ウマ娘怪文書   作:ダン・モロ

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こっちが完成品になります


アグネスタキオン

 

 

 

私達は最初から一つのものしか見ていないよ。

 

 

きっとそれしかできないし、それしかやりたくない。

 

 

私達は二人で二本の脚で、大脳と小脳なのさ、脚は進むためにあるし、大脳は考えるためにあるし、小脳はそれ以外を行うためにある。

 

 

だからね、私は止まるわけにはいかないし、彼も止まることはないのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アグネスタキオンは慣れた手つきで紅茶を入れていた。

 

最初の頃は彼が置いていったレシピを見ながら時間ばかりかけて入れていたが、アグネスタキオンは天才だ、すぐに彼の居ない生活にも慣れた。

 

 

超光速のプリンス。

 

なんて言われてから随分と時間が経った。

 

トレーナー君は今でも日本でトレーナー業を続けており、私と彼が3年間で得たデータはすべて公表され、今や彼は日本国内で有数、いや、時々彼の名をこちらで聞くこともある。

 

 

彼が育て上げたウマ娘、アグネスデジタル君を見た時、私は何より歓喜した。

 

頑強な脚から繰り出される繊細な脚さばき、スパート。

あれは彼が集めたデータの集大成であり、デジタル君はその集大成を作り上げるに相応しい器の持ち主だった。

 

現役時代の私が一点特化型ならば、デジタル君は多くに特化したバランス型、私のようなスペックだけが突出したウマ娘とは最初から器が違う。

 

私は彼女よりも速かったが、彼女のような非凡な器ではなかった。

才能という点で言うならばデジタル君は私とは比べるまでもない程の開きがある。

私が彼女に勝っている部分など全て後天的なものだ、いずれはデジタル君も手にする事だろう。

 

けれど、不思議なもので、デジタル君が羨ましいとは思わない。

 

それは私の走りへの欲望が一旦満足したせいなのか、あの駆け抜けた3年間のおかげなのかは未だわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世間から見れば空中分解した、と言ったところか。

 

実際互いに互いが求めるものを提供できなくなったのだ。

僕は満足なデータを提出できなくなり、タキオンの脚はゆっくりと衰えていった。

 

他の担当ウマ娘のこともあったし、少しずつタキオンの元を訪れる回数は減っていった。

 

ある日タキオンは僕に会いに来て言った。

 

 

 

実は海外から誘いがあったんだ。

すまないがあちらの方が良い機材が揃っていてね、そちらへ行こうと思う。

 

わかった、準備は?

 

ああ、必要最低限のものだけ持って、後はあちらで揃えるよ、研究機材はまとめて実家に送ることにした、この学園に籍は置いてくれるとは言え、管理する者がいなくてはね。

 

そうだな。

 

君、あまり無理はするんじゃないよ?

私が居ない間に倒れられても困るんだからね。

 

わかっているさ、タキオンこそ、海外なんて大丈夫か?

 

そうじゃなかったらすぐに帰って来るだけさ、では、お互い頑張ろうじゃないか

 

ああ、応援してる。

 

 

 

タキオンは間もなく旅立って、それから日本には帰ってきていない、その会話からもう何年が経過したか、メッセージのやり取りすらしていない。

 

さっぱりとしたお別れだったと思う。

 

あの濃密な3年間、まるで夢のような時間だった、楽しかったし、何より僕のトレーナーとしての腕は大きく伸びた。

 

しばらく悩んで、結局あの3年のデータは全て公表した。

他のトレーナーからは驚かれたし、たづなさんや理事長さんからは喜ばしい事と歓迎されながらも本当に良いのかと何度も念を押された。

 

だから一つだけ、条件を出させてもらった。

 

図書室にタキオンの論文のコーナーを作ること、それから、そこに自分の考察と解説を載せた本を置くこと。

 

願ってもないと二つ返事でOKされ、タキオンの論文が出る度に図書室で貸し出しが増えるようになった。

 

けれどやっぱり、どのウマ娘を見ても満足はできなかった。

知らず、タキオンはもっと速かったなと心の中で思うようになった。

 

デジタルには脳を焼かれてますね〜なんていわれるが、正にぴったりな表現だと思った。

 

あの3年間の熱は、僕の脳を完璧に焼き焦がしてしまった、取り返しもつかないし、つかなくて良い。

 

ふう、と一呼吸いれて、タキオンの論文解説に手を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレーナー君の公表するデータは非常に汎用性が高く、範囲も広い。

 

本人たっての希望で合同トレーニングにもちょっかいをかける彼のタフさは流石はトレーナー君と言った所だ。

 

彼のデータは宝の山そのもの、それを見ていて気が付くことも多く、適切に情報が分けられている。

これは恐らく彼が私のモルモットだった頃の経験が生きているのだろうか?

 

元々は私の実験に付き合う変人だと思っていたが、今や私の論文になくてはならない存在だ、ここ最近は彼のデータ待ちも増えた。

本来貴重なデータを取りにここに来たのに今では逆転現象に近いものが起きている。

勿論こちらで取れるデータは貴重だがデータとして尖りすぎている、データというのは成功や失敗を繰り返したようなものが好ましい、その点を補ってくれるのが彼のデータだ。

 

彼が一月に一度公表している詳細なデータ、それはトレーナーならば喉から手が出る程欲しいものだろうし、だからこそ誰もが理由を求める。

 

元よりトレーナー業界は開けられた世界ではない、言葉を選ばずに言うのならプロの烏合の衆だ。

そしてそれをトレーナー君は文字通り木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 

 

『だから日本は凱旋門を獲れないんですよ。』

 

 

 

彼をインタビューしたあの動画は痛快だった、正にその通り、返す言葉もない。

 

 

国内で手の内を隠し合って延々と短期的な勝利を優先する。

寒門のウマ娘ならばまだしも、名家のトレーナーやウマ娘がそんなのだから日本はいつまでたっても競バ後進国なのだ、一生島国で鎖国していれば良い、そうしてまたマルゼンスキーのようなウマ娘に蹂躙されれば良いではないか、それが望みなのだろう?と。

 

 

荒れに荒れたインタビュー動画だったが、既に彼はその頃多くのデータを公開していたし、何より私を含めて彼には無視できない程の実績があった。

 

だからだろう、彼を支持した者は多く居たし、触れるのが躊躇われる問題を彼が口にした事は国内外に大きな反響を呼んだ。

 

勿論私に言及してくる者もいたが、私がただ一度コメントを打つだけで批判はぱたりと止んだ。

 

昔、彼に言われた言葉を未だに忘れられない。

 

 

タキオンって、案外泥臭いよね。

 

 

彼の言葉に思わず吹き出したのも、よく覚えている。

 

あの3年間の輝きは、何よりも尊く、何より、私を大きく変え、何より、楽しかった。

 

彼は私の恩人であり、今も尚輝き続けている、きっと私と出会わなかったとしても彼は変わることはない。

 

 

彼は私の光だ。

 

 

もしもこの足の脆さが彼と出会う代償ならば、お釣りが来る程の出会いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、トレーナーさんはタキオンさんに会いたいなって思ったりしないんですか?」

 

 

アグネスデジタルは論文を日本語訳し解説を考えている自身のトレーナーさんにふと疑問をぶつけた。

 

デジタルから見て二人の関係はやや歪ながらも互いに対するクソデカな感情が見て取れる。

 

タキオンさんに直接会ったことはないがデジタルから見てトレーナーさんはタキオンさんに脳と瞳を焼かれたもう手遅れな人物である。

 

瞳はもうそういうカラコンなのか疑うくらい濁ってるし、ウマ娘ちゃんを見る時は瞳孔が開いたり閉じたりしていて最初の頃は無茶苦茶怖かった。

 

でもトレーナーさんのことを知る度にああ、この人はこういうタイプか……と一人納得したものだ。

オタクトークにも推し活にも引かずに付き合ってくれるのでデジタルからすれば貴重な同類なのだが……だが、デジタルが箱推しなら彼は単推し、しかもその単推しのことを他の誰よりも詳しく知っているため話していても尊みで気絶することがよくある。

 

しかし、彼女から見ても二人の関係は独特だ。

 

トレーナーさんは既に多くのウマ娘を勝利に導いているし、なんならまだトレーナーさんのついてないウマ娘ちゃん達にも手を差し伸べ始めている。

 

最初は聖人かな?なんて思っていたが、その瞳はいつも別の場所を見ているように思う。

 

トレーナーさんを見ていれば視線の先に誰かの背中があることも、それが誰なのかも、察するのは容易であった。

 

だからこそ、なぜ会いに行かないのかが気になるのだ、一緒に仕事をすればもっと幸せなんじゃないかと思ってしまう。

 

トレーナーさんは顔を上げ、首をかしげる。

 

 

 

「会いたいっていうか、タキオンの論文を読んでいれば会ってるようなものじゃないかな、タキオンの論文に触れられている間、ずっとタキオンのことを考えていられるし、タキオンがこの論文を書いている時どんな気持ちだったかも大体わかるし、次にどんなことがしたいかも大体……うーん……どう説明したものかな……」

 

「タキオンが大脳だとするなら、僕は小脳や脊髄って感じになるんだろうね。

 タキオンが望むものを手に入れるために僕はここにいるし、そのためのデータを取って公表してるんだ。」

 

「だから、なんと言うかな、タキオンは僕の事を信用しているし、僕もタキオンを信じている。

 僕はタキオンに必要とされているし、そして僕もタキオンを必要としている、それで十分じゃないかな?

 それに一々会いに行ってたら時間か足りないよ。」

 

「だから、えーと、態々会いに行かなくたって、いつもタキオンの名前を見られるんだし、機会が重なればでいいと思ってるだけなんだよね、結局僕達はいつも同じ方を向いているんだ、だから、僕がトレーナーを辞める時は、タキオンが辞める時だけだ。

 ……デジタル?ああ……寝かせておくか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方の元トレーナー、こっちに呼び寄せる事は出来ないの?」

 

 

ズズ、と彼女はコーヒーを啜った。

研究仲間の一人で、彼女は私とは全く別のアプローチで走ろうとしている。

 

 

「彼に何か用があるのかい?」

 

「そうじゃないけど、だって貴方の論文によく出てくるじゃない、それにデータも細かくて正確だし、なんていうか……かゆいところに手が届くっていうか……」

 

「ああ……私がまだあそこにいた頃に散々彼から投薬やトレーニングデータをとったからねえ。

 恐らくだがその時のノウハウがそのままフィードアップされてるんだろう、確かに彼のデータの使いやすさは同じ研究者として理解できるよ。」

 

「……貴方もしかして、自分のトレーナーをモルモットにしてたの?」

 

「危険な事はしてないさ、しかし、まあ、当時は直接モルモット君と呼んでいたねえ、懐かしい。」

 

「流石に引くわよ……」

 

「安心したまえよ、私も今となってはちょっとどうなんだと自覚はしているさ。

 なんならお弁当も作ってもらってたし、肩をもんで掃除をしてお茶を入れてもらっていたねえ。

 いやはや、穴があったら入りたい気分だ。」

 

「……治験させながら普段のお世話って、ホント何者なの?ていうか恥じらいはなかったの?」

 

「あの頃は大分忙しかったしね、私のデータと彼のデータとを見比べながら比較したおかげで大分進みが良かった。

 それに彼には異様な閃きや直感力があった、先天的なもの、俗に言う才能で彼を語るならば……そうだね、もし私が特別だとするなら規格外と言ったところかな、私がどれだけ努力しようが逆立ちしようが彼に敵う要素がありようもない。

 ……それはどんな表情なんだい?」

 

 

目を丸くして何かショックそうな表情で彼女はコーヒーを飲む手を止めていた。

 

 

「貴方がそこまで手放しに人を褒めるの、初めて見たからつい……ほら、貴方って結構はっきり物事を言うじゃない?」

 

「研究者とはそういうものだろう。」

 

「まあそうなんだけど……ほら、私にだって結構キツイ事言ったじゃない。

 君は走れないことに拘っているから前に進めないのさ、とか、自分を万能の神か何かだと勘違いをしているね、とか。」

 

「まあ、私がそうだったからねえ。

 例のサティとやらも日本の協力者が頑張ってくれてるんだろう?」

 

「うん、それこそ、貴方の元トレーナーと同じところに行く予定のバズよ。」

 

「……ふむ、それは良いことを聞いた、全く新しいデータが手に入りそうなチャンスだ、これを逃す手はない……が、私が言うまでもないだろうねえ。」

 

「……随分信用してるのね、その人のこと。」

 

「信用ではないさ、彼ならばそのくらいはやってのけるだろうという理解だ。」

 

「全く、ああ、こちらに来てからつくづく彼の有能さを思い知らされる。

 自分の凡庸さに何度失望したことか、何度自身の愚かさ加減にため息をついたことか。」

 

「けれど、けれどね、彼はお構い無しにデータを送り続けてくる、私が一言、もう辞めると言えば……恐らく彼はトレーナー業すらやめるだろうね。」 

 

「そんな事が、そんな損失が、そんなふざけた事が許されるわけがない、一人の小娘の諦めで、それまでの常識をひっくり返したような偉大な天才に身を引かせるわけにはいかないんだよ。

 彼の才能は未だに枯れることなく湧き続けている、下手を打てばデジタル君すらも通過点かもしれない。」

 

「私はね、私は、諦めることを許されるべきではないし、諦めるべきではない。

 諦めるのはいつだって出来ることだ、惨めにのたうち回って、泥を啜ろうが前進し続けなければならない。

 それが私が私に求める最低限であり、すべきことなんだよ、彼という天才を作り変えた私の義務であり、責任だ。」

 

「……え、こわ……」

 

「えー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は、まだ夢を見ているのかい、シンボリルドルフ。」

 

 

彼の声色はあの頃よりも穏やかで、その内側の熱は未だ熱いままだ。

 

 

「夢じゃないさ、あれは私の原動力に過ぎない、それを教えてくれたのは君と、君のパートナーさ。」

 

「まさか、僕達はただ必死に進み続けていただけさ、そうして泥だらけになりながらも未だに走ることをやめられない。」

 

「継続は力なりというだろう。

 それに君の築き上げたものは君達を嘲るには余りにも大きすぎる。」

 

 

シンボリルドルフはそれが本当に美しいものだと知っている、未だに二人が二人組のまま二人三脚で走り続けているのも、シンボリルドルフにはそれが羨ましくもある。

 

隣の芝は青いとはよく言ったものだ、自身のトレーナーはURAの若手として一派を率いて内側からガツガツと変革している、勿論トレーナー業も兼業だが、今は自分も彼もレースだけをこなしていれば良いという立場ではない、未だ根深い闇に絡め取られぬよう必死に戦っている自分達に比べ、彼らのなんと眩しい事か。

 

 

「君のトレーナーに比べれば僕なんかそこいらの石ころと変わらないよ、僕には巨悪と戦う度胸もなければ変革を求める意志もない、ただ身勝手に目的に向かっているだけさ。」

 

「の割には、あのインタビューは過激だった気がするが?」

 

「ははは、僕達の目的が果たされるまでここには健在で、健全で居てもらわなければ困るからね、一度盲人共の目を覚ましてやる必要があると思ってね、迷惑だったかい?」

 

「波紋を呼んだのは事実だね。

 だが波を乗りこなすくらいはしてみせたさ、あの炎上でだいぶ味方が増やせたんだ、とても感謝しているよ。」

 

 

本来の仮想敵を、最前線を走り続けている彼が示し、彼の在り方がそのまま道となった。

 

皆漸く気が付いたのだ、自分達のまとまりの無さ、群雄割拠というには頼りない現状に。

 

あの炎上を機にトレーナー同士の交流、ウマ娘のチームならぬ、トレーナーのチームが産まれ、互いが互いを補い、高め合うように形を変えていく。

 

それはこれまでの蠱毒とまで揶揄された学園の内情よりももっと過激で、誠実で、美しいものだと思った。

 

言葉にするならば切磋琢磨、それがより高度に、綿密に、正確に、膨大に。

 

結果、トレーナーチームの垣根を越え、ウマ娘同士の交流によって知識、技術が研鑽され、完成され、それをすら更新していく。

 

 

天才達の集合知。

 

 

その叡智が出来る切っ掛けを生み出したのは間違いなく目の前の彼なのだ。

 

今の流れを作った彼はしかしどのトレーナーチームにも属さない珍しいトレーナーでもある。

 

 

「君に一つ聞きたくてね、どうして君は未だ一匹狼を続けるんだい?」

 

 

彼は少し考えて、やはり首を傾げる。

 

 

「僕は一人では生きていけないんだ、シンボリルドルフ、僕にはタキオンを始め、沢山のウマ娘やトレーナー達のお陰で今こうしてここにいる。」

 

「シンボリルドルフ、タキオンが君を下したURAファイナル、あの時間違いなくアグネスタキオンの脚は砕け散るほどの出力を大きく越えていたんだ。」

 

「にも関わらず、タキオンは現役から一歩退いたとはいえレースを走っている。」

 

「あの時確かにタキオンは可能性に向かう側に片脚を突っ込んでいた、そしてそのまま戻る事はなかったはずなんだ。

 けれどタキオンは戻ってきた、無傷で、けれどその向こう側の事を理解できずに。」

 

「戻ってこれた理由を僕は、人の心の力だと思っている、タキオンが観客の声を聞いて、きっと踵を返したんだ。

 あの走りを見た多くの人の熱狂が、感動が、誰かの思いが、それら全てが彼女が戻ってくるための目印だった。」

 

「僕も、タキオンも、一人ではない。

 この世で本当の意味で孤独な人間なんて誰も居ない、人は一人では産まれてこず、一人では生きていけない。」

 

「それにどこかのチームに居たらデータの出し渋りしてるとか言われそうだし、まだタキオンも僕も可能性の向こう側を探しているんだ。」

 

 

「可能性の向こう側、か、本当は知っているんだろう?」

 

 

「ただの墓標か何かだろう。

 虚しくて、悲しくて、空虚な記念碑が飾ってあるだけだ、無意味な場所さ。」

 

「けれどね、僕が欲しいのはきっと過程なんだ。」

 

「シンボリルドルフ、人が死ぬ時に持っていけるものはね、きっと心だけだ。

 僕は死ぬ時までタキオンのことを考えていたいんだ、そして意識を失うその瞬間にタキオンの事を想っていたい。」

 

「僕はね、ただタキオンの為に生きているんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、トレーナー君、ただいま。」

 

 

トレーナー室の扉が開き、少し大人びた彼女が自分に向けて歩みを進める。

 

背も伸びて、肉体の完成度そのものは大きく上がっている、無駄のない理想の肉体だ、一目見ただけで老いたはずの脳がよく回る。

 

このままドリームリーグに行ったらきっと楽しいことになる、けど。

 

自分のチームのウマ娘や相談に乗っていた何人かのトレーナー達は啞然としていたり、飾ってある写真と彼女を見比べて絶句したり、サブトレーナーのデジタルは気絶を根性で耐えながらカメラを回している。

 

 

「おかえりタキオン、前より随分速くなったね。」

 

「予想の範疇かい?」

 

「まさか、君が僕の予想通りだったことなんて一度もないだろう?」

 

「それは君もだと思うが?」

 

「かも、それで、それは?」

 

 

彼女の胸には鈍く鉄色のGのトレーナーバッヂが輝いていた。

 

 

「私の限界値だ、物理的にね。

 だから別のプランを進めに来たよ。

 トレーナー君、実験を始めよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと僕達は最初から一つだった。

 

 

僕は機能であれば良い、他は彼女の領域だから。

 

 

ほんの一欠片が何度だって僕の瞳に焼き付いている。

 

 

この世界は、僕達にとって余りにも狭くて、僕達にとって余りにも膨大だ。

 

 

僕達が足掻き回るのには丁度良い、

 

 

だから、始めよう、ここから

 

 

 

 

────何度だって、ねえ、タキオン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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