「やあ、私。」
ずっと、夢にもう一人の私が出てくる、窶れていて、髪も傷んでいる。
だが目だけはじっとりと狂っている。
それを見てああこいつは私なのだと確信できる。
「URAファイナル、優勝おめでとう、どうだ?感想は?」
「悪くない気分だ……今日はやけにお喋りだな、私。」
「そう見えるか?まあそうかもな、それで、見つかったか?ウマ娘の可能性の果てとやらは。」
まるで品定めをするように私は私を見下す。
「ああ、それについては分からない。
ただ、気が付いた事がある。」
「気が付いた事?」
「私は一人では走っていない。
他のウマ娘や、観客の応援や……トレーナー君。
走るのは私一人だ、二人三脚で走るわけじゃない。
URAの決勝、あの皇帝を置き去りにした時、私は初めて気が付いた。
私は孤独ではなかった。」
「……だから勝てた、と?」
「それはまた別だ……と言いたいが、それが無ければ確実に競り負けていたと思う。
どうだ?羨ましいかい?IFの私。」
もう一人の私は動きを止めた。
「……いつからだ?」
「確信したのは今だ、私を見つめるその瞳、妬み、喜び、安堵、あらゆる感情が手に取るように分かる。戸惑いは、今初めて見たが。」
「くくくっ……ははは!流石私だな、隠し事は出来ないか。
……私は研究に取り憑かれ、大切な仲間を使い潰した、愚かなウマ娘さ。」
瞬間、目の前の私はどこか肩の荷が下りたように、しかし後悔しているように目尻を下げため息をついた。
「私は辿り着いた、ウマ娘の可能性の果てに、辿り着いて……そして、見たこともない奴らに賞賛されながら、無茶を繰り返した肉体を引き摺って、最期はたった一人。
愚かだろう、下らない数字に狂い、それよりも大切なモノに目もくれなかった。」
「それはお互い様だろう、結局私は情に振り回されて、当初のウマ娘の可能性の果てには辿り着けなかった、走りきった、というだけだ。」
「いいや、残念ながらそれでいい。」
目の前の私は今にも泣き出しそうに、しかし暖かく、切なげに笑った
「そろそろ時間だ、今後君と出会うことは無いだろう。
ああそうだ、可能性の果てなんて無かったよ。」
「無かった?」
「ああ、希望も、絶望も無い、まるで、墓標のような光景が続いているだけだった。
……そのまま、好きに生きると良い、そっちの私には道を外れれば引き戻してくれる親友達がいるだろう、何も心配はない。」
「そっちはどうするんだ?」
「旅を続けるとするよ、君のような、もしもの私の夢を巡る旅だ。」
「なるほど、未練がましいことこの上ない。」
「自覚はあるさ
さて、ではさようならだ。
おめでとう、もう一人の私。」
「ああ、さようなら。
良い旅を、もう一人の私。」
ただ背を向けて歩き始める
安心しろ
私はもう手放す事は無いのだから
さよなら、いつかの私。
╤╤╤Ω╤╤╤
「結婚しようか、モルモット君。」
「もう少し近づきたまえよ。」
「誓います。」
果ての私、お前はまだ旅を続けているのだろうか。
見ているかどうかは知らないが、一つだけ断言できる事がある。
私は今、幸せだ。