ロン・ポン・チ―! ~クソ顧問に無一文で置き去りにされたけど、麻雀で帰ります~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第7局 豪遊! とろとろエステ!

 昼ご飯(バイキング)の後、ナルちゃんを除く3人でエステに行った結果。

 

「はふぅ……」

 待合室の一人掛けのソファで、わたしは蕩けていた。

 

 肩が軽い、じゃ収まらない。

 体全部が羽みたいに軽くて、なんだか頭の中までふわふわしている。

 指で押されたところは未だにジンジンとした痛みがある。けど、まるでエステシャンの人の体温が楔として刺さって、わたしの体の奥をじんわり暖めているみたいだった。

 

 それに加えて血流とリンパも刺激してくれて、血が淀みなく流れているのが分かる。更に体をだるくさせていたものも綺麗に流されて…………

 

「あっ……ほんとに細くなってる」

 

 一番気にしていた太ももを触って確かめたら、確かにエステを受ける前より、シュッとしている感じだった。

 むくみが取れたというか、全体的に肌がしっとりした気がする。

 オイルを垂らされた時はヒヤッとしたけど、これだけ効果があれば大満足だった。

 

「はぁ~うごきたくなーい」

 

 ソファの背にもたれかかって、わたしはすっかり骨抜きにされていた。

 買っておいたミネラルウォーターを飲んでいたら、メンちゃんとプラちゃんがエステ室から出てきた。

 

「おかえり~! ねぇ、エステってすごいね! わたしもう気持ち良すぎ……て?」

 

 感動を分かち合おうと近寄ったら、2人の様子が何だかおかしかった。特にメンちゃんは両手で顔を覆って、嘆いている。

 

「もうむり。最悪。合宿終わるまで通おうとしてたのに……」

「え、え? どうしたの? なにがあったの?」

「なにがあったか聞きたいのは、うちの方だよ!」

 

 メンちゃんが珍しく顔を真っ赤にして叫んだ。わたしは目を白黒させながら、苦笑を浮かべているプラちゃんに答えを求めた。

 すると、あのプラちゃんが気まずそうに且つ忠告するように告げる。

 

「ラブちゃん。気持ち良かったのは分かるけど……喘ぐのはやめときな?」

 

 さっきまで蕩けていた体が、「喘ぐ」の2文字によって石化する。

 た、確かに声が出てた自覚はあるけど。かたかたと震えながら、ギギギと首を回して、メンちゃんに確認する。

 

「そ、そんな、ヘンな声」

「出てた。むっちゃ出てた。隣まで聞こえた」

 

 それでエステシャンの人とすごく気まずくなり、リラックスできなかったらしい。

 こうしてしばらくの間、わたしは真っ赤になった顔を手で覆って、待合室の床を転がり続けた。

 

           *************

 

「私達も最上階のレストランに行きましょう!」

 

 部屋に戻るなり、ナルちゃんはわたし達3人を指さして、めらめらと固い決意を宣言する。

 

「あんたまだ食べる気なの⁉」

 メンちゃんは「信じられない」と書かれた顔で、嫉妬と羨望入り混じった声で叫ぶ。

 

 いや違うメンちゃん。そうじゃない。

 

 わたしはホールの入り口で抱いた嫌な予感が現実となったことに、頭を抱えた。

 ナルちゃんはこの3か月で随分穏やかになってくれたけど……沼田先生が絡むといつも燃え上がるんだよなぁ。

 

「確認したのだけれど、ドレスならエントランスで無料レンタルをしてるらしいわ!」

「マジぃ⁉ じゃ行こうぜー。グルメ王にあたしはなる!」と、ガッツポーズするプラちゃん。

「差し当たる問題は金銭面だけれど……私達にはとっておきの方法があるじゃない」

 

 ナルちゃんは自信満々と言った様子だけれど、わたしには何のことかさっぱりだった。残りの2人も同じようで、ナルちゃんの言葉の続きを待っている。

 

「これよ!」

 

 ナルちゃんはホテルのパンフレットを取り出すと、そこに載ってる館内図の一部を指さした。

 

『麻雀ルーム』と書かれたところを。

 ここまでくれば、ナルちゃんが言いたいことはだいたい分かった。だからこそわたしは目を丸くして、確認せずにいられなかった。

 

「お金賭けるの⁉」

「そうよ。でなかったら、稼げないじゃない」

「わっかんないなー。プラっちはともかく、あんたなんでそんなに最上階のレストランとやらに行きたがるの?」

「あたしはともかくってなんだ」

 

 突っかかるプラちゃんを手のひらで制しながら、メンちゃんは首を傾げる。

 あ、だめだよメンちゃん。

 その疑問は油みたいなものだよ、更に燃え上がっちゃうよ。

 

「そんなの決まってるじゃない」

 

 案の定、やる気の源を尋ねられたナルちゃんはめらめらと燃える目で、堂々と宣言する。

 

「あの男が享受していて、私が享受していないものがあるのが気に食わないからよ! だから、あなた達も早く支度しなさい!」

 

「わがままかよ⁉」とメンちゃんが突っ込む。

 わがままもここまで来れば清々しい。

 そう思うのはわたしだけかな? 

 

 メンちゃんは未だにナルちゃんの自己中心的な(こういう)ところに噛みつく。

 

「あんたとプラっちだけで行きなさいよー。うちはもうここに来れただけで、同好会に入った目的は達成してるの。ラブっちもそうでしょー?」

「えっ、いや、その……」

 

 それでわたしは、メンちゃんのこういうところが苦手だ。自分の意見に同意するのは当然といった声音で質問してくるもん。

 

 わたしからしたら、どっちもわがままなんだけどな~。

 けれど、そんなこと口が裂けても言えない。こうして言い淀んでいると、空気が百足の足みたいになって、うなじを這う。

 

 見回すと、雰囲気的にわたしが裁判官みたいな立ち位置にあった。レストランに行きたいナルちゃん・プラちゃんと、別に行きたくないメンちゃん。わたしがどっちに付くかで、今後の合宿旅行全体に影響が出るのは明らかだった。

 

 心の中で「う~っ」と転がりまわった末にわたしは……ナルちゃんの方へ身を寄せた。

 

「ごめん、メンちゃん。わたしもちょっとレストランに……興味、ある」

「――あっそ。じゃあ3人で行ってきなよ。うちはナイトプールで物色してくからさ」

 

 ぐつぐつ煮えたぎったシチューのような怒りを、さくさくに焼き上がったパイのような笑顔で覆っている。そんなパイシチューみたいな笑顔を見せるなり、メンちゃんは背中を向けた。

 

 そんなメンちゃんの背中に、わたしは「だから」と継ぎ句をぶつける。そうしてすかさず走り寄って、メンちゃんの背中に抱き着いた。

 

「メンちゃんも来てよ。メンちゃんがいないと寂しいよ、わたし」

 

 本当に思っていることを、そのままに吐き出す。

 メンちゃんは黙ったままだ。

 けれど少しだけ身じろぎしたのを、わたしは見逃さない。

 メンちゃんの耳にかかった赤毛を払いのけると、こっそり耳打ちする。

 

「それに、またここに来れるとは限らないんだよ? だったらわたしは、後悔しないように過ごしたい。皆と……メンちゃんとの思い出を作りたいの。だめ、かなぁ?」

 

 偽りない本心に、少しの打算を加えて、ささやいた。

 普通に考えて、わたし達だけでもう一度このホテルに泊まれるとは思えない。それはメンちゃんも分かってるはずだから。

 

「……調子良いこと言っちゃって」

 睨んでくる視線に、「ごめん」と返す。

 そしたらメンちゃんは「やれやれ」といった体で肩をすくめると、ナルちゃん達に向き合う。

 

「皆のドレスはうちが選ぶからね! 文句言わずに着なさいよ?」

「? まずは麻雀ルームに行くのだから、ドレスは着なくても……」

「バカ! そこらの雀荘とは訳が違うでしょ! しっかりオシャレしないと!」

 

 そうして、ナルちゃんとメンちゃんは言い合いながら、部屋を出て行ってしまった。

 わたしはしぼんだ風船みたいに肩を落とした。

 口論になることが多い2人だけど、目的さえ合えばあっというまに話が進むのだ。まぁ、誰かが仲介しないと、いつまでもバチバチするんだけど。

 

「おつかれさん」

 

 心労たっぷりの息を吐いてたら、プラちゃんが労うようにわたしの頭を撫でた。

 こういう時に浮かべる表情は大人っぽくて、プラちゃんが1つ上の先輩だと言うことを思い出す。

 

「そう思うなら手伝ってよ~。毎回、間に入らなきゃいけないの辛いんだよ?」

 

 おかげで、この3か月で変に駆け引き上手になった気がする。元々、そういうの苦手だったはずなのに。喧嘩が始まるとプラちゃんは決まって静観するから、わたしがやるしかないのだ。

 

「あたしは楽しいことしかやらん主義なのだ!」

「だから留年(だぶ)るんですよ」

「やめろラブちゃん、そのワードはあたしに効く!」

「はいはい」と、ハートを押さえるプラちゃんの手を引いて、わたしは2人の後を追った。

 




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