堕天使に羽衣を献上せよ! ~推しのVtuberが俺の服を着てくれる理由~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第1着 ス〇ブラ配信、10勝するまで帰れまテン

 推しのVtuberが立体映像になって自宅のPCから飛び出てきた。

 ちょっと強めの幻覚キメたと思われるような、そんな荒唐無稽な出来事が起こる6時間前。

 

    * 聖岳はじめ in屋上 10/4(月)PM18:00 *

 

『ふぁーはっはっは! 待たせたな眷属共。さぁ、邂逅(かいこう)を告げし(とき)の声を上げようぞ! せーの……こんレビ!』

 

「「  こんレビィィィィーーーーーーーッッッ‼‼‼ 」」

 

 10月の寒空の下、体を震わせながらも、俺と友人の市川は開幕の挨拶を全力の咆哮で応えた。

 

 堕天使Vtuber・宵月レヴィア。

 大手事務所『ヘヴンズライブ』の2期生。神様が嫉妬するくらいの美貌(自称)を持つと豪語するナルシスト味が入った堕天使……という設定だ。

 主な配信内容はゲーム実況。

 

 月光を編み込んだような白銀の長髪、尊大に輝くぱっちり円らな空色の瞳。

 そ・し・て……真っ白なノースリーブワンピースに入った切れ間(スリット)から覗くわき腹! 横乳!

 

「くぅ~~やっぱレヴィアたん、たまんねぇなぁ~~~~~‼」

 

 ビールキメたような感動を喉に感じる俺(ビール飲んだことないけど)。すると、俺の言葉に同意するように、市川が肩を組んできた。

 

「だよなぁ同志よ! ていうか放課後こっそり見る配信ほど至福の時間はネェゼ!」

「だなぁ、この場面見られたらタブレット即没収だもんな」

 

 そして没収されたが最後、レヴィアたんの眷属たる俺達は成分不足で死ぬ。

 けど……校則違反してるこの時間だからこそ、至福だった。

 

『さて、此度の配信は大乱闘スマッシュブロウ10本勝負じゃ。誰とじゃと? 決まっておる! 妾の同期(どうほう)にしてライバル天使の……旭陽リエルであ~る!』

『はいはぁ~い、眷属の皆様、こんリエ~。今回はレヴィアちゃんの枠にお邪魔しますぅ~』

 

 スローペースのおっとりとした声であいさつするのは、旭陽リエル。

 レヴィアたんと同時期にデビューした天使系Vtuberだ。

 黒髪の上に白く輝く光輪を浮かべるリエルと白髪の上に小さな黒翼を生やすレヴィア。二人のデザインは明らかに『対』をイメージしていて、二人並んでいると、画面的にしっくりきた。

 

 それを言ったら、市川は、

「まぁ、確かにとある部分も対になってるがな」

 そのとある部分……胸部をじっくり見つめていた。

 

 天使の豊かな胸と堕天使の慎ましやかな胸。……ったく、たまんねぇな! 俺的にはどっちも甲乙つけがたかった。

 

『負けた方は後日ホラーゲーム配信をするというなんとも刺激の少ない罰であるが? まぁ? 妾が負ける訳ないからのぉ? 恐怖でむせび泣く貴様を見るのが楽しみよ。ふぁはっはっ!』

『わぁ~やだなぁ~怖いなぁ~今から憂鬱だなぁ~』

 

 そう言いながらも、どこか余裕そうな態度を崩さないリエル。

 これから自分の身に起きることも知らずに……哀れな天使め。かの堕天使が、下等存在である人間が作った娯楽(ゲーム)如きで敗北するなどあり得ないのだ!

 

『あっ、ちょっ、まって! まってまってお願いリエル調子乗ってましたごめんなさ』

『リエルゥ~パァンチ~♡』

 

 純粋無垢な声と共に、ガノンゼルフの激重パンチがステージ端に追い詰められたカーピィをブッ飛ばした。

 

『うわぁぁぁああーーーーーーーん‼』

『はい、リエルの勝ちィー』

 

「おっ、レヴィアたんの化けの皮剥がれたぞ」

「あぁ、そんなまさか……レヴィアたんが圧倒されるなんて」

 

 つーかリエルの殺る気が天使のそれじゃねぇ。

 一応、天使という設定の旭陽リエルだが、性格的にこっちを堕天使もとい悪魔にした方が良いんじゃないかって、いっつも思う。すると市川は「リエルはドSだからなぁ」と笑い混じりに言った。

 

『あれェ~? どうしたんですかァ、レヴィア様ァ? 生意気天使にィ、最上位堕天使の権能(ちから)分からせてくれるんじゃなかったんですかァ~?』

『そ……そうだよぉおお? さっきのはアレだから、ほら現世に悪影響与えないように(わらわ)、力セーブしてたからぁ。解除したら、汝なんかボッコボコだからぁ』

 

 強い言葉を使っているけど、声がガクブルのレヴィアたん。

 対するリエルは『ワァ~』とゆったり棒読みヴォイスで、パチパチと拍手する。

 

『そうなんだァ、すご~い。だったらリエル、本気出したカッコいいレヴィア様見たいなぁ? はい、というわけでここからは【10勝するまで帰れまテン】を始めまーす』

『待って⁉ 力の解除は許可いるから! 妾だけじゃ無理だから! あっ、ヤバイ掴まれ……ウワァァァアアーーーーーーー‼』

 

 リエルが操作するゴリゴリマッチョの魔王が、レヴィアたんが操作するピンク色の球体を鷲掴みにし、ボコボコにし始めた。

 

 うわぁ、この天使ドSだわ……。そして推しが(いじ)められてんのに、横で爆笑してる友人も絶対Sだ。チャット爛では、リエルの【レビ(いじ)】の手際が神懸ってると大盛況。次から次へとコメントが投稿され、流されていく。

 

「分からん……なんで好きな()虐めて盛り上がるのか……」

「えー? いや、まぁそういう文化としか言えないかなぁ」

「奥深し、Vtuber……」

「そんな深い意味はないんだけどなぁ~。はじめってホント浮世離れしてるよな」

 

 そうだなぁ。

 俺の前職は、ファッションデザイナーだった。

 母親が日本最高峰のファッションブランド【Sii Forte】の社長。後継ぎ教育か知らないが、中学入学と同時に、ひたすら服を縫い続けるお手伝いをさせられ。

 そして15の時に、母のコネで作品集|(コレクション)を任されたが売上(けっか)は大コケ。

 

 その後も一応、学生デザイナーとして活動していったが――――17になった今年の春、ついに母に見捨てられ、今に至る。

 そう振り返れば漫画・ラノベ・アニメ・ゲーム……娯楽と言えるものとは縁遠い人生だったなぁ。

 

 市川は金色に染めた髪を後ろに流しながら、転校当時の俺の様子を語っていた。

 

「いやー完璧ガラパゴスの住人だったよな。海原(クラス)の中の孤島だったもんね。何話せばいーか分かんなかったもん最初」

「その節はどうもお世話になりました」

 

 俺は感謝の意を込めて深々と頭を下げる。

 すると市川は「真面目か」ってまた笑った。いや、でも冗談抜きで市川がいなかったら、俺、間違いなく高校生活に馴染めなかった。

 

 それに、市川がレヴィアたんを布教してくれなかったら、この世界を知ることもなかった。

 

 ――カキィン! という音が鳴り、カーピィの振るう木槌がガノンゼルフを吹っ飛ばした。

 

『あっ! やった! やったやった倒した! 倒せたよ! アドバイスくれた眷属達ぃー! ありがとぉーーー! ほんとにほんとに、ありがとぉーーーー!』

 

 ありがとうと連呼して、無邪気に喜ぶレヴィアたんが微笑ましくて、目を細める。

 所詮は他人事。他人がゲームをやってるところを眺めてるだけなのに。

 なんで、こんなに癒されるんだろうな。

 

「市川ぁ」

「なんだー?」

「――ありがとな、俺にレヴィア様を教えてくれて」

「大げさだなぁ。市川さん、照れちまうぞ。……まっ、そこまで言ってくれたら布教した甲斐があったわ」

 

 市川はおどけるように肩をすくめてみせた。そのタイミングで放課後に居残った生徒に『帰れ!』と告げるチャイムが鳴り始める。

 

 だが配信はまだまだ続く。なら……後は分かるよな。

 市川の顔を見て、俺達は言葉無しに頷き合う。

 帰るわきゃねぇだろが‼

 

『はーい、それじゃあ後9勝です! 頑張ってくださいね、レヴィア様ァ? リエルも張り切っちゃいますからァ~♡』

『ふっ、魔王を降した(わらわ)と桃色の悪魔ならば、9連勝など容易い……え、リエリー? なんでキャラ変えて……ヴァイク⁉ 最強キャラじゃん⁉ ちょっ、手加減してよリエリー⁉ これ配信終わらな…………イヤァァァァーーーーーっ!』

『レヴィアたん、絶殺(ぜっころ)入りまーす♡』

『手加減してください……お願いします。手加減を! 慈悲を! 愛をくださいぃぃ~~~!』

 

 刹那、宵月レヴィアの眷属達は一様に悟る。

(スパチャ)を贈るのは今だと。

 

 俺達は揃って、なけなしのバイト代を赤いコメント欄に変えた。

 




今日から毎日更新します。
現在、「たいあっぷ」にてコンテスト挑戦中です。
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http://tieupnovels.com/tieups/1011

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