ロン・ポン・チ―! ~クソ顧問に無一文で置き去りにされたけど、麻雀で帰ります~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第11局 帰るまでが合宿旅行だ☆ぞ

「ったく、ぐーすか寝やがって、こいつら」

「あはは……皆は日が昇るまで話し込んでましたから」

 

 合宿最終日、帰りの車に揺られて、3人は後部座席で気持ちよさそうに寝ていた。

 運転席の沼田先生は呆れた視線を後ろに送る。助手席に座るわたしは、そんな先生の様子を見て、少し申し訳ない気持ちになった。

 

 チェックアウト前に最後のプールに入ったせいか、車内はプールの匂いが充満してた。

「わたし、この匂いちょっと好きなんですよ」

「あー、わかる。なんつーか青春って感じするよ。俺には縁遠いものだわ」

 

 教師なんだから、むしろ身近なのでは? 

 って思ったけど、なんとなくお口にチャックをしておいた。

 車の窓が開いて、空気が入れ替わる。塩素の匂いが薄れていって、少し熱気が混じった風が入り込んでくる。

 

 ふと、スンスンと鼻を鳴らす。

 熱気だけじゃなく、濃厚な緑の匂いも混じっていた。

 見渡す限りの稲畑だった。

 

 ウルティ・グランズ・サウスリゾートは検索しても出てこなかったことから察するに、一部のVIPが利用してる隠れリゾートだ。だから人里からかなり離れたところにあるし、畑にもさっきから人の気配がいない。

 

「しっかり楽しみ尽くしたみたいだなぁ。まさか本条が麻雀で稼ぐとは。しかも初積み込み」

「自分でもちょっとビックリしてます。あれだけ先生に部活で教えてもらったのにできなくて……なのに」

「なんでできたんだろうって?」

 

 先生の声が不思議と響いて聞こえてきた。その不思議な響きに驚いて、わたしは車窓から運転席の方へ振り返る。沼田先生の表情はにこやかだ。口元が緩んでいて笑っているのが分かる。でも、なんだろう…………こわい。

 

「そりゃ簡単なことさ。君の中に【欲】が生まれたから。人が最も力を発揮するのは、【欲】を抱いた時だからね。部活で成功しなかったのは、単に君が現状に満たされ、満足してたからさ」

 

 ――――満ち足りた奴に、【欲】が生まれるかよ。

 小さく。ほんとうに小さく、先生はそう呟いた。

 

 車の窓から入る風の音で消えそうなくらい小さな声は、わたしの心に信じられないほど重く、圧し掛かった。

 

「え、と……え、先生?」

「はーい、じゃあここで本条にサプライズクーイズ。人が最も欲深になる時、つまり人がイカサマをする時ってどんな時でしょぉーか?」

「どうしたんですか? なんで急にそんな……」

「はい。ごぉー、よぉーん、さーん」

 

 おふざけの、陽気な声で先生はカウントダウンを始める。でもわたしはちっとも盛り上がれなかった。

 ただ……ただ、サングラスの向こうにある目が見えなくて、分からなくて、こわい。

 

「にぃー、いーち」

 

 カウントが終わる間際、わたしは「あっ」と気づいた。――人って目を見ないと、どんな顔してるのかも分からなくなるんだ、って。

 ニヤニヤした口元のまま、先生の手が、わたしの顔に影を落とした。

 

「はい、解答無し。じゃ、これは本条の宿題だな」

「…………へ」

 

 涙がにじむほどきつく閉じた目をおそるおそる開くと、先生はわたしの濡れた髪をくしゃくしゃに撫でていた。ぽかんと口を開いていたら、先生はくっくっくっと喉を鳴らしながら、サングラスを少しだけ押し上げた。

 

 その目は、生徒に何かを教えようとする教師の目。

 わたしの見知った目だった。

 

「こんなんでビビってんじゃないよぉ、まったくさ。そんな罪悪感感じてるんなら、最初からイカサマするなー非行少女」

「なっ、なんですか⁉ なんなんですか、もうっ!」

 

 いやっ! 髪崩れちゃう! やだぁー! 

 わしゃわしゃと犬みたいに撫でてくる先生の手を剥がそうとしたけど、びくともしない! 

 

「まっ、気にすんな。人間誰だって悪さの一つや二つやっちまってるさ。まぁーだからこそ、不運ってのは、人間にしか降りかからないんだけどな」

「もう何の話ですか⁉ わたし、分かんないですよぉ!」

「楽しい旅行から帰る時にしておく心掛けってやつさ。不運は甘んじて受けるべし、されど向き合えってね。その方が気楽だろぉ。『なんで私だけこんな目に~』とか思うよりさ」

 

 先生の手のひらの感触が消える。

 わたしは「むー」と唸りながら、窓とにらめっこして、指で髪を梳く。窓に映りこむ先生の顔は、サングラスを掛けていても分かった。

 

 だって、わたし達と麻雀を打ってる時に散々見かける表情だから。

 

           ****************

 

 まだまだ稲畑の風景が変わっていない時、それは起きた。

 ブシュゥゥゥと、空気が噴き出す音と共に、減速していく車。

「マジかよ」と後方を見やる先生の様子から、わたしはタイヤがパンクした音だと遅れて気づいた。

 

「スペア持ってきて良かったな……本条。悪いが皆を起こして降りてくれねーか。その間に交換するからよ」

「はっ、はい!」

 

 わたしは助手席から降りて、3人を揺さぶって起こす。

 皆、まだ寝ぼけ眼で覚束ない足取りだった。わたしは羊飼いのような気分で、車から離れた所に皆を誘導した。

 

「パンク~~~?」

 メンちゃんが不満げに目を擦り、

 

「まぁ仕方ないねー」

 プラちゃんは諦観と共に背伸びをし、

 

「……でも、タぃヤは、(とぅぶ)れてらいわよ?」

 ナルちゃんは眠気で口が回っていなかった。

 

「あっはは、ナルちゃんったら。あの音は空気が抜けたお」

 ――――ブロロロロ……と、エンジンの息吹が遠のいていく。

 

 ぺちゃんこになったと思い込んでいたタイヤはあぜ道をよく転がり、運転席の窓から先生が手をひらひらと振っていた。

 

 

「「「「 …………え? 」」」」

 

 

 意図せず、わたし達は同じ想いと呟きを四重奏していた(重ねていた)

 

「ちょっ、えっ、なん、まっ! 待って沼先(ぬません)⁉ 沼先⁉」

「笑えない、これは笑えないわよ⁉」

「止まれ沼田ぁぁぁぁあああああ‼‼」

 

 メンちゃんとプラちゃんが追いかけるけど、車は少しもスピードを緩めず、彼方へ走り去る。

 呆然とするわたしの肩を、ナルちゃんがガッと掴む。

 

「スマホは⁉ なにをトチ狂ったのか聞きだしてやる!」

「……昨日の夜、みんな自分のカバンに入れてたよ」

 

 震える指先を持ち上げて、わたしは皆のカバンの行方を指し示す。……走り去った車と同じ方角を。ナルちゃんが愕然と目を見開く。

 

「ラブっち、ナルっち! これ見て!」

 

 走り戻ってくるメンちゃん、その手には一枚のルーズリーフが握られていた。重石と一緒に道端に置かれていたらしい。

 四角く折りたたまれたルーズリーフを開き、4人で覗き込む。

 

『行きは肩代わりしてやったんだ!

    帰りは自分達でなんとかしろーぃ。

       PS.家に帰るまでが合宿旅行だ・ぜ☆』

 

 投げやりに、清々したように、または面白がってるように、書き殴られた文字。

 顔を上げると、三者三様の、引きつった表情が目に入った。

 

「――ざっっっっけんじゃねぇぇえぇぇえぇぇえぇ‼」

「沼田和義ぃ‼ 帰ったらただじゃ済ませないわよ、ぜったい‼」

「意味分かんない! マジで意味わっっかんない‼」

 

 プラちゃんが咆え、ナルちゃんが拳を固く握りしめ、メンちゃんがルーズリーフを破く。

 

 でもわたしは、直前まで沼田先生と話していたわたしだけは、先生との車の中での会話を思い返していた。

 

「不運は……甘んじて、受けるべし……されど向き合え……」

 

 先生の言っていたことを繰り返し、呟いて、思う。

 ――――いや先生、これを不運って言うのは、ちょっと無理矢理過ぎませんか?

 

 なにはともあれ、高校2年の夏休み。

 わたし達4人は、先生に置き去りにされました。

 




更新はここまでです。
現在、「たいあっぷ」にてコンテスト挑戦中です。
▼良かったら見てください(この続きは5章から)
http://tieupnovels.com/tieups/1012

▼PVも作りました
https://youtu.be/aNO8V3r4C48
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