やはり俺が『怪異症候群』に巻き込まれるのはまちがっている 作:クロスディア
第38話
「由比ヶ浜さん、それは違うわ。最低限の努力もしないで才能の有る無しを決める事ほど、愚かな事はないわ。」
「うっ…」
有無を言わせない程の迫力で、雪ノ下が由比ヶ浜にそう告げる。
その雰囲気に押され、顔には戸惑いと恐怖が浮かんでいる。
それを誤魔化す様に…
「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。……やっぱり、こういうの合ってないんだよ、きっと。」
それは悪手だ、由比ヶ浜。
雪ノ下は、そういう事を言う人間に甘くない。
「その周囲に合わせようとするのやめてくれるかしら。酷く不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」
彼女の声は嫌悪に満ちていた。
それでいて、真剣な眼差しで由比ヶ浜を見据えていた。
だから、俺は、俺達は何も言わない。
この答えは、由比ヶ浜自身が見つけるべき物なのだから。
「かっ…」
「か?」
「かっこいい!」
成る程、それが彼女の答えか。
「は?」
と、思わず雪ノ下は口に出してしまう。
姫野の奴も声にこそ出してはないが、信じられない物を見る目だ。
「建前とか全然言わないんだね。なんていうか、その…そういうのカッコいい!」
「えっ?その、話聞いてた?これでも結構キツい事を言った自覚はあるのよ?」
「確かに言葉は酷かったし、ぶっちゃけ軽く引いたけどさ。…でも、本音って感じがするの。ヒッキーや姫野ちゃんと話してる時もそう…ちゃんと話してるの。あたし、人に合わせてばっかりだったから、こういうの初めてでさ…」
おそらく、初めてだったのだろう。
建前でなく、本音をぶつけてくれる相手と出会うのは。
由比ヶ浜は真っ直ぐ、真剣な眼差しで雪ノ下を見詰める。
ああ、もう彼女は逃げないだろう。
「ごめん、次はちゃんとやる。」
その言葉に雪ノ下は固まってしまう。
全く、相変わらずアドリブが苦手なんだな…
「正しいやり方、教えてやれよ。味見なら、俺と姫野が幾らでも付き合うからさ。」
「はい、お任せ下さい!」
『ねぇ、我も!我も主人に頼まれたい!』
その言葉に雪ノ下は微笑む。
「ええ、任されたわ。由比ヶ浜さん、一度お手本を見せるから、その通りにやってみて。」
「う、うん!」
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その後は順調に進んだ。
勿論、由比ヶ浜が作ったクッキーは不味かった。
それでも、ちゃんとレシピを守って作った物だ。
最初に比べれば、天と地、魔王とスライムくらいに差がある。
唯…
「何か違う…」
「どう教えれば伝わるのかしら?」
「何がいけないんだろう?」
『我、暇。主人、構え。』
『鳳凰丸』は無視安定として、コイツらはどうやら解ってない様だな。
「由比ヶ浜、このクッキーは女子に渡す物か?それとも男子か?」
「えっ?そ、その…男子だけど……」
「そうか、ならこのままで良いんじゃね?」
「へ?な、何で!?」
と、驚く様な表情を見せる。
雪ノ下や姫野も黙っているが、同じ表情を見せている。
「いいか、由比ヶ浜。男ってのは基本的に、単純な生き物だ。一生懸命作ったアピールを見た瞬間、『俺の為に頑張ってくれたんだ…』って勘違いする悲しい生き物でもある。」
七望兄さんなんか耐性無さすぎて、義理チョコのチロル貰っただけで熱出した事あるし…
「要するに、上手くなくたっていい。お前の気持ちさえ伝われば、不味かろうと喜ぶんだよ。」
「ヒッキーも?」
「ああ、勿論。」
…昔の俺なら喜んだだろうさ。
今の俺は…ちょっと解らんけどな。
続く
たかがクッキー、されどクッキー。