偽マフティーとなってしまった。   作:連邦士官

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第49話

 その件の単語とはイコンと書かれたもの。それの中身は想像を絶する気持ち悪さで、強化人間やニュータイプとされる人物の遺伝子をアナハイムやビスト財団、地球連邦政府が集めた標本である。そして、サイアムやルオ・ウーミンにメラニー・ヒュー・カーバインにゴップなどの行動パターンを叩き込まれたAI、ヤブ医者が認めた統治者にふさわしい人間を再現したAIと言える。その中にはグリーン・ワイアットやジャミトフ・ハイマンにギレン・ザビまである。官僚による統治は機械のパターンによるものであり、これは許されないものなのだ。

 

 そして、メラニー・ヒュー・カーバイン、サイアム・ビストは中東出身、またカーバインが学んだのはルオ商会の本拠地のニューホンコン。全てはユーラシア大陸から始まった。しかし、ロシアは外されており、リムランドを制したのはアナハイム、ルオ商会、ビスト財団、ヤシマ財閥なのだ。

 

 このマフティー動乱を官僚たちの反乱とするならば、リムランドを制圧し、支配した財閥への復讐、地球のリゾート化を止めてやがては腐らせて相手が困った頃にリムランドを回収し、地球で採算を取れるようにする。そうでもなければ環境対策費や水質浄化島の建造を止めたりもしない。

 

 地表に住まう者として、寄生虫として、宿主を弱らせることで相対的に寄生虫たる財閥を弱らせて地上を再び手に入れてから、財閥達を回収して地上の水や空気をコロニーに売りつけるつもりだったのだろう。コロニーの維持にも地球連邦が必要だと思い知らせてやれば宇宙市民も靡くという算段だろうな。

 

 靡かなければ宇宙世紀が分裂して戦国時代になるが、それは前に考えたように官僚たちの天国となる。地球至上主義か官僚至上主義が叶う二択なのだ。それはそれはみんなが好きにやるというものだろう。つまりは負けがない賭けだったのだ。まかり間違ってハサウェイがマフティー・ナビーユ・エリンとして革命を完遂させても、統治機構として自分達は生きていられる。

 

 ハサウェイが負ければその二択になる。つまりは勝ちが確定していた。アデレード襲撃にしてもあそこでハサウェイが私の名前はマフティー・ナビーユ・エリンではなく、ブライト・ノアの息子として告発すると宣言して、マフティー・ナビーユ・エリンはマフティー・ナビーユ・エリンとして死なずに、マフティー・ナビーユ・エリンの一部であるブライト・ノアとして、マフティーの思想にあのブライト・ノアの息子が共感したんだと思わせてしまえば処刑されても、マフティー・ナビーユ・エリンやハサウェイの名前は伝説になれたのだ。

 

 だからこそ、中途半端に名前がバレてしまったハサウェイはハサウェイらしい最後だった。ニュータイプとも言えず、またニュータイプでもないとも言えず、アムロ・レイにもなれずまた、シャア・アズナブルにも成れない。自分がジオンや連邦に影響力があるブライト・ノアの息子である点を今、俺の目の前にいるマーサ・ビスト・カーバインの様に親を利用してやれば良かったのだ。ハサウェイは妙に清廉すぎた。まるで思春期の少年のような潔癖を学生運動テロサークルモドキの反地球連邦組織マフティーで発揮してしまった。

 

 即席カルト学生運動サークル程度だったマフティーも、ハサウェイというニュータイプという戦力を得て、クワック・サルヴァーに支援をもらい巨大化した。まるでシャア・アズナブルがアムロ・レイに言った「愚民共にその才能を利用されている者が言うことか!」がここで効いてくる。つまり、閃光のハサウェイとは表面上ではあるがアムロ・レイとシャア・アズナブルに成ろうとした少年がアムロ・レイとシャア・アズナブルのレスバの内容を地で行って打ちのめされ、二人に論破されている。もう12年前に置かれていた地雷を踏み抜いてしまったのだ。ニュータイプを体現したアムロ・レイとニュータイプになるしかなかった呪詛に包まれていたシャア・アズナブルの地雷に。

 

 だが、これも邪推に過ぎない。アムロとシャアの対比にハサウェイが使われたと言うのは聞いたことがないからな。ところでマーサは黙っているがどうしたんだ?

 

「マーサ・ビスト・カーバイン。どうした?」

 手にした資料に奥歯を噛み締めているようだ。何の意味があるかも分からないが彼女の厚い外壁に穴が空いたようだ。コロニーやプラントぐらいペラペラ外壁ならスパスパ穴を開けれて良いのだが。

 

「私が知りうる官僚の中ではこの構図を描ける人物は居ません。ジョン・バウアーやメラニーも反政府的な組織に支援はしていましたがこのような事は‥‥従ってこのAIのプロトコルによる人類統治なんて馬鹿げたことを考えつくような暇人はアナハイムにも関係があって主軸と連邦改革と地球連邦政府に対する失望を考えて、AI技術でアナハイムの先を行くサナリィにも影響力がある人物がクワック・サルヴァーの計画を描いているのよ。」

 私は誰か検討も付きませんけど、ニュータイプの総意の器になるマフティー・ナビーユ・エリンならわかるんじゃなくて?とマーサに続けざまに小言を言われた。そんな人物が関わっていたのか。

 

 一人思い当たるのがいる。過激なレビル派を戦後に吸収して、バスクを一時期部下にしていて、ティターンズ、エゥーゴでもどちらに参加してもいなく、退役してから行方知れずになり、地下に潜る過激なレビル派と改革派の盟主。

 

 その名は‥‥。

 

「ジョン・コーウェン退役少将。彼がこれらを作り上げる基盤を整えたとでも?コーウェンにこれほどまでの力があるとは思えないが、改革派とレビル派は連邦派閥であるから、エゥーゴ、ティターンズを嫌い、ブライト・ノアを英雄視するのも避けるのはわかるがだとしても、いくらニュータイプ研究所を支援していて、スレイヴ・レイス隊やオデッサの犯罪者部隊を含む非人道的な行為があったとしてもだ。考えなしのレビル派やラディカルな改革派にそれが務まるとは思えないが。」

 マジで善意で始めたレビル派や改革派の亡霊ならありえない事もないが奴らの考えはわからない。かと言って得になるようなことは一つも存在しない。

 

「簡単な話よ。大規模な事件が起こるたびに地球連邦政府は綱紀粛正と称してリストラをしてきたわ。それは勝ち組になった派閥が負け組の派閥をリストラをしてアナハイムやら、サナリィやらに出向させたり、宇宙移民にしたりしていたのだけど。負け組の派閥の中には死者を呼び出すことを考えたものもいた。地球連邦政府がリストラしたサイコミュ開発者とかね。だからこそよ。私が巻き込まれた不死鳥事件。あれらが表になってしまうとトンチキなニュータイプ論者が正しくなってしまう。ニュータイプ論を否定して、ラプラスの箱が開かれてから呪詛は無力になったと思わせて、連邦上層部には突き刺さるようになった。」

 マーサはお茶をすする、とても軟禁されていた女には見えない。ミシェル亡き後にルオ商会が生きていられたのはマーサをブレーンとして利用したのかもしれない。まるで扱いがハンニバル・レクターの様だが。

 

「そういう事よ。地球連邦政府は地球連邦政府としてのみ扱われる。それが男社会いえ、人間社会というものです。ラプラスの箱は意味が無いように見えて意味がある結果に終わった。貴方であるマフティーという概念が、人々が見ていたワイドショーの小ネタに過ぎなかったラプラス憲章を増幅させ、ニュータイプ神話を加速させ、ニュータイプ神話を破壊して中からマフティー・ナビーユ・エリンが出てきた。ある種、サイアム・ビストやメラニー・ヒュー・カーバインの思惑を貴方が果たしたのよ。だってそうでしょう?自治権を拡大してやがては地球連邦の所属国家を独立させる。旧世紀のEUのようなね。通貨と政治と経済を統合し軍事を統合したEUつまりは貴方がやろうとしてるのはローマ帝国の再興よ。」

 いや、ローマ帝国とかどうでもいいので。ローマ帝国を復活させてなんの意味が有るんだ?いや、順次各ブロックを独立させて地球連邦政府を常任理事国が存在しない国連の様にしていこうとは思ったが。

 

「マーサ・ビスト・カーバイン。貴方の考察や思慮深さには感嘆の念は出ますがローマ帝国にはなりませんよ。」

 なんでローマ帝国なんだよ。ローマ帝国とか文字通り塩経済だろ。

 

「しかし、民衆はあなたのようなカエサル(カイザー)を求めています。民意に後押しされた為政者は独裁者に変わり、やがては王や皇帝となるのだから、共和制ローマが帝政ローマになったようにね。貴方は人類の総意の器としてあのフル・フロンタルよりも熱烈に選ばれた。ならない訳はないでしょう?古来それはナポレオン・ボナパルトも歩んだ道よ。ナポレオン・ボナパルトやユリウス・カエサルが負けたのは個人だったから、しかしマフティー・ナビーユ・エリンは個人であり総体であり複数であるのならば間違わない独裁政治であり、成功も間違いもマフティー・ナビーユ・エリンと言う集団が分散する事になるわ。だからこそ、私は貴方に強く出られる。」

 何言ってるんだこのオバサンが!宇宙世紀人は年齢層が高いほどクソコテか?ケネスといい神経が苛立つ。

 

「貴方は清廉さを求められているから私を殺せはしないはず。罪人だろうと法の執行をしなければ、貴方はいけない立場になったのよ。テロリストから政治家になるという事はそういうこと。革命家のアジテーターたるテロリストは革命が上手くても政治家になれないのは清濁を合わせ飲めないから、例えば正義の為に汚いことを革命家は出来るけれども、汚いことの為に正義は出来ない。自ら泥はかぶれないだから、私にはもう何も出来ないのよ。」

 マーサが高笑いをする。自分を売り込みに来たのかコイツ。嫌でもその理論なら。

 

「私は敗者になりたい。」

 トレーズ理論が効くぞ。早まったな。

 

「いきなり何を?」

 マーサが動揺したようでこちらを見る。トレーズされたら誰だってこうなる。実際、視聴者もそうなってたしレディ・アンもそうなってた。

 

「私は敗者になりたい。大統領や首相には成りはしない。ただ敗者になり、民草と分かち合いたい。大統領や首相だって今辞める事だって出来る。レディ・マーサ。私は権力には固執はしない。金も求めない。現に全給与はマフティー動乱被害者の会に名前を伏せて送金している。アナハイムなどの賄賂も断り解体した。民衆の一人として勝者ではなく、民衆の一人としてただ毎日のパンとスープにありつければ良いのだ。それ以上を求めるのは傲慢な勝者だよ。酒も女も金も全ては一時の享楽に過ぎない。享楽に耽るといつかは王になりたいだとか誇大妄想を起こす。だから、私は敗者になりたい。」

 トレーズ理論でマーサが黙った。よし、押し込めばもっと知りうることを話すだろう。マーサが何を知っているのかは知らないが。

 

「では、貴方は敗者になった時に安堵はなかったのか?いやあった筈だ。重責や過去の罪からの解放を敗者は意味する。だからこそ、今聞く。茨の園はどうなっている?マーサ・ビスト・カーバイン。」

 押して、押して、押し込め、コロニーレーザーの様に。コロニーレーザーは不味いな。サイコフレームの共振で弾けるし。

 

「茨の園は‥‥巨大なサイコフレーム実験設備があって、茨の園自体がサイコフレーム実験装置だったわ。どこまでの質量をサイコフレームが動かせるのかをね。兄、カーディアス・ビストがネオ・ジオングを提供したときの名残よ。あとは地球連邦政府の摘発から逃れるために巨大な核パルスエンジンが付いているわ。それがどうしたの?茨の園はサイコフレームが60%弱の部署に取り付けられたコロニーであって茨の園には戦闘力は‥‥。」

 やはり、茨の園をエンジェルハイロゥにはできるようだ。やるなジャック。ギレンよりも効率的に人類を粛清する方法を知っていたわけだ。更にはこれは祈りが呪詛になるわけだからラプラス憲章への皮肉でもある。インテリが考えそうなシナリオだ。

 

「それだけ分かれば結構。マーサ・ビスト・カーバイン、貴女を解放します。そもそも、法に縛られた拘束ではないでしょう?アナハイムとビスト財団から生まれた罪ならば、アナハイムとビスト財団は解体という形で罰は受けました。罰を受けたのなら許されなくてはいけない。それが法治国家というものらしいと学生の授業ですらやっている。」

 それだけを告げてマーサを帰そうとするとマーサは笑い出した。

 

「血塗られた組織が解体されたのに報復を受けないとでも?体のいい死刑通告じゃない。そんなものに騙されるほど生娘でもない。私を馬鹿にしないでほしいわ。それとも報復をしないとでも言うのかしら?」

 確かに宇宙世紀人なら報復はしかねないが‥‥。

 

「報復をするほどの価値が今の貴女に有りますか?それに、復讐や報復もまたマフティーに返る。マフティーが全ての罪と罰を受け入れてマフティーが共に大地に返せば問題ない。」

 適当にマフティー構文で受け流す。なんで宇宙世紀人や頭ビスト財団おばさんのためにこっちが苦労しなければならないんだ。それにマーサはこうする。

 

「そんなに心配ならマーサ・ビスト・カーバイン。貴女を国務大臣兼財務大臣にする。バハロ副首相兼国防大臣を見張ってくれ。ボディーガードはこれでつけられるな。」

 呆気にとられたマーサは再び笑い出した。

 

「悪人しか居ないじゃない。テロリストとテロリストの孫とポピュリストのアジテーターの内閣なんて。だったら、私から注文を付けるわ。この不道徳的な内閣に父親殺しの甥を入れていいかしら?それと息子を殺そうとしたローナンに、大統領になりそこねた元ティターンズ支持者のレイニー・ゴールドマンも良いんじゃないかしら。80間近のジーン・コリニー元提督もお呼びになったら?」

 マーサの提案は魅力的だ。俗物だらけ内閣を作れば民衆の支持率も下がるだろう。俺は俗物だらけ内閣を作り上げて、民衆支持率を落とし敗者になってやる。

 

 俗物だらけ内閣。宇宙世紀ではさぞ嫌われるに違いはない。メラニーも暇をしてるだろうから呼ぼうか。マーサの提案を受け入れては俺は意気揚々と決戦の準備を進めることにした。

 




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