ロン・ポン・チ―! ~クソ顧問に無一文で置き去りにされたけど、麻雀で帰ります~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
「それじゃあ、入部希望の二人には、軽い自己紹介と動機を話してもらおうかな」
部屋の真ん中にある麻雀卓に頬杖をつきながら、沼田先生は微笑を浮かべた。
後ろの窓から差し込む陽の光が、先生の輪郭とサングラスを照らし出す。子どもっぽいのにどこかニヒルな微笑みに、わたしはドキリとした。
そんなわたしのときめきなんてどこ吹く風と、メンちゃんは手を挙げて応えた。
「はーい、じゃあうちから! メンちゃんこと国枝京子でぇす。入会動機はー、ここの合宿旅行が豪華って聞いたから!」
「ちょっ、メンちゃん⁉」
そんな明け透けに言って良いの⁉
思わずギョッと目を剥いたけど、わたしの予想に反して、沼田先生は寧ろ天井を仰いで笑い始めた。
「正直な奴だなー。だったら、大方俺に勝った奴らが美味しい思いしたことも知ってるな?」
「モチのロン。ちなみにこの子は高級エステ受けたくて来たんだよー」
「メンちゃぁぁああああん!」
わたしはメンちゃんの肩を掴んで、思い切り揺さぶった。
「なんでばらすの⁉ なんでわたしの動機をあなたが言うの⁉」
「最近お肉ついてきて焦ってるラブちゃんこと本条愛理ちゃんです。痩せて綺麗になりたいんだよね、わかるわかる。健気だねー可愛いねー」
問答無用でメンちゃんの口を塞ぐ。
そしてすぐに沼田先生に向き直る。
とにかく違うって伝えなきゃって思って口を開いたけど、ワンテンポ早く沼田先生の言葉がわたしの耳に届いた。
「えー、なんで? じゅうぶん綺麗じゃん。エステ受ける必要ないでしょ?」
鶏が卵を生んだみたいに、ポンっと飛び出た自然な言葉。
本当に今のままでも綺麗って思ってて、本当になんでエステを受けたいのか全く分かってない声だった。
そんな純度100%の疑問を沼田先生が言ってくれたことが嬉しくて、息が詰まった。もう飛び上がっちゃいたい気分を抑えようと、クッと力を入れて顔を伏せる。
「り、がと……ございます」
うつむきながら、嬉しさが詰まった喉から何とか感謝の言葉を紡いだ。沼田先生は「どういたしまして?」と、さらりと受け取った。
そしたら赤くて顔を上げられないのを良いことに、メンちゃんとプラちゃんが両側からよしよしと頭を撫でてきた。
なに⁉ なんなのもうっ!
二人に対して、やつ当たりに近い怒りをめらめら燃やす。
すると沼田先生はわたし達二人を見ながら、プラちゃんを指さした。
「初古はこの麻雀同好会の最初の部員だ。二人とも分からないことがあったら、そいつに聞け」
「任せんしゃい! 二人とも、あたしのことは尊敬を込めて先輩と呼んでも」
「「 お断りします 」」
「息ピッタリで拒否らなくて良くない⁉ あたし泣いちゃうよ⁉」
ショックを受けるプラちゃんを無視して、わたしはメンちゃんと軽めのハイタッチをした。阿吽の呼吸ってやつだね!
そしたら沼田先生が首を縦に振って、わたし達に親指を立てる。
「正解だ、二人とも。そいつは所属歴長いだけで、あくまで同輩だからな。雑に扱え」
「沼先、ひどくない⁉」
沼田先生から散々な扱いを受けるプラちゃんに、わたし達二人は思わず笑ってしまう。場が和やかになったタイミングで、沼田先生はパンと小気味よく手を叩いた。
「さて、せっかく居合わせたんだ。この流れで挑戦希望の一人にも自己紹介と挑戦の同期でも言ってもらおうか。――なぁ、成瀬?」
そうして沼田先生は、今の今まで一言も発していなかった彼女を……親し気に、しかも下の名前で呼び捨てた。
すると、ずっと左端で黙りこくっていたナルさんが、キッと凛々しい眼光をサングラスに突き刺した。
「名を呼ぶ時は『さん』を付けなさい、沼田和義! それが教師と生徒のあるべき姿よ!」
「やだね、敬称で呼ばれたきゃ、俺を一度でも負かしてから言うんだな」
からかい混じりの口調で肩をすくめる沼田先生に、ナルさんは「くぅっ」と歯噛みしていた。わたしはその光景にホントにびっくりした。
だってわたしがいつも見かけるナルさんの姿は、先生を始めとした大人達からいつも『さん』付けで呼ばれ、敬われている姿だったから。
はぁ~っと憤慨で熱くなった息を吐いて、ナルさんは渋々と、わたし達の方へ向き直った。
「成瀬実莉。生徒からは『ナルさん』とも『ナルちゃん』とも呼ばれています。好きな方で呼びなさい。挑戦の動機は……こ、この男に……麻雀で……負かされているからよっ!」
顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせるナルさんに、わたしは目を瞬かせた。
信じられない。ナルさんが麻雀をやっていたことにも驚きだけど――――沼田先生の麻雀の腕は、あのナルさんをここまで負かす程なの?
でも、どうして麻雀にそこまで……。
そう思っていたら不意に――――ナルさんの視線がぶつかった。
「……なに?」
「えっ、いや」
体に1本の線が通っているような、凛とした雰囲気が鋭い眼光となって、わたしに突きつけられる。刃物の切っ先を目の前にしたみたいで、思わずたじろいでしまう。
「優等生は麻雀やっちゃいけない?」
「ちがっ、そんなこと思ってないよ。ただちょっと意外だっただけで……」
なんだか誤解させちゃったみたいで。だから両手を振って、そういう意味で見ていた訳じゃないことを伝えようとしたら。
「てゆーかさぁ」
後ろからメンちゃんが挑発的な目で、ナルさんを見据えた。
「自分で優等生って言っちゃうって、どんだけ自意識過剰なんだっつーの。それにラブっちは別に麻雀やるな、なんて言ってないじゃん。ただイメージ違うねってだけで。なのに何突っかかってんの?」
チクチクと棘の生えた言葉に、わたしは血の気が引く思いだった。
どうしよう、メンちゃん完全に喧嘩腰だ。こうなったメンちゃんは相手が「ごめん」て言うまで、止めない。今までの彼氏達がそうだったから、分かるのだ。
どうしようどうしよう、なんとかメンちゃんを落ち着かせなきゃ。そうしてオロオロしてる間に、ナルさんは首を傾げる。
「何を言ってるの?」
そしてキッパリと、当然のように言い切った。
「 私が優等生じゃなかったら、一体どんな生徒が優等生なのよ? 」
純度100%の疑問が、再び飛び出てきた。
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