ロン・ポン・チ―! ~クソ顧問に無一文で置き去りにされたけど、麻雀で帰ります~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
わたし達は2人一組になって、ばらけた。わたしはメンちゃんと組んで、まずは相手探し。
バレないように、なるべく東風戦――――麻雀における短期決戦を繰り返していきたいな。
そうして、巡ってみると……見つかった。
白いスーツと白いひげを蓄えた、初老の男性とその夫人の卓が、2席開いていた。
辺りを見回すメンちゃんの肩をつついて、視線でターゲットを示した。メンちゃんは首を縦に振ると、老夫婦の卓にずんずんと近づいていった。最初の手筈通りに、わたしはメンちゃんの後ろをおずおずと、気弱そうに付いていく。
「おや。これはまた随分と若い方が来なさった」
珍しそうに目を見開くけど、雰囲気が穏やかで上品なおじいさんだった。間違っても、負けて声を荒げるなんてことはないだろう。
「こんばんは。ご一緒してもよろしいでしょうか? ほら、愛理。挨拶して」
姉役のメンちゃんは、いかにもしっかり者の姉を演じる。わたしは気弱な妹役として、姉の背中からちらりと顔だけ出した。
「あらあら、可愛らしいこと。お菓子は如何かしら?」
するとわたしの仕草がおばあさんの何かに引っかかったのか、高級そうなバッグからスノーボールクッキーを差し出してくれた。う、受け取っても良いのかな?
メンちゃんの目配せを伺ってから、わたしはクッキーを受け取った。……サクサクおいひぃ。
おばあさんはクッキーを頬張るわたしを見て、すごく嬉しそうに微笑んでいた。
「ごめんなさい。妹は極度の人見知りで……私もお父様もほとほと困ってて」
頬に手を当てて、メンちゃんは呆れたようにため息をつく。
ノリノリだなぁ……メンちゃん。
おじいさんは穏やかに笑うと、不意に席を立った。なんだろうと思ったら、おじいさんはごく自然に座ろうとするメンちゃんの椅子を引いてくれた。わぁっ、すごい映画みたい!
そんな風にびっくりしてたら、おじいさんは次にわたしの椅子も引いてくれていた。
「あ、ありがと……ございます」
おじいさんは穏やかに笑いかけてくれた……紳士だなぁ。
おじいさんは自分の席に着くと、
「レートはどうしますかな」
「デカピンの東風戦でもよろしいですか?」
「ほぅ……中々強気なお嬢さんだ」
「そうなのですか? すみません。私達、ここには旅行で初めて来たもので……」
メンちゃん、よくそんなペラペラ台詞出てくるね⁉
驚くわたしを、メンちゃんは不意に手で指し示して、
「私は祖父と打ち合ったけれど、妹はこの春からやっとルールを理解した程度でして」
「す、すみません。家族以外の人と打つの初めてで……イライラさせちゃかも」
「気になさらないで。わたくしも牌を捨てるのが遅くて、イライラさせちゃうから」
わたしがおばあさんと微笑み合っていたら、おじいさんはメンちゃんの条件を承諾した。
3人が牌を混ぜ始めた。――――うぅ……できるかなぁ?
今からやることは、同好会のみんなや沼田先生にいくら教えられてもできなかったこと。
でも、みんなと高級ディナーに行くためには……っ!
すぅっ、とプールに飛び込むみたいに息を吸う。不安に苛まれる胸の中に空気を取り込んで、わたしはワンテンポ遅れて
削る、尖らす、鋭く、集中……集中・集中・集中!
指の先まで研ぎ澄まして、わたしは136枚の牌を感じて、触って、捉えていく。
感覚を鋭く尖らせ、目と手以外の五感を閉じて削っていく。この削っていく感覚が苦手でいつも―――――――あれ?
とぷん、と。
牌に触れようとした指先が、牌に潜り込んだ。
瞬間、心が静謐に満ちる。指先から流れ込む不思議な感覚はなんだか……さっき飛び込んだプールの感覚に似ていて。
潜って、もぐって、集中ったところで――――ゴボッ‼ って口から息が飛び出てきた。
「はっ」
気づくと、既にわたしの前には山牌が積まれていて、親を除く3人の子の手元に13枚の手牌が配られていた。……だれも、気づいてない?
「……どうかしました?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「それでは」と、わたしを心配してくれたおじいさんが開局を告げる。
親のおじいさんは14枚の牌から、要らない牌を1枚選んで河(卓の真ん中)に捨てた。順番は反時計回りだから、わたしは3番目だ。
2番手の夫人が山から牌を取って、手牌を吟味してから、捨て牌を選んだ。その手つきから判断して、本当に麻雀をゲームとして楽しんでる人だと分かった。
――――いいの、かな。
ちくっと静電気みたいに走った躊躇が、山牌に伸ばしかけた指先に流れた。
一瞬ビクッて止まっちゃったけど……わたしは山から1枚の牌を取って、手牌に加える。そして気取られないように、目を見開いて驚いてみせた。
「……え? あれ、これって……ええと」
戸惑う様子をしてみせると、おじいさんは首を傾げ、おばあさんが「どうしたの」と心配そうに窺う。
「ええっと、その……ツモ、です」
自信なさげに『あがり』だと宣言して、わたしはパタパタと14枚の手牌を倒す。
始まってすぐに4面子雀頭が完成している役……本来なら33万分の1の確率でしか来ない役『
「うっそ、すごいじゃん愛理。とんでもないビギナーズラックだね!」
メンちゃん、その台詞ちょっと白々しいよ!
少しハラハラしたけれど、わたしはメンちゃんの協力もあって、麻雀同好会に入った時に沼田先生が見せてくれたイカサマ――――『積み込み』を無事に成功させた。
「えっと、役満は13翻だから……32000点貰いますね」
レートはデカピンだから、1千点につき1千円。
つまり、わたしはたった今、3万と2千円を手に入れたのだった。
――やった……やった! やった!
わたしは達成感に緩みそうな頬にキュッと力を入れる。メンちゃんに手伝ってもらったとはいえ、『積み込み』がこんなきれいに決まったのは初め
「――――あなた」
ガシッと、横合いから手が伸びた。
「え……」と声が漏れて、見たらおばあさんがわたしの手を取っていた。
「あ……あの」
さぁっと血の気が引いていく。
どうしよう……どうしようどうしよう⁉ どうしようと思えば思うほど、目がぱちぱちと瞬きを繰り返して…………
「すごいじゃなーーーい!
「……へ?」と、わたしは目を丸くする。
おばあさんはわたしの手を取ってブンブンと振って、「ひゃー」と喜んでくれていた。おじいさんも嬉しそうにうんうんと頷いている。
「幸先が良いですな、お嬢さん方。
きっと今回の旅行は素晴らしい思い出になるでしょうな」
「えぇ、それはもう」と、メンちゃんは笑顔でおじいさんに返事をする。
わたしは……さっき指先に走った躊躇が、胸の中でチクチクと痛みを訴えていた。
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