夕焼けの色と同じ色を醸し出しながら住宅街が燃え、鉄と木材で出来た家が倒壊していく中で、アスファルトの地面を力強く踏みにじり、ミコトは大太刀を振るう。
鍛えているのが軍隊式の服の上からでも分かり、筋肉質な体と相まって歩行型ロボットアンリを両断していった。
目の前に壁となって立ちはだかる、機械の壁を横に縦に縦横無尽に切り裂きながら、少しずつ前進していき。
ミコトは赤い瞳を動かし周囲を確認して、自分の上空を滑空する女性エマに、危険がないか確認してから、彼女の様子を確認する。
「エマさん‼ そちらは大丈夫ですか‼?」
エマは金色の髪を靡かせて、自分の体に掴まっている黒髪の少女ヒカルの無事を確認する。
ヒカルは子供さながらの小さな握力でエマの服を必死につかんでいる姿に、エマは守ってあげないといけないと庇護欲をだして、彼女を抱く力を強めてミコトを励ます。
「こっちは大丈夫!! もう少しで突破できるからミコト君も頑張って‼」
エマは上空から、あと数十メートル程で包囲網を抜けることが出来ると機械の群れがその先にいないことを思い一息ついた。
地上にいるミコトも、包囲網の終わりを視認できたのか、より一層の力を込めて、大太刀草薙を振るう、切ることを目的として作られた刀によって狂気じみた加速を伴った刃物は前方の障害となっている、ロボットを軽く切り裂き道を開いていく。
『…後30……20…10…』
二人の声が重なり、包囲網を抜ける。
後ろから追いかけてくる機械達は作戦範囲外なのか、そこまで追ってくる気配はなく。
ミコトは得物を背中の鞘に預けて頭上を滑空しているエマに速度を合わせて車線軸を一緒にした。
「…行きますけど‼…いいですか‼?」
「いいわよ!! ヒカルちゃん‼ お姉ちゃんの事しっかり握っててね!!」
「…うん」
エマはしっかりとヒカルを両手で抱きしめると、来るべき衝撃に備え体を小さく丸めた。
ミコトは猫科の猛獣をしならせるように全身の筋肉を使い、頭上を飛んでいるエマを目掛けて大きく跳躍した。
ミコトは機械でなく女性特有の暖かさと柔らかさを持ったエマを両手で掴み着地した。
ミコトは足から全身にかけて、数百キログラムの衝撃が体全体を突き抜けるが、人工機械と筋肉で補助された、体はそれほどの衝撃を受けようがミコトに取っては大したことでなく―――自分の事はどうでもいいと両手に抱きかかえたエマを心配した。
「…エマさん大丈夫ですか? 問題ないようなら、このまま追撃が来ないように距離を取ります」
エマは自身より小さな少女ヒカルの無事を確認すると、自身を吊っていたロープを切り離した。
「こっちは大丈夫。ヒカルちゃんも大丈夫そうだし。突き放して」
「分かりました。少し速度を上げますよ」
ミコトは機械の体を駆使して、一陣の風となり、速度を時速60キロ程に上げた。
―――距離を大分離したところで、ミコトは減速しながら、住宅街が見える空き地に避難し、周囲を確認して二人を下ろし安心させた。
「……ここなら大丈夫ですね」
ミコトは二人を下ろして、安心したのか初めて全身に倦怠感が襲ってきており、実際は自分の想像以上に消耗していたということだろう。
ミコトは空き地に見える適当なベンチに腰を下ろして深くため息を吐いた。今は少しでも息を整えたいというのもあるし、追手が来た時の為に少しでも体を休めたかった。
(…少し危なかったですね…二人とも外傷もないのは不幸中の幸いでした)
二人がほぼ無傷な事に安堵して、空を見上げて、膝の力を抜いた。息が整ってきたのか、心臓の鼓動が落ち着いてきて汗の量も少なくなっているようだった。
ベンチで一息ついているミコトの隣に座ったのはエマだった、彼女は自身とミコトの間に挟み込むように少女のヒカルを座らせ。
「…私たち助かったの?」
エマは自分たちが無事な事をミコトに確認するように問いかけた。
「はい。追っても来ないようですし…大丈夫だと思いますよ」
「…良かった。ミコト君頼りなさそうだから、ちょっと不安だったんだよね……私よりも年下だし…」
エマはベンチに座り、両足をプラプラと遊ばせながら、本音を言った。
ミコトも思うところがあるのか、エマに反論するよりもまず向き合い。
「エマさんを不安にさせたことは、謝罪いたします……僕がもう少し力があれば、こんな危険を冒さなくても済んだ所を申し訳ありません」
ミコトは素直にエマに自身の不甲斐なさを認めて謝罪した。
エマも別にミコトに謝罪してもらおうという気はなかったのか、彼と向き合い両手を振るった。
「…いやいや、別にそんな謝らなくてもいいよ。ミコト君には感謝してるんだから」
エマはミコトと向き合って、本当に嬉しそうに笑って。
「助けてくれて。ありがとう……今度なにかお礼するね」
ミコトはエマの笑顔の表情を見て、自身の鼓動が早くなるのを感じた。
(…どうして僕はこんなにもドキドキしているのでしょうか、これが吊り橋効果というやつでしょうか?)
ミコトが機械の体と言っても、脳は人間であり、子孫を残すこともできる。
ただ、人間の体の運動エネルギーを生み出す骨や関節、筋肉などが機械で出来ており、今のミコトは正しく半分人間で半分機械というのが正しかった。
勿論、恋愛もできて、女性に恋するということもあり得る。
だから、エマのような健康的な女性に惹かれるのも当然だった―――事実、彼女の笑った顔は素敵だった。
ミコトはエマに見とれて呆けていると、エマが真ん中に座っている黒髪のヒカルにもお礼を言うように、促していた。
「…ほら、ヒカルちゃんもお兄ちゃんにありがとうってお礼を言って」
このヒカルという子も、将来的には可愛いというより美人になるだろう、きれいな黒髪を揺らす愛くるしい姿は、いずれ大輪の花を咲き誇らせる事を想像させた。
「…おじちゃん、ありがとう」
ヒカルがおじちゃんと言ったことがおかしかったのか、エマは少し噴き出して、鈴のようにクスッと笑った。
「……それと、ヒカルちゃん僕は……まだ10代だからね…おじちゃんじゃなくて【お兄さん】だからね」
ミコトはおじちゃんと言われたのが気に食わなかったのか、ヒカルに訂正するように語意を強める。
「…でもおじちゃんはおじちゃんだもの…それに…」
ヒカルは指をミコトに指して。
「…う…んと…服装がおじちゃんぽい」
ヒカルに指摘されて、ミコトは自分の警察組織の服を確認していく、確かに警察式の軍服の為に古っぽく見える。
エマに助けを求めて視線を送ると彼女も申し訳なさそうに苦笑していた。
「ミコト君には悪いけど、確かに、私もちょっと古臭いと思う…」
この場に味方はいなく、女子二人に服装が古臭いと指摘されて、ショックを受けるミコトだった。
(……僕は、そこまで悪くないと思うんだけどな…黒くて恰好いいし…悪の親玉みたいな感じで…)
ミコトは若いのか、ちょっと妄想癖があった。
「…でも、これは警察の制服なので、僕が悪いわけじゃないんですけどね…」
ハハハと苦笑しながら、ミコトは服装が古いのは自分のセンスじゃない事であると言った。
「…街…燃えてる…」
ヒカルはミコトの言葉を聞いていなかったのか、それとも落ち着いて視野が広がったのか、自分が住んでる街を食い入るように見つめていた。
「…私達、これからどうなるの…?」
エマがポツリと漏らして、ミコトはエマとヒカルを心配させないように柔らかく伝えた。
「ひかるちゃんに関しては、保護してから、里親を探して、エマさんに関しては少し話を聞いてから、元の生活に帰れることを保証しますよ」
ミコトは不安を取り払うように、笑い、自分の胸を叩き。
「最悪、僕が何とかしますよ」
「うん。ミコト君、責任感強そうだし…何とかなるかも」
場の雰囲気が和み、気が緩んだのかミコトは周囲が囲まれていることに気づかなかったが、一瞬で判断したのは日頃の練の賜物だという事か。
ミコトはヒカルとエマを片手に抱えて、跳躍した。
パパパパパッ‼
音が後から聞こえて、音速を超えた銃弾がご丁寧にヒカルのいた場所だけを蜂の巣にした。
銃弾を躱すと同時に装甲車に備え付けられたスポットライトがミコトを照らす。
「随分とはしゃいでくれたようだな、ミコト少尉」
装甲車からテスラ少佐が降りてくると同時に歩行型ロボットアンリと飛行型ドローンが周囲を囲む。
「ミコト少尉。その手に持っている駆除対象を地面に置きたまえ、それで今回の作戦は完了する」
テスラ少佐はミコトに命令するが、ミコトはテスラ少佐を刺激しないように断った。
「お断りしますよ…テスラ少佐。いくら階級が上と言っても警察機構に所属している僕に軍隊組織のテスラ少佐が命令はできないはずです」
軍隊に所属するテスラ少佐と、警察組織に所属するミコトでは命令系統が違うためにどれだけ、テスラ少佐が偉くなろうがミコトに命令する権限は持たなかった。
ミコトは周囲を見渡して、包囲網に抜け穴がないか確認する。
(…地上は無理か…上も無理だな…だとしたら正面か…それも無理か…だとしたら)
いくらミコトが最新式のアンドロイド型の機械と言っても、状況的に絶対絶命というところまで追いつめられていた。
地上は360度包囲されており、目の前にはクレイモアを抱えたサイボーグ型のロボットと空には飛行型ドローンの群れ。
「ミコト少尉、会話をしながら……突破口を探そうとするのは流石といいたい…部下にほしいぐらいだ」
「…それはどうも、それじゃあこの子を駆除対象から外してくれませんかね…それで今回の作戦も終わりということに…」
ミコトは自分の思惑の為に、少しでも時間を稼ごうとするが―――テスラ少佐には受け付けられなかった。
「ダメだな。これ以上作戦時間を延ばすわけにもいかん―――機械化小隊構え‼」
テスラ少佐が号令を発して、周囲を囲んだドローンと歩行型ロボットアンリが全て照準を合わせて、鉛の弾を発射しようとしていた。
「…おじちゃん」
「……ミコト君」
ミコトの手に抱えられた二人から、自身を心配して声が掛けられる。
「大丈夫です。仕込みは済んでいます」
ミコトはこんな状況になっても、希望を失わずに不敵な笑みを浮かべていた。
「発射‼」
テスラ少佐の号令と共に全てのドローンとロボットから銃弾が発射されようとしていた。
お待たせしました。
皆様の楽しみになれば幸いです。
小説家になろうでもzabuで投稿しています。
よろしくお願いします。