偽マフティーとなってしまった。   作:連邦士官

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第二部 終わらない円舞曲
第25話


 それにしてもミディアの機長室のベッドは柔らかいよなぁ。非常に寝心地が良い。このままだとキンバレーは悪行を暴かれた腹いせにブライトを予備役に行かせるかもしれない。3年前から辞表が受理されてないのだから良い話だろう。となると後任の指揮官は誰になるのだろうか?マニティかオットー?マスター・P・レイヤー?レビル派閥の生き残りとかやめてくれよ。

 

「どんなに考えても無駄か。それにしてもだ。」

 いざ戦いとなると途端に頭がクリアになって、気がついたら興奮をして、ついつい無茶をしてしまう。まさかSEEDで覚醒してる訳じゃあるまいが、何なのだろうか、この感覚。そして話が乗ると舌が滑りすぎてしまう。よほどこの体の元々の主はお調子者だったのに違いない。しかし、動かないといけない状況で、緊張で動けないよりはマシだろう。もう一度、部屋にカメラがないことを確認してから、扉に鍵をかけてマスクを脱ぐ。

 

 鏡に映る金髪のオールバックにどこかアジア系のような顔にロシア人らしい白い肌を尻目に、俺はバカでかいグラサンにかけかえる。残念ではあるが着替えの服は無いために仕方無しに着てもいいと言われていた備え付けのクローゼットからカラバのジャケットと連邦軍士官服を着ると横になった。そもそもマフティーってなんだろうな。マフティーが独り歩きをしている。

 

「前世か。」

 日本において、俺は様々なアルバイトやパートの経歴がある普通の上京をして夢破れた若者の一人で、やっと就職できたあたりだった。それでも金はないが楽しさはあった。馬鹿な事をしているうちにここに流れ着いた。因果を感じるのは、巻き込まれた悲観によるセンチメンタリズムなものか。

 

 その微睡みさえもが少し経つとオエンベリに到着した事により無くなった。そして、小さな窓を見るとあり得ないものを見た。

 

 かぼちゃのマスクを被り、目線が降りていくと滑走路にはビッグ・トレー級やヘビィ・フォーク級にダブデ級更にはギャロップやミニ・トレー、サイコガンダムまで揃っている。ジオンやエゥーゴの残党とは一体?

 

 着いたことは着いたので、部屋をあとにする。

「寝て暮らせるなら、寝て暮らしていたいがな。」

ポロリと本音が漏れてしまった。不労所得で暮らしてみたい。かなわない夢ではあるが。

 

 廊下へ出るとエリオットがいたので、このいかれた滑走路の状況を聞いてみようか。あんなデカブツのヘビィ・フォークやビッグ・トレーとかどっから持ってきたんだよ!あんなの隠せるような代物でも無いだろ。

 

「あれ等は?アデレードを壊滅させても余りある火力の様だが。」

 いや、本当に何なんだよ、あれ。

 

「マフティー、あれ等は今到着した部隊だ。更に言えばあれらよりもさらなる機体がある。ラサが壊滅したのは知っているか?」

 まぁ常識だろう。だから頷く。艦橋についた。

 

「ラサには色々な機体が封印されていた。その中で一番大きいものはアレだ。」

反対側の窓を指され、見てみると‥‥。

 

「GPシリーズ!?あとはスペリオルガンダムにあれは‥‥ゼク・ツヴァイとアプサラスIIIにゾディアック‥。なぜあれらを運び出せた?」

 マジで何なんだよ。宇宙世紀はシドニーに雪ぐらい言わないとガバガバ警備なのは知ってるが。

 

「シャアの裏側でシャアに反発していたジオン残党やエゥーゴ残党を通じて連邦軍の一部が運び出したものだ。中にはダカールに封印されていた物もある。あれを見ろ。君にぴったりなものだ。」

 白と空色の迷彩に羽のようなファンネル。そしてあれは‥‥。

 

「Hi-νガンダムと‥‥。そしてナイチンゲールか。待て!オーヴェロンとタイタニア!?なぜ?」

 頭おかしいんじゃないんですか?なんでそんなものを保管していて‥‥タイタニアがあるんですか?

 

「流石はニュータイプだな、大尉殿は。タイタニアは地球連邦政府がアナハイム・エレクトロニクスと作ったシロッコの設計図を使った機体だ。あれ以外にもグロムリンを作る計画があったそうだ。アクシズに残っていたデータを元にグロムリンIIなるものをな。サナリィが担当をしていたらしいが、ナノマシン自己修復型装甲と物理攻撃を受けたときに内部から液体状のリキッドが出て損傷を回復させる装甲など、無茶が多かったから辞めたらしい。残った残骸はブッホが引き取ったとの事だが。」

 それって後々、ラフレシアに繋がるデータになって無いか?と言うかジオン、アナハイム・エレクトロニクス、ブッホ・コンツェルン、木星が合わさったA.G.E.だと再現してきて宇宙で飛ばしてきそうだけどフルサイコフレームとかにされて、ギニアスお兄様も大喜びだよ。実質、ギニアスお兄様専用機だからな、グロムリンシリーズ。

 

 グロムリン・フォズィルが出てきたら、俺はマフティーを辞めるぞ。マジで相手にしてられん。グロムリンは止めてくれよ。しかし、考えていてもしょうがないから降りる。

 

 目の前に止められた車に乗り込む。車の車載テレビには、例の教授が出ている。

 

『今回のマフティー騒動により、各種サイトが処理落ちするほどのマフティーダンスが投稿されています。教授、いかが考えますか?』

 キャスターも相変わらずだが、サイトが処理落ちするほど人をネットの晒し者にするとか、宇宙世紀のネットリテラシーは旧世紀以下だろ!ネルフの大人の方が、まだ常識とか持ってるぞ!ゲームセンターのガンダム筐体や格闘ゲーム筐体の前のほうが民度が高いわ!頭ニタ研ばかりかよ、この世界!そういえばナナイはニタ研出身だったな。

 

『私はあの動きに‥‥そこにニュータイプを見ました。ニュータイプとは、人々を導く存在。つまり、マフティーはニュータイプではなく、マフティーはマフティーであるというのは、導かれるのを待つだけの存在ではなく、自ら一人ひとりが自覚するのを示唆しているとね。連邦政府に反省を促すのは、連邦政府が反省をするだけではなく、連邦政府の構成要素である連邦政府市民にも反省を促していたのです。議会の横暴を許してきた市民にもね。従って皆がマフティーになるという事は人類保全活動の一種であり、人類補完計画とも言えるでしょう。』

 何言ってるんだ、この爺さん。頭をソーラ・レイかジェネシスで焼き払われたのか、機械のいじり過ぎで頭がおかしくなってしまったのか、はたまた全部なのか。この爺さんが教授というのだから世の中はおかしくなるってものだ。頭カテジナかよ。

 

『しかし、それではそうはならなかった他の人々はどうなるんですか?それこそ選民思想に他なりませんが。』

 いや、知らんがな。勝手にやってろ、言ってろよ。マジで何でもかんでもマフティー、マフティーってMMRかよ。

 

『そうはなりません。魂の安らぐ場所にマフティーはなりつつあるのです。スペースノイド、アースノイドはなくなり、マフティーの前では一個人、マフティーと個人の対話。個人の中のマフティーとなるのです。だから、マフティーはマフティーなのです。潜在的マフティーはマフティー性を持つ市民の数だけマフティーが存在する。ユビキタス社会こそがマフティーの本質の一つでもあります。マフティーは個人ではなくマフティーなのでユビキタス・マフティー、マフティーは遍在するのです。』

 宇宙線で頭がおかしくなったの?紅茶の飲みすぎか?紅茶野郎。

 

『つまり、マフティーは内なる精神世界の海が生み出した存在というわけですね。マフティーの中に有り得るのはマフティーでしか無く、マフティーとの対話は自分との対話になる訳ですね。』

 しょうもないことに使う理解力があったら、誰かに寄り添いなさいよ!そのしょうもない理解が人を傷つけるとなぜ気が付かない!

 

 

『そうです。マフティーがもたらすものは自己の対話、人々との対話を加速的に進める一種の魂への救済への技法が採用されています。彼はおそらく、すべてを背負ってまた消えるのでしょう。我々はマフティーと言うマフティーを否定はできないのです。マフティーとは自己の深層心理や内なる精神世界の大海、精神の根幹に存在するものだから。無意識、領域外、外なる世界などと言われる人々が昔から認識してきたものですよ。相当なやり手ですよ。マフティーって奴はね。』

 いや、何を言ってるのかすら理解できないんですけど。やめてほしい。公開電波怪文書とか恥ずかしくないのか?

 

『マフティーが死んでも、次のマフティーがまた現れる。輪廻転生、仏教的な側面と復活、神の奇跡、生まれ直しなど世界各地の神話にある面を体現しています。つまり神話の再構成と再現。人類史のやり直しによる人類の飛躍が目的かもしれません。ならば旧歴に詳しいのは当たり前です。神話から人類をやり直させて、地球環境等を回復させ、全てはマフティーとなる。個が全となり、全が個になる。市民全員がマフティー意志とマフティー性により、独裁者になる。市民全員が行う、全体の構成員による独裁。間違わない独裁だよ。すべてのマフティーが間違うことがないのだから。』

 独裁の意味を辞書でお調べになられたらよろしいのでは?教授?紅茶ご自慢のオックスフォードの英語大辞典でお調べになられてみては?

 

『マフティーの仕組みの深さに、私はマフティズムを感じています。現代思想にマフティーが刻まれ、政治思想にはマフティズムが流行る根幹の話ではありますが、ブライト・ノア大佐がマフティー疑いにより、逮捕されたようです。マフティーをおびき出すためかもしれませんが、このままだと処刑されるかもしれませんね。それも名目が抗命罪ですから。しかし、ブライト・ノアという男が処刑されるとマフティー運動は頂点に達するでしょう。ブライト・ノアは神への贄ですね。』

 紅茶野郎の言うとおりならば、ブライトが処刑されるより前に助け出さねばならない。ブライトを殺させるわけにはいかないのだ。

 

 怒りはそのままに基地に着くとコーヒーを渡されて、珍しい偉そうな格好をした爺さんがいた。名前を聞く前に答え始めた。

「私の名前はユーリー・ハスラー、しがない老人だ。」

 アクシズの提督!?ユーリー・ハスラー!?単なる爺さんにしか見えないぞ。

 

「今、宇宙ジオン共和国軍残党、及びアクシズ、ネオ・ジオン残党が掴んだ情報では、君の敵であるA.G.E.にはヌーベル・エゥーゴ並びにアナハイム・エレクトロニクスが参加したと聞いて、我々、元ジオン共和国残党も参加することにした。いや、なった。」

 いや、お尋ね者じゃないの?アクシズ艦隊の指揮官だろ?ハスラー?

 

「君はしかし、指名手配を貰っていただろう?」

 アクシズの将官なら指名手配を食らってるお尋ね者の筈。いや、待てよ。ハサウェイも俺もお尋ね者か?

 

「ジオン共和国軍に編入された時に裏取引があったようで、綺麗なものだよ。不正や腐敗を訴えたアクシズが不正や腐敗で救われるとは皮肉なものだ。」

 グラサンとジュドーに父性を求めた女の癇癪と、地球を求めた重力に魂を惹かれた女の末路じゃないのか?

 

 アクシズは父を早くに失った女がグラサンに父親を求めて、グラサンは屈折したファザコンで自分も異性の親を求めていたのを感じ取って、自分の嫌な部分を投影したハマーンを嫌ったのでは?何にもなれる才能があるが家族だけには成れなかった男と女、似ているようで相反している。バナージかジュドーに浄化してもらうか、ウッソに叩き切られたら?

 

 能力が高い家族に憧れがある二人とか‥‥強い子に会えて良かったらしいが、バナージに会ったらどうなるのだろうか?激重の魂を重力に引かれた女だからな、ハマーン。

 

「戦力に不安があるのなら、ジャムルの3Dとイリア・パゾムが率いるレウルーラ艦隊とベルム・ハウエルのレウルーラ艦隊が有ります。それにジオン共和国に連邦が押し付けてきたサラミスやマゼランの旧式艦隊もある。アリアス・モマが温存していたバウ部隊もある。」

 なんでそんなに戦力を残してるんだ?嘘だろ。おまえら残党じゃないだろ。ジオン共和国もおかしいわ。滅んで当然じゃない?

 

「A.G.E.という存在がジオンを纏めたのか?それに火星ジオンが参加しているんだろう?」

 宇宙戦力まで得たらマフティーが環境テロリスト(笑)じゃなくなるだろ。なんで、バエルより集客率高いのですか?

 

「マフティーに隠し事は出来ない。流石はニュータイプだ。火星ジオンはキシリア派閥で、我々はドズル派とジオン派、ジオン再独立派と旧ギレン派で構成されている。キシリア派は関係はない。」

 やっぱりジオンはアホなんじゃないの?派閥が別れすぎだろ。派閥乱立で小規模発起しかできないとか、ギレンかシャアがいないと弱小テロサークルなのでは?

 

「いや、俺はニュータイプじゃないさ。ニュータイプはハマーン・カーンやシャアの様な人間さ。俺は違う。見たらわかるだろう?単なる一般パイロットさ。ニュータイプにはニュータイプの道理もあろう。ニュータイプで良いと思える社会でもない。プルシリーズを見てみろ、人が優しくなければニュータイプが暮らせぬさ。俺は単なる人形だ。人が見たいものを映すそれに過ぎないさ。それに重力に引かれた男の悲しい末路に過ぎない。地球の惑星軌道に引き込まれたような重力井戸の底で宇宙を仰ぎ見る哀れな一般人さ。届かないものにこそ人は求めるものだよ。」

 ハスラーは渋い顔をして黙った。人をニュータイプの様だと言われても知らないしな。俺はニュータイプじゃないし。ニュータイプって何か知らない。

 

「重力井戸の底に光を欲したのがハマーン様でしたよ。」

 懐かしそうな目をする爺さんと共に雲がない碧い空を見ていた。

 

 




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