(半ば強引に)入れてくれたのだ。
二組目のバンドが準備を終え、演奏を始める。会場の熱気がさらに増していく。一優も演奏に耳を傾けた。Roseliaの出番は、最後だ。
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わーっという歓声と拍手が送られる。演奏を終え、バンドメンバーが引き上げていく。
「次は、Roseliaだな」
竜生は興奮した様子で言った。会場全体が、これまでのバンド演奏による盛り上がりと、次のRoseliaへの期待で満ちていた。
「おっ、『孤高の歌姫』様のお出ましだ」
ステージ袖から出てきた友希那を見て、竜生が呟いた。その後ろに、リサ、あこ、燐子、紗夜が続いて出てくる。
「孤高の歌姫?」
「ああ……カズは知らないか。友希那さんってすごく歌上手くて、ここら辺じゃ『孤高の歌姫』って呼ばれて有名なんだよ」
「……そんなに上手いんだ」
「それに紗夜さん。彼女のギターは正確無比にギターを弾ける技量がある。本当にすごいんだよ……」
恍惚とした表情で竜生が語り始めた。
「それで弟子入りを頼んだと」
一優がそう言うと、竜生は首を縦に大きく振る。
「そして馬の骨認定されて返り討ちに遭ったと」
「ぐぼへぇ!」
一優の言葉がクリーンヒット。竜生はその場に膝をつく。
「それは言わないでくれ……」
「そろそろ始まるんじゃないか?」
「聞けよ……」
一優は項垂れている竜生を他所に、ステージの方を向いた。Roseliaの皆が準備を終え、構えている。そしてマイクの前にいる友希那は……黙ったままだ。ざわついていた聴衆が、静まり返った。
「Roseliaよ。今日は、来てくれてありがとう」
友希那がようやく口を開いた。演奏をするのは、彼女達であるはずであるのに……緊張する。Roseliaが、この空間を完全に支配していた。
「一曲目──ー」
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「すごかったな……」
「ああ」
一優と竜生は、ライブ後フロアを磨いていた。Roseliaまでのバンドも良かった。けれども、それが霞んでしまうほど、Roseliaの演奏が深く刻み込まれたのだ。
「やっぱり、俺、紗夜さんにギター教えてもらいたい」
「また返り討ちにされるぞ」
「……もうちょっと、もうちょっと仲良くなったら行ける……気がする」
「まぁ……頑張れよ」
あんな演奏を聴かされたなら、そうなってしまうのは仕方がないだろう。
逆に、一優がこの時考えていたことはなんだろう?
──なんで、こんなに俺はダメなんだろう
それは、劣等感だった。
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