ロン・ポン・チ―! ~クソ顧問に無一文で置き去りにされたけど、麻雀で帰ります~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第4局 天和って簡単ですね

 ナルさんは人差し指を1本立てて、「そもそも」と前置きする。

 

「優等生とは優れた生徒という意味。では、『優れている』とは一般的にどういう意味か? それは『勝ち続けている』という意味よ。入学以降、全国模試では一位を勝ち取り続け、どんなスポーツでも挑戦すれば優勝し続けた。そう、勝つことでしか優秀さは証明できないのよ」

 

「……はぁ」

 メンちゃんはぽかんと口を開けていた。明らかに毒気を抜かれていた。

 

「なのにっ」

 

 すると今度はナルさんの方がギリッと歯を噛み締め、わなわなと肩を震わせた。そしてここまでずっと暇そうに麻雀牌を弄っていた沼田先生を指さした。

 

「私は麻雀で沼田和義に負けた! 麻雀において、彼の方が私より優秀だと証明されてしまったのよ⁉ こんなおかしなことってある⁉ よりにもよって、小さい頃から祖父と打ってきた麻雀で‼」

 

 気付けば瞳に閉じ込められていた氷のような闘志が燃えて、炎のような灼熱を帯びていた。そのままナルさんは毅然とした態度で、改めて沼田先生に宣言する。

 

「だから私は、私を好きでいるために! あなたを麻雀で負かす‼」

「はっはっはっ、勇ましいねぇ~。やれんならやってみなー優・等・生?」

 

 こうして沼田先生の大人げない煽りで、ナルさん劇場は閉幕した。

 わたしの後ろで、プラちゃんとメンちゃんがひそひそ語り合っているのが聞こえる。

 

「成瀬のあだ名が『ナルちゃん』なのって……」

「うん、ナルシストからとって『ナルちゃん』だね」

 

 あだ名不遇コンビが苦笑してる。

 でもわたしは。

 

「すごいなぁ……っ!」

 

 素直に尊敬した。

 ――自分を好きでいるために。

 なんて眩しい言葉だろう。

 

 自分に自信なんて無いし、自慢できる取り柄も熱中できる趣味も無いわたしとは、あまりに遠すぎて、何より輝いて見えた。

 

「? どうも」

 

 ナルさんは少し困惑気味に、首を傾げた。まるでわたしがそう言うのが当たり前すぎて、なんでわざわざそんなこと言ったんだろうって考えてるみたいだった。

 

 わたしはナルさんの手を取って、ギュッと包み込む。

 

「やっぱりナルさんはすごいよ! わたし応援する! 初心者だけど、わたしも頑張って麻雀覚えるね!」

 

 すると、変なことが起こった。

 ナルさんの髪がブワッと膨らんで、豆鉄砲を喰らったみたいに目を真ん丸くしたのだ。そしてわたしの手を振り払うなり、回れ右をしてわたしに背を向ける。

 

 えっと、どうしようわたし何かしちゃった? わたしはおそるおそるナルさんの顔を覗き込んでみる。

 

「あの、ナルさん?」

「――あなた名前は?」

 

 そっぽを向かれたまま、名前を聞かれる。

 あれ? さっき自己紹介した(正確にはされた)のに……聞いてなかったのかな。

 おっちょこちょいなとこもあるんだなぁって思って、クスっと笑ってしまう。

 

「本条愛理です。あだ名はラブちゃん……です」

 

 ……3組の皆に呼ばれるから麻痺してたけど、わたしのあだ名も中々ひどいなぁ。

「そう」と呟いてから、ナルさんはこっちを向いた。セミロングの髪を、指にクルクル巻き付けながら、

 

「精々、頑張りなさい」

 

 と言った。

 

 頬が少しだけ赤くなってたのが気になるけど、わたしは「うん」と力強く頷いてみせた。なんというか、今のわたしはかつてない程にやる気が出ていた。

 

「――――いやいやいや。精々頑張れじゃないよ、成瀬」

 

 落ち着いてきたナルさんの情緒が、沼田先生の言葉で、またメラメラ燃え始めた! 目の前で放たれる気炎に、わたしはまたアワアワする。

 

「どういう意味かしら、沼田和義」

「どうも何も、いつもの挑戦さ。俺が勝ったら、成瀬。お前も同好会に入れ。そんで本条に麻雀教えてやってくれよ」

 

 沼田先生はおもむろに麻雀卓にレゴブロックみたいなもの――――牌をたくさんばらまいた。

 わー色んな柄がある。

 ぽやーってそう思っていたら、先生がわたしとメンちゃんを手招きする。

 

「牌の種類と簡単なルールは今、俺が教えてやる。二人は隣で見てろ」

「あ、うちはパス。ネット麻雀でルールは分かってるから。ほら行ってきなラブッチ」

「う、うん」とメンちゃんに促されて、わたしは沼田先生の隣に行かせてもらう。

 

 ウインクで送り出してくれたメンちゃんのすぐ近くで、ジト目のナルさんが麻雀卓の対面に座った。そしてナルさんは沼田先生の隣に居るわたしに微笑みかける。

 

「安心して、ラブさん。私が勝ったとしても、たまには同好会に顔を出して、麻雀のことを教えてあげるわ。気が向いたらだけれど」

「……どんだけ上から物言ってんのよ」

 

 メンちゃんの呟きにナルさんがギラッと目を光らせる。

 もーまた衝突してるよあの二人! 

 対面からどう声を掛けたら良いか迷っていたら、沼田先生がスパッと口を開いた。

 

「よし、じゃあ国枝と初古は人数合わせで入ってくれ。適当に打ってろ」

「りょうかいしょうちのすけ!」

「まっ、ただ見てるのもつまんないもんねー」

 

 元気よくプラちゃんが左手に、気だるげにメンちゃんが右手に座る。

 プレイヤーが揃ったところで、皆はサイコロを振り始めた。どうやら『親』と『子』を決めてるらしく、サイコロの結果で先生が『親』……つまり一番手になった。

 

「それじゃあ洗牌(シーパイ)していくぞー。要はシャッフルだ。ここまで分かるか、本条?」

「だ、だいじょうぶです!」

 

 先生は麻雀を始める手順を一つ進める毎に、わたしに理解したか確認してくれる。

 なんだか自分だけ名指しで呼ばれると……緊張するぅ~~! わたしはみんなの迷惑にならないよう、集中して麻雀の進行を覚えようとした。

 

 四方向から手が伸びて、真ん中の牌の山をジャラジャラかき混ぜていく。これを『洗牌』って言うんだね、なんだか小豆を洗う音に似てる気がし…………あれ?

 

 違和感に目を細める。先生の手から鳴る音が少しだけ変な気がした。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

「――――分かるのか、本条?」

「へっ、あっ、だ、だいじょうぶです!」

 

 慌てて先生に返事をしたら、一瞬だけサングラスの奥の目が丸まった気がした。なんだかやり取りがすれ違った気がするけど……沼田先生はすぐに雀卓に向き直った。

 

 洗牌(シャッフル)が終われば、次は各々の手札を作る番らしい。

 みんなそれぞれ自分の前に17枚の牌×2段の『山牌』というのを作った。プラちゃんもナルさんもメンちゃんもテキパキ手際よく積んでいく。

 

 この時点で出来る気がしない……すごいなぁ、みんな。

 でも一番早かったのは先生だった。何もない平野に高速でビルを建てていくような、そんな早送りの映像を見た感覚だった。

 

「よーし、じゃあ、配牌していくぞー。これで自分の手札もとい手牌が決まる」

 

 17枚の牌×2段で構築された4つの山牌の内、1つを崩してメンちゃん達にそれぞれ13枚ずつ牌を配った。そして親の先生は14枚の牌を自分の前に揃える。

 

「で、麻雀に『役』があることは分かるか? ポーカーで云えばワンペアとかストレートみたいなものだな」

「そ、それは知ってますよ。国士無双? ていう役が一番すごいんですよね?」

「ほぉう国士無双! お目が高いねぇ。ちなみに、ポーカーで『役』を作るのに必要な枚数は5枚だが……麻雀では14枚必要だ」

 

 わたしはピンッと頭の上に電球が点いた。

『親』の先生はともかく、『子』の三人はその14枚目を求めて、山牌から牌を取って、要らない牌は捨てるんだ。

 

 ポーカーみたいに。

 そこでまたピンッと閃く。

 

 先生の前に伏せられた14枚の手牌を指さして、

「じゃあ、もしこの時点で役が完成してたら、『親』の先生はすぐ和了(あがれ)れますか?」

「――うん、可能だね」

 

 ? また先生が目を丸めた気がする? 

 気のせいかなってそう思っていたら、プラちゃん・ナルさん・メンちゃんが三者三様に「むり無理ムリ」と手を横に振った。

 

「いいですか、ラブさん。どんな安手の役でも、配牌時に完成していれば、それは『天和(テンホー)』という役になりますわ。それこそ点数は国士無双と同等。だけれど……」

「考えてみなよ、ラブっち。全部で136枚の牌から、ぴったり役になる14枚の牌を引き当てるんだよ? そんなん無理ゲーっしょ」

「てか、それだとあたし達なんもさせてもらえないじゃん。冗談キツイぜ、ラブちゃ~~ん」

 

 三人に言われて、わたしはカァッて顔が熱くなる。

 思い付きでなんて馬鹿なこと言っちゃったんだろう……っ! そうだよね⁉ たしかにそんなこと出来たら、ポーカーでも何でも勝てるもんね⁉ ありえないよね⁉

 

「……はっはっはぁ、まぁ三人の言う通りだな。ありえないな――――普通なら」

 

 そういって沼田先生は手牌の両端をつまんで、伏せられた14枚の手牌を起こした。

 今度は牌の種類について教えてくれるらしかった。

 

「まず牌には、数字が書かれた『数牌』と字が書かれた『字牌』がある」

 

 先生は自分の14枚の手牌を二つに分けた。数字が書かれた6枚の牌と、字が書かれた8枚の牌だ。先生は右手の数牌を指さして、順番にわたしに説明してくれた。

 

「そんで数牌と字牌にも種類がある。まず数牌」

 

 漢字の数字が書かれた牌を、萬子(マンズ)

 〇の数で数字を示してる牌を、筒子(ピンズ)

 棒線の数で数字を示してる牌を、索子(ソーズ)

 

「トランプと違って、麻雀牌の数字は1から9までだ。何か質問は?」

 

 たしかに先生の数牌を見たら、萬子も筒子も索子も……それぞれ1と9で2枚揃っていた。

 他の質問かぁ。わたしは数牌の絵柄を見て、首を傾げて尋ねた。

 

「どうして索子の1は鶴の絵なんですか?」

「「「「 ……さぁ? 」」」」

 

 四人とも肩をすくめた。あんまり意味は無いのかも。

 

「次に字牌。こいつは2種類ある。風牌と三元牌だ」

 

 今度は左手の字牌を指さして、順番にわたしに説明してくれた。

 

『東』『西』『南』『北』と書かれた4枚の牌は、『風牌』って言うみたい。

次に真っ白な牌の『ハク』・發と書かれた『ハツ』・中と書かれた『チュン』をまとめて『三元牌』って言うらしい。

 

 それにしても……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思っていたら、対面のナルさんが雀卓を指でトントンとつついた。

 

「牌種の解説は終わりましたか? それでは早く牌を捨てなさい。『親』のあなたが捨てないと開局にならないのよ」

「せっかちだなぁ、成瀬は。何をそんな苛立ってんだよぉ?」

 

 するとナルさんはキッと沼田先生を睨みつけて、怒りのこもった声を発した。

 

「苛立ちもするでしょう。いくらラブさんに説明するためとはいえ……自分の手牌を明かして勝てるとでも思っているの?」

「え? 思ってるよ? だって、俺もう――――和了れるもぉん」

 

 ヘラリと嗤って、沼田先生は自分の手牌をパタンと倒した。

 他の三人に見えるように。

 

 手牌はわたしに指さしで教えてくれた通り、萬子の1と9・筒子の1と9・索子の1と9・東南西北(トンナンシャーペイ)白發中(ハクハツチュン)が揃っていて、最後に真っ白な『白』が1枚並べられていた。

 

「ロン。9万6千点。天和+国士無双」

 

 先生が役と点数を宣言する。

 ナルさんも、プラちゃんも、メンちゃんもみんな目を見開いていることしかできていない。そんな驚愕に包まれてる中、わたしだけが……いまいちその凄さを実感できなかった。

 

「あれ? 天和出ちゃってる?」

 

 わたしはぱちぱちと瞬きをした。

 メンちゃん達があれだけ無理だと言ってた天和が出た。

 

 ということは……意外と出るものなのかな? だったら麻雀って。

「そんなに難しくない?」

 

 すると沼田先生が急に私の方へ振り返って、キラッと並びの良い歯を煌めかせた。

 

「な? 思ったほど難しくないだろ?」

「はい! これならわたしでも頑張ればできそうです!」

 




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