鬼殺隊と怪人を倒す者 作:托生
和郎の話によると、ここですぐあのおばあさんは消えたらしい。
俺はその証言を頼りに、付近をよく観察する。
地面をよく見ると、足跡があることに気づいた。
それは、3つ。
1つは和郎のものだろう。
2つ目は足の大きさが小さいことからおばあさんだろう。
そして、3つ目、小さい足跡の後ろ、まるでおばあさんの真後ろをとっていたかのような位置に足跡があった。
しかも、小さな足跡の方は、かかと側が引きずられた跡がある。
音もなく近寄って、おばあさんを襲ったと考えるのが妥当だが、どうやって近寄ったのか。
噂に聞く、血鬼術という鬼が使う技なのか、それとも別の何かなのか。
少し考え込んでいると、肩を叩かれた。
「な、なあ、お兄さん」
「ん?どうした?」
返事を返すと、和郎が百数メートル先の街灯辺りを指差している。
「あ、あそこ、なんか人影があるように見えます」
その言葉に、おじいさんも含めた3人で、目を凝らした。
そこには、女性ものであろう着物を纏った人が後ろ姿でたっていた。
すると、おじいさんは震えるような声で呟いた。
「あ、あれは、ばあさんの着物じゃ……」
おじいさんは最初はゆっくりと前に歩み、数歩歩いたら、次第に駆け足になり、おばあさんであろう姿のところに向かって走っていった。
おばあさんの姿の近くで手に持っていた提灯を投げ捨て、おじいさんは声をかけた。
「ばあさんや! 探したよ! さあ、帰ろう!!」
提灯は落ちた衝撃で燃え、街灯と相まって辺りを少し明るく照らしてくれている。
そんな2人の元に俺と和郎も近づく。
まだ、着物の女性はこちらを振り向かないでいた。
俺と和郎は、まさかと思いその女性に声をかけようとしたとき、
「ばあさんや、分かるかい? わしじゃよ?」
と声をおじいさんがかけたことで女性は振り向いた。
「あぁ、じいさん、じいさんや!」
紛れもなくおばあさんだったことで、俺と和郎は深く息を吐いた。
おじいさんは最近の老人失踪関係のことも相まっておばあさんが失踪したのではと心配してたそうだ。
感極まったおじいさんは、人目も忘れておばあさんに抱きつくのだった。
「はぁ、よかったばあちゃん見つかって。一時は、本当に焦ったよ」
「そうじゃの……ありがたや……」
そうして、そろそろ帰ろうかと雰囲気になったとき
"おじいさんの頸から鮮血が吹き出した。"
ブシャァっと勢いのある音がするのと同時に、近くの壁に大量の血が打ちつけられている。
「カ……ヒュ……」
おじいさんからの小さな口から出た息にも近いそんな音が少し聞こえると、おじいさんの腕は力無く垂れ下がったのだった。
俺と和郎は状況が飲み込めていなかった。
急におじいさんから血が吹き出した。
なぜ、誰が、どうやって。
頭の中にそれだけが巡る。
だが、答えなんて言うにははなっから目の前にあったのだ。
おばあさんが、おじいさんの首筋をかぶり付き引きちぎった。
ただ、それだけだ。
本当ならこの瞬間に和郎を守るために動かなくては行けないんだろう。
それでも俺は状況整理がいまいちつかずに動くのに和郎が声を出すまでの時間がかかった。
「じいちゃん!?」
この声ではっっとなり、和郎をすぐに自分の背にくるように手で和郎を押す。
すると、おじいさん地面に落とし、こちらを向いたおばあさんの顔は段々と溶けていった。
そこには、目は血走り、じいさんの頸の肉を味わうかのようにクチャクチャと音を立てて貪る鬼の姿になっていたのだ。
俺はすぐに腰に携えていた刀に手を掛ける。
「キ、キヒ、ろろ、老人は簡単、たん、だなぁ」
「てめえ、てめえか。ここ最近の老人失踪事件の犯人は」
「ああ、ああ、ああ、そうだよ。なんだ、今さら来たのか? 鬼殺隊。キヒヒ、悔しいか? 目の前で死んで悔しいか? 悔しいよなぁ? わざとだけど、キッヒヒ」
「ゲスが!!」
腰の刀を引き抜き斬りかかれる様な体制をとると、奴の顔が変形する。
それは、定食屋のおじいさんの顔となった。
「か、和郎や! わ、わしじゃよ、切られとうない!」
すると、和郎は俺の服の袖を掴んできた。
「お、お兄さん、ま、まだじいちゃん……き、切らない……で……」
涙を流しながらその台詞を吐く和郎はなんとも悲痛な感情だったろう。
顔は下を向いていて分かんないが、声だけでもそれが分かるほどだ。
だが、鬼はまた顔を元に戻す。
「キヒ、ほ、本当、人間は、ばか、馬鹿だよなぁ。なあ、小僧生きてるはずないのに、なんで生きてるなんて思っちゃうのかなぁ。すぐここに、死体まであるの、キヒヒ、キヒ」
「そ、それは……」
「あ、そうか、希望ってやつか? いいよなぁ、そういうの持ってると。じゃあこうすれば絶望になるなぁ」
鬼は、じいさんの死体を持ち上げ、また頸にかぶりついた。
そうするやいなや、おじいさんの頸を完全に切断した。
顔と体は別々となった。
「ング、ハグ、ンァ、こ、こ、小僧これで分かったか。もう、てめえのじじいは、死んでるんだよ!! キッヒッヒ」
「あっ……あっ……」
「だいたい、俺の血鬼術は殺した人間の顔にすり替えるってやつだから、俺が顔をじじいにした時点で死んでるんだがな!! キヒ」
和郎は目の前で生き返ることは不可能と言う状態にされたおじいさんの姿を見て、膝から崩れ落ち、嗚咽した。
俺は反射的に鬼に向かって刀を振るっていた。
だが、動きを読まれて後ろに跳びそれを回避された。
「キ、キヒ、あぶねえあぶねえ」
「……お前、今さっき血鬼術は殺した人間ていったか?」
「ああ、そ、そうだぞ?」
「おばあさんもか。てめえ、おばあさんも食ったな!!」
「キヒ、暗がりにいた? 食ったぞ? 骨しか残らないよう綺麗になぁ」
「許さねえ……てめえみたいな屑が、この子の人生めちゃくちゃにしやがって、許さねえ!!!」
怒りで持ち手を力強く握りしめ、刀が少し振るえている。
こんな奴に、和郎は家族を失っていいはずがない。
「お、お兄さん……」
「なんだい、和郎」
「あ、あの、あのくそやろうを、殺して、殺してください!! 俺の家族をあんな奴の胃袋に入れておくわけにはかないんです!!」
「あぁ、任せろ!!!」
俺も和郎も怒っている。
だが、それだけで刀を振るっても殺せない。
逆に和郎が殺されるかもしれない。
俺は深呼吸をし、相手を見据える。
そして、走り出す。
それに反応した鬼も、戦闘態勢へと入る。
これが俺が初めて任務で鬼を刈る第1歩である。
鬼の頸目掛けて刀を振る。
鬼はギリギリのところで後ろに下がった。
すると、すぐに飛び蹴りが来るが、それを身を屈めて回避する。
身を屈めた状態から、勢いをつけて下から上へと体全体を使って刀を振るう。
回避が間に合わなかったのか、
ザンッ
と音と共に鬼は腕を1本失うことになる。
「ぐっ」
「まずは腕1本ってところか?」
「腕1本で満足するのか? キヒ」
「次は、頸だよ」
「キキ、キヒヒヒヒ、やってみ……ぐあっっ」
喋っていようが関係ない。
俺はしのぶとの特訓で密かに練習していた最速の突きを放つ。
呼吸が使えるんなら、呼吸と一緒に何か技名があるんだろうが、そんなものはない。
ただ、一直線に、最速で最大の突きを相手の胴体を狙って放つ。
名をつけるとしたら、《
鬼ですら、捉えられなかった刃は肺に突き刺さり、そのまま切り上げた。
「は、ぎゃ、コヒュ」
「そんなんじゃ、死なないだろ。ほら、立てよゲスが」
「コヒュ、キ、キヒ、喋ってる相手に切りかかるお前も相当だなぁ」
ボコボコと音を立てながら回復し、腕もいつの間にかくっついている。
「そうか? 夜にしか活動できないお前らよりかはよっぽどましだろ?」
すると、鬼の目が変わった。
「あ? てめえに、何が分かる」
急にこちらに突進しに来た鬼は、怒り狂ったように蹴る殴るの乱撃をし始めた。
なんとか、往なし、防ぐが反撃なんてできる状態じゃなくなった。
だが、急にその攻撃が止んだ。
すぐに刀を防御の姿勢から攻撃へと転じようとしたとき、
「お兄さん、上!!」
和郎の声で反射的に数歩下がる。
すぐ上を向くと、高く飛び上がった鬼が俺の脳天目掛けてかかと落としをしようと落下している最中だった。
そして、すぐに俺の顔面すれすれを鬼の足が通りすぎていく。
そのまま地面に激突した鬼は、繋ぎ技のように手を地面に押し付けそのまま勢いよく両足で俺の胸を狙って蹴りを繰り出してきた。
なんとか、両腕でそれを防ぐが
ミシッ
と、骨が軋むような嫌な音がした。
「キヒ、キヒ、所詮は人、鬼のこの速度にはついてこれないよなぁ」
あの勢いで倒れ込んでしまった俺に向かって奴はそう声をかけてきた。
「ゲホッ、あんまり、人なめるなよ」
起き上がると同時に、鬼の顎目掛けて、蹴りを入れた。
完全に油断していたのか、クリーンヒットした鬼はそのまま仰向けに倒れた。
「馬鹿にしすぎだ。さっさと消えろ。次生まれ変わってくるときはもう少し、その腐った精神をどうにかしろ」
奴に近づきながらそう吐く。
「キヒ、どうだろうなぁ。世の中次第じゃないかぁ?」
「ばか言え、生き方次第だ」
起き上がろうにも、脳が揺れたことにより起き上がれない鬼は、目を瞑った。
俺はそれに何も言わず、頸を切断した。
鬼はすぐ灰となり、辺りには静けさだけが残っていた。
「お兄さん……」
「どうしたんだい、和郎」
「俺、両親が先に死んじまったんだ」
「うん」
「そんで次は、じいちゃんとばあちゃんまで失ったよ。どうすればいい……の……」
「和郎、君はどうしたいの?」
「分かんない」
「あの定食屋を不動産に出して、そのお金で好きなことをするのはどうかな?」
「っ!!!」
それはあの時、和郎がおじいさんやおばあさんに向かって言った言葉だった。
「そんなこと、そんなことできるわけないよ!! 俺の全てだよ。俺の……思い出だよ……。家族がいた……大切な場所だよ」
「そっか、じゃあ、答えはもう出てるじゃない」
「俺、跡継げるのかな」
「おじいさんはさ、和郎のこと、自慢の息子だって、この店のためにいっぱい努力してること知ってたよ?」
「え!?」
「確かにもう死んでしまった人は生き返らないけど、2人の意思は死んでないと思うよ」
「……。うん、そうだよ。俺、頑張りますよ! 料理人の端くれだけど、あの店を潰さないように、頑張るよ!!」
「そのいきだ、和郎」
「うん! だから、お兄さん、俺のお客さん第一号として、明日お店来てよ! 明日だけの特別営業。その後は色々修行して、そして、あの定食屋で、お店を開けられるように頑張るから!! だから、明日、俺が出せる全力でおもてなしするから、絶対来てよ!!」
そういうと、彼は、なんとかその後見つけた2人の遺体を埋葬し、帰っていった。
彼の目にはもう、なんの迷いもなくなっていたようだった。