聖女アーシアが悪魔を憎んだ日。   作:ユメノオワリ

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オリ主ダグを外しました。


悪魔が住む家

 夢。

 夢を見ている。

 何て事の無い、ありふれた幸せの夢。

 夢の中で私はもういないあの人の隣を手を繋いで歩いている。

 町を歩いて一緒に食事をして。

 他愛ない話で笑い合う。

 体を寄せると照れるように身を強張らせて、あの人が不意に顔を近づけると私の方が顔を赤くしてしまって。

 聖女とかエクソシクトとかは関係ない。誰もが手を伸ばせば当たり前のように過ごせる筈の幸せ。

 

 そんな、哀しい夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシアさん。起きて」

 

 鈴を鳴らすようなイリナの声にアーシアは目を覚ました。

 反射的に小さく欠伸をする。

 

「ふぁ……ごめんなさい、熟睡してました……」

 

 飛行機の席に座っている間にそれなりに深く眠りについていたらしい。

 しかしどういう訳か、イリナは困った様子で眉間を寄せてアーシアの頬に触れた。

 

「……泣いていたみたいだけど、哀しい夢だった?」

 

 言われて自分の頬に濡れた感触がある事に気付く。

 

「えーとね。悪い夢は誰かに話すと良いって聞いたことがあるわ! だからもし良かったら話してみて」

 

 善い人だな、とアーシアは思う。

 飛行機の中で話題を振ってくれたり積極的に話しかけてくれる。

 ゼノヴィアも何だかんだで気にかけてくれた。

 だけど────。

 

「すみません。夢の内容を忘れてしまって」

 

 あの人との夢は大切な思い出として記憶の宝箱に閉まって置きたかった。

 

「そう? でも思い出して話したくなったら言ってね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「2人とも。そろそろ着陸に入るぞ」

 

 ゼノヴィアの忠告にアーシアは慣れない様子で身を固くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ2人とも! 悪いんだけど、ホテルに着いて荷物を置いたら私の幼馴染みの家に付き合ってくれない? 挨拶しておきたいの!」

 

「はい。私は構いません」

 

「この町の道を覚える意味でも問題ない」

 

 2人に了承されてイリナがありがとう! と感謝を述べた。

 ホテルに着いて荷物を置く。

 

「女の子3人でお泊まりなんて、まるで修学旅行みたいね!」

 

「は、はぁ……」

 

 はしゃぐイリナだが、学校という教育機関が縁遠かったアーシアとゼノヴィアにはイマイチ共感されなかった。

 イリナの幼馴染みの家に行く前に、先ずは定期連絡を済ませてから、今回の任務の確認をする。

 

「私たちの任務は奪われた聖剣エクスカリバー3本の回収、もしくは破壊だ。核さえ回収すれば新しく復元出来るからな」

 

「奪ったのは神の子を見張る者(グリゴリ)の堕天使幹部であるコカビエル。大物ね」

 

 強大な敵に3人に緊張が走る。

 

「アーシア、私とイリナはこれまで何度か同じ任務に就いていたから互いの手の内は把握している。しかし君の能力は、神器による回復以外は銃を扱えると言っていたが、実戦経験は?」

 

「恥ずかしながら。今まで現場に赴いてもたくさんの方々に守られてる状況でしたので」

 

 リカルドを亡くした後にアーシアは彼の遺品で自分を守れるようにと銃の訓練をした。

 しかしアーシアの仕事は治療であり、以前よりも実戦に近い位置に居ただけで、聖女として誰かに守られていた。

 アーシアが誰かに銃を撃ったのは、あの緑髪の悪魔ともう1人だけ。

 その言葉が予想通りだったのか、特に落胆することもなく頷くゼノヴィア。

 

「なら君は治療の専念を頼む。銃は自分の身を守るために使ってくれ」

 

 戦闘面でアーシアには期待しないということだろう。

 それは当然の判断だった。

 

「でも治療だって大切な仕事だわ! もしも私達が怪我をしちゃったら、治すのをお願いね!」

 

「はい。傷1つ残しません」

 

 イリナの励ましに頷くとゼノヴィアが最後に質問した。

 

「アーシア。今回戦うのは悪魔ではなく堕天使とそれに与するはぐれのエクソシストだ。君はもしも彼ら相手に銃を向けることになったら、その引き金を引けるか?」

 

 ゼノヴィアの質問にアーシアは首に下げている十字架の首飾りを握る。

 

「その覚悟は出来ているつもりです。それに私、堕天使も嫌いなんです」

 

 淋しげに笑ってそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリナの記憶を辿って歩くとごく普通の一軒家に辿り着いた。

 チャイムを鳴らしてイリナが名乗ると玄関が開かれる。

 

「まぁ、イリナちゃん! 久しぶりね! 綺麗になって」

 

「お久しぶりです、おばさま」

 

 日本語に明るくないアーシアには2人の会話は断片的にしか理解出来ないが、それでも仲の良さが伺える。

 女性がアーシアとゼノヴィアに向けた。

 

「そちらのお二人は?」

 

「向こうで出来た友達です。今回は3人で旅行に来ていて、近くだったから寄らせて貰いました」

 

 教会の仕事と言うと色々と面倒な為、イリナ事前に考えていた理由を口にする。

 

「そうなの?」

 

「はい。一誠くんは元気ですか?」

 

「元気よ。最近は気になる人が出来たみたいで。あぁ、こんなところでごめんなさい。中でお茶にしましょう」

 

 家の中に通されると飲み物は何が良いかと訊かれてアーシアは折角なのでイリナと同じ日本茶を淹れて貰った。

 初めて飲む味だったが、日本茶の苦味はお茶請けに出された羊羮の甘さに丁度良かった。

 イリナを翻訳として仲立させながら話していると、ただいま、と少年の声が響く。

 雑談をしているリビングにその声の主が現れた時、その気配を感じてアーシアは背中がゾワっとなった。

 見た目はアーシアたちと同じ年頃の少年。

 

「一誠くん久しぶりね! 私のこと覚えてる? 小さい時によく遊んだ────」

 

「えぇ!? イリナ! お前女の子だったのかよ!」

 

「あ、やっぱり勘違いしてたー。そうよね、子供の頃はやんちゃだったし」

 

 2人は親しげに話しているが、アーシアの精神はぐらぐらと揺さぶられる。

 自然とスカートの中に隠している銃に手が伸びそうになると、ゼノヴィアがその手を掴んで止めた。

 

「止せ。彼は悪魔のようだがあの女性は人間だ。ここで騒ぎを起こすな」

 

 小さな声で忠告されてアーシアは手の力を抜く。

 

「イリナ」

 

 ゼノヴィアがイリナを呼ぶとアーシアの様子を察して切り上げてくれた。

 

「ごめんなさい。アーシアさんが眠くなっちゃったみたいで。時差ボケかな?」

 

「そう? 休んでいく?」

 

「いえ。ホテルは近いですし、私たちもやることがあるので」

 

 それじゃあと家を後にする。一誠とすれ違う瞬間に鋭い視線を向けた。

 アーシアはイリナに話しかける。

 

「イリナさん、あの人……」

 

「えぇ。一誠くんが悪魔に転生していたなんてね」

 

 哀しそうに目を瞑るイリナ。

 

「この地の悪魔ならグレモリーかシトリーの眷属である可能性が高いな。どちらにせよ、近々会うことになるだろう」

 

 ゼノヴィアに言われてアーシアは自分を制御するように目を瞑って深呼吸をした。

 

 

 

 

 

 




アーシアのキャラソンに"限りなく純粋に近い堕天"って曲があるから、この作品のアーシアの禁手名は"限りなく悪意に塗れた昇天"とかどうだろう?
能力?知りません。
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