午前3時33分、ソレは現れる。
ソレはウマ娘によく似た耳と尻尾を持ち、そのスピードはウマ娘達よりも速く、四つの細い脚を持つ謎の生物。
トレセン学園の七不思議の一つで、しかしそれを見たウマ娘は一人や二人ではない。
そしてそのウマ娘達に共通する一つの事実。
彼女達はこのトレセン学園でも非常に優秀な成績を残した偉大なる人物である。
「と、言うことだよカフェ!」
「……タキオンさん、帰っても良いですか?」
マンハッタンカフェはそんな迷信のためにこんな深夜に起こされたのかと非難の視線を送るも、アグネスタキオンはカフェに微笑む。
「カフェ、君のオトモダチと同類である可能性を私は最初に考えた、君のオトモダチの存在は知覚できずとも存在しているようだからね。」
「……違うんですか?」
「似て非なるもの、というべきか。
私が見付けたもう一つ見付けた共通点がある、それはその謎の生物は、大まかな形、脚が四本だという点や耳や尻尾があったという点の他に、それぞれに差異がある。」
「差異?大きさとかですか?」
「それに、毛の色やそのバランスまでもが、ね。」
「……そういうことも、あるんじゃないですか?」
質問するカフェにタキオンは眼を細めて一度深呼吸した。
「ウマソウル」
「……その生き物がですか?」
「さてね、カフェはどう思う?」
「どう、と言われても……」
カフェは顎に手を当て、足下に目を向ける。
非現実的、なんて思いはしないが、突飛すぎる、そもそも七不思議である、眉唾ものだ。
とは言っても、まずは見てからだろう、そう顔を上げた。
「あれ……タキオンさん?」
午前3時33分
「カフェ?」
遅い返答に振り返る。
「カフェ?おい?」
忽然と、消えていた。
最初から何も無かったかのように
次にぶるるる、と生き物の声のような音に振り返る。
そこに、居た。
横についた瞳が、此方を確かに見つめていた。
まるで品定めをするようなその視線はややあってから変化した。
がっかりしたように
残念がるように
まるで、哀しいものをみるように
そして背を向け、ゆっくりと歩いていく。
「待て」
アグネスタキオンのその声にその生物は首だけで振り向いた。
「……君は、その目は。」
直感だった。
あの瞳の奥の深すぎる所で燃えているソレは。
ソレは私のものだ。
その生物はパッカパッカと特徴的な足音を鳴らしてゆっくりとレース場の先へと目を向けた。
「……走ろう、という事かな。」
その生物と隣並べば脳裏にファンファーレが流れる。
そして、スタート。
速い。
生物としての作りの違いがいやという程良く分かる。
いや、これは言い訳だ。
何故ならあれは私だからだ。
“あれ“が私の完成形だ。
既に先へ先へと向かうその生物はチラリと此方を見た。
まるでここまで来いと云わんばかりの視線にアグネスタキオンは一つシフトを上げ、じわじわと追い付く。
体が軽い。
その生物に近づけば近づくほどその感覚は強くなる。
全能感。
脚が酷く軽い、どこまでだって走って行けそうな気すらしている。
まるで最初からこうだったかのような気分だ。
体の形すら違うのに、何故かその走りをトレースしている。
溶けるように馴染んでいく。
ウマソウル、これが────
ビキッ
「あっ。」
激痛。
脚がもつれる
見た事のない速度で流れる景色の中、私は知覚した。
私の、脚が────
痛くない?
馬鹿な、とすぐに脚を確認する。
痛みも、あの嫌な感覚もない。
だが冷や汗と心音が証明している。
ブルルルル、と再びあの生き物が鳴いた。
目をやれば、その生き物はじっと私を見ていた。
「……あの速度が、私の限界か?」
その生き物はこちらをじっと見つめてから顔をゴールの先に向けた。
「……行こう。」
私はその生き物の隣に立ち、ゆっくりと歩く、ゆっくりと。
その身体は分厚い毛皮で覆われていて、暖かく、ごつごつとしている。
しばらくゆっくり、ゆっくりと歩いていると、その生き物はドスッとその場に座り込み、澄んだ瞳で此方を見てから、何度か自らの背中に視線を向ける。
「……乗れって事かい……?暴れないでくれよ?」
その大きな背中に私は股がり、思ったよりも硬く大きく、どこか穏やかな感覚に顔が綻んでいた。
パッカパッカと珍妙な音を立て、ゴールへと向かう。
呼吸を忘れるほど静かで穏やか。
たっぷりと時間をかけて、ゴールの目の前で突然私は振り落とされる。
受け身を取り、転がりながら立ち上がる。
おい、と声をかけようとしたその時、頭で軽く背中を押され、ゴールの先へと一歩踏み出した。
午前3時34分。
「……戻ってきた、か。」
アグネスタキオンは遠くで私の名前を呼ぶカフェを確認しながらあの瞬間を何度も反芻する。
アグネスタキオンはやることなすこと失敗ばかりだが失敗から学び続けられる程度には頭が良い。
だから何度も何度も反芻する。
脚を何度も撫でて、それから一度息を吐く。
午前3時33分、これこそが彼女の人生のターニングポイントであり、彼女が“超光速のプリンス“と呼ばれるまでに至った分岐点であった。
「オカルトを信じるか、ね。
私は経験したり事しか信じないよ、君がもし気になるなら会いに行ってみてはどうかな?
午前3時33分の怪……いや。」
“自分自身に“