作戦は殆ど終了したのか、先ほどまで燃えていた住宅街は、凄まじい勢いで鎮火されており、太陽が沈みかけ夜の暗闇が訪れる前と言った時間帯だった。
その中で、ミコトはエマとヒカルを抱えて周囲を銃を構えた、ロボット達に囲まれながらも、希望を失わずにいた。
「撃てぇ!!」
テスラ少佐の号令と共に、無数の銃弾が発射されるはずだが―――いつまで経っても火薬の発砲音は聞こえてこなかった。
「……何故だ…何故発射しない?」
テスラ少佐は自分の命令が実行されない事を疑問に思い声を上げた。
「…どうやら間に合ったみたいですね」
ミコトは企みが上手くいったことに、ほくそ笑み、手に抱えていたヒカルとエマを下ろした。
「…僕は、こうなると思って、一応保険をかけて、僕の上司に横から、貴方たちの駆除対象を引き下げるように、横槍を入れるようにお願いしたんですよ」
流石に全体を引き下げるのは無理だが、一人か二人ぐらいなら横槍を入れることは可能だった。
ミコトは周りを見ると、自分たちを囲んでいるロボット達は敵意をなくしたのか、全員が銃口を下ろして引いていった。
「…貴様らっ……」
テスラ少佐はギリッと歯ぎしりをして、作戦に穴が空いたことへの苛立ちを隠しきれないでいた。
「…テスラ少佐、すでに作戦は完了いたしました…そこの少女もミコト少尉の上司から駆除対象から外されています…これにて本作戦は終了となります…お疲れさまでした」
テスラ少佐は歩行型ロボットアンリから詳細を聞かされて、ミコト少尉に一杯食わされたのだと理解した。
「…やってくれたな。ミコト少尉」
してやられたと言わんばかりにテスラ少佐はミコトを睨み付けた。
「はっきり言って、貴方たちと鬼ごっこをやっても、負けることは分かっていました…なので、こういう形を取らせてもらいました」
ミコトのやったことは簡単だった。
テスラ少佐が軍の命令で動いているなら、その命令を取りやめてもらうという事であった。
警察組織に所属している、ミコトは軍というものは命令がなければ動けない集団というものであると理解していた。
「…成程、今回はこちらの敗北という事だ」
テスラ少佐は嘆息して、手に構えていたクレイモアを鞘に納めてしまい、踵を返した。
「…敗北というよりかは、この場合は小さな命が助かった事を喜びましょうよ」
ミコトはテスラ少佐が二人に害を及ばさないように、前に出て、まずは命が助かった事に感謝すべきだと、所属の違う上司に進言した。
「…フ…若いな少尉は…だが‼」
踵を返し、テスラ少佐が突如として背中のクレイモアを引き抜いて、ミコトとヒカルを両断しようと大振りの一閃を放った。
ガギィン‼
空中に火花が散り、ミコトはテスラ少佐の一撃を受け止めていた。
「…何の真似ですか」
ミコトは前に出て、恐ろしいほどに冷たい目でテスラ少佐を見ていた。
「…いや、戯れの一撃というやつだよ。この程度防げないで婦女子を守るナイトを気取るべきでないと思ってな」
「やるというなら、相手になりますよ。何度も言いますが、すでに作戦は終了しています」
「いずれにしよ、もう戦う気はないのだが…まあこれから始末書もあるし精々頑張り給えよ」
流石にここで、剣戟を繰り広げようとはしなかったのか、大剣をしまい。
テスラ少佐は今度こそ踵を返して去っていった。
(…残心を残しておいて、良かった…油断していたら危なかった…)
ミコトは心の中で一息吐いて、背にいる二人を見る。
「お怪我はありませんか?」
「…うん。私は大丈夫。ヒカルちゃんは?」
エマはヒカルを抱いて、自分の目線の高さまで持っていく。
「ヒカルも大丈夫だよ。お姉ちゃん」
エマとヒカル笑いあい、互いの無事を確認していた。
「お迎えが来たようですね…」
周りを囲んでいたロボット達が引くとともに、ミスラと表示されたパトカーが来て、エマとヒカルを保護するために人員が降りてくる。
そしてミコトは無茶なお願いを聞き届けた上司と向き合っていた。
「…全く馬鹿な事をしてくれたものね」
腕を組み、少し伸ばした黒髪を後ろに束ねた眼光の鋭い女性は、ミコトと開口していの一番に嫌味を吐いた。
「…申し訳ありません。署長」
「命令違反に、軍属の命令への横槍…私がどれだけの苦労をしたか―――」
ミコトは頭を下げており愚痴が終わるまで待っていた。
ミコトは実体験で人が怒っている時は迂闊に頭を上げても、碌なことにならないと知っていた。
もはや一連のやり取りなのか、深いため息を吐いてミコトと向き合っている警察署長タカアキ・トモミは保護されている二人を一瞥する。
「…それで、今回助かったのはあの子たち?」
「はい‼ 今回は大変でした」
「命令違反をしてまで、助けられていなかったら、始末書どころじゃなく……ブタ箱にぶち込んでいたわ…」
トモミは腕を組みながら、睨みを利かせる。
「…はい。ブタ箱は免れたみたいで良かったです」
「取りあえず、所長としては厳しく叱るけど…母親としてはよくやったと誉めてあげましょう」
飴と鞭とはこのことを言うのか、激しく説教受けた後に、誉め言葉を貰い、ミコトは笑顔になった。
「ありがとうございます!! 母さん‼」
ミコトは素直に礼を言い、ミスラの車両に乗り、別の車両に乗っているエマとヒカルに手を振る。
「…馬鹿やってないで、早く乗りなさい」
ミコトは頭を引っ叩かれて、トモミに自分たちを運ぶ、車両に早く乗るように急かされた。
「分かりました」
(…何も叩くことはないと思いますけどね…)
ミコトは心の中で、母に文句を零して、歩いていく。
「…何か文句があるのかしら」
「いえ。何もないです」
(…怖…)
ミコトは心の中を見透かされたように、文句があった態度を咎められて警察車両に乗っていった。
(…はあ。また始末書か…面倒くさいなあ…)
ミコトはこれから始末書を書くのを、思い浮かべて嘆息して眉を潜めて、無事に全てが終わったことに安堵した。
―――
――――――
西暦2150年
人類は機械に管理されていた。
機械に管理されているといっても、車は乗って、場所を入力さえすれば目的地に連れて行ってくれるのである。
食料もただ同然、税金も殆どなく、住宅も登録してしまえば、世界機構ミスラが経営しているマンションに住め家賃も水道も電気も無料同然。
一重にいって、人類は働かなくてもいいし、機械のゆりかごの中で暮らしているような生活だった。
その代わりに世界の管理を機械がしているのであり、そんな中でも働いてるものはおり警察組織に所属しているミコトもその一員だった。
ミコトは自分のデスクで鬼のような勢いで始末書を書き上げると、エマとヒカルの二人の事が心配で彼女らの保護されている場所に向かって行く。
警察署の客間に案内されていたエマと署長のトモミはヒカルをどうするかで逡巡していた。
「……エマさんはいいとして、問題はヒカルちゃんね…施設に入れるか」
両手を腕に組み立って、何か打開策がないかとトモミは思案する。
「…そしたら、ヒカルちゃんは私が引き取ります」
「でも、エマさん。ヒカルちゃんをどうやって養うつもり…?」
「……それは…」
エマが答えたのに関して、トモミは大人からの事情か冷静に指摘する。
「そしたら。その子は僕が引き取ります!!」
今までの話しを聞いていたのか、ミコトは部屋に入るなり名乗り出た。
「…何を言っているのかしら、この子は……」
トモミは顔に皺寄せて、馬鹿な事を言ったミコトの頭を引っ叩いた。
「あたっ‼」
「犬や猫を飼うのとは、訳が違うのよ、幼稚園から返ったらご飯の用意をして、勉強させて―――大体貴方の食事は殆ど、買い弁じゃない、それでどうやって子供の栄養を管理するつもり」
大きく名乗り出たミコトにトモミは容赦のない突っ込みを入れて、ミコトのライフを大きく削り、ミコトは崩れ落ちそうになっていた。
「…でも、僕が無理を言って保護してもらった立場ですし…」
「それとこれとは話が別よ…ふむ、こういうのは本人に聞くのが一番いいわね…」
トモミは膝を曲げ、ヒカルと同じ視線まで下げ。
「…クドウ・ヒカルちゃんでいいのかしら?」
ヒカルはエマの服の裾を掴みながら、頷く。
「……あなたのパパとママは仕事で遠いところに行ったから、パパとママが返ってくるまで、私たちの誰かが貴方を世話する事になったの…ここまでは大丈夫?」
「…うん」
トモミはヒカルに配慮して、言い方を変えていた。
「…それで、貴方はこの中にいる誰に世話をしてほしいかを…指でさしてほしいの」
「…ん…」
誰もがヒカルの指はエマを指すと思っていたが、少女の指は何とミコト指していた。
『……ええぇー!!』
これには流石に誰もが予想していなかったのか、女性二人が声を張り上げた。
「…ヒカルちゃん、それはどうしてかしら?」
エマが動揺を隠せなかったのか額を抑えていた。
「…えーと、このままエマお姉ちゃんの世話になったら、お姉ちゃんの迷惑になると思ったから…」
幼く見えてヒカルという少女は聡明なのだろう、自分の事でなく、エマの事を心配していたのだ―――少女の理由はそれだけであった。
「…でも、ミコト君…仕事しているし…」
エマは引き下がれないのか、ヒカルが心配でしょうがなさそうだった。
そんな二人を見かねたのか警察署長であるトモミは提案した。
「…それなら、貴方たち二人で面倒見なさいな…保護監督責任者には私がなるわ」
『はあぁ‼?』
今度はミコトとエマの二人の声が重なった。
「…うん。これがベストねミコトが働いて、エマさんがヒカルちゃんの世話をする…異論は認めないわ…ついでに暮らす場所も手配しておくわ」
「…ええと、僕は構いませんけど、エマさんはどうなんですか…?」
ミコトはこのまま上司のいいようにさせて流されてはならないと思い、エマに助けを求める。
「…私は別に…それにミコト君の事も悪くないかなって思ってたりする…」
(…うん…この場に味方はいないのかもしれない…そうだヒカルちゃんに聞いてみよう)
ミコトは機械の部分ではなく、脳の部分で議論を交わして、手を叩いて自分の味方を探していた。
「…うん!! ヒカルもそれが一番いい!!」
ヒカルは顔にヒマワリを咲かせて叫ぶ。
(―――クッ!! さっきの包囲網よりも強固な気がする。今回は見方が誰一人としていない)
ミコトは一人で狼狽えており、さっき包囲網を突破したときより難儀だと感じ、何処かに抜け穴はないかと探していた。
「…最初の勢いは何処にいったのかしら、貴方みたいなのを昔風に言うとヘタレっていうんじゃないかしら」
(―――ヘタレ)
ミコトは母の言葉を復唱して、頭の中をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
「それに、エマさんの何処か不満でもあるの?」
「……いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
ミコトはエマの均整の取れた顔と少し眺めの金色の髪と、均整の取れた、出るところは出ている体を見ていた。
(…うん…いい…実にいい…)
ミコトは頭の中をで阿保な妄想をしながら、エマをじっと見つめており、それを注意された。
「…あのミコト君…そんなに見つめられると恥ずかしい…」
ミコトは顔を赤面させて、恥じらうエマを見て、さらに欲望を爆発させた。
(…いい…本当にいい…)
このままでは頭の中が沸騰して、鼻血が出そうな雰囲気だった。
「……いつまでやってるのよ」
妄想から現実に戻されて、ミコトはハッとして、エマに頭を下げてミコトは改めて、エマとヒカルに挨拶をする。
「まずは、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
『ヒカルちゃん。よろしくね』
「…よろしくお願いします」
機械仕掛けの人間と一人の女性と少女が手を取り合い家族となっていく。
その光景を一人の母親である署長のトモミは微笑ましく見守っていた。