ウマ娘怪文書   作:ダン・モロ

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前半、後半の一部に不愉快な表現、展開があります。
閲覧の際はご注意下さい、また、ご都合主義や無理な展開が登場します。
また、2話連続で未実装ウマ娘です。


第3話

運命だと思ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

産まれは貧乏農家。

 

ウマ娘として産まれた俺だ、いくら余り物があると言っても食卓になれば多いという事は無かった。

 

今日は食欲が無いと言って夜には捩れそうな空腹に枕を濡らした。

 

そんな俺に引け目を感じたのか、両親も俺からは距離を置いた。

 

必要な時だけ声をかけ、私も距離を置いた。

 

運動会だって両親には教えなかったが、昼飯もなく走らされたのはお門違いといえども未だに根に持っている。

 

 

 

 

学校から帰る時だった。

坂道を走ってきたトラック運転手は余所見をしていた。

 

間一髪、帰り道を走っていた私は転びかけながら避けた。

 

だけどその後、目の前にはガードレールがあって、咄嗟に跳んだ。

ちょうど、あばらの辺りから聞き慣れない音と、激痛。

 

のたうつ事すら出来ず、私は道路の端っこに蹲った。

 

 

慌てて近寄ってきたトラック運転手がかけようとした電話を弾き飛ばし、息を整える。

 

 

──死ぬほどじゃない。

 

 

そう確信した俺はトラック運転手から財布の中身を渡す事で終わりにしようと提案。

 

勿論却下されたが、痛みこそあれど骨までの怪我でもなく、数日寝れば治りそうだ、お前も仕事がなくなるのは嫌だろう、お前が頷かないなら私はお前に服を脱がされそうになったとわめき散らすぞ。

 

とそこまで脅して漸く運転手は首を縦に振った。

無駄に正義感が強い奴だ。

全く、正直者は損をするぞと忠告してやったら苦そうな顔で車を出していった。

全く、全く。

 

 

私はトラックが見えなくなってからその場に蹲った。

 

耐え難い激痛だが、私が手伝ってやらねば誰があの家で力仕事ができる、ただでさえ人手が足りてないってのに、下手をすれば借金取りに家すら取られるやもしれん、持っているモノもないのにこれ以上捨ててたまるか。

 

 

そうは言ったが痛いものは痛い。

今日はやる気が無いと不良娘の振りをして学校を数日休み、その全てを痛みに悶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漸く痛みが収まって、肋骨の部分が陥没している事に気が付いた。

ひでえ見栄えだ、もしもこんなボサボサで見窄らしくなく、他の奴らみたいに綺麗だったら一生引き摺る。

 

 

次の瞬間こみ上げてきたのは笑いだった。

 

なんだこりゃ。

 

不細工にも程がある。

 

腹がよじれそうだったが、肋骨に続いてしまっては流石に見れたものでは無いとなんとか笑いを抑え、首をかしげる母親になんでもないと言い伏せ、その日は笑いを堪えるので精一杯であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺もガキから女子ぐらいの歳になった時だった。

その頃にゃ私も色々と察して、義務教育の後はどっかで体でも売るか、だが売れるか?と考えていた頃だった。

 

家の方が騒がしい。

 

嫌な予感に俺は走った。

 

 

「俺らも商売なんだお百姓さん。」

 

 

借金取りが、トラックをもってやって来ていた。

 

 

持っていくつもりだ、全部。

 

 

「待てやぁぁぁ!!!」

 

 

必死に土下座する両親の前に俺は躍り出た。

 

 

「おい!やめなさい!」

 

「やめねえ!!家にすっこんでろこの木偶の坊共!ちび共も連れてけ!!」

 

 

何時になく頭にきていた俺は地面を強く踏みしめ──丁度俺の肋骨のように地面を窪ませた。

 

流石に両者ビビったようで両親は疾走で家に、借金取りも何人かたじろいだ。

 

 

「あんだ、おめえは。」

 

「この家のモンだ。

 ちっと話そうぜ。」

 

「話すってか、何をだ?待って下さいってのは聞けねえぞ。」

 

 

分かってる、考えろ、この場を取り敢えず切り抜ける方法、どうしたら良い、どうすべきだ。

 

 

「……俺がウマ娘ってのは、わかるよな?」

 

「そりゃまあな。

 そんで、そいつが?」

 

「買わねえか?ウマ娘を一匹。」

 

 

サングラスをかけた頭目であろうそいつは大笑いした。

どうする、裏付けがねえ、俺は、俺は走れるのにっ……!

 

 

「人身売買ってか!流石片田舎、いつの時代だと思っ……あれ?」

 

 

頭目らしき男は何度か目を擦り、私の顔や体をじーっくりと眺める。

やべ、まさかこいつ俺を──

 

 

「……ッスー……分かった、分かった。」

 

 

突然素直になり、男達に引き上げるように指示して自分の車だけを追いてそいつは残った。

頭の中は疑問だらけだ。

 

 

「……一体どういうこった?」

 

「ははっ!そりゃわかんねえか!俺だ、お前をトラックで弾きかけた男だ。」

 

 

サングラスを外し、どこか男前になったそいつは、あの日見たあの顔だ。

 

 

「お前ーーッ!!ふざけんなこの野郎!!あの時の治療費払いやがれ!!おかげでこっちは肋骨陥没してんだよほら!!見やがれ!!」

 

 

先程までの熱のまま、俺は食ってかかった、残像が見えるほど男を揺さぶった。

お陰で男はヘロヘロになり地面に座り込んだ。

 

 

よし。結果オーライ。

 

 

「……はぁ……はぁ……しかし、まさかお前さんがねえ……分かった、お前さんが黙ってたおかげで俺もこの仕事がある、恩は返すぞ。」

 

 

男はヘラヘラと笑いながら車に乗り込もうとして、私は襟を体ごと持ち上げボンネットに降ろす。

 

 

「なんだってんだよおい。」

 

「どうするつもりだ。」

 

「……しゃーねーから、貯金切り崩してなんとかするさ、幸い俺もこの仕事の後、足抜けできる予定だ。」

 

「足抜け?」

 

「あぁ、やりたい事の準備が、漸く終わってな、オサラバって仕事で気合い入れてたらこれだ。」

 

「ふーん……でも足りねえだろ、貯金。」

 

「……ま、半額はなんとか払えるし、75万ならその後でもなんとかなる。」

 

「莫迦な、どんな高給取りだよ。」

 

「へっ、聞いて驚け、なんとあの中央トレーニングセンター、そのトレーナーに合格したのさ!」

 

 

自信満々の間抜け面下げるそいつを余所に、私の中で点が繋がった。

 

 

逃す気はねえ。

 

 

「おい、ボンクラ。」

 

「ボンクラ!?」

 

 

「ウマ娘一匹、買うつもりはねえか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央トレーニングセンターの試験担当監督はため息をついてそのビデオを巻き戻した。

 

 

そのウマ娘の筆記は合格ラインを下回る。

 

だが、その瞬間をこうして繰り返し眺めている。

 

 

 

 

馬群の後ろから見えた底冷えするような笑み。

 

 

 

 

驚く暇すら無かった。

 

 

理解も追い着かない。

 

 

期待の新星

 

 

 

 

違う。

 

 

 

 

あれは雷だ。

 

 

全てを置き去りにする。

 

 

音も、人も、心も。

 

 

 

そのウマ娘は──

 

 

   ヒカルイマイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デビュー戦、男はため息をついて担当を見ていた。

 

ヒカルは強い、それこそ新米の自分には荷が重すぎると言っても良い。

 

そも、最初はサブとして経験を積むはずがヒカルの野郎がゴネてゴネてゴネ回した挙げ句一線を引いたベテランサブが俺のサブとなった。

 

幸い向こうも人格が出来ていた上に知識と経験から来るアドバイスで細かい調整を快く引き受けてくれている。

 

 

 

待て、ヒカル、曲がれ、今日はスタミナだ、待て、スピードじゃない、待て、勝手に走るな、おい待て、おい。

 

 

 

そんなこんなで、なんとか形にできたというだけのデビュー戦。

模擬レースではそこそこにやっていたが、実践はまた少し違う。

兎に角経験を積ませるんだ。

 

 

 

 

 

なんて思っていた俺を、道化以外の何と例えようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「莫迦な。」

 

 

そう呟いたのは誰だったか。

 

 

「ヒカルイマイが、二着に五馬身差で勝利!まさかの大番狂わせ!」

 

 

歓声を上げられた観客は半分だった、もう半分は口を開け、現実の表面を滑っていた。

 

 

勿論、俺もその一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒカルイマイは酷く気性が荒かった。

トレーニングは言うことを聞かない、すぐに手が出そうになる。

賞金で借金を返した後は尚更だった。

だが決して莫迦ではなかった。

 

 

「なあ、お前さんはどうしてそう我が儘なんだ。」

 

「ああ?何を薮から棒に。

 俺は必要なトレーニングしてるだけだぜ。」

 

「……だがお前さん、スタミナが足りてないだろ?なのに何でスピードばっかなんだ?」

 

 

あー、とヒカルは頭をかいた。

 

 

「ほら、俺は馬群にのまれちまうとてんで駄目じゃあねえか。

 だから俺にゃ最初っから最後まで一匹で突っ走るか、ケツから全部ぶちぬくしかねえ。

 とは言っても逃げは脚質に合ってねえ、消去法で追い込みだ。」

 

 

成る程、こいつもこいつなりで色々と考えてはいるようだが……

 

 

「だがスタミナが足りてねえってのも事実ではある。

 脚もそこそこに出来上がってきたし、明日からはそっちに力を入れる。」

 

「……そう、か。

 で、お前さんはどこを見てる。」

 

「何?」

 

「そこまで考えてるんだ、ゴールは決めてあるんだろう。」

 

 

ばれちゃしょうがねえか、とヒカルはへっと笑った。

 

 

「皐月、NHK、そして、ダービー。そこに全てを注ぐ。」

 

 

ヒカルの目がギラギラと輝き、口元は凶悪に吊り上がり、まるで獲物を前にした猛獣だ。

 

 

「……もっと早く言えっての。」

 

 

頭の中でプランの練り直しだな、とため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電撃的末脚。

 

四番人気ヒカルイマイ。

 

第三コーナーから捲り、先行馬全てを一閃。

 

皐月賞、一着。

 

 

 

続くNHK杯、クビ差、一着。

 

 

 

ヒカルは強かった。

 

スパートにかかった瞬間、観客が興奮のまま理性無く叫ぶ。

 

ヒカルは強かった。

 

名だたる名バも交錯は一瞬。

 

離れていく背に誰もが手を伸ばした。

 

 

ヒカルは強かった。

 

 

思えば運命だったのかも知れない、出会いも、再開も、そして今も。

 

 

 

 

「ヒカル、大事な話ってなんだ。」

 

「……多分、全力で走れるのは、次のレースが最後だ。」

 

 

ヒカルは俯いたまま、言い辛そうにしていた。

 

 

「不調か?怪我か?」

 

「……勘だ、ウマ娘としてのな。」

 

 

そうか。

 

本人が言うのだからそうなのだろう。

 

 

「……なら、次がお前の最後のレースになる、絶対に、何があっても、必ず、一着だ。」

 

 

ヒカルは顔を上げて、俺の顔を見て口元を引き攣らせ、冷や汗を流していた。

 

 

「ヒカル、お前は最高だ。

 お前は何よりも最高なんだ。

 なあヒカル、俺はな、お前が良く言われる下克上って言葉が気に入らねえ。

 お前の体つきは見窄らしく、髪の艶もなきゃ愛想もない、言う事も聞かねえし、すぐに手が出てくる。

 だがな、俺は、仕方なくお前を買ったと思ったのは……あの家での一件だけだ。」

 

 

俺は、今どんな顔をしていて、どんな気持ちでヒカルに掴みかかっているのだろうか。

 

 

「ヒカル、お前は最初から最高だった、奴らの目が節穴だっただけだ、今だってそうだ。

 ヒカルよ、ヒカル。

 俺の人生は、お前が最高だと証明するためにあると、今じゃそう本気で考えてる。」

 

 

俺はお前に惚れているんだヒカル。

お前が死にたいと言うのなら歓んで共に死のう。

お前が走り続けたいというのなら脚が折れるまで走り続けさせてやる。

 

 

「ヒカル、NHKでは先行でやらせたが、ダービーはお前の走りをしろ。」

 

「お、俺の?」

 

「お前が、走りたいと思う走りで、やりたいようにやれ。

 着順、そんなもの頭の中から放れ、お前がお前の走りをしたならお前が全力を出し切ったなら、お前に勝てる奴なんて誰も居ない、何せお前は──」

 

 

 

 最高のウマ娘なんだからな。

 

 

 

ヒカルはややあってから、口角を上げ、獰猛に、口を大きく開けて笑った。

 

 

「そうだったな、俺達が勝てねえ奴らなんか居ねえ。

 最後だ、派手にぶち抜いて、笑ってやる。」

 

 

なんだ、結局俺達は似たもの同士なんじゃないか。

頭のおかしい莫迦二人

 

きっとそれも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン、と発射機が開き、他の連中が飛び出していく。

ダービーポジションだっけか?10着以内だったか何だったか。

急いでそいつを取りに行こうとする連中を鼻で笑い、俺はじっとりと後方に据えてじっくりと脚を暖める。

 

莫迦共め。

俺の事なんざもう頭から抜け落ちてるんだろう?

 

莫迦共め。

諦めた顔した観客がよ。

 

 

莫迦が。

何笑ってやがる、この野郎。

 

 

ああ莫迦共。

精々今のうちに必死こいて走ってろ。

 

おい莫迦共。

お前らに今から夢を見せてやる、待ってろ。

 

 

おい莫迦。

よく見とけよ。

 

 

 

 

 

 

 

『さあブルーワイズ先頭か、ロイヤルバードまだ粘っている、ゼンレツ来ました外の方からゼンレツ来ました。』

 

『ヒカルイマイはどうか、ヒカルイマイは──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

興奮が、俺の中の魂が走れ走れと叫ぶ。

 

俺はそれを理性で無理矢理抑えつける、まだだ、まだ少し待て。

 

焦るな、俺の走りはまだだ。

 

まだか、早くしろ。

 

まだ耐えろ。

 

ここまで、捨ててきたのは──

 

 

もう耐えられない、早く、早く。

 

 

 

 

家族まで手放してきて──

 

 

 

 

 

早くしろ、限界だ。

 

 

 

 

 

 

ここまで走ってきたのは──

 

 

 

 

 

 

 

爆発。

 

 

 

 

 

 

 

「今のためだろうがアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

何俺の前を走ってやがる。

 

邪魔くせえ。

 

とろくせえ。

 

俺は、俺の走りをするんだよ。

 

そこを退きやがれ。

 

 

 

 

 

何口開けてやがる?

 

 

てめえらなんで遅えんだ?

 

 

 

 

 

──いや、俺が、速えのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒカルイマイが交わした!ヒカルイマイが交わした!ヒカルイマイ!ヒカルイマイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつの言った通りだった。

 

俺が全てを出し切ったなら、俺に敵う奴なんて誰も居ねえ。

 

 

 

 

 

 

だけどよ。

 

 

 

 

 

 

俺はもう、終わっちまったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「URAが、許さないだと?」

 

 

俺の隣で、莫迦が理事とその秘書、そして……あの生徒会長サマを睨み付けている。

ドゴンと、目の前の机を男が蹴り飛ばした。

直ぐさま秘書と生徒会長サマが理事の前に立つ。

 

 

「落ち着け、話し合いの場だ。」

 

「いいや違う、だとしたらなんで決定事項を俺らに突き付けた、お前らがしてるのは……お前らがしてるのは……搾取だ……ッ!死ぬまで、ウマ娘は走らされるのか……お前達の都合で!!」

 

 

俺は何処か、それを遠い目で見ていた。

 

会長サマも、思うところはあるのか、それでもきっと覆せなかったんだろう、後ろに回した拳からは血が垂れていた。

 

 

「ヒカルはもう十分走ったじゃないか!ダービーだって取った!こいつの、夢は、そこまでだったんだよッ……!」

 

「……ヒカルイマイ、君はどう思っているんだ。」

 

 

会長サマが俺に問いかけた。

 

 

「……分からないんだ。」

 

「……?」

 

「ダービー前まで、俺の中で何かがあんなに燃え盛ってたのに、それがいきなり無くなっちまった。

 今は、そこの莫迦が怒るほどの事なのかって思う。」

 

「……引退するとしたら、何をする?」

 

 

引退、か。

 

 

「……男ってのは、強い女を組み伏せるのが好きな奴もいるんだろう?」

 

 

なんだ、皆してそんな間抜けな顔して。

 

 

「髪はギシギシ、骨張って、肋はこの通り凹んでら、それにこの性格だ、マトモな奴はきっと俺に着いてこられないし、俺も合わせられやしない。」

 

「……アドバイザーを目指してみないか。」

 

「悪手だろそいつは。

 俺は俺の事しか分からない、誰かにものを教えるなんて能力、俺には一片もねえ。

 その莫迦が言った通りだ。

 俺の夢はもう終わり、夢が覚めたら現実を生きていかなくちゃならんだろうよ、走る事しか能のない莫迦女。

  お似合いの最後だろ。」

 

 

 

「そんな筈無いッ!!!」

 

 

 

叫んだのはチビの理事長。

 

 

 

「君は……君は素晴らしいウマ娘だ!!!」

 

「んなわけねえだろ。」

 

「否定ッ!学園内、外を問わず!君の評判がそれを証明しているッ!!」

 

 

評判?

頭に疑問符を浮かべてると会長サマがため息をついて、困ったように笑った。

 

 

「……君に救われたウマ娘は、決して少なくなんかないんだよ、強引ではあるが、君がオーバーワークを止めて、腹を割って話せと相談に乗ったウマ娘が何人いることか。

 それに学園外でも買い物ついでに力仕事を手伝ったり、子供との写真にだって快く応えてたと聞く。」

 

「……困ってる奴がいて……それを見て見ぬフリすんのは、なんか違えだろ。」

 

「そういう所だ。それに孤児院や身障者サポート団体、更にはウマ娘の怪我や病気予防、治療の研究に寄付している事も調べさせてもらった。」

 

 

……いや、明らかに学園の生徒会権限越えてるだろ。

 

 

「謝罪……私自身、君にはもう、ゆっくりと休んで貰いたい。

 だが……私では、覆せなかった……無力で……すまない……。」

 

 

分かってたさ。

 

あんたら二人は、何よりウマ娘の事を大切にしている。

 

だから、いいよ。

 

 

「もう、あんな走りは出来ない。

 ここからは俺のキャリアを汚す事になる。

 でも上を納得させる材料が必要なら、走ってやるよ。」

 

 

三人は俺を見た。

 

 

「これが、俺の最後の仕事になる、俺が証明になる、引き受けるからさ。

 だから、だから頼むよ。

 今後、こういう事が無いようにさ。

 俺で、終わりにしよう。」

 

 

三人のあまりに悲痛な泣き顔は、きっと忘れることは出来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、俺はここを去る事になった。

長いようで、短いようで。

 

引退の運びが決まると、随分と騒ぎになった。

 

どうやら会長サマは正しかったらしい、ついでにと差し伸べていた手が、今度は俺を救おうと伸びてきた。

 

いつの間にか出来ていたヒカルイマイの会なんてのが俺のために金を集めていたらしい、勿論個人資金からの出資は御法度という事で、俺の知らない内に競バ場で募金活動やら何やらで集めた金はそこそこで、暫くは食うに困らない額があった。

 

誰がこんなもんと聞けば、ファンを含めた皆からだと上手くはぐらかされてしまった。

 

 

 

送別会は壮大に開かれた。

後輩共が雁首揃えてきたのと、どっかの芦毛の莫迦が本気出したせいで飾り付けも料理もど偉い事になってた。

 

 

 

皆、今は夢の中だろう。

 

 

 

「行くのか。」

 

 

 

校門前に立っていたのは芦毛の莫迦ことゴールドシップだった。

 

 

 

「あんまり、盛大なお見送りってのも酷だし、柄じゃねえだろ。」

 

「そうかもな……なぁ、なんて言葉を言ってやりゃいいのか、あたしには分からない。

 だけどよ、あのダービー、最高に痺れた。」

 

「……そうかよ。

 お前もよく務まるもんだ、色々と。

 ま、しんどい事もあるだろうけどよ、あんま気張り過ぎんなよ。」

 

「あんたに比べりゃ、なんてことないさ。

 ……あんたはあたしの憧れだ。

 お疲れ様でした、先輩。」

 

 

拳を握って、直角に頭を下げるゴールドシップ。

そんなしみったれたお別れかよ、らしくねえ。

 

 

「うわ、と、お……」

 

 

ゴールドシップの頭を押して上体を起こさせ、俺はそのまま抱き寄せ、背中を何度か叩く。

 

 

「そこは、またな、だろ。」

 

「っ……はい、また。」

 

 

最後に肩を叩いて、顔は見なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてはて、取り敢えず今日の宿を探さなくちゃならない。

 

そう顔を上げた時に、見慣れた顔が此方を見ていた。

 

 

「よう、トレーナー、見送りか?」

 

「……立ち話もなんだ、ひとまず乗れよ。」

 

 

あいつは見た事無い軽トラを顎で指した。

なんで軽トラ?

 

 

「……シートベルト、締めろよ。」

 

「おう……一先ず駅前まで──」

 

「悪いがその前に、行くべき場所がある。」

 

 

行くべき場合?と聞き返したが、奴はそれ以上口を開かなかった。

まあ行けば分かるかと考えて、俺も口を開くのはやめた。

 

 

しばらく外を眺めてると、何処か既視感を覚える道だなと眠たい頭で感じながら、うとうとと俺は寝ぼけていた。

 

 

車が止まって、ぐっと伸びをすると、そこは見た事も無い立派な農場だった。

機械も珍しいくらいに多い。

なんだ?ここが来るべき場所……?

 

 

 

え、あの家の形、莫迦な、まさかここ……

 

 

 

「お前、理事長で言ったよな。

 俺の夢はそこまでって。」

 

「な、なんだよ突然……」

 

「っ……だったらよ……

 お前のその、夢の先!!」

 

 

俺に買い取らせてくれねえか。

 

 

「……」

 

「……ダメか?」

 

「……ふくっ。くはっ!ははははははははは!!莫迦かよお前、ホンモンの莫迦だぜ!!マジかよ!!ははははははは!!」

 

「ぐっ……!」

 

「……話は通ってるんだろ?。」

 

「え?いやまあ……多少は。」

 

「……ならこのまま挨拶だな。

 おら、とっとと出ろ。」

 

「え?いやまて、流石に皆寝てるって、そんなに急がないでも……」

 

 

俺は問答無用でドアに手をかけた。

遠慮などする必要も無い。

 

 

「バァーカ……俺が待てねえ。

 おーい!帰ったぞ!親父!お袋!チビ助!!」

 

 

だってここは俺の家なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てたと思ってたものは俺を捨ててはいなかった

 

 

 

家族もトレーナーも、ただ俺が一方的に捨ててやったと、勝手に拗らせて、拗ねてたんだ。

 

 

 

けど、俺がここに帰ってきたのは

 

 

 

帰ってこれたのは

 

 

 

きっと

 

 

 

運命だと思ってるよ




コロナワクチンの副反応で41度の熱の中書き上げたので不自然な点があるかと思います。
良い経験になりました、皆さんは熱が出たらアクエリアスを飲んで寝て下さいね。

加筆と誤字修正しました。
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