やはり俺が『怪異症候群』に巻き込まれるのはまちがっている 作:クロスディア
幕間 その7 お礼と願い
その7
「ま、待って、ヒッキー!」
マッ缶が売ってある自動販売機に辿り着くと同時に、後ろから由比ヶ浜が呼び止めてくる。
何だ?ゆる百合タイムは終了したのか?
「あの、えっと、これ…どうぞ!」
と、歪んだハートの形をした禍々しいクッキーを渡してくる。
くっ、やはり俺のもあったか…
「昨日のお礼!ヒッキーも手伝ってくれたし!」
「味見しただけだが…礼というならありがたくもらっておくよ。」
そう言われると、受けとるしかなくなる。
全く、これだから女子は卑怯だ。
しかし、その後も由比ヶ浜はモジモジしている。
何だ?お花摘みにでも行きたいのか?
「それと…あの時のお礼!」
「はっ?あの時?」
あの時?
一体、何がなんだか…
しかも、物凄く泣きそうな顔で言うのやめてくれる?
変な罪悪感が沸いてくるから…
「去年の入学式の時、私のペット…サブレを助けてくれた事のお礼…です……」
「去年?ペット?ああ、あれか!」
すっかり忘れてた!
ぶっちゃけ、雪ノ下と会った事しか覚えてなかったし、合法的に休める休暇としか思ってなかったんだよなぁ…
骨が折れる程度なら、怪異の呪いや霊症と比べれば些細な事だし…
「そうか、お前のあの時の飼い主だったんだな。でも、雰囲気変わってないか?」
あの時の飼い主はチラッと見たが、黒髪だった気がするんだが…
「あの時は…その……染めてなかったし………」
「へぇ。あの時の犬は大丈夫だったか?」
「う、うん。ヒッキーのお陰で……」
それは良かった。
だが…
「なぁ、由比ヶ浜。」
「は、はい!」
「もう気にするな。笑え、その方がお前に似合ってるぞ。」
「えっ…」
と、俺は由比ヶ浜を落ち着かせる為に、今にも泣きそうになっている頭を撫でる。
その姿がどうしようもなく、小町達と被ってしまった…
全く、バカだなぁ俺…
「そ、そうかな?」
「ああ。さっき部室で晒してたアホみたいな笑顔とか、お前にぴったりだったぜ?」
「なっ!ヒッキーのバカぁ!」
「ちょっ、まっ!」
痛い、地味に痛いから胸を叩くのやめてくれ!
うん、でもその方がやっぱり良いわ。
「もう、先に部室戻るね!」
「ああ。戻る時、転けない様に気を付けろよ。」
「ヒッキー!」
うん、コイツをからかうの楽しいな。
「………………………………ありがと。」
「…どうたしまして。」
でも、礼を言うのは俺の方だ。
由比ヶ浜、どうかこのまま雪ノ下達と仲良くしてやってくれ。
いつか居なくなるかもしれない俺よりも、理不尽側に片足を突っ込んでしまって戻れない俺よりも…
眩しくて、輝かしいお前みたいな何も知らない奴がきっと…
…彼女達には必要だから。
続く
無知は罪かもしれないが、知りすぎると嵌まってしまう罠もある。時に無知こそが救いになるのだ。