偽マフティーとなってしまった。   作:連邦士官

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第2話

 一旦、落ち着いた。まだ個人の特定はされてないため、時間がある。まず解決しないといけない問題はギャプランでハイジャックのお手伝いという死亡案件だ。

 

 考えてみれば緑のジャージの時点でだいぶ怪しかったし、よく考えれば部屋にG36のような銃もあった。

 

 オエンベリの寂れたBAR(前のBARとは違い、イリーガルな雰囲気がある。)で、ジンジャー・エールを頼んだ。酒を飲んでは奴らの言うギャプランを動かせはしないはずだ。

 

「早かったな。」

 こちらがジンジャー・エールを飲もうとした瞬間に話しかけるとはどう言う嫌がらせだ。

 

「借りがある身だからな。」

 タバコはどうだと差し出されたが断った。ミケティー爺さん曰く、大気圏突入は肺が気圧の変化に敏感になるらしく、煙を吸うときは自分の機体から出る煙だけにしとけ、死ぬ前に嫌ほど吸えると言われた。

 

 ジンジャー・エールのグラスを手にかけた途端にまただ。

 

「で、実際、これには乗れるのか?」

 スッと出されたのはギャプランの写真。正直な話ギャプランで死ぬだろうフライトはゴメンなんだが‥‥。

 

「動かせるとは思うがやってみなければわからない。戦場に出てないチェリーだからな。」

 手首を触っていたのが目を引いたのか借金取り、ジャック・カーは苛立っていた。

 

「やれるかどうかを聞いている!」

 そこまで怒られるような話ではないと思うが。

 

「大気圏突入中のシャトルにアレでアプローチだぞ!?そう簡単に行かないのはわかるはずだ。」

 注文用紙があったために、シャトルを描いて降下の矢印を描き、三角でギャプランを表し、放物線を描く。

 

「SFS(サブフライトシステム)は?あれがあれば直線的なコレの軌道よりも動けるはずだ。」

 ギャプランのブースターとSFSが合わさればシャトルの一つやふたつなど簡単に確保できるだろう。

 

「SFSか?ベースジャバーなら確か、工場に転がっていたはずだ。」

 正直、ベースジャバーなら俺じゃなくても運転できそうだからほっといてほしいが。

 

「それで行こうか。決行日は3ヶ月先だ。身代金の分配はお前の活躍次第さ。俺の報酬もな。」

 どうせ払う気もないだろうによく喋る。3ヶ月げっそりとするほどギャプランの練習をしなくてはならない。

 

「そして、チェリーボーイに今から愛しの女を紹介してやる。車に乗れ。会計はおれが払ってやるさ、うれしいよな。」

 偉そうなことを言う。むしろ、俺がいないと何もできないのはお前の方だろうに。笑いにすらならん。

 

「あぁ、ジンジャー・エール。」

 カランと氷が溶けて、結局、手を付けれなかったジンジャー・エールをストローを外して流し込もうとするが

 

「飲み物なんぞ飲んでる場合か!」

 ジャックに止められた。何だこいつは嫌がらせか。

 

「親父、カフェ・オ・レ、砂糖ミルク抜きで土産に4個だ。」

 ジャックがカードを渡しながら、土産ができるまで待つ。この時間があるならジンジャー・エールが飲めたはずだが。

 

「カフェ・オ・レの砂糖ミルク抜きってそりゃあ、ブラックだろ?」

 たしかにブラックコーヒーではあるが、借金取りのチンピラには学はないから仕方ないだろう。早く終わらないか黙って爪をイジると乾いた音が4発響いた。

 

「親父が内通者だってのはわかってたんだよ。だから、ブラックだ。隠れティターンズが。金貸しは情報も入ってくるんだぜ。」

 右手に構えた自動拳銃が煙を上げている。じゃあ、行こうかとジャックが言うが店の惨状を考えるとこの先に不安しか無かった。

 

 店から出ると曇天なのに蒸し暑い。オーストラリアではいまの時期雪は降らない。ガタゴトと廃墟を進むと崩れかけたブリキのプレハブのような工場跡地にシートがかけられてはいたが、シルエットを見る限りはこいつがギャプランであろうか。

 

「これが?そいつか?」

 右手でシートを指すとジャックは頷く。するとシルエットが巻き取られた。

 

「あぁ、ギャプランさ。あいにく、メガ粒子砲のパーツ代までは稼げなかったから、ザクのミサイルポッドとシュトゥルムファウストを載っけてる。ま、気休めだが。」

 だがとジャックはニヤッとしてタバコを咥え火を付ける。

 

「メガ粒子砲分の出力もこいつは飛ぶのに回せる。なら、上々って奴だろ?」

 出力が増えた分だけじゃじゃ馬になるのに無茶をいう。

 

「無茶だ。制御が難しくなる。慣らさないと作戦は出来ないがどうするんだ?飛ばした瞬間にキンバレーのおっさんが怒りながら飛んでくるぞ?ジェガンやグスタフ・カールに勝てるとは思えないが。」

 メガ粒子砲が使えないギャプランなど早いだけのガザDみたいなものだ。

 

「ここはコロニーが落ちた大地だぞ?ミノフスキー粒子発生装置ぐらいあるさ。ミノフスキー粒子濃度が高まったくらいじゃあ間抜けな奴さんは来やしねぇよ。とりあえず、ここに住め、あそこの瓦礫に偽装して地下ハッチがある。」

 まさにテロ組織という感じだ。リガ・ミリティアもびっくりだろうか?

 

「ほら、開いただろ?入れ。」

 中の内装は予想通りではあるがそこそこきれいにしてあった。

 

「綺麗だな。」

 口からこぼれた矢先に思わず俺が黙りこむようなものがあった。

 

 それは銅像だった。ただの銅像ではない。

 

 その銅像は、その銅像は、ギレン・ザビとエギーユ・デラーズだ。冗談ではない。シャレにならないテロリスト集団たちだ。コロニーが落ちた大地にジオン残党のしかもデラーズフリート残党がいるとは汗が流れる。

 

「俺はギャプランに乗れないからな、実行部隊と顔合わせだ。」

 居たのは7人。全員、もし捕まったときに身バレしないように名前でなく番号が割り振られた。ギャプランを運転できるから俺はアインスらしい。

 

 ツヴァイは、環境系テロ団体で実行部隊だったらしい男。

「彼は、連邦軍の宅地化造成を止めるのに議員とつかみ合いになった末に殺して、今は指名手配犯だ。」

 言われてみればツヴァイは神経質そうなメガネをかけている。

 

 ドライは、派手な赤い服を着た男だ。永住資格があったのに、赤い服を着ていただけで袖付きの支持者としてマンハンターに捕まり、鉱山で死にかけて命からがら逃げ出したらしい。そのせいで小指がない。

 

 フィーアは、連邦軍の制服を着た若い男で、上官に暴力を楽しまれた結果ということだった。

 

 残りのフンフからアハトはサブであり、四人がメインメンバーらしい。まずはギャプランに乗ることからだ。説明書を見てシミュレートしたからって乗れるわけではない。主人公ではなく、偽マフティーに過ぎないんだ。

 

 まずはゆっくりと上昇する。続いて変形する。加速や曲がるときの癖を確かめる。Gは意外とキツくない。それに、SFSを用意するらしいからまだ負担は減る。

 

 基本動作を繰り返すとジェリドが規格外の男だったとよくわかった。機体を次々に乗り換えてあそこまでできたのだからとんでもない。

 

 一ヶ月も過ぎた頃、2月も半ばだ。備え付けられたテレビをつけるとマフティーダンスを踊る学生を治安部隊が放水やガス弾で追い払ったことが問題化しているようだった。本人達は数ヶ月後に卒業するから踊ってる動画を撮りたかっただけのようで、流石にやりすぎではという世論が出来ているようだ。

 

「そんなバカな。」

 端末で検索をするとサイド3の出来事らしく、怒った生徒の親たちや人権団体が抗議のためにマフティーかぼちゃマスクをかぶりデモ活動を行っている。

 

 あまりのバカバカしさにチャンネルを変えるとバラエティー番組でマフティーダンスをしたり、逆にマフティーダンスとはなんだという疑問に答える為にか、テレビも新聞もインターネットメディアも盛んに俺の連邦政府に反省を促すダンスを取り上げているようだった。

 

 慌てて、例の動画を確認しに行くとミラー動画に関わらず1000万再生を超える動画が多々あり、地球連邦政府が投稿者をサーバー会社相手に開示請求を行っている様で、コロニーに居るならマンハンターの対象にはならずに軽犯罪で終わるため、旧サイド6やルナリアンなどの金がある宇宙移民の子どもたちは、度胸試しの一環でマフティーダンス動画をミラーしていたりなど大変なことになっている様だった。

 

「俺が悪いのか?いや、一過性のものだろう。」

 動向に注意しながらも無視することにした。今更、どうこうできるわけでもない。

 

 中にはダンスマフティーの中身を名乗る人物も多々動画を上げており、真面目な発言をしているが、あれは俺だと言う気分で一杯になった。

 

 独り歩きしたダンスマフティーという偶像と暴力としてのマフティー、両方が相互補完をして勢力を伸ばしているようで恐ろしい。しかし、なんでかぼちゃのマスクを被って踊ってるだけでマフティーの政治思想を感じるとなっているのか?

 

 インターネット記事には‥‥。

「世紀の道化か現代の革命者か。マフティーの武力行使とダンスの意味に近づく‥‥か。」

 いや、関係ないよ。一切、関係ない。なんで深読みばかりするのか?

 

「ダンスの振り付けにインドを感じる。インドと言えばかつて、ララァ・スンというシャアの女性がいたか。」

 シャアの反乱に加わったクェス・パラヤもインドで修行した。つまり、マフティーもインドと関わりがあるかもしれないとまで書かれている。

 

 もしマフティーダンスの正体が俺とバレたならば、ハサウェイに殺されるのではなかろうか?

なぜ、こんなにもハサウェイの心を傷付ける記事を記者が書けるのか?いや、これ以上は辞めておこう。

 

 パイロットスーツに着替えるとギャプランの動作練習を俺は続けるのだった。心に引っかかるものがありながらも。

 

 

「おい、アインス。オエンベリのマフティーから連絡だ。マッカサルのマフティーダンスをしていた学生がマンハンターに射殺されたらしい。抗議の意味を込めてオエンベリの3万程度の軍でマフティーダンスを踊るらしい。」

 ジャックから話を聞いたが頭おかしいのかコイツら。何がどうなったら、3万人でマフティーダンスを踊ることになるんだ?

 

 わけがわからんがジャックたちも行くらしい。妙なところで義理堅い奴らだ。

 

 車に乗ると瓶のコーラを流し込もうと口にあてがうが

「おい、アインス。そもそもマフティーダンスって何か知ってるか?あれは地球で惰眠をむさぼる連邦に抗議するダンスらしい。」

 ドライの話にツヴァイが噛み付いた。

 

「私は行き過ぎたニュータイプ神話とガンダム神話に対する抗議であり、一般人が一般人の意思で社会を改革していくことを促すダンスと聞いたが?」

 メガネをハンカチで拭く姿がより神経質そうだった。

 

「変ですね。僕は暴力ではなく緩やかなスペースノイドの発展によるニュータイプへの進化を促し、地球環境を改善するダンスだと聞きましたよ。」

 フィーアも話しているが、辞めてくれ。何ら御大層な意味はない。食い逃げでボコボコにされないために踊っただけなんだ。何をしたというんだ。

 

「御大層な意味はないかもしれないぞ。ただのダンスに過ぎないかもな。」

 嫌な空気から逃れるために放った一言がツヴァイの琴線に触れたようでメガネのおっさんに見つめられる。それなりに整った顔をしてるがおっさんに見つめられて喜ぶ趣味はない。

 

「たしかに意味が連邦に反省を促すという概念だけなのならば、何でも受け入れられる。もしかすると、マフティーとやらはインテリで役人をやってる様な真面目な人間なのかもしれないな。」

 ツヴァイの発言に持っていたコーラを飲むのを一瞬忘れた途端に車が石を踏んだようで、盛大に頭からコーラを被った。

 

 しょうがないのでコーラを洗い流すために川に寄ってもらい頭を洗う。こうしてみると地球が汚染されてるとは思えない。

 花が咲く河川敷にオリーブの木、オエンベリの長閑な風景だ。

 

「ほらよ。」

 ドライが新しくコーラを買ってきてくれたようで、投げてきたのを開くとコーラが吹き出しまたコーラを被った。

 

「マフティーの話をしてからずっとお前は落ち込んでいた。気は変わったか?」

 怒りはあるが自然となんとも言えない感情はリセットされており、コーラを被ったかいがあったと言える。用意されていたTシャツとハーフパンツにビーチサンダルに着替えた。

 

「あぁ、ところで他の飲み物はないか?のどが渇いた。」

 ジンジャー・エールと書かれた瓶が投げられ今度は吹き出さなかったが、轟音に空を見るとSFSに乗ったジェガンが通り過ぎるのが見えた。

 

「まずい!キンバレー部隊だ!何故だ!」

 ドライが叫ぶ。

 

「わかりきったことでしょう!!マフティーダンスを止めに来たんですよ!」

 ツヴァイの返答に俺は声を失い、フィーアが車載テレビをつけた。

 

 全員でそれを見るしか今はできることは無かった。

 


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