堕天使に羽衣を献上せよ! ~推しのVtuberが俺の服を着てくれる理由~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第7着 妄想は現実に

 制服のポケットから取り出した、黒卵をPCの前に転がす。

 蒼白い電光が亀裂から漏れ出て、黒殻を破る。

 破れた破片は転がる卵を止める『台』に変形。

 三角錐の映像機器を飛び出させる。

 

『Bluetoohとの接続を開始。同期PCに表示されている画像・動画を、立体データに変換します』

 

 先の尖った錐から伸びる青い光線に、俺の顔が照らされる。

 無機質に告げる人工音声を聞くのは、二度目だ。

 一度目は、ホロアクティが届いた時に真っ先に試して失敗した。

 

 ――宵月レヴィアのホログラム、その投影を。

 

 市川に言ったことは嘘じゃない。事務所か本人の許可。それが無かったら、ホロアクティはエラーを起こす。

 

 それが普通。世の中、そうそう上手いことは起こらない。

 自分の中で燻る火種を、膨らむ期待と願望を萎ませるために、俺は赤い光(エラー)を求めた。

 顔に掛かる青い光が朱に染まることを望んでいた。

 だから俺はもう配信画面なんか見ちゃいない。黒卵のデバイス・ホロアクティに釘付けだ。

 

 そう思っていた俺の眼球を――――青白いライトが貫いた。

 

「まぶしっ⁉」

 

 たまらずのけ反る。

 そしたら椅子ごと派手に倒れて、尻もちをつく。

 予想外の光量に目がチカチカ痛む。滲む涙を拭いながら、見てみればPCのモニター全体が蒼白い光の奔流を放っている。

 

「はっ⁉ え⁉ なんだよ、これ⁉」

『――個人用兼試験機【ホロアクティB4N】と同期PCとの同調作業完了。ディスプレイに立体映像再生機能を追加。投影領域拡張作業に移行……成功しました』

 

 明らかな異常事態に冷や汗がぶわっと背中から湧き出る。

 やばいヤバイやばい‼ いや、やばいことになるかもって思ってたけど、ヤバさの方向が全然違う! PC内のデータが壊れるくらいの想定しかしてなかった‼

 

 部屋を見渡してコンセントを探す。

 で、電源! こういう時は電源ぶち切るしかない! あれ? 電源どこだ? 

 俺は自室をうろつき、PCの電源を探したが……無い! 

 なんで⁉ つーか一面見渡すばかりのコスプレ服! 邪魔! 服を掻き分けて自室で慌てふためく俺はふと閃く。

 

 PCに刺さっているコードを辿れば電源見つかる!

 閃きに誘われて、俺は怖くて背けていたPCへと振り向いた。

 

 途端。

『 ――ふぁーはっはっはぁーーー‼ 』

 PCの前で、高笑いと共に一柱の堕天使が降臨した。

 

 誰も踏んでいない新雪を思わせる、柔らかい清純さを秘めた長い銀の髪。

 鏡面のように透き通った海面を閉じこめた碧眼(マリンブルー)は傲慢に染まっていて尚、円らで愛らしい。

 

『待たせたな! 聖丘はじめ! 我が使徒となる眷属よ!』

 

 名前を……呼ばれた。

 たったそれだけで、俺は腰からへたり込む。

 

 いつも画面の向こうから聞いていた声。それが当たり前だと思っていたから気づかなかった――――次元(かべ)が、取り払われている。

 

 彼女が発した声が直接、俺がいる空間内を振動して、音として伝わる。

 その余りの多幸感に、俺は尊死を覚悟した。

 

 でもかの堕天使は、死にかけてる俺のことなど意に介さず、傲岸不遜に胸を張る。

 

『誇れ! 汝は選ばれた! 神すら嫉妬した至高の美を有する堕天使にして、電脳(バーチャル)界に降臨したアイドル――――Vtuber宵月レヴィアにな!』

 

 妄想は現実に。

 虚構がドヤ顔でこちらにやってきた。

 

「おぎゃぁぁあああーーーーーっ⁉⁉」

 

 精神だけ転生して、俺は盛大にオギャる。

 

 訳が分からなかった!

 

 わけが! 分からな! かった‼

 

 頭ン中にあった理性の防波堤が『ありがたさ』で決壊し、胸ン中で『尊み』が氾濫して、目ン玉から溢れる『すこ』の感涙にむせぶ。

 限界を越えた感情に膝ガクガク、腰から力が抜けて、盛大に床に突っ伏した。

 

『え? え? ど、どうしたのじゃ? なぜ崩れ落ちておる⁉』

「あぅっ、〝いやっ……ぢょっと……」

 

 あ、あ、あぁああああ⁉ 話しかけられてる⁉ 俺、レヴィアたんに話しかけられてる⁉ あまつさえ……心配されてる……?

 

「あ、ムリこれ、死ぬ」

『無理なのか⁉ 死を決意するほど⁉ そんなに妾《わらわ》の服を仕立てるのが嫌なのか⁉ な、汝これがどれだけ誉れ高いことなのか分からんのか!』

「ち、ちがっ⁉」

 

 まずい、勘違いされた⁉ 

 意図がすれ違った気配を感じて、死ぬ気で顔を上げる。違うんだレヴィアたん! 俺の死因はあくまで尊みであって、レヴィアたんの依頼が嫌なんじゃなくて。

 

 そう思っても、一度オギャった呂律はすぐには戻らない。その一瞬の内に、レヴィアたんはワッとなって叫ぶ。

 

『妾は知っておるぞ、汝のデザイナーとしての功績を! 例えば汝が2年前に手掛けた【螺旋欲(デザイア)】コレクション』

 

「……え? 今なんて?」

 胸を満たしていた尊みが一瞬で忌々しさに塗り替わる。

 

螺旋欲(デザイア)】コレクション。

 それはファッションデザイナーとして俺が手掛けた最初で最後の作品群《コレクション》であると同時に黒歴史の作品。

 当時患っていた、溢れんばかりの中二病(気の迷い)を詰め込んだアレがよりにもよって、推しの口から飛び出て――――俺はすぐに耳を塞ごうとした。

 

『専ら黒と白ベースの生地! 意味ありげなアルファベットの羅列! 肘や膝のとこだけ布を切ってチェーンで結ぶ斬新なデザイン!』

「うっっっっぐぅっ‼」

 

 脳内分泌された羞恥が、胸の真ん中を握りつぶす。

 ヤベェ、息できない! さっきとは別の意味で!

 呻き倒れる俺など目に入らないかのように、レヴィアたんは俺の作品がどれだけ良かったか力説してくれた。

 

『それだけではない。【螺旋欲】コレクションが、他のシリーズ服と違うのは膨大なアクセサリの種類ぞ。眼帯とかシルバー骸骨(スカル)とか龍剣(ドラゴンブレイド)のネックレスに……あっ、【罪運(フェイト)リング】も一部の少年少女はハマりにハマっておった!』

「そりゃあそうでしょうねぇぇええ……」

 

 どうやら同族(中二病)の琴線には触れられていたらしい。次第にレヴィアたんの熱弁に拍車がかかり、身振り手振りが加わる。

 

『服は今も着ておるぞ! あれを着て事務所に行くとな、所属ライバーの人達みんな優しい目で見てくれ……て?』

「?」

 

 声が小さくなっていく。不思議に思って俺が顔を上げると――――レヴィアたんは青白く光る自分の指先や爪先を、目を丸くして見つめていた。

 

 そして一言。

 

『ナニコレ⁉』

「あっ、気づいてなかったんですね」

 

 自分が立体化していたことに気付いていなかったレヴィアたん。目を白黒させて、頭の翼がパタパタパタと羽根を撒き散らす。

 

『えっ、えっ? あれ⁉ わた……妾、なんでこんな風になっとるのじゃ⁉』

 あたふたと慌てふためき、ワンピースの裾を何故か抑えてる堕天使。

 

 あ、その仕草、たまんねぇな。心のアルバムに大切に保管して、俺はレヴィアたんの後ろにあるデスクを指さす。

 指先が示す方向を振り向いて、レヴィアたんはデスクの上で稼働している黒卵を目にした。

 

『ホロアクティ⁉ なぜ汝がこれを持っておる⁉』

「テスターの懸賞に当たりました」

『うそぉん⁉』

 

 堕天使っぽさ皆無、本心から驚いてるレヴィアたんだが、事実なのでしょうがない。でも、本当にどうしてレヴィアたんを立体映像(ホログラム)化出来たんだ? 前、試した時はこんなことなかったのに……不可解さに考え込む俺だったが、

 

         『 良―いではないかぁ‼ 』

 

 肝心のレヴィアたんは瞳にいっぱいの喜びを湛えていた。

 振り返りざまに広げた両手に合わせて、頭に生えた翼のはためきが激しくなる。にひっと笑って、全身から喜びを放つその姿は、俺には白く輝いて見えた。

 

『RAVFIC本番でも、ホロアクティは使われる。この場はその予行練習に最適だ! ますます汝は妾の使徒(デザイナー)に相応しい!』

 

 そう言ってはにかむ堕天使に、目を瞬かせる。

 ありがたさと尊みインパクトから回復してきた俺は今更ながら、自分の身に降ってきた幸運……いや、奇跡のデカさに尻込みする。

 

「ほ、本当に良いんですか? 俺なんかで……」

『なんか、などではない! そもそも、汝なにか勘違いしておらぬか?』

 

 立体であることにすぐ慣れたのか、レヴィアたんはいつかの3D配信で魅せた華麗なウォーキングで、ずいっと俺の表情を覗き込む。すぐ近くまで迫った空色の瞳は、俺の顔を映し取ったまま、ニヤリと傲慢に歪んだ。

 

『汝に拒否権などないっ! 妾が、汝を選んだのだ! それが全てじゃ‼ ――汝はどうなんじゃ、聖丘はじめっ‼』

 

 唯一人、自分だけが尊く素晴らしい。

 故に――――俺が選ばれたことは必然なのだ、と。

 堕天使が自然に纏っている傲慢な雰囲気が、言外にそう訴えてきた。

 

 降って湧いた奇跡を、推しに肯定されて…………ないだろ。

 ことわる理由なんかないだろ。

 

「やらせてください。必ず……貴女に劣らない羽衣を作ります」 

 

 口から勇んで飛び出た決意が、衝動的に俺を突き動かす。

 俺は宵月レヴィアの手を取り、熱く握り締める。

 

 そしてこの決意の丈が伝わるよう――――彼女の手の甲に額を押し当てた。




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