偽マフティーとなってしまった。   作:連邦士官

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第24話

 あっという間に着いたようで機体を空に飛ばす。空は碧い。ガルダはまだあるが、しかし‥‥。

 

『レーダーに敵影を感知‥‥。クラスはラー・カイラム級が3隻!クラップ級が2隻!識別信号は12年前と同じ、ロンド・ベルです!ロンド・ベルがやって来ました!』

 ロンド・ベル!?ブライトか!?なんでロンド・ベルが来ているんだ!?

 

「ロンド・ベルなら鈴を鳴らしておけばいいんだよ!」

 冗談じゃない。こっちはまともな武器は無いというのにいい加減にしなさいよ!こっちは廃材アートだぞ!16本のマニピュレータと足先にビームサーベルとクローが付けられているらしい。どんなやつが使う兵器だ。ラー・カイラムに何が乗ってるかは知らないが一つの可能性がよぎった。確かにそれならなぜガルダが放置されていたのかも、ここに来てロンド・ベルが出てきたのかも説明が付く。

 

 俺はオールチャンネルに電源を入れて叫ぶ。

「私はマフティー・エリン大尉である。あなた方もロンド・ベルなら話し合いをしていただきたい。司令官はブライト・ノア大佐でよろしいのならば、マフティーに聞きたいことの1つや2つある筈だ。」

 ラー・カイラムからは電灯により通信が開始される。内容は「我はブライト・ノア、話し合いに応じたし」であった。当たり前の反応だ。俺がブライトなら話し合いには応じるであろう。内線で世界に向けて電波ジャックをして生放送をするようにミディアに伝えておく。そして仕掛けを頼む。

 

「まずは非礼を謝ろう。小官はマフティー・エリンである。貴殿は一年戦争のサイド7から地球を一回りしてジャブローにたどり着き紆余曲折があり、白兵戦をしてア・バオア・クーで戦い抜き、エゥーゴに参加し、クワトロ・バジーナ、その後のシャア・アズナブルと共にアナハイムから支援を受けつつティターンズ、アクシズを倒し、ロンド・ベルの司令官になった男である、ブライトとお見受けする。」

 できる限りマフティーらしさを演出するために、イオリアとデュランダル議長とマクギリスを足して、エッセンスとしてティファのような浮世離れしたような雰囲気を足す。

 

『武装マフティー!武器を捨てて投降しなさい。そうすれば参加者の命までは‥‥。』

 今更、参加者全てなんか殺せないし、A.G.E.を倒さずにオエンベリのマフティーに固執する理由は連邦の面子か俺の予想通りかの二択なのに。

 

「それでは変わらない。例えばここでマフティーが死んで、マフティーが潰えるとするのならばそれは自然なことかもしれないが、自然なことが常に正しいとは限らない。自然なことが正しいのならば、なぜ地球連邦政府はニュータイプを否定した?ニュータイプが自然でないのならば地球連邦政府は市民を宇宙に放り出してミュータントにした悪であるが。」

 正直ニュータイプもマフティーも詳細はわからないが、ニュータイプは便利でもなければ否定されてやがては終わる。神話の化け物は常に一般人に殺される定めなのだ。英雄も化け物を殺せるなら化け物でしかない。アムロへの扱いを見ればわかりやすい事だ。

 

『ニュータイプはそこまで便利でもなければ器用でもない。武装マフティーは随分とニュータイプに夢を見られている。夢を見るのは構わないが、ニュータイプはそういうものでは無い。』

 ブライトの心をここで動かさねばならない。俺の予想が正しいとしたなら、キンバレーは本当に狡猾なゲスだ。

 

「ガンダム。それはなんだと思われるブライト。」

 だからこそ時間稼ぎをしなくてはならない。時間稼ぎをすればするほど、こちらは勝ちに近づく。時間が味方になるのはそちらだけではないぞ、キンバレー!

 

『ガンダム?兵器の名ではあるが。』

 いや違うな。俺は知っている。お前がガンダムをどう見ているのかを、ブライト。揺さぶるぞ!

 

「ガンダムは反骨精神の塊だ。例えばガンダムはジオンに抗い、Zガンダムはティターンズとアクシズに。ZZガンダムはアクシズに。皆、機体が壊れたりパイロットが壊れても抗い続けた。ならば、マフティーがガンダムを操り、ガンダム自体が意思を持ち、マフティーが意思を持ち、ニュータイプが意思を持ち、人々の希望が意思を持つのも一つの可能性としてありえないか?ブライト。」

 これで揺さぶる。ブライトが動揺するかわからないが。

 

『そ、それはまるで‥‥だとすれば、マフティー大尉。なぜ、地球連邦政府の内部から変えようとしなかった。マフティーならばそれぐらいできたはずだ。なぜ、やってみせない?』

 それはハサウェイの様なマフティー活動ガチ勢に聞いてくれ。こちらはマフティー活動初心者なんだ。マフティー活動ってなんだ?もう意味がわからないことだらけだ。でも、仕方がない。押し通す。

 

「マフティーならなんとかなる筈なら、マフティーにならずになんとか出来ていた筈だ。マフティーは万能ではない。ニュータイプ万能論を否定して、マフティー万能論を唱えるのは感心しないな。」

 雰囲気が詰まる。耳の奥がツーンとする。ビーム撹乱膜ミサイルを時限自爆スイッチを入れて、武装コンテナ兼ブースターを切り離してブースターに暗証番号2887を打ち込み一気に空高く登る。

 

 次の瞬間、ブースターは強力なビーム・バリアが炸裂するとともにビーム撹乱膜と武装コンテナを爆発させ、ビーム・バリアが霧散する。ビームの出どころを見るとガルダ3機とクラップ級である。これを狙っていたのだ。キンバレー、評価を改めさせてもらおう。

 

『ビーム・バリアだと!』

 ブライトが叫ぶ。知らされていなかったのは明白だ。

 

「ブライト!コレが地球連邦政府の実態だ。話し合いをしようとしてもこういうことをする!ビーム・バリアであろうがガルダを囮に使い、これをした。地球連邦政府は地球連邦政府として、マフティーはマフティーとして袂を分かたねばならなくなった。捕虜の解放よりもマフティーへの暗殺を選ぶのであれば、手段を選ばなければアムロを暗殺出来たシャア以下である。大義なき正義は単なる暴力だよ!ブライト!エゴだ!」

 そして俺はラー・カイラムに急降下をすると対空砲火を縫う。濃密な熱量は避けるにはあまりあってパーツが傷付く。次々にパーツをパージして艦橋の目の前に立ち、最後にこれだけを言う。

 

「ブライト。今回は見逃す。しかし、地球を救いたい意思でアムロが散ったならば、またシャアも地球を救いたかった。ジャミトフもだ。地球に縛られた魂はハマーンであり、ハマーンの様にならない為にも人々は緩やかに変わらなければエゴは人類に返ってくる。A.G.E.のような形で。誰かがやらねばならないのなら誰でもないマフティーがやらねばならないんだ。マフティーとして宣言する。マフティーが人が作った業を、人が作ったマフティーが引き受けよう。そして、人類はマフティーとして天に召されるだろう。わかったな、ブライト。」

 途中から意味がわからなくなったが、多分十分に意気込みは伝わったであろう。サヨナラだと伝えて離脱する。オールチャンネルを切る。追撃の対空砲火はなくミディアに着くとオエンベリへと帰ることにした。

 

 追撃はない。ブライトの心に響いたようだ。しかし‥‥。

「知っていたからといってあぁやって人の心をいじるような真似をするなんて。とんだ卑怯者だな、マフティーって奴は。」

 ハッチを開き、降りると機体は大破していた。エリオットが近付いてくる。

 

「派手にやったなマフティー。これは修理するのには時間がかかるぞ。いや、メインカメラとドッキングパーツだけを新しいギャプランに移せば済むが‥‥。そんな戦い方をしていたらいつかは死ぬぞ。戦争は甘くはない。死にゆくものに生き残るものは何を思えばいい?マフティーはそんなに安くはないぞ。」

 会ったばかりのいい歳のオジサマに説教されるとは、マフティーはかくも苦しいものだ。しかし、やると決めたからにはマフティーは辞められない。ある程度落ち着いたらハサウェイにマフティーを譲るが。

 

「マフティーが道化なら道化として貫くさ。だがな。マフティーの意思を継ぐものがいる限り、マフティーは不滅で継承される。継承されればその小さい火もやがては大火になるだろう。マフティー自体すらも燃やし尽くすほどの人々の意思の火にな。」

 エリオットは呆気にとられたようで、一拍おいてから話しかけてきた。

 

「古代の神話には、イカロスは太陽を目指したから蝋の羽根が溶けて墜落死した。また、人々に火を届けたとされるプロメテウスは肝臓を啄まれ続けた。マフティーが人々に太陽を与え、火を与えるならそうなるかも知れない。」

 そう言われてもな。困るんだよ。思いついた言い訳をしてみようか。

 

「ならいいさ。プロメテウスならばヘラクレスが味方になるという事だ。ヘラクレスが味方なら神話では負けなしだろう?」

 誤魔化してからバカバカしくてフフッと笑ってしまって、エリオットが苛ついていたようだった。

 

「マフティー、なぜ笑う。笑う要素は無いはずだが。」 

 怒られてしまった。仕方がないから理由を話してしまおう。バカバカしくてフフッと笑ってしまったと。

 

「何故か戦いがあって気分が高ぶっていると芝居がかって話してしまう。まったく、バカバカしいほど道化だなと思ってね。マフティーはコイツを含めて道化体質なものでもある。」

 コンコンとかぼちゃのマスクを叩く。エリオットは怪訝な顔をしてからため息をついた。いや、こっちのほうがため息をつきたいわ。マフティーとしてマフティーを演じてるんだから疲れも溜まろう。

 

「マフティーらしいマフティーな悩みだな。しかし、私エリオット・レムも同じ悩みを抱えた事もある。ザクという象徴を作っていた事だ。ハイザックも開発した。ザクを作り続けていた時に、ザクをヅダに‥‥あのヅダに近付けようと思った。あの時、空中分解がなければザクはヅダに負けていた。コストが高かろうが、兵士が少ないジオンにはヅダが輝いて見えたのだ。」

 しかし、選ばれたのはザクだったと続けるエリオットに、何の話をされているのでしょうかと聞きたくなったが辞めた。大抵恐ろしいことになるからだ。

 

「ヅダに勝ったザクはヅダの意思を引き継がねばならなかったのだ。勝った者は負けた者を引き継いでいかねばならない。それが勝者の義務なのに、地球連邦政府はどうだ?アナハイム・エレクトロニクスはどうだ?ジオン共和国はジオン公国にクーデターで形ばかりは勝ったはずだがどうだ?誰も敗者のジオン公国、ティターンズ、アクシズ、ニューディサイズもその他の組織も宇宙世紀は捨て置いた。捨て去った。」

 いや、あのエリオット。お話が長いですけど‥‥どう反応していいかわからない。困るから長話は辞めて欲しい。目上の人の長い話ほど怖いものは無い。ニュータイプの次ぐらいに怖い。

 

「勝者の義務を失った地球連邦政府に私は絶望して、ヅダを新しく研究する事にした。地球連邦政府がプロパガンダをしてまで攻撃したヅダをな。それが私の意地だ。マフティーは今、それと同じ事をしようとしている。地球連邦政府に勝者の義務を果たさせるのだろう?5年前にジオン共和国が無くなっていなければこんなにジオン人も集まってないさ。地球連邦政府は、ジオンから初めてサイドの自治権を剥奪しようとしてる。だからこそスペースノイドは惰眠を貪れなくなった。」

 ギャプランの傷をなぞる。エリオットおじさんはヒゲも相まって気障な行動が似合う。 

 

 オジサマ好きな女が今いたら不意打ちを食らっていただろうが、俺はそんな趣味はない。むしろおじさんがデラーズ像を拭いているところ、おじさんがおじさんを拭く行為にぞわりとするタイプだ。

 

「マフティーは全てを拒まずに内包する甘く優しい存在ならば、行き場のない敗者は‥‥地球連邦政府に排斥された敗者は、マフティーを求める。力がない者もだ。きっとな。」

 いや、そんなマフティー幻想郷説を唱えられても‥‥マフティーって国家なのか?わからないが頷いとく。長いものには巻かれて置こう。否定するに足る証拠もない上にギャプランを直してくれるのもエリオットなんだから、心証は良くしないといけない。だからといって、マフティー幻想郷説ってなんだよ。怖いわ、宇宙世紀。

 

「だとすれば残酷かもしれないぞ。そんな存在は。マフティーがマフティーとして全てを受け入れるのは。」

 マジで幻想郷と総意の器と願望器がマフティーならマフティーってニュータイプ以上に封印したほうがいいと思うけど。そのヤバ気な3つが合わさる形容詞って焼き払ったほうが良いんじゃないかな?

 

「残酷な甘く優しい嘘でも人々のキズを数年は癒せるなら、きっとそれは何よりも正しい優しさだよ。ニュータイプとか地球連邦政府よりも人々に癒やしを与えれるならな。」

 アッハイ、目が怖いんですけど。ジオニックの人なのに、ヅダに精神をツィマッド化されてないですか?許してください。

 

 ミディアの機長室を借りて寝ることにした。精神的な疲労が溜まってるよ。これからレーン・エイムと話し合いもあるし、ハサウェイにマフティー、マフティーと言って落ち着かせるのもあるし、マフティーが幻想郷や願望器ならどんなに良かったことか。総意の器は要らないから宇宙空間で漂っててください。

 

 




 不定期更新です。

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