「……僕は人間なの?」   作:サブサブ221

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色々と悩んでいて遅れました。
すみません。


「第十三話」 衝突

 暗い夜道をエマとヒカルとヒロキが走る。

 

 車を使えばすぐに捕捉されるために足を使っているのだが、幼い子供もいればすぐに限界が訪れるのは明白であった。

 

 

 

 そして逃げる場所も決まっていないというのも、問題であった。

 

 

 

 普通はこのような時の為に隠れアジトなり、なんなりを作っておくのが常道なのだが、いかんせん二人は若すぎて、そういうところまで頭が回らなかったのである。

 

 

 

「行き先も決まっていないのに、何処まで逃げるつもりじゃ」

 

 

 

 方向性のない逃避行をヒロキが諫める。この場に及んでくだらない冗談を言う余裕はなかった。

 

 

 

「ここまで来れば、大丈夫かな……ヒカルちゃん大丈夫?」

 

 

 

 エマがヒカルを見ると、息が上がっているようだった。

 

 

 

「うん。ちょっと疲れたけど大丈夫だよ」

 

 

 

 ヒカルも疲れているだろうにエマを気遣ってか、笑顔を見せた。

 

 自分よりも半分の年齢の子供が元気を見せているのに自分がへこたれるわけにはいかないと言い聞かせながら、エマは己を叱責する。

 

 

 

「……それよりもお兄ちゃん大丈夫かな?」

 

 

 

 ヒカルは自分よりも、遠くテスラ少佐と戦っているミコトを心配した。

 

 

 

「……ヒロキ君」

 

 

 

 エマもミコトの事は気になるのだろう、縋るような瞳でヒロキを見つめると首を振り。

 

 

 

「ミコトも随分とやるようじゃが、状況は絶望的じゃろうな、サイボーグ部隊に挟まれればいくら最新のアンドロイド型の人間といえど生き残れる道理はない」

 

 

 

「そんな‼!」

 

 

 

 エマが悲痛の声を上げる。

 

 

 

「儂も期待はしてるがのう、流石に荷が勝ちすぎる。現実的に見ても小僧の生存は絶望的じゃ……」

 

 

 

 ヒロキは望みを打ち切るようにエマに言い聞かせる。

 

 

 

「……酷ないいようじゃが、次に儂らがすべきは何処に逃げるかじゃ。あやつの母親の所へ逃げるか、儂らの診療所へ戻るかじゃが、オススメは診療じゃな。流石に息子を見捨てて逃げてきた儂らを快く迎える母親はおらんじゃろう」

 

 

 

 エマはシラスの所に戻るか、どうするかと葛藤し考えていると―――ヒカルが自分を心配そうにのぞき込んでるのを見て、頷いた。

 

 

 

「……私はミコト君の所に戻ろうと思っています」

 

 

 

 エマの回答を聞いた瞬間にヒカルの顔にヒマワリの花が咲いた。

 

「うん‼ お姉ちゃん‼」

 

 

 

「……はあ。何を言っておるのか分かっておるのか?」

 

 

 

 この答えはないだろうと思っていたヒロキは問いかけた。

 

 

 

「すべて承知の上です」

 

 

 

 エマとヒカルの目には炎が渦巻いており、生半可な覚悟ではないことは分かったが、それでも無謀ではないかとヒロキは考えた。

 

 

 

「……そうじゃたな、こう決めたらテコでも動かん、そういうところは娘にそっくりじゃた……全く頑固な所ばっかり似ているのう」

 

 

 

 ヒロキも諦めたのか、覚悟を決めたようじゃった。

 

 

 

「……だが、これだけは約束してくれ、けっして命を無駄にするような真似をするんじゃないぞ」

 

 

 

「はい」

 

 

 

「うん」

 

 

 

 二人の返事を聞いて、ヒロキも覚悟を決めて戦場に行くことを決意する。

 

歩む足取りは重かったが不思議と不安はなかった、そして少し少年らしさが残ったミコトの顔を思い出して、ヒロキは笑うのだった。

 

 

 

(……無事でいろよ小僧)

 

 

 

 

 

―――

 

――――――

 

 

 

 

 

 空気の振動音が真夜中の公園の夜空に響き、剣戟と剣戟がぶつかり合う。

 

 お互いの踏み込みが、アスファルトの地面をえぐり、音速を超えた鋼鉄の切っ先が得物を求める。

 

 

 

 ガィン‼

 

 

 

 銃の発砲音よりも強烈な金属音が辺りに木霊しテスラ少佐とミコト双方の耳には耳鳴りがなり続けていた。

 

 

 

「……ふむやはり、最新鋭のアンドロイド型だけあって私よりも性能が上のようだな」

 

 

 

 痛みを感じないのか麻痺させているのか、テスラ少佐は体中に切り傷がありながらも全く意に介していないようだった。

 

 

 

 逆にミコトの方は力を温存しているのか、心中に焦りがあり、まだ戦力がないのではないかと目の前の戦いに全神経を注げていない現状があった。

 

 

 

「ミコト少尉、周囲を気にするのはいいが、目の前の相手に集中しなければ勝てる戦いも勝てなくなるぞ」

 

 

 

 長身のテスラ少佐からは、自分が死んでも変わりなどいくらでもいるのかしらないが―――圧倒的に有利なアドバンテージがあるのか余裕があった。

 

 

 

「俺は敵ですよ。なのになぜ塩を送るような真似を……」

 

 

 

 ミコトとテスラ少佐は向き合う、機械化文明が進んだ未来で二人とも科学技術の結晶で作られた人間であるのに、二人の佇まいは西洋の物語に出てくる騎士と、東洋の武士の姿を彷彿させた。

 

 

 

 騎士と武士、時代が違っても概念だけは残っているのか、恐らく中世や江戸時代の人間が見ても、騎士と武士が決闘をしているようにしか見えないだろう。

 

 

 

 テスラ少佐はそんな自分達を客観的に見て、鼻で笑った。

 

 

 

(……どれだけ時が経とうが、これだけは変わらんでほしいな)

 

 

 

 テスラ少佐はミコト少尉のような人間が嫌いではない、むしろその在り方は好ましいとさえ思っている。

 

 もしもミコトが自分の部下になっていたなら落胆していただろう。

 

 惚れた女性の為に戦う。それは何と人間らしい行動であることか、そして体制や権力の象徴である自分に反逆してくる姿は素晴らしいとさえ思う。

 

 

 

だがテスラ少佐は職務に忠実な軍人だった。

 

 

 

 ここで自分すら倒せないようで世界の何を変えるというのか。古きものに終わりを告げるなら力や優位性を示さなければならない。

 

 

 

「……正直に言うと、君のような純粋な若者は見ていて好ましくもある……故に応援したくなると言ったら笑うかね?」

 

 

 

 ミコトはテスラ少佐から過分な評価を得ていたが、首を振った。

 

 

 

「……俺はそこまで、大層な人間じゃありません……事実、最後の最後まで、彼女を見捨てようか葛藤していました。このまま流されて思考を放棄しようかとすら考えていました」

 

 

 

「なにそれでいいのだよ。悩み苦しみ、そうして答えを出すから価値があるのではないか、まあ最も私すら倒せないようでは意味がないがね」

 

 

 

 テスラ少佐は大剣を上段に構えて、不退転の構えを見せて、勝負を決めようとしてきた。

 

 

 

「喋りあいにも飽きてきたし、そろそろ決着を付けようと思うのだが構わないかね?」

 

「……好きにしてください」

 

 

 

 ミコトも中段の構えで受けの型を取り合わせた。

 

 

 

「行くぞ」

 

 

 

 爆発的な加速と共にテスラ少佐がミコトに迫ってくるが、世界には自分とテスラ少佐しかいないような気がした。

 

 

 

 全てがスローモーションのコマ送りの世界に見える中で、ミコトは自身の頭蓋をたたき割らんとするテスラ少佐の一撃をいなして、横にずれて、テスラ少佐の両手を断ち切った。

 

 

 

「……見事」

 

 

 

 テスラ少佐の惜しみない賞賛がミコトに送られた。

 

 

 

「勝負はつきました。撤退を…」

 

 

 

「何をいう、戦いはこれからだ……私は軍人であり、職務に忠実でなければならない……」

 

 

 

 テスラ少佐の両腕は断ち切れており、そこからはサイボーグ特有の機械で出来たケーブルなどが見えており、彼が純粋な人間でないことを物語っていた。

 

 

 

「…それに戦いはまだ終わっていない」

 

 

 

 テスラ少佐は両腕を上げると、何処かに潜んでいたのかサイボーグタイプの兵隊たちが数体出てきてミコトを囲みだした。

 

 

 

「さてと、これでもまだ強がりを言えるかね……」

 

 

 

 ミコトの状況は絶望的だった一体でも苦戦していたサイボーグ型の兵隊が数体いるのだ。

 

 気を取り直して、ミコトは冷静に周りを伺う、唯一の突破口は全員を倒すことだろう。

 

 

 

「リミッター解除……」

 

 

 

 ミコトはテスラ少佐の号令の前に小さく呟いた。

 

 

 

「攻撃開始」

 

 

 

 テスラ少佐号令と共に無表情の完全型のサイボーグが次々と突進してくる。

 

 一人目は武器も持たずに突進してきて、ミコトを捕まえようと両腕を開いていたが、そのまま己が何をされたかも分からずに両断されていた。

 

 

 

 後ろに続く二人目と三人目は、腰から両断されて、その機能を永遠に停止した。

 

 閃光のごとき速さに三体がやられたことを知覚した残りのサイボーグは剣を横に構えて受けの型で、ミコトの足を何とか捉えようとしたが、それも無駄だった。

 

 

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉ‼」

 

 

 

 ミコトは獣のごとき咆哮で一閃を切ると、そこだけ空間がずれたように残りのサイボーグがバチバチと音を立てて崩れていく

 

 

 

 ここまでの戦闘力だとは思わなかったのか、テスラ少佐は驚愕の表情を浮かべると共に内心で納得したようだった。

 

 

 

「……そうか君のモデルは日本神話のスサノオだったな、確か彼には破壊神の側面もあると言われていたな」

 

 

 

 ミコトはテスラ少佐が未だに余裕を崩さないのが納得いかなかった―――瞳の色が変わり蒼くなった双眸で睨み付ける。

 

 

 

(……どうして、未だに勝負を捨てていない)

 

 

 

「……たしかアンドロイド型はリミッターを解除すると、瞳が緑色になり、戦闘能力が飛躍的に向上するんだったな」

 

 

 

 ミコトはまさかと思いながら、辺りを見回すと自身と同じ蒼い瞳をした眼が周りを囲んでいることに気づく。

 

 

 

「……やってくれますねテスラ少佐。一介のアンドロイド風情にこれは過剰戦力ですよ」

 

 

 

 ミコトは喋りながらもアンドロイド型の兵隊を見据える、殆どが自分と同じ大剣や大太刀を装備しているが、唯一ミコトと全く違うのは、まるで感情のない瞳だった。

 

 心が壊れているのか最初からないのか、最も人間に近いヒューマノイドタイプのアンドロイドがテスラ少佐よりも機械的に見えたのは皮肉だった。

 

 

 

「一つだけ言っときますよテスラ少佐―――人間は機械なんかに負けない‼」

 

 

 

「言い覚悟だ」

 

 

 

 ミコトにあるのは自分の大事な人が無事でいてくれと願う心だった。

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