世界観が少々複雑なことになってますので、そこは前書き参照。
また鬱要素が少しあるので、控えたい方はブラウザバック推奨。
本編どうぞ。
私はずっと、ここにいる。
そしてこれからも、長く長く果てしない時をこの場所で費やしていくんだ。
この場所で、ドルイドの使命を全うしていく。
私の時間はあの日から止まった。二人を失った事故の、あの日から。
そうして今私はもう17まで年を数えた。誰とも絡まないで、ただ生きていくだけでこれだけの月日を重ねてしまった。そりゃ寡黙貫いてるちょっとガーデニングをしているだけの女なんて、絡まれないで当然かもしれないけど。
それに、この場所にいることが嫌ってわけじゃない。自然に囲まれて、誰の声も届かない世界でひっそりと生きる。最初は寂しかったし・・・ううん、今も寂しいと思う時はあるけど、ここにいると穏やかになれる。
そんな日々だった。
そんな、日々だったのに・・・。
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ガサリと葉っぱが揺れる音がする。今は深夜2時くらい。私はいつものように森の切り株のうえで横になっていた。寝静まった街の中に二人を待たせている家があるけど、怒られないから帰らなくていいというのもまた考え物。
体を起こしてあたりを見回す。暗くてほとんど見えないけど。
風のざわめきかと思ったけど、今は気持ち悪いほどに無風。勝手に葉っぱが揺れるなんておかしい話だと思えた。鍵が動いたところで音がなるわけでもないし、今日はずっと大きな木の根元から一歩も動いてない。
でも、誰かが来るなんてことはほとんどあり得ない。ましてやこんな時間に。
そんな先入観を片手に、発光性のある小さな魔物を生み出して、もう一度あたりを見回す。
その時、小さく呻き声が聞こえた。
「え・・・?」
聞き間違いかもしれないと思った。でも、そんな声に似たような音を発するものはこの場所にはない。
本当に、誰かがいる。
私は目を凝らして、刃物を片手にあたりをくまなく探す。ここに人がいるってことは結界が破られたってこと。傷だらけの状態で鍵を狙いに来た? だったら、鍵の所在地が分かる能力者?
尽きない思考を連れて、私は探し続ける。すると、草むらから上半身をこちらに出している人間の姿が一つ見えた。その体には、数えきれないほどの傷跡が残ってる。飛びかかられる心配はないように見えた。
私はそっと近づいて、様子を伺う。ギリギリその手が届かない距離で、私はそっと声を掛けた。
「・・・誰?」
「その・・・声・・・こ、とり・・・?」
「え・・・?」
聞き覚えのある、少し尖った声だった。もっとも、喉をやられてか、だいぶしゃがれてしまっているけど。
この声には一つしか覚えがない。といっても、もう十年ほど前の話になるけど。
私はあわてて、その名前を呼ぶ。
「瑚太朗、くん・・・?」
「やっぱ・・・ことり・・・かよ」
私は魔物を極限まで目の前の男に近づけて顔を再確認する。いつかみた髪色、少々鋭い目つき。目の前の男は間違いなく、私が昔見た「天王寺瑚太朗」だった。
最後に見たのは十年前。あの時は私もまだ小さかったし、記憶もはっきりしてないけど、目の前の人間があの時の人だという事は覚えている。
あの日、鍵に出会ってこの人は・・・逃がしていたんだ。
でも、そこから瑚太朗君を街で見かけることはなくなった。風のうわさではガーディアンになったなんて話を聞くけど、見た感じ、やっぱそうなんだ・・・。
じゃないと、今目の前で・・・
死にかけていることに、納得がいかない。
「なんで」
「・・・?」
「なんで傷だらけで、こんなところにいるの・・・!?」
瑚太朗君のことは少し嫌いだった。年相応の態度も出来ないで、暴力に走っちゃうような問題児。ちょっと優しいかもって思うことはあったけど、素直じゃないから好きになれなかった。
そんな人間だったのに・・・今、死にかけで目の前にいられると、たまらなく心が苦しくなる。
「気づか・・・ないのかよ・・・。外で、魔物、大暴れしてるって・・・言うのに」
「えっ・・・あ」
改めて神経を研ぎ澄ましてみる。すると、嫌な位空気がビリビリしているのが伝わってきた。
「それより・・・お前・・・」
「聞かないで! それより、手当しないと・・・」
私は本能的にその体に手を伸ばす。
しかし瞬時に、その手は弱い力ではじかれた。私の目の前で、瑚太朗君は鋭い瞳を見せる。
「なんで・・・?」
「致命傷・・・なんだよ」
「そんなこと」
「あるから言ってんだろ」
バツが悪そうな表情で、瑚太朗君は苦々しくそう吐いた。それから少しせき込んで、今度は真っ赤な血を口から吐き出した。
私は、瑚太朗君の状態が考えるよりひどいものだと今ここでようやく気が付いた。きっと下半身は・・・。そう考えると、見えないこの状況がありがたく思えた。
「・・・まさか、死ぬ直前・・・に、会うなんてよ」
「ほんっと。腐れ縁もいいところ」
私は昔みたいに悪態をついた。きっと、目の前の天王寺瑚太朗はそんな私を望んでいただろうから。それに、こうしていた方が目の前の死をすんなりと受け入れることができるかもしれない。そう思えたから。
「瑚太朗君は・・・ガーディアン、なんだよね?」
「まあ、な・・・」
「なんであの子を・・・殺そうとしなかったの?」
「さあな・・・。もう、思い出せもしねぇ」
「・・・そう」
それ以上の理由は聞けなかった。きっと聞いてもあの時に立ち返ることは出来ないし、運命を書き換えることも出来ない。
「けど・・・」
「?」
「殺さなくてよかったって・・・思ってる」
「そっか」
きっと、それが答え。きっとあの時瑚太朗君が鍵を殺さなかったのは直感めいた何かなんだろう。そのほかのどこかで選択肢を違えて、きっとここにいるんじゃないだろうか。
・・・だったら、選択肢を違わなかった未来を見てみたい。そんなことを思ってしまう。
瑚太朗君は今度は激しくせき込み、傷跡から無数の血を噴き出した。呼吸も絶え絶えで、もうすぐ死ぬという事は明白だった。私はそれを、目の前で看取らなければならない。
・・・魔物にでも、したほうがいいのかな。
そんなことを思ってしまう自分を少しだけ戒めながら、次の言葉を待つ。そして瑚太朗君の口から出てきた言葉は、たちまち私の心を震えさせた。
「・・・こと、り」
「何?」
「誕生日・・・おめでとうな」
「え・・・?」
確かに、今日は7月26日。私が生まれた日と言えばそうだけど、誰にも祝われないまま過ごしてきたから、そんな概念忘れてしまっていた。
それなのに、十年ぶりに会ったのに、目の前の琥太郎君は私のこと・・・。
「なんで、覚えてたの?」
「知らねえ、よ・・・。でも、あってん・・・だろ?」
「そうだけど」
「なら・・・よかっ・・・た」
瑚太朗君はそのまま目をつぶる。しばらくして、心臓の鼓動が停止したのが分かった。死んだ。
また、私から人が消えた。今度は、瑚太朗君が。
嫌に思う事のほうが多かったけど、死んでほしいなんて思ったことなかった。そんな人だった。
ああ、また惑わされてる。瑚太朗君という人間が、全然分からない。
私の誕生を祝うだけ祝いに来たんだろうか。それともそれを含めた冷やかしなんだろうか。
分からない。本当に、何もかも。
でも、一つだけ変わらない事実があるとすれば、今日が私の誕生日だってこと。それを祝ってくれた人がいたこと。
だから、言わなきゃいけない言葉が一つ。
「・・・ありがと」
私は、今日も一人だ。
と言うわけで今回は
〇terra世界において、瑚太朗が篝を見逃し、音を上げることなくガーディアンとして生き続けた世界線、となっています。
本編では帰ってきた小鳥と瑚太朗が再開していますが今作はそうではなく、この度の再会が十年ぶりということになってます。つまり小鳥が高校生、瑚太朗が大人、と言ったところでしょうか。
なので、小鳥の性格も若干デフォルト寄りの尖ったものにしてます。なかなか書くの難しかったですね。
しかしまあ、どうしてこんな作品ばかり・・・。
といったところで、今回はこの辺で。